サブタイトルは「思考はいかにコード化されるか」
意識における「グローバル・ニューロナル・ワークスペース」説を主張している筆者による、意識の科学についての本である。
元々「グローバル・ワークスペース」説というのがあり、それを神経科学的に発展させたものとして「グローバル・ニューロナル・ワークスペース」説という呼び名になっている。
意識とは、脳内における情報共有のことである、というのがグローバル・ワークスペースという考えである。
本書は、意識あるいは無意識にかんする様々な実験を多く紹介していて、そこが一つの特徴かな、という気がする。
あと、意識の神経相関(本書では意識のしるしと呼ばれているが)についてもがっつり書かれていて、意識と対応する脳活動はこれだ、というのががっつり論じられている。
このあたりから、植物状態の人に実は意識があるかどうか調べる、というような話へもつながっている
基本的には、いろいろな心理学実験をやって、fMRI、EEG、MEGで測定するということをやっている人だけど、コンピュータ・シミュレーションによる研究もやっている
脳活動の話としては、外部からの刺激がないときにも自発的な活動がなされている、という点にも注目して、結構重要視していることや、
アトラクターによる自己組織化、というような説明もたびたび出てくることなど、力学系っぽいような話もしているのだなあ、というのが意外だった
(前者はデフォルトモードネットワークのことなので、必ずしも力学系というわけでもないかもしれないが)
グローバル・ワークスペースについては、意識の中でもアクセス意識についての理論となっている。
筆者は、アクセス意識こそ意識だと考えているので、筆者の立場的にはそれで問題ないわけだが、例えば、哲学者のネッド・ブロックはアクセス意識と現象的意識を区別し、アクセス意識の説明だけでは意識の説明としては十分ではない、と
個人的な感想としてもそこが気になるところで、グローバル・ワークスペースは、意識のある側面についてはうまく説明しているような気がするが、意識の現象性にはやはり届いていないのではないか、という気がした。
ところでこの本のサブタイトルは「思考はいかにコード化されるか」であるが、この思考のコード化というのは、意識の内容がどのように神経系で表現されているか、ということで、これは現象性と関わってくる話題のように思う。
ただ、サブタイトルとされているものの、また、本書内でも何カ所かで分けて言及されているものの、この思考のコード化の仕組みについては、わかるようなわからんような、という感じではあった、個人的には。
思考のコード化として、ビル・クリントン細胞とかがあげられていて、確かにそれも意識や思考の内容なんだけど、意識の現象性というのは、クリントンという概念を見ているわけでなくて、白髪の白さとかを見ているわけで。
少なくとも知覚のモダリティの違いの話とかが必要な気がする。我々は、色を見て、音を聞いて、匂いを嗅ぐわけであって、色を聞いたり、音を嗅いだり、匂いを見たりはしていない。なぜ、こういう現れをするのか*1。
ところで、意識には、現象性だけでなく統一性という特徴もある。
グローバル・ワークスペースは、この統一性という特徴に着目して意識を説明しようとしているところはあって、それは、エーデルマンやトノーニとも共通しているところかな、と思う。
で、この統一性という特徴を、脳内の様々な領域の情報共有として描いている感じなんだけど、そうすると逆に、意識における多様な現れ方(色は見えるものとして、音は聞こえるものとして(さらにそれぞれの色や音はそれぞれ少しずつ違ったものとして、意識の中で現れる)=現象性がよくわからなくなってしまうのではないか、という気がした
脳内の情報というのは、神経ネットワークの電気信号であり、それが同期することで統一性が実現できるのだとして、逆に、電気信号がどうして色や音として経験されるのか、ということで、それがハードプロブレムなんじゃないかな、と思う(色も音も匂いも脳内では全部電気信号になっていて、それがどうやって経験においては色や音や匂いになっているんでしょうね、という話)。
この本もしばしば、ウィリアム・ジェームズが引用されているなあ
ただ、ジェームズの考えに依拠しているとか支持しているとかいうよりは、意識の特徴付けの例として挙げている感じかなあ。
あとは、ヘッブが結構重要な感じもあるなあ。
ヘッブのこと、ヘッブ則でしか知らなかったが、本書では、それ以外の概念が出てくる。
序 思考の材料
デカルトの挑戦/最後の問題/意識を解明する/見ることと見ないこと/主観を科学に変える/意識的思考のしるし/意識の未来第1章 意識の実験
意識のさまざまな側面/最小の対比/ライバルイメージ/注意の瞬き/意識的知覚をマスクする/主観の優位第2章 無意識の深さを測る
無意識の開拓者たち/無意識の作用の基盤/脳の暗い側/意識なしの結合/無意識にチェスをプレイする/声を見る/無意識の意味?/無意識の大論争/無意識の算術/意識の働きなしに概念を結合する/無意識的な注意/見えないコインの価値/無意識の数学/睡眠中の統計処理/識域下のトリック第3章 意識は何のためにあるのか?
