『地球・惑星・生命』

日本地球惑星科学連合の30周年*1を記念して出版された一般向け論文集
日本地球惑星科学連合は、地球惑星科学に関連している学会等の連合組織
「宇宙惑星科学」「地球生命科学」「固体地球科学」「大気水圏科学」「地球人間圏科学」の5つのセクションからなり、本書の「1 宇宙の中の地球」「2 生命を生んだ惑星地球」「3 岩石惑星地球の営み」「4 地球環境の現在,過去,そして未来」「5 人間が住む地球」の5部構成はこれらのセクションに対応している。
各部4~5本の論文からなり、全21章、さらにコラムが全8本収録されている。
いずれもそれぞれのジャンルの入門的な内容となっており、また、最後に一般向けの関連書籍が1冊紹介されており、今後の読書案内としてもよい。


面白かったのは、第3章の大気流出、コラム3の微化石と大量絶滅、第11章のプレートテクトニクス、第16章の古気候復元あたり。
コラム4とコラム5がシミュレーション研究についての話だったのも興味深い。
また、地球惑星科学と一言で言ってもそれがカバーする範囲は非常に広範で、それらをできるだけ拾うような構成になっているため、個人的に「何か一冊本を読むほどの興味はないのだけど、しかし全く関心がないわけでもない」的なトピック(具体的には防災関係)をつまみ食いできたのもよかった。

はじめに(川幡穂高
序章 地球・惑星・生命の成り立ちを理解すること(田近英一・橘 省吾・東宮昭彦)
第一部 宇宙のなかの地球
 第1章 銀河のなかの惑星たち(井田 茂)
 第2章 太陽系小天体探査と「はやぶさ2」(渡邊誠一郎) 
 第3章 地球型惑星からの大気流出とハビタブル環境(関 華奈子)
 第4章 宇宙天気予報とは何か(草野完也)
 コラム1 地球の超高層大気で起こっていること(坂野井 健)
 コラム2 アストロバイオロジー――地球人として未来を解くための鍵(薮田ひかる)
第二部 生命を生んだ惑星地球
 第5章 なぜ地球に生命が生まれたのか(小林憲正)
 第6章 深海の極限環境に生命の起源を探る(高井 研)
 第7章 最古の生命の痕跡を探る(小宮 剛)  
 第8章 恐竜研究の今,そして未来(小林快次)
 コラム3 微化石から探る天体衝突と大量絶滅(尾上哲治)
第三部 岩石惑星地球の営み
 第9章 大きい地震と小さい地震,速い地震と遅い地震(井出 哲)
 第10章 破局噴火(高橋正樹)
 第11章 まだ謎だらけのプレートテクトニクス(是永 淳)
 第12章 地球の中心はどこまでわかったか(廣瀬 敬)
 第13章 「ちきゅう」で地球を掘る――南海トラフ地震発生帯掘削(木下正高)
 コラム4 計算機で地球や惑星の内部を探る(土屋卓久)
第四部 地球環境の現在,過去,そして未来
 第14章 地球温暖化を正しく理解するには(江守正多)
 第15章 気候変化が海洋生態系にもたらすもの(原田尚美)
 第16章 過去の気候変動を解明する(横山祐典)   
 第17章 激しく変化してきた地球環境の進化史(田近英一)
 コラム5 気象・気候・地球システムの数値シミュレーション(渡部雅浩)
 コラム6 日本初の地質時代名称「チバニアン」(岡田 誠)
第五部 人間が住む地球
 第18章 「想定外」の巨大地震津波とその災害(佐竹健治)
 第19章 環境汚染と地球人間圏科学――福島の原発事故を通して(近藤昭彦)
 第20章 防災社会をデザインする地球科学の伝え方(大木聖子)
 第21章 地球をめぐる水と水をめぐる人々(沖 大幹)
 コラム7 深層崩壊と防災(千木良雅弘
 コラム8 地球惑星科学とブラタモリ(尾方隆幸)
おわりに これからの地球惑星科学に向けて(田近英一・橘 省吾・東宮昭彦)

各章末の一般向け関連書籍一覧

本書の内容に入る前に。
各章末に記載されているが、一覧化すると何かに役立つかもしれないと思い。
サブタイトルと出版社名は省略した。
前半は、既読のものが3冊あったほか、未読だけどタイトルは知っているとか、同じ著者の別の本は読んでいるというものが多いが、後半(9章以降)は、未読というだけでなくそもそもその本や筆者のこと自体を知らないばかりだった。
まあ、もともと自分は、生物学や宇宙関係は読んだりしてたけど、地学関連への関心はほとんどなかったからなー。古生物や系外惑星への関心から、部分的に地学への興味が伸びている感じ。

