伊勢田哲治・神崎宣次・呉羽真編著『宇宙倫理学』

宇宙倫理学についての論文集
京大で宇宙ユニットというのができて、2017年前後に宇宙倫理学が盛り上がっていた時期がある。「盛り上がっていた」と過去形で書いたが、現在も京大の中には宇宙倫理学の教育カリキュラムがある。続々と研究成果が出てくるというような分野ではないと思うので、一過性のブームにすぎなかったかどうかいうのは、まだ早いだろう。
2017年前後で、自分も宇宙倫理学を巡る状況をある程度はフォローしていたのだが、何故だかこの論文集だけ読み損ねていた。
ちなみにこの本は、2018年12月刊行。


なお、2017年前後で当ブログで取り上げた宇宙倫理学関係の記事は以下の通り。

「宇宙倫理学研究会: 宇宙倫理学の現状と展望」 - logical cypher scape2
これは2016年5月。この宇宙倫理学研究会の活動の一つの結果としてこの本がある、ということだと思う。
稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』 - logical cypher scape2
日本で初の宇宙倫理学をタイトルに冠した本で、2016年12月に刊行されている。
『現代思想2017年7月号 特集=宇宙のフロンティア』 - logical cypher scape2
呉羽真による宇宙倫理学についての論文(「人類絶滅のリスクと宇宙進出――宇宙倫理学序説」)が収録されている。
科学基礎論学会シンポジウム「宇宙科学の哲学の可能性――宇宙探査の意義と課題を中心に」 - logical cypher scape2
2018年6月に開催されたシンポジウム
現代思想2019年5月臨時増刊号 総特集=現代思想43のキーワード - logical cypher scape2
呉羽真による宇宙倫理の項目がある。
現代思想2019年9月号 特集=倫理学の論点23 - logical cypher scape2
清水雄也による宇宙倫理学についての論文(「神話と証拠」)が収録されている。

何故このタイミングで手を取ったかというと、以前、木澤佐登志『闇の精神史』 - logical cypher scape2を読んだ際に、以下のように書いた通り。

一方で、宇宙開発に対する人文的アプローチとしては、やはり宇宙倫理学に興味関心がある。
(中略)
それから、宇宙倫理学 - 株式会社昭和堂も今後読みたいなあと思っている。
特に、第4章(呉羽真)、第8章(岡本慎平)、第12章(稲葉振一郎)、第13章(吉沢文武)あたりか。

宇宙主義だの長期主義だのもお話としては面白いが、もう少し実際的な話も確認しておこう、と。
長期主義的な考え方は宇宙開発を正当化するか、という点については、第13章とかが参考になるだろう。
デブリ問題、ビジネス倫理、資源採掘にかかる問題など、いわゆる「ショートレンジ」の話も結構面白いよな、と思う。また、宇宙コロニーにおける労働者の権利とかも、まだ先の話のようにも思えるが、話の中身自体は、ある種身近な話でもあってやはり興味深い。

