横山祐典『地球46億年気候大変動―炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来』

引き続き地球科学の本。過去の気候変動を復元する古気候学について。
『地球・惑星・生命』 - logical cypher scape2で読んで面白かった章と同じ筆者による関連書籍。
是永淳『絵でわかるプレートテクトニクス』 - logical cypher scape2と連続して読むと、お互い補完するような関係というか、本書でもプレートテクトニクスは出てくるし、同じ研究やグラフが出てきたりするが、注目するポイントが異なるので、よかった。
プレートテクトニクスの方が、固体地球科学・地球物理学寄りだとすると、本書は、大気海洋科学・地球化学寄りだと言えるのかもしれない。
第1章と第2章は、気候変動の仕組みや古い気候の復元研究についてで、
第3章から第6章はおおむね地球史にそって話が進んでいく
(第3章:地球誕生の頃、第4章:酸化イベント(太古代・原生代)、第5章:中生代白亜紀、第6章:新生代第三紀
第7章以降は、定期的に繰り返される気候変動についてで、第7章から第9章までがミランコビッチサイクル、第10章がそれより短期間の気候変動(D-Oサイクルとハインリッヒイベント)が取り上げられている。
それぞれのトピックについて、研究者の経歴やその研究を巡る歴史・経緯についてもページが割かれていて、読み物として結構面白かった(が、ブログにまとめるときはちょっと大変だった。そのあたりは割と端折った)。

第1章 気候変動のからくり
第2章 太古の気温を復元する
第3章 暗い太陽のパラドックス
第4章 「地球酸化イベント」のミステリー
第5章 「恐竜大繁栄の時代」温室地球はなぜ生まれたのか
第6章 大陸漂流が生み出した地球寒冷化
第7章 気候変動のペースメーカー「ミランコビッチサイクル」を証明せよ
第8章 消えた巨大氷床はいずこへ
第9章 温室効果ガスを深海に隔離する炭素ハイウェイ
第10章 地球表層の激しいシーソーゲーム

プロローグ

一番最初にウィンストン・チャーチルが出てきてびっくりさせられる。地球以外の惑星での生命居住条件について書いたものがあるらしい。あの、イギリス首相のチャーチルが、である。
ググってみると、以下の記事があった。
チャーチルの地球外生命論 | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio

2017年にこのエッセイが発見されたらしい。なお、本書は2018年刊行なので、時事ネタでという感じだったのか。この冒頭のくだりが結構キャッチーで、全体的にも文章が読みやすいと思った。

第1章 気候変動のからくり

二酸化炭素による気候変動についての研究史

  • スヴェンテ・アレニウス

1903年電解質の解離でノーベル化学賞を受賞
1896年、二酸化炭素温室効果についての論文
→当時は多くの批判を受け支持されなかったが、現在の視点からみると精緻なモデルだった

  • ギー・カレンダー

アレニウスと同様の計算結果をえて、それを実際のデータで検証した
カレンダーが学者ではなくエンジニアだったせいか、やはり支持が得られなかった
また、当時は、人間が排出した二酸化炭素について、海洋が吸収するから問題ないと考えている学者が多かった

  • ロジャー・レヴェル

カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリプス海洋研究所所長(1950~1964)
1957年、海洋が二酸化炭素を吸収する速度は遅いことを発表
放射性炭素年代測定法を用いた
→スクリプス研究所で、二酸化炭素モニタリングの長期計画を始動
→この計画を担当したのが、チャールズ・キーリング
「キーリングカーブ」

  • ジム・ウォーカー

炭素循環による地球のサーモスタット=ウォーカーサイクルの提唱者
ウォーカーは、NASAゴダード研究所でポスドク、その後、アレシボ天文台勤務で、宇宙や上層大気の研究者であり、地球気候は畑違いだったらしい。

