是永淳『絵でわかるプレートテクトニクス』

プレートテクトニクスについての入門書
『地球・惑星・生命』 - logical cypher scape2プレートテクトニクスの章*1が面白く、もう少し詳しく読みたいと思ったため手に取った。
そもそもプレートテクトニクス理論自体が1960年代に確立していった、比較的新しい理論であるわけだが、それにしても、まだ解明されていない謎が多く、21世紀になってから議論されるようになったトピックなどもあって面白い。
また、プレートテクトニクス研究が、学際的な研究であることがよく分かる。
例えば流体力学、物性物理、地球化学、岩石学などこういう色々な学問分野の知見をあわせて、地球をシステムとして総合的に理解していくところが、地球科学の面白いところだなあと思う。
(残念ながら自分にはこれらの分野が基礎知識がないが……)


なお、数式をあまり使わず絵で分かるようにした旨のことが最初に書かれており、実際、イラストが多く、理解の助けになるものもあったので、間違ってはいないが、数式はまあまあ出てくる。
理系の大学生にとっては「数式あまり出てこない」扱いかもしれないが、ド文系がいきなり目にすると面食らうレベルではある。
ただし、本文は数式なくても読めるようにできているので、別に気にしなくても大丈夫。
というか、アイソスタシーの説明イラストの横に数式がバーッと並んでいるのに一瞬ビビったけど、それ以降はそんなにないかも。

第1章 地球はどんな構造をしているのか
第2章 プレートテクトニクスの発見
第3章 プレートテクトニクスはどのような現象か
第4章 プレートテクトニクスはいつはじまったか
第5章 地球以外の惑星にもプレートテクトニクスはあるのか
第6章 プレートテクトニクスと生命環境
第7章 プレートテクトニクスはいつか終わるのか
第8章 プレートテクトニクス理論のこれから

第1章 地球はどんな構造をしているのか

地殻・マントル・コア
→化学的性質による区分
プレート
→力学的性質による区分で、地殻とマントル上部の硬くなっている部分をさす。

第2章 プレートテクトニクスの発見

1858年には、アントニオ・スナイダー=ペレグリーニという地理学者が、化石の分布などから大陸移動の可能性を論じていた
化石の分布を説明するにあたっては、陸橋説が有力だった。
アトランティス大陸とかも陸橋の一種ではないか、とか言われていた
一方、アメリカでは永久不変説が主流。
というか、まだローカルなデータを地道に集める研究が主流で、グローバルな話への関心があまりなかったようだ。


大陸移動説の提唱者として知られるアルフレッド・ウェゲナーは、気象学者で、4度のグリーンランド探検を行っている。
大陸移動説については、1912年に学会発表した後、『大陸と海洋の起源』を1915に出版し、1920年に第2版、1922年に第3版、1929年に第4版、普及した英訳や日本語訳は第4版ベース。
全11章からなり、非常に様々な点について論じている。
筆者は、現代から見れば間違ったところもあるが、間違いなく名著であり、地球科学やるなら読むべき、と述べている。
アイソスタシー=浮力の原理
密度の違いで浮いている。


大陸移動説が主流にならなかった理由として、以下の3つが挙げられている。
(1)部外者だから
気象学者だったため、門外漢だと思われた。ケルビン卿による地球の年齢推測が誤っていたというのが、地学者の間では記憶に新しかった。
(2)冒頭の文章がいけない
当時のアメリカは、実証的な研究が主流で、また、複数の仮説を検証していくという方法論が推奨されていたが、ウェゲナーの本の冒頭は、いかにも素人が自分の思いつきをチェリーピッキングしながら論じているかのように読める文章であり、まじめに相手されなかった。実際には、様々な論点について詳細に検証しており、チェリーピッキングにはなっていないのだが、冒頭がそんな感じなので読んでもらんでなかったのではないか、と。
筆者はプレゼンテーション大事、と述べている
(3)早逝
4度目のグリーンランド遠征で亡くなってしまう。大陸移動説の支持者もいたが、広がりを見せなかった。
主流にならなかった理由として、ウェゲナーが大陸移動の原動力を明らかにできなかったからと言われることがあるが、大陸移動説を支持していたアーサー・ホームズがマントル対流が原動力となる可能性を指摘しており、また、陸橋説だってそのあたりは不明だったのだから、それは理由ではないだろう、と筆者は論じている。