序 章 宇宙倫理学とは何か(水谷雅彦)
付 録 二十一世紀の夢(手塚治虫)
■第Ⅰ部 宇宙倫理学の方法と総合的アプローチ
第1章 宇宙活動はなぜ倫理学を必要とするか(磯部洋明)
第2章 宇宙倫理学エビデンス―社会科学との協働に向けて(清水雄也)
第3章 宇宙の道と人の道―天文学者倫理学者の対話
     (対談者:柴田一成・伊勢田哲治/司会:呉羽真)
コラムA 宇宙倫理学の隣接分野(1)―宇宙医学・宇宙行動科学(立花幸司)
コラムB 宇宙倫理学の隣接分野(2)―宇宙法(近藤圭介)
■第Ⅱ部 宇宙進出の光と影
第4章 政治哲学から見た宇宙政策―有人宇宙探査への公的投資は正当か(呉羽真)
第5章 科学技術社会論から見た宇宙事故災害―スペースシャトル事故から何を学ぶか(杉原桂太)
コラムC 有人宇宙飛行に伴う生命と健康のリスク(呉羽真)
コラムD 宇宙動物実験(吉沢文武)
■第Ⅲ部 新たな生存圏としての宇宙
第6章 宇宙時代における環境倫理学―人類は地球を持続可能にできるのか(神崎宣次)
第7章 宇宙に拡大する環境問題―環境倫理問題としてのスペースデブリ伊勢田哲治
第8章 惑星改造の許容可能性―火星のテラフォーミングを推進すべきか(岡本慎平)
コラムE 宇宙災害と対策(玉澤春史)
■第Ⅳ部 新たな活動圏としての宇宙
第9章 宇宙ビジネスにおける社会的責任―社会貢献と営利活動をどう両立させるか(杉本俊介)
第10章 宇宙における安全保障―宇宙の武装化は阻止できるか(大庭弘継)
第11章 宇宙資源の採掘に関する道徳的懸念―制度設計に向けて理論構築できるか(近藤圭介)
コラムF 衛星情報とプライバシー(伊勢田哲治
コラムG 宇宙開発におけるデュアルユース(神崎宣次)
コラムH 宇宙科学と地域社会のコンフリクト(軽部紀子)
■第Ⅴ部 宇宙から人類社会を見直す
第12章 宇宙倫理とロボット倫理(稲葉振一郎
第13章 人類存続は宇宙開発の根拠になるか(吉沢文武)
コラムI 地球外知性探査とファーストコンタクト(呉羽真)
コラムJ 宇宙コロニーでの労働者の権利(杉本俊介)
コラムK 未来の戦場としての宇宙(大庭弘継)
あとがき(伊勢田哲治・神崎宣次・呉羽真)

序 章 宇宙倫理学とは何か(水谷雅彦)

そもそも宇宙倫理学って、日本はおろか世界的にもまだあんまり研究が進んでいない分野で~という話と、他の応用倫理学である生命倫理学や環境倫理学との関係などが述べられている。
先行研究としていくつか挙げられているが、ミリガン『月は誰のものでもない』は、本書の他の論文でも何度も参照されており、未邦訳だが、基礎文献なのだなと分かる。
また、この序章の中では言及されていなかったと思うが、本書の各章で参照されていることが多いなと感じた人名としては、他にシュワルツがいる。参照されている文献はそれぞれ違っていて、ミリガンのように一つの著作にはまとまってないようだが、宇宙倫理学の論文を複数出している研究者のようである。

付 録 二十一世紀の夢(手塚治虫)

「宇宙倫理学」という言葉の古い用例として、なんと手塚治虫がエッセイで使っていたことがあったということで、そのエッセイが掲載されていた。
ヴェトナムや紅衛兵という単語が出てくるところに時代を感じる。
宇宙連合ができて、そこでは宇宙航行法や宇宙倫理学が論じられているのだ、と。
エネルギー問題は、光子エネルギーとクロレラが解決する。姓名は符号に変わっている。大型化は絶滅への道なので小型化しているに違いない、と述べられている未来観も興味深い。

第1章 宇宙活動はなぜ倫理学を必要とするか(磯部洋明)

宇宙活動といわれるものとして、どのようなものがあるのか。
最後に、天文学者として宇宙倫理学に期待することについて

第3章 宇宙の道と人の道―天文学者倫理学者の対話(対談者:柴田一成・伊勢田哲治/司会:呉羽真)

天文学者の柴田が、伊勢田の宇宙倫理学関係の授業を参観した際に「無責任だ」と感じたところから、この対談企画が生まれたとのこと。
この手の対談は、大体なんかすれ違っているよなー、という感じがするが、これも最終的にある程度の歩み寄りは見られる気がするが、なんかすれ違っている感が否めないものになっている。
伊勢田さんが、倫理学ってのはこういうものなんですよって説明するけど、いまいち納得してもらえない、という感じなのだけど、伊勢田さんも伊勢田さんでもう少し他の言い様はないものか、とも思ってしまう(言い様というか補足説明というか)。

第4章 政治哲学から見た宇宙政策―有人宇宙探査への公的投資は正当か(呉羽真)

  • 科学の価値について

科学そのものに高い価値があるという考えもあるが、エリート主義的
哲学者のレッシャーは「知識は多くの人間的価値の一つにすぎず、科学的知識は知識の一つのあり方」と述べて科学の価値を相対化している。
科学は「公共財」という議論もある。確かに公共財だが無人探査で十分であり、有人探査は正当化できない