第2章 太古の気温を復元する

同位体温度計について
化学者ハロルド・ユーリーがその原理を提唱し実現した後、ニック・シャックルトンにより、さらに補正されたという研究史
っていうか、ハロルド・ユーリーめちゃくちゃすごい人じゃん!?
生命の起源についての本を読むと必ず載っているユーリー・ミラーの実験のユーリーである。これまでそれしか知らなかったのだが、重水素の単離により1934年にノーベル化学賞を受賞している。またその功績を買われて、第二次大戦中にはマンハッタン計画にも参加していた人。
師匠からダブルメジャーを薦められていて、大学院時代は化学と生物を専攻していた。
で、戦後になって、恐竜時代の気温を調べる方法として、同位体温度計を実現する。
本章は、この同位体温度計の研究を巡って展開するが、ユーリーはこの後の章でも何度か出てくるので、先回りしてそれを紹介しておくと、
先述したユーリー・ミラーの実験と、二酸化炭素を固定するユーリー反応(ユーレイ反応)である。っていうか、他の本では「ユーレイ反応」表記だったので気付かなかったけど、同じ人か!(なお、ユーレイ・ミラーの実験という表記もあるらしい)
しかもそれぞれ、同位体温度計1951年、ユーリー反応1952年、ユーリー・ミラーの実験1953年なのである。

同位体は、化学反応の前後で同位体比に変化があり、それを同位体分別という。
同位体分別はさらに3つに分けられるが、そのうちの一つ同位体交換反応は平衡論的現象で、温度の関数なので、温度計として利用できる。
恐竜の絶滅に興味をもち、絶滅の理由は温度変化ではないかと考えたユーリーは、1947年に同位体温度計の理論的な可能性を発表する。
しかし、実現するには、精密な測定装置(質量分析装置)と、その測定のために試料をガスにするための装置、そしてこの実験を実現するためのテクニックをもったパートナーが必要だった

  • エプスタインと同位体温度計開発

ユーリーの実験パートナーとなったのが、サムエル・エプスタイン
カナダの化学者で、1947年にユーリーが化学実験に精通したポスドク研究員を探していた際に、それに応じてシカゴへ移住した。
エプスタインが、質量分析装置の改良や、試料から適切な二酸化炭素ガスを抽出する方法を編み出し、1951年に同位体温度計は実現する。
なお、当時のシカゴ大学には、エンリコ・フェルミや、炭素14放射性年代測定法のウィラード・リビー、アポロ計画に携わったワッサーバーグ、惑星物理学者のクレイグなどがいて、こうしたハイレベルの研究環境も背後にあった。
また、当時のカナダの研究者でソ連へのスパイ疑惑をかけられた人がいた影響で、エプスタインもビザの延長が難しく、ユーリーが奔走したといったエピソードも

ニック・シャックルトンは、南極探検のアーネスト・シャックルトンの親戚(ニックの祖父の再従兄弟)
ケンブリッジ大学で、同位体温度計を用いて古環境復元の研究を行う
質量分析計の改良を行い、精度をあげることで、従来よりも少ない量の有孔虫での分析を可能にし、浮遊性有孔虫ではなく底棲有孔虫の分析を行った。
その結果、2万年前の深海の海水が氷点下となってしまう。が、当時海が凍っていたという証拠はない。
地球は、高緯度の方が軽い酸素同位体(酸素16)が増える。極域の氷は、海水の平均よりも軽い。極域の氷が溶けると海の水も軽くなり、極域の氷が増えると海の水は重くなる。
この変化で補正する必要があった。
シャックルトンの発見におり、古水温測定の算定式が修正されるとともに、氷床量の復元が可能になった