無意識の統計処理、意識のサンプリング/持続する思考/脳のチューリングマシン/社会的な情報共有装置第4章 意識的思考のしるし
意識のなだれ/意識のなだれはいつ起こるのか/意識は外界に遅れをとる/意識が生じる瞬間を特定する/意識ある脳の点火/意識ある脳の深層/脳のウェブ/ティッピングポイントとその前兆/意識的思考を解読する/幻覚を誘導する/意識を破壊する/思考する物体第5章 意識を理論化する
意識は広域的な情報共有である/モジュール性を超えて/進化したコミュニケーション・ネットワーク/意識的思考を彫琢する/思考の形状/意識の点火をシミュレートする/多忙な脳/脳のなかのダーウィン/無意識のカタログ/主観的な状態第6章 究極のテスト
心はいかに失われるのか/皮質ゆえにわれあり/閉じこめられた蝶を解き放つ/意識による新奇性の検出/皮質をピングする/自発的な思考を検知する/臨床介入に向けて第7章 意識の未来
乳児の意識/動物に意識はあるのか/サルの自己意識/意識は人間に独自のものか/意識の病/機械の意識索引/原注/参考文献
序 思考の材料
意識についての科学の三要素
- コンシャスアクセスの重視
- 意識的知覚の操作
- 内省の注意深い記録
これら詳しくは1章で
第1章 意識の実験
第1章では、本書が扱う「意識」とは何か、ということと、意識が実験科学で扱えるようになってきたということについて
- 意識の定義ないし分類
本書では「コンシャスアクセス」のみを扱う、と。
訳者は、この語についてあえて意訳せずカタカナ語としたと述べているが、「アクセス意識」のことを指していると思われるので、以後、この記事ではアクセス意識と書く。
- 前意識との区別
アクセスの有無
アクセス可能ではあるが、実際にアクセスされていない領域を前意識。実際にアクセスされている領域をアクセス意識と呼ぶ
- 注意との区別
ジェームズによる意識の特徴を引用した上で、この中でジェームズが一つを選択する、と述べていることは意識ではなく注意、とする。
特にここでは「選択的注意」と呼び、それは気付きの外で機能している、と。
- 覚醒状態との区別
いわゆる植物状態だと、覚醒していてもアクセスが生じていないことがある。
- 意識についての実験
おなじみの「両眼視野闘争」のほか、「注意の瞬き」「マスキング」
「マスキング」は、いわゆるサブリミナル効果みたいなやつで、ごく短い時間だけ刺激を与える奴。
「注意の瞬き」は、例えば、次々と文字が表示されるので数字が出てきたら覚えてください、という課題を出す。で、まず最初に数字が表示された後、少したってから次の数字が出る。で、この間隔が短いと、被験者は次の数字に気づけない。最初の数字を記憶するために一定の時間が必要で、その間、注意が働かなくなる。なので「注意の瞬き」
「非注意性盲目」
映像にゴリラが出てきているのに気づかない奴
→これを実験でやろうとすると手間。実験としては「マスキング」という手法
- 内省
行動主義的心理学などでは、信頼がおけないものとされた
これについて、内省を考察として使うのが信頼できないのは確かだが、
生データとしてならば、使える、と。
要するに画像とか見せて「見えた」「見えない」というのは内省によるしかないけれど、それを生データとして使うだけなら問題ないし、それによって、意識を実験科学の遡上にあげることができる、と。
第2章 無意識の深さを測る
本章では、意識についての話をする前に、無意識の話をしている。
様々な実験を通して、これまで無意識が過小評価されてきた、無意識において人間はかなりの情報処理を行っている、ということを示す。
この章は、とにかく色々な実験が紹介されて、脳のことを考える上で結構面白いパートであるのには違いないのだが、ここらへん細かく拾ってるときりがなさそうなので、トピックだけ
閾下プライミング
無意識チェス
マガーク効果
無意識での言語意味理解
無意識の金銭的価値判断
無意識の数的判断
ポアンカレ『科学と仮説』の一節が引用されていたりした。
第3章 意識は何のためにあるのか?