第1章 井田茂(2019)『ハビタブルな宇宙』
第2章 松浦晋也(2014)『小惑星探査機はやぶさ2の挑戦」
第3章 阿部豊(2015)『生命の星の条件を探る』既読
第4章 ジョン・エディ(2012)『太陽活動と地球』(上出洋介・宮原ひろ子訳)
コラム1 片岡龍峰(2015)『オーロラ!」
コラム2 山岸明彦編(2013)『アストロバイオロジー
第5章 小林憲正(2017)『宇宙から見た生命史』
第6章 高井研編(2018)『生命の起源はどこまでわかったか』既読
第7章 田近英一(2019)『46億年の地球史』
第8章 D・ナイシュ、P・パレット(2019)『恐竜の教科書』(小林快次監訳)既読
コラム3 尾上哲治(2020)『ダイナソー・ブルース』
第9章 井出哲(2017)『絵でわかる地震の科学』
第10章 高橋正樹(2008)『破局噴火』
第11章 是永淳(2014)『絵でわかるプレートテクトニクス
 →読んだ
第12章 廣瀬敬(2015)『できたての地球』
第13章 日本地震学会地震予知検討委員会編(2007)『地震予知の科学』
コラム4 計算物質科学イニシアティブ(2016)『ケイサンブッシツカガク』
第14章 江守正多(2014)『異常気象と人類の選択』
第15章 日本海洋学会(2017)『海の温暖化』
第16章 横山祐典(2018)『地球46億年気候大変動』
 →読んだ
第17章 田近英一(2019)『46億年の地球史』
コラム5 河宮未知生(2018)『シミュレート・ジ・アース』
コラム6 菅沼悠介(2020)『地磁気逆転と「チバニアン」』
第18章 佐竹健治・堀宗朗編(2012)『東日本大震災の科学』
第19章 内山節(2011)『文明の災禍』
第20章 大木聖子・纐纈一起(2011)『超巨大地震に迫る』
第21章 沖大幹(2012)『水危機ほんとうの話」
コラム7 千木良雅弘(2013)『深層崩壊』
コラム8 NHKブラタモリ制作班監修『ブラタモリ

1 宇宙のなかの地球

「宇宙惑星科学」セクションに対応

1 銀河のなかの惑星たち(井田 茂)

系外惑星発見史
マイヨールによるホットジュピターの発見→惑星系形成モデルの作り直し→スーパーアース→プロキシマ・ケンタウリやトラピスト-1など赤色矮星のハビタブル惑星→地球外生命探査→今後の展望
本章執筆者である井田の著作は、いくつか読んだことがある。
井田茂『系外惑星』 - logical cypher scape2
長沼毅・井田茂『地球外生命 われわれは孤独か』 - logical cypher scape2
海部宣男、星元紀、丸山茂徳編著『宇宙生命論』 - logical cypher scape2(『宇宙生命論』第3章3-1、第3章展望)
井田茂『系外惑星と太陽系』 - logical cypher scape2

  

2 太陽系小天体探査と「はやぶさ2」(渡邊誠一郎)

タイトルにある通り。
おおむね、はやぶさ2のミッション振り返り

3 地球型惑星からの大気流出とハビタブル環境(関 華奈子)

ハビタブル環境というと、液体の水があること、つまり気温が0℃~100℃の範囲内にあることだが、惑星の気温を考えるには、大気に含まれる温室効果ガスによる温室効果を考慮する必要がある。
また、水が液体になるためには、温度だけでなく一定の気圧も必要になる。
つまり、ある惑星に液体の水があるかどうか考えるには、大気の量も考えに入れる必要がある。
例えば火星は、過去において地球と同様に液体の水のある惑星だったと考えられるが、火星は大気を失ってしまって、乾燥環境になった。
さて大気はどのようにして惑星から流出するのか
ここでは、いくつかの流出メカニズムが簡単に紹介されている

