松井孝典『生命はどこから来たのか? アストロバイオロジー入門』とアストロバイオロジー系の本の紹介

タイトルにあるとおり、アストロバイオロジーについての入門書。
これまでも、アストロバイオロジー関連の本はいくつか読んで来ているのだけど、アストロバイオロジーの名前を冠して全体を概観する本を読むのは初めてだった*1
というわけで、この本のまとめをしつつ、これまで読んだアストロバイオロジー関連の本についても紹介したりしたい。


筆者の松井さんは、惑星物理学で有名な人だが、自分は中学生の頃にたまたま著作を読んだことがあって、その時にも感じたし、最近アストロバイオロジー関連の本読んでて感じるのは、生命とか地球とか惑星系とかっていうのが、巧妙な一つのシステムになっていることへの驚き。思いも寄らなかった色々な要素が絡み合っている。だから、アストロバイオロジーには、天文学、地質学、生物学、化学といった複数の学問が結びついている学際性がある。


アストロバイオロジーという新しい学問領域がある、というよりは、色々な学問を結びつけるプロジェクトのようなものかな、という気もする。
アストロバイオロジーは、「地球以外にも生命はいるか」「生命の起源はどうなっているのか」ということに向かって、様々な知見を集めて繋いでいっているような感じがして、ともすればバラバラになりがちな知識が、そういう一つの(ないし少数の)問いへと向かっていくものとして配置される感じがする。
高校の頃、「なんか「生物」って科目はバラバラだなー」って感じてたけど、アストロバイオロジーというストーリーをいれるとそのバラバラ感って結構解消されるんじゃないかなと思ったりした*2
20世紀が物理学の世紀であったとするならば、21世紀は何の世紀か。情報科学だとか脳科学だとか言われているけど、アストロバイオロジーの世紀になったりするんじゃないかってちょっと思ったりした。


で、この本では、アストロバイオロジーに関わる様々な分野に触れている。
古代ギリシア哲学から始まって生命起源についての論争史を概観し、人間原理から宇宙論的に生命の存在について考え、生物学、古生物学、古環境学分子生物学、ウイルス学、極限環境に生きる生物の話やRNAワールドの話、そして惑星探査の話にまで至る。
正直な話、個々の分野において食い足りない部分や説明不足の部分などはある。
しかし、これだけ分野横断的にだーっと読めるのはよい。なるほど、そういうことだったのかと思ったところも度々ある。
ただ、一方で文章的にちょっと気になるところもある。Amazonレビューにもあったが、説明が妙な重複をしているところなどがある。なんとなく初稿を読まされている感じがあった。「ですます」体で書かれていて、基本的に文体は読みやすいと思うのだが、そこは文章で説明するよりも、図や表で説明した方が分かりやすいのでは、と思うところもあった。あと、参考文献ないし読書案内がない、というのも個人的にはマイナス点。
繰り返すけれど、新書一冊にこれだけのトピックをいれたのはすごいし、全体を概観するにはよいと思う。その一方で、本としてはもっと作り込めたのではないか、というのは否めない。急ごしらえで作ったのだろうかと思わせるというか。


物足りなさ、説明不足を感じるとしたら、この本は結構、これについては諸説あるよね、みたいな感じで済ましているところが多々あるから。これはこの本が、概説書であるという性格によるものかなと思う。
今まで自分が読んだアストロバイオロジー関連の本は、若手から中堅あたりが書いているものが多くて、入門書として書かれてはいるけれど、自分がいままさに研究し提案している分野・仮説を推してるものだった。一方、この本書いてる松井さんは圧倒的に大御所でもあるし、個別の説を推すよりは全体を俯瞰している感じ。で、この本で諸説あるって感じでごにょっとされているあたりは、そうした本でむしろ書かれていたりしていた。ので、この記事の後半でそれぞれ紹介してみる。
筆者は、今まさにこれを研究していますという話がないわけではないんだけど、それはあとがきとか。
何に注目しているかということは結構はっきり示されていて、具体的には、水平伝播と宇宙検疫かなと思った。
特に水平伝播はあちこちで言及されているのだけど、そのわりにはあまりよく分からない。
自分も、植物で結構あったりするみたいな話を聞いたことがあるくらいで、水平伝播についての本とか読んだことないし、あまり気にしたことがなかった。どれくらい重要なことなのか、いまいち分からず。