第3章 暗い太陽のパラドックス

カール・セーガンが発表したことで有名な「暗い太陽のパラドックス
恒星の核融合反応は時代が下るにつれて活発化し、光度が上がる。逆に、時代を遡ると光度は下がる。初期太陽は、今よりも暗かったはず。だとすると、初期地球の気温も下がる。計算すると氷点下になってしまう。が、初期地球の気温がそんなに低かったという証拠がないし、生命も誕生しなくなってしまうのではないか、というパラドックスである。
これについて、まずは恒星の光度の見込みが誤っていたのではないか、というところから検討が始まるが、これについてはどうやら正しいことが分かる。ニュートリノ質量の話とかが出てくる。
で、次いで、温室効果ガスが今よりも多かったのだろうということで以下の説が検討される

この説が出てきた背景には、ユーリー・ミラー実験がある。この実験が後に否定された通り、原始の大気はアンモニアが存在できるほど還元的ではない

推定される大気圧では二酸化炭素だけで十分な温室効果が得られない


なお、近年では観測データの精度が上がってきて、気圧や気温がパラドックスを起こさない範囲に収まってきそうになってきている、と。
まだ、完全に解決したわけではないが、解決の方向に向かっているとしている。

第4章 「地球酸化イベント」のミステリー

地球史上、二度起きた酸化イベントについて
鉄を酸化しつくしたから酸素が増えたのだと思ってたけど、単純にそういうわけではないらしい。プレートテクトニクスが関わってくる。
苦鉄質岩(玄武岩)は還元的で、シアノバクテリアの産出する酸素を消費してしまう
これに対して、ケイ長質岩(花崗岩)は還元力が100分の1程度
花崗岩玄武岩に水が加わることで生成されるが、プレートテクトニクスによって海水が沈み込むことでケイ長質岩の大陸地殻が形成された。
ジルコンの生成量がその指標で、GOEの頃に増えている。
まだ、2度目の酸化については、自分は、スノーボールアースの終焉に伴う光合成の活性化だという認識だったが、ここではそれ以外のメカニズムについて説明されている。なお、スノーボールアースの話もこの章の最後の方で触れられており、相反するのではなく両立していた可能性が触れられている。
1度目の酸化イベント(GOE)の10億年後に、2度目の酸化イベント(NOE)が起きる。
GOEは、せっかく生み出された酸素を消費してしまう原因が取り除かれることで起きた。
対してNOEは、酸素供給量のボトルネックとなる二酸化炭素供給量が増えることで起きた、と。酸素は光合成によって生まれるので、二酸化炭素供給が増えないと酸素供給も増えない。
プレートテクトニクスにより大陸が形成されたことで、炭素レザボアが増加したことが、二酸化炭素供給量を増やした。
炭素レザボアとは、何らかの形で炭素を有機物で保管するもので、ここでは、要するに生物の遺骸の堆積物である。これにより、炭素がプレートテクトニクスで回収されなくなった。

第5章 「恐竜大繁栄の時代」温室地球はなぜ生まれたのか

中生代には二酸化炭素濃度が上昇し、地球上に氷床がない時代だったことが知られているが、そういえば確かに何で二酸化炭素濃度が上昇したのかというメカニズムについて、自分はあまりよく知らなかった。


海底探査
ハリー・ヘスが、ホットスポットとプレート移動に伴いできる地形、ギヨーを発見する。プレートテクトニクスの証拠。プレートテクトニクスのない星では火山が大きくなる(火星のオリンポス山
モホール計画と深海掘削
1989年、ラーソン
西太平洋の海底が一様になめらかなのではなくでこぼこしており、広大な台地状の地形=海台が広がっていることを発見する
スーパープルームによって形成された地形


白亜紀の温暖化(二酸化炭素濃度の増加)の要因
→プレート速度の高速化とスーパープルーム
白亜紀はプレートの速度が速くなっていたが、2倍まではいかない程度。二酸化炭素濃度の説明をするには2倍以上の速度が必要
スーパープルームによる巨大火成岩区も、白亜紀二酸化炭素濃度を説明するには、頻度が足りない。
→筆者らの仮説「陸弧」
プレートの沈み込み帯で起きる火山活動
海にある場合は島弧といって、島ができている
白亜紀は大陸が位置していて、長い陸弧が形成され、非常に多くの火山ができていた。これが「ガスオーブン」として機能した、と。