大陸移動説が再び脚光を集めるのは、古地磁気学の成立による。
1895年、ある温度以上で磁性が消えるキュリー点が発見される。
1950年代 熱残留磁化の安定性が判明(ルイ・ネール)
その後、キース・ランカーンらによる地球磁場の復元が行われる。
見かけの極移動
→過去の磁場を復元すると、磁極が移動していることが分かるが、大陸ごとに動き方が違って、大陸が移動していると整合する
地球磁場の反転
→地球の歴史上、何度か磁極が反転していることが分かるが、不定期。この地磁気異常から年代測定が可能。海嶺から左右対称の地磁気異常の記録があり、海洋底拡大説が唱えられる。海嶺から順に海底が広がっており、それぞれの年代ごとの磁気が記録されている、と。
海溝の震源分布
→沈み込み帯が提唱される。
海洋底の拡大と沈み込み帯の双方により、プレートテクトニクス説が成立
1965年 ロバート・ゴードン 物性物理からマントル対流が可能であることを示す

第3章 プレートテクトニクスはどのような現象か

熱伝導・輻射・移流
対流:熱伝導と移流の組み合わさった現象
熱伝導で生じた熱境界層が熱くなり不安定になって動き始める(移流)ことで対流が起きる
境界層がいつ不安定になるかは、粘性率で決まる
マントル対流は上から冷やされることで起きる

  • 熱拡散率

熱伝導率、比熱、密度を組み合わせた定義される量
熱拡散率に時間をかけて平方根をとると、その時間でどれくらいの範囲に熱が広がるかがわかる。
岩石の熱拡散率は、10のマイナス6乗㎡毎秒
1時間で6cm、1億年で数十kmとなる。プレートの厚さ・成長速度は熱拡散率で決まる

  • 熱的アイソスタシー

プレートが成長して分厚くなると密度も高くて重くなる
若い海底よりも古い海底の方が重くて沈降する→海が深くなる。
そして、いずれマントル深部へと沈み込む
一体「いつ」沈み込むのかは、実はよくわかっていないが、現存する海底はどこも2億年よりも若いので、いずれ必ず沈み込むだろうと考えられる。
「何故プレートが沈み込むのか」は「なぜプレートテクトニクスが起こるのか」と同じ

  • 熱流量

熱伝導の場合と比べてどれくらい効率がよいのか
これをヌッセルト数と呼び、マントル対流は50

  • プレートとリソスフェア

海洋プレート:大陸地殻を含まないプレート/海洋性リソスフェアからなる
大陸プレート:大陸地殻を含むプレート/海洋性リソスフェアと大陸性リソスフェアの両方からなる
海洋性リソスフェア:海底以深の構造
大陸性リソスフェア:大陸以深の構造

  • 海洋性リソスフェア

マントルは深部では固体だが、80kmより浅いと圧力が下がることで融点が下がって部分溶融する。そして海底地殻を形成し、横に平行移動するようになる。これがプレートもしくはリソスフェアで、厳密には「熱的リソスフェア」と呼ぶ。
熱的リソスフェアのうち、特に硬い部分を「力学的リソスフェア」、さらに力学的リソスフェアのうち弾性的にふるまう部分を「弾性的リソスフェア」と呼ぶ。
これに対して、マグマが抜けて粘性率が高くなった部分を「化学的リソスフェア」と呼ぶ

  • 海洋プレートの一生

水平移動したのち、沈み込み帯でマントル深部に戻る
水平移動中に、水が染み込み含水鉱物となる
しかし、沈み込む際に、圧力が高まり脱水反応が起きる。
放出された水によって部分溶融が起きて、火山活動がおこる→島弧火山