要約

第1章 アストロバイオロジーとは

何故いまアストロバイオロジーなのかということについて、近年の太陽系惑星探査などについて触れている。
最終章でもまた触れられることになるが、宇宙検疫という点に特に注目しているところが面白かった。
惑星探査をやることで、地球の微生物をすでにほかの星に運んでしまっている(かもしれない)ということ。
今後、火星とかエウロパとかタイタンとかで生物がいるかどうか調べるにあたって、地球の生物でないかどうかは気にしないといけない。

第2章 生命起源論の歴史的展開

生命の起源について、これまでどのように考えられてきたか。こういうのは、自分が今まで読んできたアストロバイオロジー本にはなかったところ。
パンスペルミア説を唱えた20世紀の化学者、アーレニウスが書いた『宇宙の変遷』という本が、世界の創世神話を集めていてよいと紹介されている。ちなみに、翻訳は寺田寅彦(ただし絶版)。東大の地球物理学講座は、寺田→坪井忠二→竹内均松井孝典という系譜らしい。
生命は宇宙にありふれているか、それとも稀な存在かという二つの考えが時代によって移り変わる、という視点がここではとられているが、生命が宇宙にありふれているという考えを広めたものとして、17世紀のフォントネル『世界の複数性についての対話』をあげている。
18世紀後半から19世紀にかけて、地質学、天文学、生物学について発展していく。
地質学:ライエルによる斉一説、恐竜の発見
天文学:星雲説。ただし、カント、ラプラスによるものはアイデアにとどまり、詳細な研究は19世紀の熱力学の発展を待つことになる
生物学:進化論
地球の年齢について。フーリエケルビン卿によって、熱の冷却による推測が行われはじめる。19世紀終わりに放射性元素が発見されて、熱の冷却だけでは測れないことが分かってくる。
19世紀には、火星人とその文明についても議論された。19世紀後半に火星が地球に接近していて、観測がよく行われていた。それから、星雲説によると、外側から冷えていくので、外側にある惑星の方が古いと考えられた。そこで、火星文明も地球より古く、先に滅亡したと考えられていた、とか。
20世紀前半、星雲説に対して、チェンバレンとモールトンによって微惑星説が唱えられる。こちらによると、惑星の形成は非常に稀な出来事ということになる。惑星が稀であるならば、当然生命も稀な存在ということになる。
20世紀半ばは、太陽系以外の惑星探索が行われたが、いっこうに発見されず、ますますこの考え方が強くなっていく。
90年代に入って、系外惑星が実際に発見されるようになったのは周知の通り。
生命の起源について、アリストテレス以来の自然発生説が否定されたのは、18世紀、パスツールの白鳥フラスコ実験によって。
では、生命の起源はどこか。地球の外からやってきたと考える、いわゆるパンスペルミア説については、ケルビン卿やヘルムホルツが支持し、20世紀においてはアーレニウスがこれを検討した。
一方、地球上で生命が生まれたという考えの代表者としては、オバーリンホールデン。彼らはいわゆる化学進化について提唱したり、実験したりした。また、化学進化については、ミラー・ユーレイの実験が有名(ユーレイはミラーの指導教官)


第3章 宇宙と生命

宇宙と生命に関して、筆者は大きく3つの立場をあげる
1.宇宙も生命も神に作られたという創造説(最初に挙げられただけで、本書の中で特に検討されていないが)
2.生命の誕生は偶然で、宇宙に生命は稀であるという立場
3.宇宙に生命は満ちあふれているという立場
筆者は、パンスペルミア説は、2の立場にたっているとする。もし、3が正しければ、地球で生命が生まれず、地球以外から運ばれてくる理由がないから。
ただし、化学進化が宇宙で起きて、それが地球へと運ばれてくる化学パンスペルミアについては、3の立場と矛盾しないとして区別している。
アストロバイオロジーという学問が研究に値するのは、第3の立場に与している場合であるとしている。
ここらへんの場合分けは、個人的には啓発的に思えたのだけど、書き方のせいで分かりにくいところでもあったなと思う。
宇宙に生命が溢れているという考えについては、人間原理と絡めて書かれている*3
SETIについてもちょっと

