小林快次『恐竜時代1 起源から巨大化へ』

超久しぶりに恐竜の本を読んだら、知らない恐竜の多いこと多いことw
三畳紀からジュラ紀、南米や中国の恐竜とその進化について。

1 アラスカで恐竜化石を探す

第1章は著者が、アラスカで他の研究者2人と共に、足跡化石を発見したときの話。ここは完全に化石発見までのドキュメントになっていて、発見内容については次巻でということらしい。
ヘリコプターで国立公園のど真ん中に下ろしてもらって、化石を探すのだが、ヘリをどういうところに止めてもらうとか、グリズリーの足跡を見つけるとか、そういうような話も織り交ぜられる。
足跡の化石というのは、僕なんか写真を見ても何が何だか分からなかったりするのだけど、どうも研究者でも分からないことあるらしい。人によって見えたり見えなかったりする。これが「怖い」のだと筆者は書いている。このときも、筆者が説明しても一緒にいたトニーはなかなか分かってくれなかったというところがある。もっともこの時は、石膏で型をとってみたら、はっきりと現れたらしい。

2 地球最古の恐竜

アルゼンチンで発見された、最古の恐竜、エオラプトル、パンフォギア、エオドロマエウスについて。どれも1メートルほどの小さな恐竜である。
恐竜はいつ地上に現れたのか。これには3つのアプローチがある。
まず、最古の骨化石であり、これが上述のアルゼンチンの化石で、二億三〇〇〇万年前である。
もう一つは、恐竜の姉妹群にあたるシレサウルス科に注目する方法である。恐竜とシレサウルスには共通祖先がいる。そして、ある時点でこの共通祖先から恐竜とシレサウルスに種分化したことになる。ということは、シレサウルスがいた時代にはすでに恐竜もいたことになる。シレサウルスの骨化石は二億四〇〇〇万年前に遡る。
またもう一つには、足跡化石を見る方法もある。この場合、二億五〇〇〇万年前から発見されたものがある。ただし、足跡化石は骨化石に比べると、信頼性の点で問題点を抱えている(アンダープリントとか)。ただし、足跡からはどのように生活していたかを読み取れるので、やはり重要な資料となる。
さて、恐竜がいつ現れたかについて、二億三〇〇〇万年前、二億四〇〇〇万年前、二億五〇〇〇万年前と3パターンあるが、どれも大して違いがないように見える。しかし、実は、二億五一〇〇万年前に古生代ペルム紀中生代三畳紀との間で大量絶滅が起こっている。この大量絶滅は白亜紀末のそれを越える規模のもので、恐竜がこの直後に現れたのかどうかは重要だったりするようだ。
その後、恐竜はどのように繁栄したのか。
三畳紀ジュラ紀との間でも再び大絶滅が起きており、三畳紀において恐竜類のライバルだったクロタルシ類が絶滅し、恐竜の繁栄が訪れる。では、何故片方が絶滅し、片方は絶滅しなかったのか。この点について、種の「多様性」と「異質性」が着目されている。多様性とは種の数、異質性とはデザインの豊富さである。そして、実はクロタルシ類も恐竜類もほぼ同様に多様性と異質性を高めている。異質性についていえば、クロタルシ類の方が豊富だったようで、実際のところ、何故恐竜の方がこのとき絶滅しなかったのか、よくわかっていないらしい。