  • 正義論

知的好奇心やフロンティアスピリットなど人間本性から正当化する論法は、正義論における卓越主義
リベラリズムとの相性の悪さ

コラムC 有人宇宙飛行に伴う生命と健康のリスク(呉羽真)

インフォームドコンセントの限界
リベラリズムの枠内においても許容される干渉(パターナリズム)(加藤尚武『応用倫理学入門』が参照されている)
以上から、個人の同意だけでOKとは言いがたい

コラムD 宇宙動物実験(吉沢文武)

第6章 宇宙時代における環境倫理学―人類は地球を持続可能にできるのか(神崎宣次)

  • ジオエンジニアリングの倫理問題

モラルハザード
ジオエンジニアリングできるなら環境破壊してもよいと思われてしまうのではないか。ただ、アンケート調査などではそういう結果は出ていないので、必ずしもモラルハザードが生じるとは限らない。
人間の傲慢さ?
地球環境を安易に変えてしまうのは傲慢ではないか。しかし、もし実際に実現するなら慎重に行われるはずで、即座に傲慢さが現れるとは限らない。
地域間の公平性
どのような気候がよいのかは地域によって異なるので、地域間の公平性は問題になる。

環境倫理学の成立に影響を与えたレオポルドの土地倫理は宇宙環境にも応用できるか、というと難しい(レオポルドがいう「土地」が宇宙に当てはまるかどうか)
宇宙時代の徳を考える必要がある。地球上で成り立つ徳のうち、宇宙でも成り立つものはある

第7章 宇宙に拡大する環境問題―環境倫理問題としてのスペースデブリ伊勢田哲治

スペースデブリ対策として、COPUOSのガイドライン7項目やISO24113がある。
倫理学的に何が言えるか。

  • 環境価値論

環境の価値について考える際に、人間中心主義or非人間中心主義の区別があり、
非人間中心主義については、有感主義・生命中心主義・生態系中心主義の区別がある。
「最後の人間」思考実験
もし、人類史上最後の一人となった人間の前に、ある環境なり生態系なりを全て破壊し尽くすボタンがあったとして、それを押してもよいと考えるかどうか、という思考実験。
このボタンを押してもよいと考えられるなら、その環境の価値は人間中心主義的なもので、押すのはよくないと考えられるなら、非人間中心主義(価値が人間の存在に依存しているかどうか)
デブリについて、軌道上をデブリで埋め尽くすスイッチと考えることで、同様の思考実験ができる。
軌道環境の価値は、人間が利用できるかどうかなのだから、人間がいなくなれば、軌道がデブリで埋め尽くされても問題ないようにも思われるが、実際に色々な人にこの思考実験に答えてもらって、どのような倫理的直観があるのか調べる必要がある。

  • 世代間倫理

いわゆる持続可能性
ハーマン・デイリーの定常状態の経済の三条件

  • 環境正義

気候変動について、先進国と途上国との間で排出量の公平性をどのように考えるか、という環境正義の問題があり、これは、先進国から途上国への技術移転での解決が現実的とされる。
デブリについても同様に考えられる。

  • ライフサイクルアセスメント

デブリ問題について、ライフサイクルアセスメントの検討はまだされていない。
サプライチェーンなどで、他の環境負荷がどうなっているかなど総合的に検討する必要があるのではないか。

第8章 惑星改造の許容可能性―火星のテラフォーミングを推進すべきか(岡本慎平)

冒頭、テラフォーミングの歴史や概要があり、初出となったSF作品などに触れられている。火星をどのようにテラフォーミングするかのアイデアについても解説されている。


テラフォーミングに対しては、倫理学的には以下の3つの批判がある。

  • ロルストンによる天体の内在的価値

天体には内在的価値があり、テラフォーミングはそれを損なうというもの。
ロルストンは統合性に内在的価値を見いだし、7つのポイントを提案している。固有の歴史があるとかそういうこと。

天体に限らない、という意味で包括的。
3つのテーゼを提案しているが、ポイントとしては、人間は自然に依存するということ。
自然環境がなければ人間は存在できないが、人間がいなくても自然環境は存在するので、そのような環境は保全すべきで、その点からテラフォーミングを批判。

  • スパローによる行為者基底的徳倫理

ロルストンとリーの議論は、天体や環境の価値について証明する必要がある。
これに対してスパローは、徳倫理の観点からテラフォーミングを批判する
テラフォーミングには、「美的無神経」と「傲慢さ」という悪徳があるというもの。