第4章 生命とは何か――地球生物学の基礎

章タイトル通り、生物学の基礎
細胞、代謝、遺伝について。
この章は丁寧に書かれていてよかった気がする。代謝については、エネルギー保存法則の話から始まる丁寧さ。
いくつか面白かったトピックだけ拾う
細胞の大きさは何で決まるのか→必要なものを取り入れて捨てるために最適な表面積で決まっているのでは?
真核細胞の起源→15億年前? と言われているがよく分かっていない。細胞内共生説が有力説。
細胞内共生説が有力な理由→小器官の間でDNAの移動。原核細胞と真核細胞の強い相同性。使う酵素アミノ酸が同じ。光学異性体の問題(生物は左手型アミノ酸しか使わないという奴)

第5章 生命と環境との共進化

進化論と古生物学の話
進化論史→当初、進化論が抱えていた難点は2つ。1)ケルビン卿の推定した地球の年齢はせいぜい2000万年で進化が起こるには短すぎると考えられた。2)当時想定された遺伝のメカニズムでは説明できない。→メンデル遺伝学によって説明可能になるが、当初は進化論と対立していた。20世紀に、統合される。
古代の化石観→近代的化石観:ウィリアム・スミスの層位学、キュビエの比較解剖学。
古生物学(1834年頃にこの名称が現れる)→2つの系列がある。1)層位学の流れ。化石を地層の年代を知るための手段として調べる。2)進化古生物学。生物進化の系統樹を調べる。今では、放射性年代測定法があるので、(1)の方における化石の役割は補助的に。
生物進化と酸素変動→光合成生物はいつ誕生したのか、大気中の酸素濃度はいつ増え始めたのか
スノーボールアース:21億〜19億年前(ヒューロニアン氷河期)→最古の真核生物(グリパニア)、7億年前(スターチアン氷河期)、6億年前(マリノアン氷河期)→エディアカラ動物群。生物の進化と何か関係してそうだが、詳しいことはよく分かってない
光合成には、光化学系1と光化学系2という2つの過程があるが、独立に獲得されたと考えられている。どのように獲得されたのか→遺伝子の水平伝播?
酸素濃度の変化:黄鉄鉱や二酸化ウランの体積(環境が還元的であることを示す)、酸化鉄の体積(環境が酸化的であることを示す)、硫黄同位体比でも酸素濃度が推定可能→24〜20億年前に酸素濃度が増大→オゾン層もこの頃に形成か? 生物の陸上進出は従来考えられていたよりも早いかも? 24億年前と22億年前に急増したと考えられる。この頃に真核生物も生まれたのではないか。酸素濃度の変化とスノーボールアースイベント。
シルル紀節足動物が進化
石炭紀後期:酸素濃度が上昇=二酸化炭素濃度が減少→寒冷化(ゴンドワナ氷河期)、節足動物の巨大化
絶滅と海洋無酸素減少(スーパーアノキシア)
絶滅については、人間によるものにも触れている。「人間圏」という筆者独自の考えなどと絡めつつ。

第6章 分子レベルで見る進化

木村の中立説と分子時計
カール・ウーズの分子系統樹とコモノート
ウーズは、超好熱菌がコモノートの近縁だと考えている。
一方、ミラーやスカーノは、コモノートが生物の起源だと考えない。
筆者:コモノートはそもそも1種なのか、存在していたのか。好熱菌では、遺伝子の水平伝播がよく起きているので系統樹が作れない。細菌と古細菌とでは、細胞膜を作る脂質が違う。これは何故か。コモノートはそもそも生物ではなかったかもしれない。

第7章 極限環境の生物

熱水噴出孔周辺の生物(チューブワームと硫黄酸化バクテリアなど)
地下生物圏
極限環境下のエネルギー(太陽に依存しない、化学合成無機独立栄養の話など)
熱水噴出孔と生命の起源について、パイライト仮説の紹介