第6章 大陸漂流が生み出した地球寒冷化

新生代にはいって生じた地球寒冷化について。

ヒマラヤ-チベット山脈の形成と岩石風化による寒冷化
モーリーン・レイモ


ヤゴウツによる寒冷化仮説
レイモの仮説では十分に説明できない
ヒマラヤ山脈形成よりさらに遡る時期、アフリカ大陸、インドア亜大陸移動によるオフィオライト風化と熱帯収束帯通過


3400万年前、南極に永続的な氷床が形成
なぜか→オーシャン・ゲートウェイ仮説
オーストラリアが分離することで、南極の海流が孤立し、暖流が流れ込まなくなったため

第7章 気候変動のペースメーカー「ミランコビッチサイクル」を証明せよ

第7章から第9章までは、ミランコビッチサイクルの話で、第8章と第9章はその実証やメカニズムの研究について

1837年、ルイ・アガシーが初めて氷期の存在を指摘する仮説を発表するも、受け入れられなかった
1842年、アマデールがアガシーに賛同
1864年、クロールが歳差運動により氷期が引き起こされることを計算。元々、学者ではなく様々な職を転々としながら46歳にスコットランド地質研究所に雇用されたという異色の研究者であるクロールの説説だったが、のちにライエルが『地質学原理』の第10刷に加えるように重要な説とみなされるようになった。

土木工学で学位。ベオグラード大学で応用数学を担当し、同僚の気象学者と話す中で、気象の理論的研究をするようになる。
ミランコビッチの研究を、気候区分で有名なケッペンが注目し、ケッペンはさらにミランコビッチに研究を依頼したりする。
ケッペンはウェゲナーの義父らしい。
ミランコビッチの理論的研究と、ケッペンが示したデータが整合
ミランコビッチサイクルは、自転軸の傾き、離心率、歳差運動から計算して、日射量の変化から気候変動の周期性を示したもの
2万年、4万年、10万年の3つのサイクルがある。
いくつかの論文にわけて発表されたが、1939年にそれらの成果を編纂したものが刊行される。

  • モーリス・ユーイングとラモント

コロンビア大学のラモント地質学研究所を率いるユーイングは、探査船の航海の度に、必ず海底のコアを採取してくるように指示した
ユーイングの先見の明からなるところで、ラモントには世界中のコアがずらりと並ぶようになって、何か調べたいことがあった時に、まずはここを調べるとよい、みたいな感じになったらしい。
本書でも、この後、度々ラモントのコアは出てくることになる。

  • ジョン・インブリーとクライマップ

インブリーは、イエール大学大学院で法学専攻と地球科学専攻両方に合格し、迷いに迷って地球科学専攻へ進学。
有孔虫を研究し、コロンビア大学でキャリアを積むが、その当時はミランコビッチサイクルの研究はしていなかった。というのも、当時得られていたデータでは、氷期-間氷期サイクルは3万年で、支持されていなかったから。
ブラウン大学に移籍した後になって、コロンビア大学の友人ヘイズから、ユーイングの発案したプロジェクトへの参画を打診される(実はインブリーがコロンビア大学を離れた理由の一つに、ユーイングとの間に、組織の方針を巡る対立があったが、ユーイングはインブリーの参加を受入れた)。
それが、チームクライマップ
ラモントのコアを用いて、約2万年前の最終氷期最盛期の海面温度を復元した世界地図作成を目標とする計画で、全米の大学からメンバーが終結したドリームチームだった。
問題は、年代測定だった。
地磁気逆転イベントが起きた78万年前と、放射性炭素年代測定が可能な1万2600万年前はわかるが、その間の正確な年代がわからない。
ここに、第2章で出てきたシャックルトンが出てくる
各コアの酸素同位体比の復元カーブを相互参照することで、時間軸をそろえた
インブリーは、過去の古水温と氷床量の推移が、ミランコビッチサイクルと一致するのを見出し、1976年に発表した。
ここでミランコビッチサイクルのことを彼らは「ペースメーカー」と称した
日射量変動が直接の原因というわけではなく、それが地球気候システムに影響を与え、結果的に氷床量を変動させた、と。