  • 比較的軽い水素やヘリウムの主な流出メカニズム
    • ジーンズ流出
    • スパッタリング
  • 酸素のような重い元素の流出

地球や火星のような重力のある惑星では容易ではない

    • 光化学流出

上層で紫外線やX線により電離してプラズマ状態となり、さらに光化学反応を起こして高エネルギー状態になって流出

固有磁場を持たないと太陽風と惑星大気が直接相互作用する

    • イオンピックアップ
    • スパッタリング
    • 電離圏イオン流出

しかし、いずれのメカニズムも、火星で起きたと考えられるほど、十分な量の大気を効率よく逃すことができるのかが謎
また、火星については、過去に太陽が暗い時期にどうやって温暖湿潤気候を成り立たせていたのかも謎

4 宇宙天気予報とは何か(草野完也)

1859年、太陽フレアの発見(キャリントン・イベント)
太陽フレアとそれがもたらす社会的影響(電力障害や電波障害、低軌道衛星の事故(2001年、X線天文衛星「あすか」は太陽フレアの影響で大気圏再突入している))
宇宙天気予報について、日本ではNICT宇宙天気予報センターが、アメリカではNOAAの宇宙天気予測センターが取り組んでいる。
そうか、NICTがやっているのかーという感想(言われてみればまあ確かに)

コラム1 地球の超高層大気で起こっていること(坂野井 健)

オーロラについて

コラム2 アストロバイオロジー――地球人として未来を解くための鍵(薮田ひかる)

アストロバイオロジーについて

2 生命を生んだ惑星地球

「地球生命科学」セクションに対応

5 なぜ地球に生命が生まれたのか(小林憲正)

生命の起源についての話で、RNAワールドとがらくたワールドの解説がある。
あと、地球以外の天体の研究について
本章の筆者の名前自体はわりと見かけるのだけど、読んだことあるのは以下くらいだった。
海部宣男、星元紀、丸山茂徳編著『宇宙生命論』 - logical cypher scape2(『宇宙生命論』第2章2-1)

6 深海の極限環境に生命の起源を探る(高井 研)

本章筆者が編著者である『生命の起源はどこまでわかったか』が、章末の一般向けの関連書籍としてあがっているが、概ねそのダイジェストという感じ。
LUCAやプロジェノートの概念を示したイラストがあったが、デイヴィッド・クォメン『生命の〈系統樹〉はからみあう』(的場知之・訳) - logical cypher scape2を読んだあとだったので、わかりやすかった。
生命の誕生の場=深海熱水説を最初に発表したのは、アルビオン号で人類で初めて深海熱水環境を見たコーリス
当初は、具体的な考察・根拠に乏しかったが、その後次第に増えていった
そうした証拠の一つとして、LUCAに近縁とされるバクテリアアーキアが超好熱性化学合成独立栄養生物であることがある。
LUCA誕生と生命誕生は別概念
LUCAについてのハイパースライム説
生命誕生についてに深海熱水電気化学原始代謝モデル
本章の執筆者である高井の本は、以下を読んだことがある。
高井研『生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る』 - logical cypher scape2
高井研編著『生命の起源はどこまでわかったか――深海と宇宙から迫る』 - logical cypher scape2

7 最古の生命の痕跡を探る(小宮 剛)

生命の誕生も冥王代にさかのぼるのではないかとされている。
本章では、冥王代や太古代から発見された生命の痕跡について紹介されている。

  • ジャックヒルズ礫岩(冥王代(約41憶年前)・西オーストラリア)

1万粒のジルコンのうち1粒だけから発見された、生物特有の炭素同位体比をもつ炭質物

  • アカスタ片麻岩(冥王代(約40億年前))

硫黄の同位体異常。硫酸還元菌か

もともと生物に関係する指標が発見されているが、近年、ストロマトライトに似た構造が発見
本当にストロマトライトだとすると、光合成生物が生息していた可能性
→この時期まだ十分な酸素があった証拠がないので、非酸素発生型の光合成生物

  • ヌブギアック表成岩(原太古代(38億年前?))