第2章では、無意識による働きが数多く紹介されたが、ではそんなに無意識がすごいのなら意識っていらないのでは? という疑問に対して、意識の有用性を説く章
意識があることによって、アルゴリズム的処理が可能になる、という話なのだが、人間の認知に計算や記号はあるのかどうか話みたいだな、と思った。ドゥアンヌの立場は、当然にある、という立場だが。
無意識による並列的な処理と意識による直列的な処理、という整理もされている。
言語AIが、現状、並列的な処理をする拡散モデルよりも直列的な処理のRNNの方が秀でているのを読んだばかりなので、それを連想してちょっと面白かった。
- 統計装置としての無意識とサンプリング装置としての意識
無意識は、統計的な情報処理を行う。だから、色々な可能性があるときはそれらを並列的に扱っている。でも、意識においては、どれか一つになる(サンプリングされる)
両眼視野闘争とか、無意識はどちらの画像も認識しているけれど、意識においてはどちらか片方だけになっている。
- 条件付け
パブロフの条件付けについてだが、条件付けられる刺激と報酬とが同時に出てくるタイプと、そこに時間差があって、刺激と報酬の関係をいったん記憶する必要のあるタイプとがある。
で、後者には意識が必要
時間をかけた学習に意識が必要
- アルゴリズム
例えば、12×13を暗算するとして、その際の計算ステップは意識される(どういう風に計算したか報告できる)
逆にいうと、チューリングマシンというのは、脳の情報処理のうち、意識的なプロセスのみを抽出したものなのではないか、と筆者は考える
脳は無意識の処理をしているので、その点で、脳はコンピュータではない。
一方で、複数のルーチン処理のつなぎ合わせには意識が必要
単純な四則演算だけなら無意識でできるのだが、それをいくつか組み合わせる必要が出てくると、無意識ではできなくなる。
第4章 意識的思考のしるし
本章では、意識の「しるし」になるような脳の活動を示す。
いわゆる「意識の神経相関(NCC)」を探す試みの話である。
なお、本書の中ではNCCについて触れて、ここであげている「しるし」は単なる相関関係ではなく因果関係なのだと釘を刺しているが、しかし、渡辺正峰によれば、NCCには「十分な最低限の」という限定があり、相関関係以上のもの、因果関係に踏み込んだものを求めているらしい*2ので、そう捉えるなら、ドゥアンヌがこの章で示しているものをNCCと読んでもよいように思う
(1)頭頂葉および前頭前野の突然の点火
「マスキング」による実験で、脳活動をfMRIで見る
意識トライアルも無意識トライアルも、最初の脳活動は同じ
無意識→皮質内の経路を進むと弱まる
意識→徐々に増える=頭頂葉および前頭前野の突然の点火
視覚、聴覚、運動でそれぞれ実験を行い、同様の結果
(2)P3波という遅い脳波
fMRIは、脳活動がどこで行われているか見るのに適しているが、いつ起きたかというのにはあまり適していない
EEGやMEGの方が適している
「注意の瞬き」実験により、意識がいつ生じているのかを調べる
まず、意識トライアルでも無意識トライアルでも発生している脳波
P1 100ミリ秒がピークの波
N1 170ミリ秒がピークの波
200~300ミリ秒で無意識トライアルでは、脳波衰退
P3 270ミリ秒付近で始まり、350~500ミリ秒がピークの波
意識的トライアルのみで発生
なお「注意の瞬き」では、2回刺激を提示するわけだが、
最初の刺激でのP3波が大きいと二番目では欠けることが多い(2番目の刺激が意識できていない、という実験結果と合致)
刺激に対して、意識は、1/3秒から0.5秒の遅れがある、といえる
この遅延に対する対応策
→無意識または予期
本当に意識をあらわすのか
意識トライアルと無意識トライアルの条件を同じにする実験デザインが、色々と紹介されている。
被験者の「見えた」「見えない」という経験以外は同じにする(報告の操作とかそういうのも全く同じにして)、その意識経験のみに相関した反応かどうかを確かめる。
- グローバル・イグニッション
細胞集成体(ヘッブ)という考えや、あるいは物理学における相転移や数学における分岐に類似した現象が起きている、と。
転換点(ティッピングポイント)がある