第8章 消えた巨大氷床はいずこへ

氷期にあったはずの氷床量を特定するための研究史
ミランコビッチサイクルの「からくり」を調べるためには、氷床量を知る必要がある。
シャックルトンにより氷床量はわかったようになったのでは、というと、正確にはそうではない。
酸素同位体比は古水温と氷床量の2変数で決まるが、古水温の方程式しかない。シャックルトンは、氷期間氷期で温度差がほとんどなかったとされる海域で氷床量を決めただけ。
独立に氷床量を決める必要がある。


サンゴ礁は当時の海面の高さを知る指標になる。
1960年代、オーストラリア政府がグレートバリアリーフでこの調査を行うために、日本の読売新聞が所有するよみうり号で調査が行われた


バルバドス島での調査
クライマップメンバーでもあったマシューズ(ウラン-トリウム年代測定)
ボーリングでサンゴ礁を採掘したリック・フェアバンクス
→フェアバンクスらが1989年、1990年に発表した論文の被引用回数は「怪物級」(非常に信頼度の高い研究)


では、その氷床はどこにあったのか
カナダと北欧だけでは足りない。シベリアか?
→シベリアの降雪量は増えないので巨大氷河はできない
→消去法で残ったのが南極
マイク・ベントリー
→21世紀に入り用いられるようになった「宇宙線暴露年代」(ベリリウム10を用いる)
→南極にも巨大氷床はない?
2014年・アンダーソンらの研究
→ベントリーの研究でカバーされていなかった海上にせりだした氷床を復元
→やはり南極にあった

第9章 温室効果ガスを深海に隔離する炭素ハイウェイ

長期的な炭素の固定にはプレートテクトニクスが働いているが、ミランコビッチサイクルのような中期的な周期には、また別のメカニズムが働いているとされる。


二酸化炭素濃度の周期性→海という巨大な炭素レザボア
深海へ炭素を運ぶ3つのポンプ

  • 溶解ポンプ
  • 有機物ポンプ
  • 炭酸塩ポンプ

溶解ポンプだけでは、氷期二酸化炭素濃度低下は説明できない
有機物ポンプと炭酸塩ポンプが不可欠だが、これらは普通の時期にも機能している。植物プランクトンの増殖が必要

  • マーティンの鉄仮説

植物プランクトンの増殖にとってボトルネックになっているのは鉄だ、という説
鉄を散布して植物プランクトンを増殖させる実験も行われた
また、グリーンランド氷床コアから、氷期に鉄分が増えていることもわかった
しかし、鉄仮説で説明できる温度低下だけでは足りない。
周期性を説明するために様々な説がたてられるが、研究者はみな、一つの説で説明できるはずだと考えていた(複数のメカニズムがきっちり同期する方がありえなさそうだから)。
しかし、どの説でも、当時の二酸化炭素濃度変化に足りない。
2000年代以降、複数のメカニズムが協調しているという路線に研究の方向が変化したが、まだ詳細なメカニズムはわかっていない