第8章 ウイルスと生物進化

筆者は、生命の起源や進化(特に化学進化)を論ずるにあたって、ウイルスが重要であると考えているが、一方でその観点からの研究はまだあまり進んでいないという。
ウイルス:名前はパスツールから(顕微鏡で見つからない微生物の総称として)。1898年発見。実際に培養されたのは1915年。タバコモザイクウイルスの顕微鏡写真が1939年。
ウイルスの構造:カプシドという外殻の中にDNAないしRNA。カプシドは正20面体
ウイルスの分類:カプシドの内側と外側に、エンベロープというものがあるかどうか。遺伝物質がDNAかRNAか。核酸が1本鎖か2本鎖か。宿主による分類。例えば、インフルエンザウイルスは1本鎖RNAウイルスで、脊椎動物ウイルス。
正20面体:最も対称性の高い正多面体。カプソメアというタンパク質が三角形のように並んで作られる。
普通の細胞は細胞分裂で増えるが、ウイルスはそうではない。これは、化学進化を研究する上で参考になるのでは。
ここ10年でウイルス学は発見が多い:400ナノメートルの巨大ウイルス発見、極限環境生物の多くがウイルスに寄生されていて、例えば耐熱性をウイルスから与えられているなど
ウイルスと遺伝子の水平伝播、レトロトランスポゾン
環境とウイルス:ウイルス感染によってプランクトンが死滅することで、炭素循環に関係したり、雲の凝結核である硫化ジメチルの量に影響したりしているかもしれない*4

第9章 化学進化――生命の材料物質の合成

1920年代、オパーリン(ソ連)とホールデン(英)がそれぞれ独立に化学進化というアイデアについて考え出す
1950年代、カルビンらの実験やミラーとユーレイの実験によって、化学進化というアイデアが注目されるようになる。
化学進化については、生命の材料物質(タンパク質と核酸→その材料となるアミノ酸)がどのように作られたのか、ということと、生命の構造(細胞膜)がどのように作られたのかということについて探求する
アミノ酸は、メタンとアンモニアとエネルギー源があればできる。メタンもアンモニアもない場合は、さらに強いエネルギーが必要。
アミノ酸が重合してタンパク質になるためには水が必要
構造については、ベクシルという人工的に作られる袋状の自己集合体を作る実験が行われている。さらにベクシルが自律的に再生産するようなものも実験で作られている。
生命は、DNAとタンパク質の両方が必要だが、RNAウイルスなどはRNAしか持っていない。RNAは遺伝子でもあり、また触媒の機能も持つ。だから、まずRNAだけあれば、生命のようなものになったのではないか、というのがRNAワールド説。
ダイソンの提唱したがらくたワールド説というのもある。
化学進化が起きたのはどこか。
原始地球環境
隕石や彗星からもアミノ酸は発見されている。また、星間分子やダストにおいて、有機物が発見されている。分子雲は低温で有機物は凍結しているが、宇宙線や紫外線が照射されると反応が起きる。実験室においては、同様の環境でアミノ酸ができることが分かっている。
アミノ酸のD型、L型(右手型、左手型)の偏りの問題が未解決(円偏光? あるいは元から少しだけ偏りがある?)

