東浩紀『クリュセの魚』

25世紀の火星を舞台にしたラブロマンスSF
書き下ろし短編アンソロジー『NOVA』で連載されていたのを読んでいたのだが、最終話だけ読んでなくて、今回単行本化されて一気に最後まで読んだ。
『NOVA2』 - logical cypher scape
大森望編『NOVA3』 - logical cypher scape
『NOVA5』 - logical cypher scape


SF的ジャーゴンが大量にまぶされていて、個人的にはそれだけで楽しいです、はいw
上で書いたようにラブロマンスで、プロットは純愛もの的な感じ。SF分抜かしてあらすじ書くとこんな感じ。
主人公(彰人)は、子どもの時に出会った年上の女性(麻理沙)のことがずっと好きで、時々逢瀬を重ねていたのだけど、ある時その女性は自爆テロして死んでしまう。彼女は実は、亡国の王家の血筋で、とある独立運動に担ぎ上げられていた。
数年後、彼女を忘れられぬ主人公のもとに、彼女とのあいだにできた娘(栖花)が預けられることになる。
主人公は、娘に彼女の面影を見ながら、あるいはかつて彼女を止められなかったことの贖罪の意味をこめながら、娘を育てるが、結局娘も母と自分の血筋のことなどを知ることになる。
最後の部分は、SF分抜かして説明しにくいが、主人公にある選択肢が提示されることになる。つまり、麻理沙と出会った頃まで時間を戻してやり直すかどうか。しかし、それでは栖花のことまでなかったことになってしまうので、主人公はその提案を断るのである。
もっとまとめると、主人公は、またあの人に会いたい、あの人のことが忘れられないと思っているんだけど*1、いざ時間を戻せますよって言われた時には、いや娘がいるからいいです、それをあの人も望んでいますって答えるようになりましたという話。


面白かったし、いい話だったな、ということ以外に特に言うことはないけれど、この作品についてはそれで問題ないのではないかなと思う。


上では、ラブロマンス部分だけ取り出したけど、別の設定の方を取り出すと
既に日本は消滅してしまった未来で、天皇家の末裔が、25世紀になってもまた開催の続いているコミケ会場で、ミュージカロイドによる歌とダンスを披露しながら、火星に地球とのグローバリゼーションや内紛をもたらしたワームホールゲートを、DDoS攻撃で落とす
という、これはこれでなかなかてんこ盛りな内容になっている。
それからこれは、ファーストコンタクトものにもなっていて
地球外知性体がオールトの雲に置いていった人工物が、実はワームホールゲートだということが分かって、地球人は地球と火星を結ぶ道具として使い始める。これによって、地球から半ば独立して安穏としていた火星が次第に混乱していって、麻理沙と栖花が関わっていくことになるんだけど
それはそれとして、この人工物が地球人類と接触するためのインターフェイスとして選んだのが麻理沙(の情報)で、最後に主人公に時間戻せますよって言ってくるのもこいつ。
こいつらがなんで地球人類と接触してきたかというと、彼らのテクノロジーにはいわゆる「魂」(観測者効果)が必要なんだけど、彼らはそれを持ち合わせていないので、観測者たりうる知性体がそれを拝借するためとなってて、こいつらQBかよ! って思ったw
まあ、魔女になるわけじゃないからQBほど悪くないんだけど、火星が無用に混乱したのはやっぱこのせいかもしれないとかもあるので、まあやっぱQBかもしれないw
で、もちろん、全体的には色々と違うんだけど、でもなんか自分の中では、まどマギっぽいという謎の感想


第2部オールトの天使は、GoQualiaの「Xeno」を聞きながら読んでいたのだけど、彰人がワームホールゲートをくぐり抜けて、人類未到の宇宙空間へと到達して、麻理沙さん会いに来たよってシーンで、ちょうど「Halo」の盛り上がる部分になって、演出的にとてもタイミングがよかったw
ちなみに「Xeno」には、「Silius」とか「Oort Cloud」とかいった曲が収録されてる

*1:もうちょっと詳しく言うと、僕はもう娘に残る面影を通してしか思い出せなくなったみたいな感じでいうんだけど