ホットスポットによる海山・洋島

  • 大陸性リソスフェア

海洋性リソスフェアと異なり、沈み込まずに残ったもの
厚さが時間の平方根に比例しているわけではない
どのようにして作られたか議論中だが、強固な化学的リソスフェアが残ったものか

第4章 プレートテクトニクスはいつはじまったか

過去のプレート運動の復元

→海洋底が広がっていったことが分かるので、これを逆に進めていくと過去の状態が復元できる。海底が閉じていくので、大陸が一つにつながる
パンゲア
→2億年前くらいまでしか復元できない。それより古い海底は沈んでいる。

  • 地磁気学・化石の分布による復元

さらに古い年代については、元々大陸移動説のきっかけだったように、化石分布からの復元がある
しかし、復元に使える化石が出てくるのは顕生代だけ

  • 造山帯の年代からの推測

造山帯の岩石の年代はかなり古くまで遡れる。
ポール・ホフマン
パンゲアよりさらに以前に、ローディニア、ヌナ、ケノアランドという超大陸がそれぞれあったと推測
超大陸形成サイクル(ウィルソン・サイクル)

マントル対流は冷却プロセスなので、過去に遡る程マントルは熱い。熱いほど対流は激しくなるのだから、プレートテクトニクスの速度も速かったはず、と思われてきた。
が、その速度で計算すると、冷却が速く進みすぎて、今の地球の温度よりも低くなる。また、岩石に記録されている実際の温度変化ともズレがある。
内部熱源の初期値がもっと高かった、という修正で対応してきた。
しかし、内部熱源は放射性壊変によるもので、初期値を恣意的にいじれるものではない。

1990年代、複雑な物性の計算が可能に
水の存在による粘性率の変化が分かってきた。
マントルが熱いとプレートから水が抜けて硬くなる。硬くなるとゆっくりになる。
熱いほど速度が遅くなるとして計算すると、岩石学などの知見と整合する。
本当にそうなのかはまだ分かっていないが、他にも色々な現象と整合的であることが分かってきている。

諸説あり、謎。
直接の痕跡が残っているのは、10億年前
ケノアランド形成が、27億年前
付加体などの年代が、30億年前
ジルコンの生成にはプレートテクトニクスが必要という説もあり、それならば冥王代


プレートテクトニクスがどうして生じたのかは謎。
流体力学的には、マントル鉱物の粘性率で流体計算をすると、硬殻対流stagnant-lid convection*2 になってしまうと考えられる。
これは、表層が硬くて沈み込まないという状態で、つまりプレートテクトニクスが起こらない。
なぜ地球でプレートテクトニクスが起こるのか、まだよくわかっていない

第5章 地球以外の惑星にもプレートテクトニクスはあるのか

金星:磁場がない、表面が若い
火星:今は磁場がないが、磁気縞模様が南半球にある
水星:プレートテクトニクス云々できる情報がない

硬殻対流では、中央海嶺や島弧火山はないが、マントルプリュームによる火山はできる
マントルから大気への放出は起きる
プレートテクトニクスは、それに加えて、沈み込みが生じる。ユーレイ反応によって固定された二酸化炭素が、沈み込みによりマントル深部へと運ばれ、大気から二酸化炭素を減らす
硬殻対流の金星・火星とプレートテクトニクスの地球の違い

プレートテクトニクスが何故生じるのかについて、水の有無が決め手ではないかという考えが有力だが、これについて筆者は「みなそんなに深く考えているわけではなく(...)単純な推測にすぎません。」と述べていて、ちょっと面白かった。
地球と火星・金星の違いが水の有無なので、とりあえずそう推測しているだけ、という話。
熱クラックによって海水の取り込みが生じているという仮説があるが、未検証
海があることでプレートテクトニクスが生じ、それにより核で対流が起きて磁場が生じ、磁場の存在により水が維持される、というフィードバックシステムがあるかも。