第10章 宇宙における生命探査

火星について
2章で述べたように19世紀から議論がある。1964年マリナー4号、71年マリナー9号、地上への着陸調査は76年バイキング、その後NASAは他の惑星探査を行い火星はお預けとなる。80年代にソ連フォボス計画というのがあったがソ連崩壊と共に消滅(筆者はこれに関わっていた)。97年、マーグ・グローバル・サーベイヤー、2012年マーズ・サイエンス・ラボラトリー
火星から飛来した隕石に生物の化石が、というニュースがあったが、これについては現在も賛否両論
ローバーの探査で、水の流れがあるときにできる斜交層理という構造と、還元的環境が酸化的環境に変わるときに形成される酸化鉄の粒が発見されている。
現在は、マーズ・サイエンス・ラボラトリーのキュリオシティがゲール・クレーターを探査中。キュリオシティは観測機器がすごい。原子力電池を積んでて、寿命が長い。
キュリオシティは最近こんなニュースがあった。火星で淡水湖跡を発見、微生物がいた可能性も|WIRED.jp
タイタンについて
タイタンは、水が凍って大陸のようになっていて、液体のメタンが循環しているシステムができている。
カッシーニホイヘンスによる探査
エウロパは氷の下に液体の海があるのではないか。また、エンセラダスも蒸気の間欠的な噴出が見られる。
系外惑星について
系外惑星の発見は既にニュースにもならない。今後、生命がいるかどうかをどのように観測するか。例えば、アルベド(反射率)の変化が観測できれば、海と陸の違い、季節の違いが分かるのではないか。
筆者が個人的に注目しているのは、スーパータイタン。惑星の材料としては氷が多いので、氷惑星が多いはず。そして、そこでメタンやアンモニアが循環して、生命が生まれていたりしないか。
最後に宇宙検疫の話。

あとがき スリランカの赤い雨

序章ではインドの赤い雨、あとがきではスリランカの赤い雨を紹介している。
文字通り、赤い雨が降ったという話。雨の凝結核に微生物が混ざったのではないかと考えられている。また、近い時期に隕石の目撃例があり、もしかしてパンスペルミア? みたいな話らしい(かなり不確かだけど)
赤い雨、21世紀になってからはインドとスリランカで降っている。20世紀の記録は少ないが、19世紀だと結構記録がある、とからしい。
で、今、他の研究者に誘われて、筆者も調査中、と。ってこの本読んでたら、『スリランカの赤い雨 生命は宇宙から飛来するか』って本が出てた。

アストロバイオロジー本紹介

高井研『生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る』

生命はなぜ生まれたのか 地球生物の起源の謎に迫る (幻冬舎新書)
高井研『生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る』 - logical cypher scape
どちらもタイトルに生命の起源を謳っており、重なるところも多い。5,6,7,9章と関連してくる。
扱っているトピックについては重なりが多いが、そのノリというか、重点を置くところは全然違うので読み比べたら面白いかも。
松井本は、どの話題でもあまり深くは入らず、諸説紹介する感じだが、高井本は、むろん諸説あるところは諸説紹介するも、その上で自説について熱く語っている。
RNAワールドについて、高井は切り捨てているが、松井はそれなりに取り上げている。
一般的な呼吸などエネルギー代謝の説明という点では、松井本の方が断然詳しいと思うが、超高熱菌や生命の起源におけるエネルギー代謝の話であれば、高井本の方が詳しいし面白い。
松井本7章に出てくるバイライト説につていも、高井本の方がより詳しい。

井田茂『系外惑星

系外惑星―宇宙と生命のナゾを解く (ちくまプリマー新書)
井田茂『系外惑星』 - logical cypher scape
こちらは、本書でいえば2章と10章とに関わる。
2章にちょっと触れられている惑星形成についての議論。松井本では、過去どのような議論がされていたかで終わっていて、現代の惑星形成理論の話がないが、こちらの本でたっぷり説明されている。
また、10章における系外惑星の話もこちら。

福江翼『生命は、宇宙のどこで生まれたのか』

生命は、宇宙のどこで生まれたのか(祥伝社新書229)
福江翼『生命は、宇宙のどこで生まれたのか』 - logical cypher scape
惑星の話や生命についての基本的な解説もなされているが、この本のメインはなんといっても、著者の福江が研究しているアミノ酸光学異性体と円偏光の関係について。
アミノ酸光学異性体の偏りについては、本書第4章、第9章でも、また高井本でも言及があるが、何故偏りがあるのかということについてはどちらも詳しくは触れていない。松井本で、円偏光説というのもあるがまだよく分かっていないという言及があった程度。