3 全大陸制覇へ

一九八六年、南極でジュラ紀前期の地層から恐竜が発見され、これで全ての大陸から恐竜が発見されたことになった。
南極での恐竜発見のエピソードが書かれているが、2003年、04年の調査隊は、天候に恵まれずヘリコプターが飛ばず、六週間のうち五週間をキャンプの中で過ごしたという。
さて、当時の南極はどのような場所だったのか。今に比べれば温暖であり恐竜も生活できたようだが、筆者は、けっして「快適な」環境ではなく、恐竜がいかに優れた生命体だったかを示していると述べている。
南極で発見されたクリオロフォサウルス、グラシアリサウルスは、系統解析によって、その近縁が判明しており、南米や中国に仲間がいたことが分かっている。当時は、大陸が地続きだっただめである。
クリオロフォサウルスやその仲間で中国で発見されたディロフォサウルスは、頭部に特徴的なとかさを持っている。
同じジュラ紀前期の恐竜ということで、マッソスポンディルスに話がうつる。実はこの恐竜、リチャード・オーウェンによる命名のもので発見そのものはとても古い。しかし、近年、再び注目が集まっている。というのは、南米で卵の化石が発見され、子育てをしていたことが分かったからである。恐竜の卵としては最古の化石であり、恐竜の子育てが白亜紀後期ではなくジュラ紀前期まで遡ることが分かったのである。

4 小型獣脚類さかえる

中国の恐竜調査は、1920年代にまで遡る。スウェーデン中国共同調査によってジュンガル盆地によって発見され、その後も中国はそこで調査を続けた。87年から90年にかけて、カナダ中国の共同調査が新疆ウイグル自治区内モンゴル自治区で行われマメンチサウルスなどの大量の化石が発見され、さらに2001年からのアメリカ中国共同調査では、多くの羽毛恐竜が発見された。
小型の肉食恐竜グアンロングや小型の草食恐竜リムサウルスなどが落とし穴にはまったのが発見されているのが、実はこの落とし穴というのが、マメンチサウルスの足跡だったというのだから驚きだ。
このグアンロングは、実はあのティラノサウルスの祖先だという。
ジュラ紀後期のティラノサウルス類としては、グアンロングだけではなく、ユタ州で発見されたストケソサウスル、イギリスで発見されたジュラティラント、ポルトガルで発見されたアヴィアティラニスがいる。
さらにジュラ紀中期、イギリスで発見されたプロケラトサウルスがティラノサウルス類の祖先ではないかと目されており、グランロングもプロケラトサウルス科に属するのではないかと考えられている。このため、ティラノサウルスの起源はジュラ紀中期のヨーロッパにあり、グアンロングはそこから中国へ渡ってきた可能性が高いという。
さて、鳥類は恐竜類である。
このことは既に広く受け入れられるようになったが、今でも反論がある。その際に根拠とされるのが、恐竜と鳥の指についての矛盾である。
恐竜の進化の過程で指の本数は、5本→4本→3本に減っている。その際に、小指と薬指を失い、親指、人差し指、中指の3本が残ったとされている。一方、鳥類の指は、発生学での研究の結果、人差し指、中指、薬指の3本だという。この矛盾を根拠に、鳥類は恐竜類ではないという反論があるのだ。
これに対して、ワグナーはフレームシフト説を提案している。指の発生は、細胞の凝集箇所に指を作るような指令が出されることで行われる。進化の過程でこの信号の伝わり方がずれてしまったというのがフレームシフト説である。この証拠として出てくるのがリムサウルスである。リムサウルスは4本指なのだが、親指が非常に小さく、人差し指、中指、薬指の3本が大きい。一方、同じ4本脚でこれより古いコエロフィシスは親指、人差し指、中指が大きく薬指が小さい。つまり、この間でフレームシフトが起きたのではないかというのである。そして、リムサウルス以降の恐竜類の3本指は、実は親指、人差し指、中指ではなく、人差し指、中指、薬指の3本であり、鳥類とのあいだで矛盾はないということだ。
ところが、話はここで終わらない。2010年、東北大の田村は、鳥類の指について発生過程を研究し、実は親指、人差し指、中指だったというのだ。これによって、恐竜類と鳥類との矛盾は解決される。もっともこの場合、リムサウルスは何故親指が小さくなったのかということが疑問として残ることになる。
ところで、この話題、ニュースになったときブクマしていたので、リンクはっておく。さらにこのニュースについてのtogetterまとめもあった。
「鳥の祖先は恐竜」証明 東北大、指成長の仕組み一致 :日本経済新聞
まとめよう、あつまろう - Togetter