  • シュワルツによる批判

上記3つの批判に対して、シュワルツからの再反論がある。
テラフォーミングもまた天体の歴史の一部になりうるのであり天体の内在的価値を毀損するとは限らない。
火星環境と人類の間に依存関係はない。
美的無神経は、結局、天体の美的価値を措定する必要があるなど。

  • ボストロム

ボストロムによるテラフォーミングを擁護する議論を簡単に紹介している。
長期的に人類の絶滅を回避するためには、テラフォーミング技術が必要という奴。


コラムE 宇宙災害と対策(玉澤春史)

惑星防衛と宇宙天気予報について

第9章 宇宙ビジネスにおける社会的責任―社会貢献と営利活動をどう両立させるか(杉本俊介)

宇宙ビジネスについて、具体的には宇宙機器産業・宇宙利用サービス産業・宇宙関連民生機器産業・ユーザー産業群とがある。
日本の宇宙機器産業は伸び悩んでおり、ユーザー産業群などを成長させていく方向性にある。
CSR(企業の社会的責任)についての説明
日本では、社会貢献も含む広い意味で使われることもある言葉だが、もう少し限定的
ベアリング大手のNTN株式会社へのインタビューを通して、宇宙ビジネスCSRについて概観。ステークホルダーとの関係とか。
最後に、マーズワンについて検討し、十分な情報開示がなければ詐欺の誹りは免れないのではないか、と。

第10章 宇宙における安全保障―宇宙の武装化は阻止できるか(大庭弘継)

ここでは軍事化と武装化を区別している。
宇宙の軍事利用について色々解説されていたが、ああそういえばと思ったのが、MDは、ミサイル迎撃する高度が地球低軌道と同じなので、技術的に衛星も破壊できるという指摘
ASAT(対衛星攻撃兵器)について
「神の杖」という架空の兵器があって、タングステンを軌道上から落下させるもの。大質量を落とすだけで、核とかじゃなくても高い破壊力が発揮される。

  • 安全保障の考え

まず、宇宙条約がある。
ここでは、大量破壊兵器は禁止されている。逆に言うと、大量破壊兵器以外は明示されておらず、ASATや神の杖について解釈の余地がある。
次に、聖域論
宇宙を「聖域」と考える議論で、一見、よさそうな考え方だが、既に先行者利益のあるアメリカに都合のよい議論でもあり、露中は批判的
3点目はグローバル化と相互依存 
大いなる幻影』のノーマン・エンジェルが第一次世界大戦前に主張し、ノーベル平和賞も受賞したが、実際に相互依存が戦争抑止となるかは怪しい(結局、世界大戦は勃発した。また、当然ながら本書に言及はないが、ロシア・ウクライナ戦争も相互依存説への反証だろう)
4点目は疑似相互確証破壊
核抑止の相互確証破壊と同様の考え。逆に軍拡競争をもたらすし、バランスを崩すと攻撃を引き起こしてしまう
最後に能力的制約論
宇宙戦争できる能力を各国は持っていないだろうというものだが、P.W.シンガーが、このような予断を許さないシミュレーション小説を書いていている、という。

  • 考えられる問題点

まず、現時点では宇宙空間に人間はほとんどいない。ISS等に若干名いるだけで、もし宇宙空間で有事が起きたとしてもすぐに避難すると考えられることから、宇宙を舞台にした武力行使があったとしても人的被害はでないことが考えられる。
戦争倫理は人的被害を防ぐことを念頭にしているが、悲惨さに依存しない戦争倫理が必要になるのではないか。
次に、倫理を実践する主体の不在が問題。
宇宙空間には国境がないため、特定の国ではなく「人類」という単位で考える必要があるが、「人類」という単位で実効力のある主体は存在しない。「人類を語るものは詐欺師」というカール・シュミットの言葉もある。宇宙安全保障においても、人類という言葉が語られることがあるが、それは実際には特定の国の利益を隠していることがあるので注意が必要。
デュアルユースは言わずもがなだが、宇宙では特に、民生用と軍用の区別は曖昧
テロの問題としては、例えば、ケスラーシンドロームを意図的に起こすテロ