  • 海洋の熱塩循環

深層と表層とで塩分の違いにより密度差が生じて、海洋水が全世界的に循環する仕組み
二酸化炭素を運搬する

  • 微生物炭素ポンプ

第10章 地球表層の激しいシーソーゲーム

ミランコビッチサイクルよりもさらに短い、短期的な周期の気候変動について
ダンスガード・オシュガーサイクル(D-Oサイクル)とハインリッヒイベント

  • ダンスガード・オシュガーサイクル

デンマークの研究者ダンスガードが、グリーンランドの氷床コアの同位体比を調査し、数年から数十年単位での気候変動を発見
なお、デンマークという小国で、二次大戦直後にアメリカから質量分析器がコペンハーゲン大学に贈られたことや、冷戦期、グリーンランドでの米軍基地の建設の際のボーリングに立ち会ってコアを調査したなどのエピソードが書かれている。
当時、ダンスガードの研究結果には懐疑的な目が向けられたが、スイスのオシュガーが、ベルン郊外の湖で酸素同位体比分析を行い、ダンスガードと同じ気温推移を得た。
1万年~11万年前にかけて25回起きている


熱塩循環の機能が弱まると起きるのではないかと考えられている。
北半球が寒冷化すると南半球が温暖化する、という逆位相の気候変動が生じる

  • ハインリッヒイベント

ドイツの政府機関の研究者で、気候変動は専門外
北大西洋外洋でコアを採取している際、堆積物中に大きな石があることを発見。
何らかの原因で巨大氷床が崩壊した際に、陸塊から削り取ったものだった。
氷床が大きくなると、地熱が放熱しないために、氷床下部の温度があがり融解。氷床が流動し崩壊する、と考えられる。
氷床が崩壊すると海水の塩分濃度が変わって熱塩循環に影響を与える。
D-Oサイクルを4~5回繰り返すとハインリッヒイベントが起きる

  • 南北熱シーソー

トーマス・クラウリーが提唱し、ダンスガードの後継者であるジョンセンらが改良したモデル
熱塩循環に乱れが生じた際に、北半球と南半球が逆位相で気候変動を起こすことで、バランスをとるというモデル

追記(20230629)

sorae.info
GOEとNOEの間の10億年を、真核生物・多細胞生物は生まれていたが、動物がなかなか生まれてこなかった進化の停滞期を「退屈な10億年」と呼ぶ。
この時期の地球の自転速度が、1日約19時間で固定されていたという研究結果。
地球の自転は、遡るほど早く、次第にゆっくりになっていったとされているが、これまでその減速率は一定だと考えられていたが、そうではなかったという研究
地球の自転は、月が海洋に影響する「海洋潮汐トルク」により減速し、太陽が大気を加熱する「熱潮汐トルク」で加速する。前者は弱く、釣り合っていた時期があり、それが「退屈な10億年」にほぼ一致。
これまで理論的には提唱されていたものを、今回、検証したという研究になる。
ちょっと、記事を読んでもちゃんとは理解できなかったが、ミランコビッチ・サイクルから間接的に算出したらしい。

自転周期が短かった過去の地球ではミランコビッチ・サイクルがより短い周期で巡ることになるため、過去のミランコビッチ・サイクルは当時の自転周期を間接的に示すことになります。

「堆積物の粒の大きさ⇒海面変動の周期⇒ミランコビッチ・サイクルの周期⇒1日の長さ」という順番で、地球の自転周期を知ることができるはずです。

退屈な10億年と自転周期が関わっていて、それがミランコビッチ・サイクルから検証されたという話だけでも、すごいなあという話なのだが、これにはさらに続きがある。

地殻変動の原動力となる月からの潮汐力の変化が乏しかったという仮説が候補の1つとして上がっていました。地殻変動が乏しければ火山活動による気候変動は起こりにくくなり、生物の栄養となる無機物(いわゆるミネラル)の供給も乏しくなります。

遊離酸素は紫外線の作用によってオゾンを形成し、オゾンは水蒸気よりも効果的に熱を吸収します。つまり、遊離酸素の増加は熱潮汐トルクを増大させた可能性があるのです。

えーとつまり、シアノバクテリアによる大酸化イベントによってオゾンが形成され、それが地球の自転速度の減速率を下げ、それにより地殻変動が乏しくなり、ひいては生命進化の速度を遅らせた、ということ?
地球システムの話はこれだから面白いけど、マジかよって話だな