  • D/H比と金星の水

水素と重水素の存在比率。金星だけ、重水素が多くて、かつて海洋があったがこれが蒸発してなくなってしまったことを示唆している(重水素は蒸発しにくいので重水素だけ残る)。
だとすると、金星にも海があったのにプレートテクトニクスが生じなかったのは何故か、という問題


太陽系外惑星についても簡単に触れられている

第6章 プレートテクトニクスと生命環境

地球の大気は、二次的に生じたと考えられる。
酸素に次いで多いアルゴンだが、安定した同位体として、アルゴン36、アルゴン38、アルゴン40がある。
太陽系での存在比率ではアルゴン36が多いのに対して、地球大気では圧倒的にアルゴン40が占めている。
アルゴン36が少ないのは、地球の初期段階において失われたから。
アルゴン40は、カリウムが放射性崩壊して生じる。火山性ガスとして地球内部から放出されたと考えられる。
初期大気が失われたあとで、火山活動によって地球大気が生成されたと考えられる。
これは、熱い程ゆっくりマントルが対流するという考えとも整合する。

3つのミランコビッチ・サイクルのうち10万年周期のものについては、二酸化炭素濃度変化と対応している。
炭素循環
ユーレイ反応により固定された二酸化炭素が沈み込みによってマントルに戻る
ユーレイ反応の一部をなす化学風化は、気温がおこると速く起こる→炭素循環における負のフィードバック
酸素の濃度は20%だが、これがどのように制御されているかは不明

相対標高一定の原理
昔はプレート運動が遅かったとすると、海底の年代が古くなり海底が深くなるが、相対標高が一定だとすると、それだけ多くの海水があったことになる
多かった海水量は、プレートの沈み込みによって減っていく
海水が減ると大陸地殻が海面上に出てきて、化学風化が起きるようになる
また、海水がマントルへと沈み込んでいったということは、時間をさかのぼると、マントルに入っている水の量が少ないことになる。熱いと粘性率が下がるが、水の量が少ないと粘性率が上がるので打ち消しあう。太古代や冥王代にもプレートテクトニクスが起きやすい可能性

  • 火成活動がもたらすもの

洪水玄武岩と海台
いずれも巨大火成岩岩石区と呼ばれる(陸上だと洪水玄武岩、海中だと海台)
マントルプリュームによって生じると考えられているが、要因はまだよくわかっていない

第7章 プレートテクトニクスはいつか終わるのか

  • 地球の冷却

冷えていくとプレートテクトニクスの速度が遅くなり、終わる

  • 太陽の一生と海洋の蒸発

しかし、冷却によるプレートテクトニクスの終わりより、太陽活動の変化によるプレートテクトニクスの終わりの方が早く来る
太陽光度の上昇→暴走温室効果→海洋蒸発
水がなくなると、プレートテクトニクスは停止すると考えられている

第8章 プレートテクトニクス理論のこれから

そもそも理論的によくわかっていない、方程式は分かっているけどそれを解くのが大変、データをとるのが大変、多くの分野にまたがっているなど地球科学の難しさを挙げている。


プレートテクトニクスの3つの謎

海洋性リソスフェアのさらなる観測が鍵かも

マントルの粘性率が重要だがまだ不明な点が多く、今後、岩石の化学分析が鍵かも

初期条件を調べるためには、初期地球のマグマオーシャン研究が鍵かも


プレートテクトニクスが関係するその他の難題

大陸地殻は平均40kmだが理由は不明
海洋地殻の厚さは平均6kmだが、海嶺で部分溶融したマグマの量がその厚さ分だから。

  • 地球磁場と海

*1:なお、該当の章の執筆者=本書の筆者で、該当の章は、本書で使われている図がいくつも用いられていて、本書のダイジェスト版であった。

*2:『地球・惑星・生命』 - logical cypher scape2では特に何の注釈もなく「硬殻対流」という語が使われていたが、本書では、まだ訳語が定まっておらず、本書では「硬殻対流」と訳すとされていた