5 巨大化へ

ワイオミング州モリソン層の話から。マーシュとコープが発掘戦争をしたところである。筆者は学生時代を、ワイオミング大学で過ごしたそうである。
竜脚類がどうしてあれだけ巨大化することができたのかについて。
気囊という空気を入れた袋が全身にあり、これが冷却システムとなっていて巨大化に役に立ったという。
また、長い首と尾も冷却システムとなった。長い首は、広い範囲の食物を食べるのに役に立つ。
また、長い首の骨の中にも気囊があり、これが骨の軽量化にも繋がった。さらに、気囊は効率的な呼吸にも有用であった。これによる高い代謝率が急激な成長にも役に立った。
これだけ巨大な身体を維持するためには、大量の食物が必要で、そのために大きな消化器官が必要となり、巨大な身体が必要となる。
しかし、巨大化にも限界があった。それは、体温である。体重と成長速度から体温が推定される。これによれば、アパトサウルスの推定体温は42度となる。42度を上回るとタンパク質が固まってしまい、死んでしまう。ところで、アルゼンチノサウルスはさらに巨大である。アルゼンチノサウルスの体重は実は軽いのか、あるいはまだ判明していない冷却システムがあるのではないかという。

6 空へ進出する

ドイツで発見された始祖鳥について。始祖鳥は現在、10体の標本が公表されている。
最初に発見された始祖鳥の標本は、発見当時はプテロダクティルスだと思われていて、始祖鳥だと分かったのは115年後とのこと。
始祖鳥は空を飛べたのか。五枚の翼を使ってうまく飛んだらしい。では、どのように飛び立ったのか。走って飛び立つにはエネルギーがかかりすぎる。木の上から滑空したと考えられている。
始祖鳥の羽の化石から、黒い色素が発見されている。恐竜の色は分からないと言われ続けてきたが、色の復元が可能になってきたらしい。始祖鳥は何故黒かったのか。身を隠すためとか仲間の識別、体温調節など色々な説が考えられているが、メラニン色素によって翼を強化していたという説もあるらしい。
繰り返しになるが、鳥類は恐竜類である。ティラノサウルス類は恐竜類であるというのと同じ意味で、鳥類は恐竜類である。筆者は普及活動として講演も行っているらしいが、大人はこれを聞くといまだ驚くらしいが、子どもたちはむしろ知ってて当然という顔をするようになっている、とか。
問題は、恐竜類の中でどのように鳥類が進化していったのかということになる。
さて、そもそも始祖鳥は鳥類なのかどうか、ということについて近年疑問があがっている。
鳥類の姉妹群に、トロオドンやドロマエオサウルスなどが属すディノニコサウルス類がある。始祖鳥には、このディノニコサウルス類の特徴があるというのだ。これに対して、鳥類の起源が、いわゆる鳥類とディノニコサウルス類の2つであるという説と、始祖鳥はそもそも鳥類ではなくディノニコサウルス類であるという2つの説があげられているという。
そもそも、鳥類の定義というのは、「始祖鳥以降に進化した恐竜」とされており、始祖鳥がディノニコサウルス類だとすると、ディノニコサウルス類も鳥類ということになってしまって都合悪い。この点については、いまだ議論が続いている。
鳥類の起源はいつか。
これは先ほど、恐竜の起源がいつかであったのと同様、最古の化石を見るか、あるいは姉妹群の最古の化石を見るかで調べることになる。始祖鳥を鳥類と仮定すると、1億4000万年前となる。姉妹群であるディノニコサウルス類の最古ものは1億5600万年前まで遡る。これはジュラ紀後期にあたる。

恐竜時代I――起源から巨大化へ (岩波ジュニア新書)

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