「悲惨さに依存しない戦争倫理」「倫理を実践する主体の不在」が印象に残った


どこかに、軌道が高いと地上から攻撃しにくいので、そこに兵器配備されると厄介みたいなのが書いてあった記憶があるのだが、ざっと読み返したときに該当箇所を見つけられなかった。

第11章 宇宙資源の採掘に関する道徳的懸念―制度設計に向けて理論構築できるか(近藤圭介)

宇宙資源の採掘に関する道徳的懸念にはいくつかあるが、本章では「宇宙資源の独占」問題を考える。


既にいくつかの国が宇宙資源の獲得について立法しているが、その説明として、公海の魚の比喩が用いられる。公海はどこの国の領海でもないが、そこでとれる魚については所有権を主張できる。
これは無主物の原始取得と考えられ、ロックの所有権論が前提となっている。
ただし、ここには「ロック的但し書き」があるとされる(他のものにもその機会がある限りにおいて)


宇宙資源の独占を制限するための試みとして「月協定」があるが、しかしこれは、先進国が批准せず頓挫した。
この月協定の背景に、スタイナーによる平等主義的ロック解釈
スタイナー『権利論 レフト・リバタリアニズム宣言』
他に、ロールズの格差原理の宇宙資源への適用という考え方もある。
これについては、宇宙資源はロールズのいうところの基本財か? 資源採掘能力の不均等はロールズのいう恣意的な分布か? 国際社会はロールズのいうところの社会的な協働か? といった検討課題がある、とのこと。


グローバルな正義と宇宙正義という論点も挙げている。
つまり、今のところ、宇宙資源の採掘の問題はグローバルな、つまり地球上の正義問題として考えられる(先進国と途上国との間の公正)。今後、「宇宙」正義もありうるか。


参考文献見てて気付いたけど、ロックの『統治ニ論』って2010年に岩波文庫出てたのか。
レフト・リバタリアニズムってあるのか、ちょっと気になる。

コラムF 衛星情報とプライバシー(伊勢田哲治

プライバシー権は、現在、自己情報コントロール権として捉えられているが、これを実際どのように実装するかは結構難しい。
衛星画像とグーグルストリートビューとを比較している。相違点はむろんあるが、グーグルストリートビューで問題視されたこととその解決策を、衛星画像にも応用できるのではないか、と。

コラムG 宇宙開発におけるデュアルユース(神崎宣次)

個々の研究者はどのように考えるか
問題あり、なし、資金の出所が問題など。
軍事予算での研究することも国際的には一般的だという話に対して、アメリカ人の科学者でもDARPAのお金は受けない人もいる、というような話も
倫理学としては、個々の判断とその理由をまずは収集するのがいいのではないか、と。

コラムH 宇宙科学と地域社会のコンフリクト(軽部紀子)

マウナケア山のTMT建設問題について。
ハワイはアメリカ合衆国同化政策が行われていたが、1970年代のハワイアン・ルネサンス以降、先住民としてのアイデンティティが重視されている。
「宇宙科学vs先住民文化」ではない、という。
マウナケア山の文化的意義への理解と配慮を求めるが、建設に賛成している住民もいるため。
マウナケア山が「集合的記憶」を担っていることがポイント

第12章 宇宙倫理とロボット倫理(稲葉振一郎

おおよそ、稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』 - logical cypher scape2の要約版

第13章 人類存続は宇宙開発の根拠になるか(吉沢文武)

宇宙開発は、人類を存続させるため、人類の滅亡を回避するため、として正当化されることがあるが。実際には、そこでいわれる「人類」や「存続」の概念は不明確。
まず、人類として現在世代、将来世代、不生世代を区別
現在世代について道徳的配慮が必要なのは当然だが、将来世代、不世世代への道徳的配慮が必要かどうかはあまり明確ではない、とする。将来世代はまだギリギリありうるとして、人類が絶滅したら生まれてこない世代について、現在生きている人々と同様に、あるいはそれ以上に配慮するのは自明ではない。