表示パラメータを連続的に変化させる実験
→しかし、被験者の報告は全か無か(パラメータの変化に応じて、数字が次第にはっきり見える、とは報告しない。パラメータがある閾値を超えるかどうかで、見える、見えないがはっきり分かれる)
P3波だけがこの現象に対応
視覚野の脳波は連続的
(3)高周波振動(ガンマ)の遅れての突発
グローバル・イグニッションを導く意識のなだれという概念
てんかん患者の電極で観測
→てんかん患者は、脳領域のあちこちに検査用に電極をいれる。これは意識を計測するためにいれているわけではないが、アクセス意識が生じると、脳のあちこちでの脳波を確認できる。
脳波には、アルファ帯域(8~13ヘルツ)、ベータ帯域(13~30ヘルツ)、ガンマ帯域(30ヘルツ以上)がある。
ガンマ帯域の脳波は、意識トライアルか無意識トライアルかに限らず、常に増大
しかし、300ミリ秒後には全か無かの相違
クリックとコッホの「40ヘルツ仮説」
→この仮説自体は誤りだったが、ガンマ帯域の脳波のことだったといえる
ガンマ波自体は、意識と無関係に発生するが、刺激から遅れて発生するガンマ波は、意識のしるし
(4)遠く離れた皮質領域の同期した情報交換(ウェブ形成)
- 脳のウェブ
離れた皮質領域同士で、電気シグナルの同期が起きる
ベータ帯域、シータ帯域で確立
- グレンジャー因果分析
何が何を引き起こしたのかを調べる
領域Aの活動がBの活動を引き起こしたのか、あるいはその逆か
→ボトムアップとトップダウンの双方向だった
→逆方向の波は、注意シグナルか、チェック結果を告知する確認シグナル
この本では、度々フィードバック信号についての言及はなされているが、予測符号化や予測誤差最小化などへの明示的な言及はなかったかと思う。
「分散されたアトラクターに特徴づけられる活動状態がしばらく維持される、脳領域の大規模なパターン」
脳のウェブについての説明だと思うものの、意味がとりにくくて、内容はよくわかっていないが、ここで引用したのは「アトラクター」という言葉が出てきたから
あとの方でもアトラクターや自己組織化といった言葉が、本書には時々出てくる。
意識のコード
ここまで示してきた4つは、意識が生じている際の脳の活動であり、意識のしるしであるが、しかし、これだけでは、意識の内容はわからない。
どのようなものが見えているのか、聞こえているのか、どのような匂いなのか、どんな情動を感じているのか、そういった意識の内容は、どのように脳内でコードされているのか。
特定の概念に反応するニューロンが発見されていることが、ここでは紹介されているオペラハウス細胞とかビル・クリントン細胞とか
あるいは、場所細胞とか
- TMSによる刺激
っていうか、TMSって20世紀前半からあったのか、1910年代の装置の写真が載っているのだけど、頭をドラム缶に突っ込んでいるような奴でなんかすごい(現在のTMSはもっとハンディな奴になってる)
- 意識の破壊
電気刺激を与えると意識経験を消せる
- 意識のウェブはどの程度広域的か
ヴィクター・ラムによって、「居所的なループ」というのが発見されていて、意識は局所的なループで十分だという主張もあるが、筆者は広域なウェブが必要だという。
ニューロンへの刺激で『マトリックス』みたいなことは可能になるか
筆者は結構楽観的
むろん、今の技術だと全然だが、光遺伝学ならできるようになるんじゃないか、とか
第5章 意識を理論化する
本章が、本書の本丸
ドゥアンヌが提唱する「グローバル・ニューロナル・ワークスペース」説の解説となる。
どういう理論か
意識=脳全体の情報共有
情報を他の脳領域にも利用可能にする
無数の心的表象のうち、現在の目的に合致したものを高次の意思決定システムが利用できるよう広域化する
ワークスペース概念は、古くからの心理学説の統合である
1870年 イポリット・テーヌ「劇場のたとえ」
→デネット 劇場のたとえは「小人」に注意
→バースの「ワークスペース」において、観客は無意識のプロセッサーの集合で小人ではない
また、「ワークスペース」概念を、パソコンにおける「クリップボード」機能にも喩える。あるアプリで使っていた情報をほかのアプリでも使えるようにする機能、という意味で。
第二次大戦中の心理学者ドナルド・ブロードベント