第15回自然科学研究機構シンポジウム アストロバイオロジー ust実況 - Togetterまとめ

第15回自然科学研究機構シンポジウム アストロバイオロジー ust実況 - Togetter
こちらは本ではないが、アストロバイオロジー関係ということで。
いくつかの発表が行われていたが、まず、本書第5章でも言及のあったスノーボールアースについての発表があった。スノーボールアース説って何なのかというのがメインで、それと酸素濃度と生物進化の関わりについての詳しい説明までには至らなかったけど(言及はあった)
本書第4章で細胞の大きさがどうやって決まるのかという話があったが、こちらでも別の観点からの考察がある。
また、第9章で出てきた、化学進化の話や星間ダストにおける有機物についての話があったが、それをどのように観測しているのか、野辺山の電波天文台の話がある。
10章で火星探査の話をしているが、こちらにも火星探査の話がある。キュリオシティが二酸化硫黄見つけてる、とか。

長沼毅・藤崎慎吾『辺境生物探訪記』

辺境生物探訪記 生命の本質を求めて (光文社新書)
長沼毅・藤崎慎吾『辺境生物探訪記』 - logical cypher scape
極限環境生物についての第7章や太陽系の惑星探査についての第10章と関連して。
極限環境生物といえば、まず思い当たるのは、そして実際に研究が進んでいるのは熱水噴出孔付近であるが、それ以外の環境ももちろんある。松井本でも地下生物圏についてある程度ページを割いているが、より詳しい話はこちら。極地や砂漠の話もある。やっぱり、地球以外の惑星の話も面白いし、最後に出てくる「生物とは何か」という根本的な話も、対談ならではのぶっとんだ話が読めて面白い。
長沼さんで、熱水噴出孔というと、むしろ『深海生物学への招待』で、松井本第7章にも出てくるチューブワームの話とかこちらが詳しいのだろうが、残念ながら未読。

丸山茂徳・磯崎行雄『生命と地球の歴史』

生命と地球の歴史 (岩波新書)
丸山茂徳・磯崎行雄『生命と地球の歴史』 - logical cypher scape
この本は、まだアストロバイオロジーなる言葉がなかった頃に書かれた本であり、地球外生命の話などは全くされていないが、本書第5章の後半について、より詳しく知りたければ、この本ということになるだろう。
酸素と生物進化の関係や大量絶滅のくだり。
本書では触れられていないプルームテクトニクス説の提唱者によるもので、例えば本書ではP/T境界の絶滅について、諸説あってまだよく分かっていないとあるが、こちらの本ではプルームテクトニクス説に基づいて仮説が提案されている。
未読だが、酸素濃度と生物進化の関係については、『恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた』という本もあるようだ。
そういえば、この本も松井本も人間の誕生が地球史の中で重要な出来事だと考えているのが近い気がする。

木村資生『生物進化を考える』

生物進化を考える (岩波新書)
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6章で、木村の中立説と分子時計の話が出てくるが、提唱者本人による入門書が新書である。最後の章を除いて良書w

太田邦史『エピゲノムと生命』

エピゲノムと生命 (ブルーバックス)
太田邦史『エピゲノムと生命』 - logical cypher scape
これはアストロバイオロジーとは何の関係もない本で、本書にもエピジェネティクスへの言及はないのだけど。
本書の遺伝についての説明において、イントロンに触れつつも、非コード領域の話には触れていないので、補足説明としてこの本があってもいいのかな、と。
あと、水平伝播の話をする際に、レトロトランスポゾンにも言及してるけど、これまた特に説明がなされていないので、これについての説明もこの本。


*1:この本以外にも、『宇宙生物学入門』とか『アストロバイオロジー』とかいった本が出ているのは知っているけれど、未読

*2:まあ少なくとも、進化を中心に配置しなおすとかすればいいんじゃないかなと思うけど、最近の「生物」がどんな感じなのかは知りません

*3:ところで、筆者は観測に基づかない、理論に基づく宇宙論(たとえば超ひも理論に基づく宇宙論とか)を思弁的宇宙論と呼んでいるが、思弁的宇宙論とは「脳の内部モデルとしての宇宙論」とか書かれているのは、個人的にはあんまり好まない表現だなと思ったけど、これはちょっと重箱の隅つつき

*4:炭素循環も、硫化ジメチルも直接にはプランクトンの増減によるもので、ウイルスは間接的にしか関わっていないようなので、どれくらい重要なのかはよく分からないと個人的には思った