最古の生物構造化石

生物由来の炭素同位体比の炭質物
これは筆者の研究のようなので、詳しく書かれていた。
  

8 恐竜研究の今,そして未来(小林快次)

まずは、日本で発見された恐竜について
次に、恐竜研究を進歩させるものとして、(1)新しい化石の発見と(2)新しい研究技術の2点を挙げている。
(1)については、これまで調査されていなかった場所での調査、海成層、視点を変えることが挙げられている。
これまで調査されていなかった場所というのは、例えばアラスカとか南極とかで、でもこれは調査にお金がかかります、と。
それから、恐竜は陸上生物なので海成層からは発見されないと思われていたけれど、日本では海成層からの発見が相次いでいて、世界的にも重要だよ、と。
それから、これまでたくさん化石が発見されているような場所では、大型の化石が注目されて小さいものが見逃されているから、視点を変えると新発見がありうると。
(2)については、CTと組織学を挙げている。
CTは、標本を破壊せずに内部構造が分かる。
組織学は逆に、標本を細かくスライスして微細構造を分析する
どちらも当初は革新的だったが、今では当然の技術となった、と。

本章の執筆者である小林の著作としては、以下を読んだことがある。
小林監修の本だともっと多いけど、直接の著作だと実はこれしか読んだことがない。なお、1とあるが、2は出ていない……。
小林快次『恐竜時代1 起源から巨大化へ』 - logical cypher scape2

コラム3 微化石から探る天体衝突と大量絶滅(尾上哲治)

白亜紀末の隕石衝突による大量絶滅について、微化石を調べると、有孔虫や円石藻は絶滅しているのに、放散虫は絶滅していないことが分かった。
従来考えられたような、隕石衝突が引き起こした太陽光の遮蔽による光合成停止に伴う絶滅ではなく、むしろ、隕石衝突が引き起こした酸性雨による絶滅が起きたと考えられる。

3 岩石惑星地球の営み

「固体地球科学」セクションに対応

9 大きい地震と小さい地震,速い地震と遅い地震(井出 哲)

巨大地震について
地震の規模と発生頻度の関係を示した、GR則(グーテンベルグ・リヒター則)(マグニチュードが大きくなるほど頻度は減る)
地震の予測が難しいのはよく知られているところだが、やや例外なものとして「繰り返し地震」というのがあるらしく、これは名前の通り、同じ場所で繰り返し発生する地震で、周期がはっきりしているのでそれなりに予測できるらしい。
スロー地震地震断層の破壊すべりが、非常にゆっくり起きる(普通の地震なら2~3分のところ、時間、日、年単位で起きる)地震
潮汐に対応してスロー地震が増減
GR則の直線の傾きをb値と呼ぶが、潮汐が多いとb値が低下し、巨大地震が増える
断層は階層構造をしており、破壊すべりはこの階層構造の成長と対応し、この成長率がb値と対応する。b値は地震予測にとって注目すべきパラメータ

10 破局噴火(高橋正樹)

過去に起きた破局噴火

  • 7300年前 鬼界アカホヤ噴火

→西日本の縄文文化を滅ぼす

→直近10万年で日本列島最大規模・オホーツク海沿岸まで火山灰が降下
火山噴火による平均気温の低下

  • 1991年 ピナツボ火山噴火

→0.7℃低下

→1℃低下、北米ハドソン湾が夏に氷結、コレラが世界的パンデミック(日本では安政コレラ

  • 7万4000年前 トバ火山噴火

→6年間にわたって10℃以上低下
破局噴火をもたらすマグマがどのように溜まるかが色々解説されている。
ところで、過去の各火山の破局噴火について、噴出した噴火量を比較する図がそえられていたのだが、この手の噴火量で自分が見知っているものが、よりにもよって(?)ペルム紀末のデカントラップとかだったので、破局噴火の噴火量少ないなと思ってしまった。むろん、デカントラップが尋常でなさすぎるのであるが。

11 まだ謎だらけのプレートテクトニクス(是永 淳)

プレートテクトニクスは、今や地球科学の常識ではあるが、一方でいまだに謎も多い
プレートテクトニクスマントルの対流の現れ
プレートは剛体だが、プレート境界では柔らかくなる。これは、プレートの粘性率が温度依存性を持つからだが、その性質を組み込んだ上で対流を計算すると、硬殻対流という対流が起きて、なんとプレートテクトニクスは起こらない。
プレートテクトニクスは、二酸化炭素の量をコントロールしていたり、大陸地殻を形成するのに必要だったりと、地球の表層環境ともかかわりがある。
プレートテクトニクスは、生命が住める惑星の条件を考えるうえで欠かせない
近年、古い年代の岩石などが発見されるようになってきて、研究も盛んになってきている。

12 地球の中心はどこまでわかったか(廣瀬 敬)