→飛行機パイロットに対する実験から、意識は一つのことしかできない、と
ウィリアム・ジェームズ
→意識=自己を統制するための組織
自己統制は無意識もやっているが、ワークスペースにあがることで自己の統制下にあるという感覚が生まれる
情報の広域的な共有こそ主観的な経験の正体
進化上、このような仕組みは、優位性をもつ。
→意思決定には、複数の知識の源泉に基づくケースがあるから
メートル単位の長い軸索を持つニューロンによる相互結合ネットワーク
樹状突起も巨大
FOXP2ファミリー遺伝子
思考のコード化
ヘッブ「細胞集成体」(1949『行動の機構』)
→局所的な活動の「丘」がそれぞれ組み合わせ可能なコードに
→区画の組み合わせで表現する
ジョン・セルフリッジの「伏魔殿」(1959)
→デーモンの階層、低次の階層のデーモンがそれぞれ叫んで、より抽象的な次の階層のデーモンを刺激する(「ここに丸がある」「ここに丸がある」とデーモンたちが叫ぶと、次の階層のデーモンが「顔がある」と叫ぶ、というようなイメージか)
→このデーモンはフィードフォワードのみ
フィードバックを加える
コネクショニストによるモデル
→アトラクター状態への自己組織化
クリックとコッホ「神経連合」
連合という表現は、意識されるコードは統合されていないければならないことを示唆する。(ここに付けられている注釈で統合情報理論への言及があるが、筆者は汎心論的なのでトノーニの結論には同意しないという)
ダマシオ「収束域」(前頭前皮質や、正中線に沿った領域などにみられる)
→情報の統合を実現する領域
複数の感覚モジュールが統一された解釈へ収れん。広域な一斉伝達によって統合を担当
エーデルマン「再入(リエントリー)」=双方向の情報交換
参考:ジェラルド・M・エーデルマン『脳は空より広いか』 - logical cypher scape2
ワークスペースのニューロンの一部が一定時間安定して活性化
→意識のコード化
→分散する領域が、同一の心的表象の異なる側面をコード化*3
→一度に活性化することで、私たちはそれに気付く
長い軸索を利用して情報交換し、解釈が一つに収れんしたとき、意識的知覚が完成
意識の内容をコード化する細胞集成体が脳全体に広がり、全体として一貫性を保つ。
ニューロンの同期が鍵
発火していないニューロンも情報のコード化にかかわる
何が無関係であるかを知らせる
抑制性ニューロンによって、抑制されたニューロンによる陽性電位がP3波を形成する
意識の内容を定義するのは、活性化したニューロンによる陰性電位
シミュレーション研究
筆者らは、バーチャルニューロンにより、4つの領域からなる階層と二つのカラムを含むネットワークのシミュレーション研究を行った。
コンシャスアクセスの4つのしるしを再確認
グローバル・イグニッションに対する閾値は、「覚醒」の制御を受ける(覚醒度が低いと、グローバル・イグニッションは生じない)
- ニューロン活動の自発性
シミュレーションにおいて確認された重要な点
入力を欠いても自己組織化する
実際の脳も同様
「内言語」や黙考は、こうした自発性によるものではないか
脳は、沈静時にデフォルトモードネットワークというものが活発になり、そういうとき、内部で思考している。
シミュレーションにおいて、内的な活動をしているとき、外的な刺激を与えてもグローバル・イグニッションに至らず
自発性→確率的な活動・ランダム性→環境の散策
「中枢パターン発生器」*4による歩行や遊泳
多様性発生器
ニューロンは熱ノイズを許容し、増幅する
局所的なノイズから「意識の流れ」へ
無意識についての分類
- 前意識
非注意性盲目など、注意すれば意識にあがってくるが、意識されない段階のもの
グローバル・ワークスペースを点火させる表象は、周囲を抑制する
前意識は、グローバル・ワークスペース外部の一時的記録領域へ
- 識閾下の状態
注意を向けても知覚できないもの
グローバル・イグニッションに至らない
短期間で消える
- 切り離されたパターン
呼吸など
時間的に長いので、識閾下の状態ではない
意識化できないので、前意識でもない
呼吸であれば、脳幹に限定され、グローバル・ワークスペースから切り離されている
- 複雑な発火パターンへの希釈
