藤崎慎吾『我々は生命を創れるのか』

サブタイトルは「合成生物学が生みだしつつあるもの」とあり確かに合成生物学の話ではあるが、生命の起源研究の中に合成生物学を位置づけている感じ
藤崎が、この分野の研究者に取材した連載記事が元になっている。


面白そうだなと思ったから読み始めたわけだが、期待を超えて面白かった。
前半、アストロバイオロジー関連の話をしているところも面白いが、後半に「生命」概念を捉え直していくところが刺激的
がっつり取り組むとしたらめちゃくちゃ大変だが、人類学や心理学も含む形で、生命についての哲学というのがあるというのを感じた。
アストロバイオロジーの哲学というのがあったけど、こういう範囲までカバーできるとよいのかもしれない、と思ったりもした
「人が生命と思ったらそれは生命なんだ」式の話というのは時々出てく話で、出てくる度に「いやそれはどうなんだ」と思っていたのだけど、生命概念の一部に組み込まざるをえないということに、今回納得した気がした

本書の起源
第一章「起源」の不思議
第二章「生命の起源」を探す 
第三章「生命の起源」をつくる
第四章「生命の終わり」をつくる
第五章「第二の生命」をつくる
本書の未来

第一章「起源」の不思議

まず、自分という個体がいつから生命なのか、という話から始まって、それも法律や人類学的な観点からやって、さらに「生命」や「生きている」についての素朴生物学にまつわる発達心理学の研究なども紹介されている

第二章「生命の起源」を探す

生命の起源研究についての話
特に、深海熱水噴出域説vs地上温泉説の論点整理がなされている。
(本文であまり重要視されてないけど)論点1で元素組成の話が出てきて、あまり注目してなかったけどそういう論点もあったかと思った
やっぱり重要なのは、乾いた環境があるかどうかとかだよね、という話
あと、○○ワールド仮説色々
隕石衝突実験している古川さんの話
 

第三章「生命の起源」をつくる

ここから合成生物学的な話
キッチンで作れる人工細胞
細胞膜の話


システインというアミノ酸が、硫化鉱物の代謝を生化学へと持ち込んだ

第四章「生命の終わり」をつくる

第一章と同じように「死」についての法律的な話や人類学的な話をさわりとして

マイクロチャンバー、ハイブリッドセルから大腸菌
ちょっと海底熱水噴出域説に有利な話かw
死んだところから生命を生み出したいが、死のよい定義がない


茨城県常陸太田市にある、微生物の塚、人工細胞・人工生命の塚
科学者でありアーティストでもある岩崎の作品
「生命」という概念は重層構造をなしているのではないか
つまり、自然科学の見方でいう、代謝や遺伝を行う化合物の集合として見る生命、加えて、人類が歴史的・文化的に蓄積してきた生命のイメージ・生命観・死生観、そして個人が対象との関係の中で感じ取る生命、といった具合に
この本の別の場所で、ジャンケレヴィッチ『死』の中に示される「一人称の死」「二人称の死」「三人称の死」という概念とも重ねあわされる。
岩﨑は、論文の中に見られる主観的な表現や図・グラフを切り取って素材として使う作品を作っている
生命科学の中には、「希薄化されたアニミズム」があるという*1


↑このあたりがとても面白くて、生命についての哲学がここにありそう、という感覚が読みながら湧いてきた
まだ読んでないけど、岩崎さんの記事とか今後読んでいきたい(まだ読んでないけどって書いたけど、下のシノドスの記事はブクマ済みだった)
人工生命に慰霊碑と花束を(後編)(藤崎 慎吾) | ブルーバックス | 講談社(1/5)
生命美学とバイオ(メディア)アート——芸術と科学の界面から考える生命 / 岩崎秀雄 / 生命科学 | SYNODOS -シノドス-
https://www.amazon.co.jp/dp/B076BP7MDQ

第五章「第二の生命」をつくる

色々な生命の可能性について
ケイ素生物(この本、わりと可能性に好意的
文字数の多いDNA(ハチモジDNA
ATP以外のエネルギー通貨(アデノシンではなくグアノシンがついたGTPとか他のでもエネルギー通貨としては使える
キラリティ分子
対称性の破れから関わっているのではないかという研究もあるとか


この本は、生命0.9とか0.5とかそういう表記だけど、ピーター・D・ウォード『生命と非生命のあいだ』 - logical cypher scape2に出てくるテロアとかリボサとかそういうのも思い出したりした

*1:未読だけどhttps://www.amazon.co.jp/dp/4130133144という本が最近出てるのを思い出した