スティーヴン・ミルハウザー『バーナム博物館』

プリースト、リンクを読んで、あとなんかもう一冊くらい現代英米小説読みたいなと思って、ふと手に取ってみた。短編集。
ミルハウザーって、何年も前に、大学の後輩から薦められていたことがあったんだけど、その時は何故かスルーしていた。実際読んでみたら面白かったので、当時読んでおけばよかった、後輩に悪いことしたなとちょっと思ったりしたw

シンバッド第八の航海

タイトルで分かるとおり、「シンドバッドの冒険」をモチーフにしたもの。日本語だとシンドバッドが一般的だが、英語だと、シンバッドとシンドバッドの両方の表記があるらしい。
3つのパートが交互に進行する。
一つは、商人シンバッドが仕事しながら、自分は本当に冒険とかしたのか、夢だったんじゃないかとかなんとか考えてる
もう一つは、「シンドバッドの冒険」という作品についての解説。英語訳が3つあるとか、どういう構造になっているとか
最後は、老人シンドバッドの冒険の話。

ロバート・ヘレンディーンの発明

子どもの頃から、学業などについて非常に優秀な主人公ロバートは、大学院まで出るものの、卒業後は実家に戻ってギャップイヤー的な状態にある。
すごい大作の文学作品だかなんだかを作ろうとしているのだけど、自分のアイデアをちゃんと形にできる形式がないのだなんだといって、進んでいない。
で、ある時、空想の女性を一から作り出すことを始める。

アリスは、落ちながら

不思議の国のアリス」のオマージュ
アリスが落ちていく縦穴が本当に延々と続いていたら、という話。
アリスが、自分は姉の膝枕で夢を見ているだけなんじゃないか、あるいは夢の中の夢の中の夢なんじゃないかとか考えはじめたりする。

青いカーテンの向こうで

ある少年が、1人で映画館にいってスクリーンを覆うカーテンの向こうに入り込むと、映画に出てくるキャラクターたちがいる部屋へと迷い込む。

探偵ゲーム

「クルー」という実在するゲームをモチーフにしたもの。
「ゲーム盤」「テーブル」「デイヴィッド」「コマ」とか、項目に分かれて書かれている。
項目に分かれているってだけで、普通の小説のように読めるけど、細かく項目が分かれているので、視点が頻繁に変わって面白い。
例えば、「デイヴィッド」って項目だと、デイヴィッド視点の三人称で書かれていて、「マリアン」って項目だと、マリアン視点の三人称になる。それぞれ、彼はこう思っているのだろうという推測が間違っていたりするのが分かる。
また、「テーブル」とかは、テーブルに置かれているものが一つ一つ描写されていったりする。誰かの視点というよりは、ただクローズアップのカメラで右から左にべたーって映してくような感じ。
視点が次々と変わったり、モノの描写が細かくなされたりとか、ちょっと磯崎憲一郎を想起したりした。磯崎憲一郎は項目にわけたりせずに書くけど。
それから、ここまでの話読んできて、これがこういう書き方されると予想できるけど、ゲーム内のことについても描写されている。
この探偵ゲームというのは、屋敷を模した盤の上で、ホワイト夫人とかグリーン氏とか教授とか大佐とかいったコマを動かしながら、他のプレイヤーの持っているカードについての情報を集め、犯人、凶器、犯行現場を推理するゲーム。
その屋敷の中での、グリーン氏とか大佐とかの(ゲーム内容とはもはや無関係な)行動などが描写されている。
話としては、ある3人兄弟+長兄の恋人がそのゲームをやっているところと、それと平行して、ゲーム内(?)の話が進む。どちらの話もお互いにお互いの心情を推測しているというのが中心になってすすむ。

セピア色の絵葉書

季節外れのさびれた観光地(?)に訪れた男が、奇妙な古書店に足を踏み入れる。
そこは古書だけでなく骨董なども置かれ、部屋の構造もよく分からない店だったのだが、そこで3ドルの絵葉書を買ってしまう。
2人の男女が写ったその絵葉書。天気も悪いし、悲しい気分に襲われるのだが、その葉書をこっそりと古書店に戻した後は、天気も回復し、気分も回復して帰路につく。

バーナム博物館

とある街にある不思議な博物館、バーナム博物館について。物語というよりは、この博物館がどういう博物館かという解説文、という体で書かれている。
様々な様式の混ざった、全体像を誰にも把握できない、たえずどこかが改築中の建物で、人魚や空飛ぶ絨毯があったり曲芸師がいたりする。博物館に住み着いている人とかもいる。
博物館が、街の住民にどう思われているかとかそういうことも書かれている。

クラシック・コミックス♯1

コマ1、コマ2、コマ3という感じで、それぞれのコマに何が描かれていて、どういうセリフが書いてあるかという感じで書かれている。
最初は、マンガをそのまま字に起こしても読みにくいだけだわ、と思うのだが、次第に慣れてくると絵が頭に浮かんでくるようになるし、これはやっぱり小説で、このまま絵に起こしてもマンガにはならないだろうなと思う。
実は、T・S・エリオットの詩をこのような形に書き換えているもので、詩の比喩的な表現をそのまま絵にしたような感じになっていて、コマ間のつながりがポンポンと飛んでいくというか、静止画をぱっぱっと見せられているような感じ。
青いモーニングを着た男が、パーティ会場にいって、老女とお茶を飲んだり、そのあと、何故か突然海に行ったりする。

映画館から出てみたら、雨に降られてしまった男が、車に乗って家に帰る途上を事細かに描写する掌編。
最後に男は、水に濡れてまるでインクが消えてしまうかのように、消えてしまう。

幻影師、アイゼンハイム

ノンフィクション的な文体で、19世紀のウィーンで活躍した奇術師アイゼンハイムの一生について語られる。
家具職人の息子として生まれたアイゼンハイムは、幼い頃にマジックを見て奇術に魅せられるが、しばらくの間は身内に披露するにとどまり自らも家具職人をしていた。だが、才能のあった彼は、奇術師として活動するようになり、幻灯を用いた彼のマジックはウィーンだけでなくヨーロッパ中で人気が出る。
彼のライバルらは、マジックを披露している途中で、忽然と姿を消してしまっている。それにつき、警察が捜査をしていたりするのだけど、真相は不明のママ。
世紀をまたぐ年に1年間活動を休止したのち、復活すると、全く新しい芸を見せるようになる。降霊術っぽい感じの奴で、どこから来たの分からない少女や男性、少年などが突然ステージ上に現れる。客が近付いて触ってみると、実体がない。同業者や批評家は、精巧な幻灯の類ではないかと考えるが、どういう仕掛けかは分からない。
最後、アイゼンハイムも触ってみたら、実は実体がなくて、消えてしまう。
見たことはないけど、このタイトルの映画があることは知っていて、ミルハウザー原作だと知らなかったので、ちょっと驚いた。

バーナム博物館 (白水uブックス―海外小説の誘惑)

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