稠密な格子模様が灰色にしか見えないという実験
一次視覚野ではコード化されているパターンが、グローバル・ワークスペースのニューロンでは識別できない
- 潜在的な結合
ピアノの練習、記憶、文法の判断
脳の局所的な領域で結合されている
文法と算術の対照
文法的にあっているか否かの判断は無意識になされる。
算術は、上述したように、各ステップが意識される
第6章 究極のテスト
「グローバル・ニューロナル・ワークスペース」説を、植物状態や閉じ込め症候群といった臨床事例によってテストする
- 昏睡状態
- 植物状態
–永久的植物状態
–最小意識状態
- 閉じ込め症候群
まずは、これらの区別から。
- 想像課題
エイドリアン・オーウェンによるセンセーション
「はい」ならテニスをしているところを想像してください、などの指示を出し、その時の脳活動の測定から、植物状態の患者に意識があることが判明した。
- 局所/大局テスト
筆者らが行ったテスト
人間の意識が、新奇性に反応することを利用する
まず、「ビービービービーブー」という音を聞かせる。最後の「ブー」が局所的な新奇性である。これを繰り返し聞かせた後「ビービービービービー」という音を聞かせる。これが大局的な新奇性である。
この新奇性に反応すると、P3の発生が確認できる。
- マッスィミーニのパルステスト
外界には全く反応できないけれども、脳内では何らかの意識が発生しているかもしれない。
脳にTMSを使って直接刺激を与えて、その刺激が脳内でどのように広がるかを測定する
読んだ後で気づいたのだが、マッスィミーニはトノーニの本の共著者だった。以下の本にも、同じ話が載っている(TMS脳波計)
ジュリオ・トノーニ/マルチェッロ・マッスィミーニ『意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論』 - logical cypher scape2
意識があるかどうか調べるだけでなく、意識を回復させる方法も模索されている
第7章 意識の未来
最後の章では、意識にまつわる問題として、乳児には意識があるか、動物には意識があるか、自己意識とは、人間特有の意識はあるか、統合失調症などの精神疾患はどのように考えればよいか、機械が意識を持つことができるか、とったことが扱われている。
- 乳児の意識
これまで乳児には意識がないと考えられていたらしい
乳児の脳の神経細胞にはミエリン鞘がないため
筆者は、小児神経科医である妻とともに、乳児の脳をfMRIで計測して、局所/大局テストなどを行い、意識のしるしが見えることを確認するとともに、しかし、乳児は成人と比べてその反応速度が非常に遅いということを発見した。
- 動物の意識
マカクザルに、光を見たかどうか報告させる訓練をした上で実験
錯視、両眼視野闘争を経験しており、マスキングも作用する。
一次視覚皮質に損傷を負うと、盲視にもなる
デフォルトモードネットワークもある
局所/大局テストでも意識のしるしを検出(これは、マウスでも検出されたという研究もある
動物には、メタ認知があるのか
イルカへの実験
自分の判断に自信があるかどうか。音の高低に応じてどちらのパドルを押すか、という訓練をしたうえで、自信がないときに押せる第三のパドルを用意する。
自己に関する知識をある程度は持っていそう
- 動物と人間の違いとしての言語
心的表象にシンボルを割り当てることで、新たな組み合わせを考えだす能力
言語の再帰的な機能により入れ子状の思考が可能に
このあたりを読んでいて、ふと思い出したのが、ミズンの認知的流動性だった。
スティーブン・ミズン『心の先史時代』 - logical cypher scape2
なんとなく似てるなあと思っただけで、特にそれ以上は気にしていなかったのだが、それとは全く無関係に最近出た本の情報など眺めていたら、ミズンの新刊『言語の人類史』の訳者解説に、グローバル・ワークスペースへの言及があった。
どうもミズン自身、認知的流動性の神経基盤としてグローバル・ワークスペースを想定しているっぽい。
世界的考古学者が「言葉がどう生まれたか」の謎を遂に解いた『言語の人類史』訳者特別寄稿|Web河出
- 統合失調症
マスキング実験→健常者よりアクセス意識の閾値が上昇
無意識の処理には問題ない