実験室で、高圧高温を人工的に作り出すことで、地球内部に存在するであろう物質を調べる研究
地震波により不連続面があることが知られていたが、どんな物質かわからなかったところについて発見した例など(ポストペロフスカイト
また、地球のコアについて
純鉄ではなく、軽元素が含まれていることがわかっているが、その正体は謎
コアは対流により磁場を生み出しているが、近年測定された熱伝導率では対流が生じないことが分かった。これに対して筆者らが提案しているのは、二酸化ケイ素の結晶化。地球初期のコアに含まれていた軽元素であるケイ素と酸素が二酸化ケイ素に結晶化して沈むことで対流が生じるというもの
また、それ以外の軽元素の候補として、消去法で有力候補として残るのが水素。コア形成時にすでに大量の水が地球にあったことになる
コアの炭素/水素比がコンドライトとずれる問題。リュウグウベンヌのサンプルリターンが重要に。
この章の著者については、以前、講談社ブルーバックスのwebサイトで記事を読んだことがあった。
手のひらサイズの実験装置で、深さ約6400kmの地球の中心の超高圧を再現!(廣瀬 敬) | ブルーバックス | 講談社(1/3)

13 「ちきゅう」で地球を掘る――南海トラフ地震発生帯掘削(木下正高)

プレート境界の固着域
なぜ固着し、どのような条件で破壊されすべるのか(地震が発生するのか)調べるために掘る

  

コラム4 計算機で地球や惑星の内部を探る(土屋卓久)

直接観測できない、高温高圧の地球内部の環境をシミュレーションで調べる
ポストペロフスカイトの結晶構造を実験とは独立に計算したことで、重要性が注目される

4 地球環境の現在,過去,そして未来

「大気水圏科学」セクションに対応

14 地球温暖化を正しく理解するには(江守正多)

地球温暖化とは何か、本当に人間活動が主な原因か、異常気象の増加は地球温暖化のせいかなどについての説明(後者2つの問いへの答えはいずれもイエス
地球温暖化によるリスクと、地球温暖化を止めるための削減案について述べられた上で、温暖化は止められないのである程度は「適応」も必要であるとしたうえで、例えば、過去は当然であった植民地主義奴隷制が今では深刻な人権問題となったように、大規模な価値観の転換が必要であると論じている。

15 気候変化が海洋生態系にもたらすもの(原田尚美)

ベーリング海で、珪藻ではなく円石藻の大量発生が観測されたことについて
珪藻は二酸化炭素を吸収するが、円石藻は吸収しない

16 過去の気候変動を解明する(横山祐典)

古気候研究の意義:古気候の高精度復元と気候モデルとを比較して、気候モデルを評価し、気候予測に役立てる
プロキシ(代替指標)によって調べる
例えば、堆積物中の花粉やマリンスノー。
あるいは同位体
酸素同位体比は、氷床量の指標になったり海水温の指標になったりする
年代測定も重要

17 激しく変化してきた地球環境の進化史(田近英一)

まず最初に、地球大気中の酸素、二酸化炭素、メタン、窒素の相対的な濃度変化についての、地球46億年分のグラフが載っている。
酸素や二酸化炭素の量は、地球史の中で大きく変動してきたというのが主眼のグラフなのだが、窒素がずっと一定なのも目を引いた。

太陽の活動は次第に活発になっている→過去に遡ると今より温度が低い→地球の温度は氷点下となってしまうが、実際にはそうではなかった
温室効果ガスが今よりも多ければ解決可能
気候に応じて二酸化炭素量を調節するウォーカー・フィードバック(温暖化が進むと化学風化により二酸化炭素が減る、寒冷化の際にはその逆が起きる)により、解決されると考えられていたが、二酸化炭素だけでは温室効果が足りないことがわかった。
現在、有力候補はメタン。
複数の光合成細菌の組み合わせがメタンの高濃度を達成した可能性

  • 酸素環境の変動史

大酸化イベントと無酸素イベント

  • 全球凍結イベント

全球凍結が終わり大規模融解が起きると高温状態になると化学風化が進み富栄養化光合成が活発化し、大酸化イベントにつながる
全球凍結の原因はいまだ不明だが、プレートテクトニクスによる超大陸の分裂などが原因の可能性
固体地球も含めた地球システム全体の挙動の理解が必要
本章の筆者については以下の本を読んだことがある。
田近英一『凍った地球 スノーボールアースと生命進化の物語』 - logical cypher scape2
海部宣男、星元紀、丸山茂徳編著『宇宙生命論』 - logical cypher scape2(『宇宙生命論』第2章2-2、第2章展望、第3章コラム4)