次に、総量功利主義(ボストロム)と達成説の区別
総量功利主義は、産まれなくなるよりも生まれてくる方が全体としての幸福量が増えるというものだが、ここからは、産むことが義務になってしまうのではないかとか、幸福な少数コミュニティと不幸な多数コミュニティでは前者を優先するべきということになってしまうのではないか、と問題ある帰結が導かれる。
そもそも、宇宙開発の意義を人類の存続に求める論者が考えているのは総量功利主義ではないのではないか。リースやセーガンの議論から「達成説」というものを導く。
例えば、バッハの楽曲という達成も、それを聴取する人がいなくなってしまったら、価値がなくなってしまうのではないか。
しかし、時間的サイズ(人類が未来永劫続くことや宇宙に広がること)がなぜ価値になるのか(ネーゲル)
未来の子孫の存在により人類の達成を考えるというのは、永遠の相の下に見るということで、これは相対化した視点を得るという点で意味があるが、これによって達成の価値が失われたりするわけではない、と。


参考文献一覧を見て
効果的な利他主義がもともとシンガーの主張だというのは何となく知っていたけれど、2015年に邦訳書がでてるんだな、と。

コラムI 地球外知性探査とファーストコンタクト(呉羽真)

コラムJ 宇宙コロニーでの労働者の権利(杉本俊介)

宇宙コロニーでの労働者の権利として3つの権利をあげる。

これは企業城下町でも議論される話で、レイオフされると事実上生きていけなくなってしまうので。

  • 宇宙コロニーを自由に離れる権利

これはまあ言わずもがな、か。リクルートの際にも重要になるのでは、という指摘。

宇宙コロニーでストライキが起きると全員の生存が脅かされるのではないか、という危惧があるものの、シュワルツは看護師や医師のストライキを行う権利を参考に、こうした権利が認められる条件を論じている、と。

コラムK 未来の戦場としての宇宙(大庭弘継)

第10章は、あくまでも地球での戦争に対して、こちらが宇宙が戦場になるとしたらどういう場合か、という可能性についての議論。
テロ対策として宇宙軍が設立されると、それを契機に宇宙空間での軍拡が進むのではないか、という話

その他

「宇宙倫理学」でググった時に見つけたものあれこれ

2022年の記事
「宇宙資源法」を作った国が世界に4つある 科学哲学者・清水雄也さん(その2)
宇宙と軍事、デブリ、宇宙資源法(アメリカ、ルクセンブルクUAE、日本)、COPUOS
宇宙倫理学は問う、火星を開発するのは「良いこと」か? 科学哲学者・清水雄也さん(その3)
宇宙旅行インフォームドコンセント方式でよいのか

「20%の確率で命を落としますが、ワクワク感は保証します。この確率は適切な科学的手続きによって確認されたもので、そのメカニズムの詳細も説明できます」というアトラクションがあったとして、それを使ったビジネスはそもそも認められないですよね。ここでインフォームドコンセントを持ち出すのは明らかに不適切でしょう。

ベンチャー段階では倫理的ハードルは低くてもよいか
宇宙を拓くのは、ビジネス、軍事、それとも倫理? 科学哲学者・清水雄也さん(その4)

2022年の記事
【片山俊大氏】「宇宙ビジネスの広がりについて」
【清水雄也氏】「宇宙倫理学について」
トピック①「宇宙旅行ビジネス」
トピック②「宇宙資源開発」
トピック③「宇宙デュアルユース」
【ディスカッション】宇宙産業と宇宙倫理学の関係性

  • 呉羽 真「宇宙倫理学プロジェクト~惑星科学との対話に開かれた探求として~」

https://www.wakusei.jp/book/pp/2017/2017-4/2017-4-174.pdf
2017年の論文

1. 宇宙倫理学プロジェクトの概要
2. 宇宙環境の価値
 環境倫理学と宇宙
 地球外生命体の道徳的地位
 生命のいない地球外環境の道徳的地位
 まとめ
3. 宇宙科学の価値とその位置づけ
 宇宙科学と社会のコンフリクト
 科学の価値とその位置づけ
4. 終わりに

惑星保護が重視されるようになっているけれど、倫理学的な議論は意外と薄弱ではないか、とか(他の惑星の微生物を守るために地球の微生物を殺菌消毒するのはありなのか、とか、天体の内在的価値とは、とか)
宇宙科学と社会のコンフリクトは、マウナケアの例に触れられている。
科学の価値について、内在的に価値があるというのではなく、道具的な価値なのだということを積極的に認めた上で、他の価値との共存を模索すべき、と。