P3や脳のウェブの出現にも問題あり
長距離の軸索に異常あり
妄想や幻覚については、トップダウンの予測が機能しないことで、自分の行動で生じた感覚に過剰に反応してしまう(他者に動かされている感)
(このあたりの説明には、クリス・フリスの名前が出てきた)
- 機械の意識
筆者は、機械が意識を持つことに対しても楽観的・肯定的
ただ、現行のコンピュータがまだ持っていないが意識にとって重要な機能として以下3つをあげる
1.柔軟なコミュニケーション
ここでいうコミュニケーションは、各アプリケーション・プログラム同士のコミュニケーションのこと。現行、あるプログラムの出力はアプリ間で共有されない。ユーザーの介入が必要
2.可塑性
強力な学習プログラム。
共有された情報を受け手のプログラムが使うための
3.自律性
自発的な選択
反論として、クオリアと自由意志を挙げている
クオリアについては、ブロックとチャーマーズの名前をあげているが、それへの再反論として、筆者は19世紀の生気論の例をあげて、ハードプロブレムとされているのはこれと同じようなものだ、としている
ただ、これはチャーマーズへの反論であって、ブロックへの反論ではないような気もする(いや、ブロックにも当てはまるのか、うーん)
自由意志については、ペンローズやハメロフが量子力学を持ち出してくるものをあげて、それへの再反論として、自由意志にとって重要なのは非決定性ではなく自律性としている。
参考文献
日本人の論文もいくつか(fMRIについてとか、土谷とコッホの共著論文とか、金井や神谷之康とか他にも色々)
予測符号化との関係
哲学者のヤコブ・ホーヴィは、予測符号化理論とグローバル・ニューロナル・ワークスペース理論を組み合わせて意識を説明しようとしているらしい。
参照:ヤコブ・ホーヴィ『予測する心』 | 草葉の読書記
哲学者の佐藤亮司は、周辺視野の見かけの豊かさについて、グローバル・ワークスペースはうまく説明できないが、予測符号化理論はこれをうまく説明できる、と対比している。
「視覚意識の神経基盤論争:かい離説の是非と知覚経験の見かけの豊かさを中心に」 佐藤 (2014) - えめばら園
『シリーズ新・心の哲学3意識篇』(佐藤論文・太田論文) - logical cypher scape2
ところで、佐藤論文の中で「デハーネ」となっているのが、ドゥアンヌのことだと思われる。Dehaeneなので。
ネッド・ブロックが、アクセス意識と現象的意識を区別している。現象的意識はアクセス意識をオーバーフローする、といっていて、現象的意識はアクセス意識にはアクセスしきれない豊かさを持っている、とする。
参考:https://pssj.info/jsrnps/contents/contents_data/PSSJ-JSRNPS6(2023)_SASAKI_Kento.pdf
これに対して佐藤は、ブロック説についても批判し、予測符号化理論へと持っていっている。
統合情報理論との関係
本書では、エーデルマンやトノーニも何度か引用されているが、ドゥアンヌは統合情報理論自体には、それが汎心論的だという理由から否定的である。
ところで、統合情報理論を支持する日本の研究者として、土谷と金井がいる。
彼らは互いに影響関係もあり、考え方も似ていると思うのだが、グローバル・ワークスペース理論への評価については、土谷は否定的、金井は肯定的と、完全に分かれている。
土谷尚嗣『クオリアはどこからくるのか?』 - logical cypher scape2
金井良太『AIに意識は生まれるか』 - logical cypher scape2
*1:そういう意味では、グローバル・ワークスペース説以外もそのあたりの十分な説明ができている理論はあまりないと思うが、触覚-視覚感覚代行実験と感覚運動随伴性の話は面白いといえば面白い
*2:渡辺正峰『脳の意識機械の意識』 - logical cypher scape2、渡辺正峰『意識の脳科学 「デジタル不老不死」の扉を開く』 - logical cypher scape2
*3:モダリティの違いとかはここと対応してんのかなあ、とは思うが
*4:ところで、何となくググったら、今の高校生物では「中枢パターン発生器」が扱われていることを知った