コラム5 気象・気候・地球システムの数値シミュレーション(渡部雅浩)

コンピュータの性能があがって、気象から気候、さらに地球システムのシミュレーションが可能になっていったという話

コラム6 日本初の地質時代名称「チバニアン」(岡田 誠)

チバニアンの解説

5 人間が住む地球

「地球人間圏科学」セクションに対応
防災に関すること

18 「想定外」の巨大地震津波とその災害(佐竹健治)

2004年のスマトラ・アンダマン地震と2011年の東日本大震災について、20世紀に起きた地震の記録からは「想定外」だった
しかし、いずれも地震後に、サンゴや古文書からの古地震調査などを行った結果、数百年に1度の頻度で同規模の地震が起きていたことが分かった

19 環境汚染と地球人間圏科学――福島の原発事故を通して(近藤昭彦)

福島の原発事故に対して、空間線量などを計測して地元の人たちとの対話を行ってきた話
空間線量の計測にしても、大規模に実施したものと、すごく細かく実施したものがある。それぞれ示唆されるものが違う。
前者は、とりあえず避難地域を設定するのに役に立ったが、実際に細かく見るとその全域が汚染されたわけでもない。
より細かく見ていくと、山間部で原発側を向いている方は線量が高いけど、とかが見えてくる。
その上で、山村部で生活している人たちにとって山とは何なのか、という話もされていく。住民たちと話をする中で、山が生活に根付いていることが分かる。

20 防災社会をデザインする地球科学の伝え方(大木聖子)

地学・地震学の研究をしていたが、その研究成果をもとにどのように防災について伝えるかという研究を行っている。
ここでは最初に、自然を対象とした研究と人を対象とした研究の違いなどが挙げられている
ここで紹介されている事例が面白かった。
一つは、防災教育の成果の話
もともとあまり防災意識の高くなかった地域で、学校での防災教育を実施。子どもたちからその保護者に伝えてもらうことで、防災意識を高めることを狙ったが、その後、再び防災意識のアンケートを実施したところ、全然高くなっていなかった。
しかし、さらによく話を聞いてみると、「少し備蓄はしているが、これではまだ十分ではないと思って」などという声が聞かれた。つまり、防災教育を行ったことで、何をすればいいのかという基準が更新されており、かつてなら「備蓄していますか」というアンケートに「はい」と答えたであろう場合でも、むしろ「いいえ」と答えるようになったためだった、と。
つまり、単純にアンケートを実施して、時系列順に並べても変化が捉えられていない可能性があるという話
もう一つは、とある中学校で実施された「防災小説」という取り組み
○月×日にこういう規模の地震が起きたという設定で、自分を主人公にした小説を書いてもらうという取り組み。
地震津波について、発生確率とか発生した場合の高さ予想とか、リスクを伝える手段はあるけれど、自分の行動へと繋がるとは限らない(「大して起こらないんじゃないか」と油断したり「何やっても無駄だ」と諦めたりといったことを誘発してしまう)。

21 地球をめぐる水と水をめぐる人々(沖 大幹)

水文学について
水文学者の多くは土木工学が専門で、洪水の際の流量にもっぱら関心がある。
しかし、地球温暖化など地球規模の気候変動が問題となるのに伴い、水文学も変化
陸域水循環・河川の要素を、気候モデルに組み込みのに水文学が貢献
また、人間活動(農業の灌漑)の影響を考慮した水循環研究も(海水面変動に影響があることが示された)
水を利用して農作物は作られる。農作物の輸出入は水の輸出入とも言える(水を輸送するのは非効率的・非経済的だが、農作物になるとそうではなくなる)。これを「バーチャルウォーター貿易」という。

コラム7 深層崩壊と防災(千木良雅弘

コラム8 地球惑星科学とブラタモリ(尾方隆幸)

ブラタモリは、地球惑星科学者から評判がよく、また実際科学者も出演しているが、同番組の魅力として「シームレス」と「一般化」を挙げる。異なるジャンルにシームレスに話が繋がっていく。また、その土地固有の話だけでなく、他の土地にも応用できる一般化が行われている、と。

*1:連合そのものの設立は2005年だが、それの前身である合同大会の第1回が1990年であり、本書は2020年に刊行された