井田茂『系外惑星と太陽系』

TRAPPIST-1に7つの系外惑星が発見されたというニュースもあったばかり(TRAPPIST-1関連記事まとめ - logical cypher scape)で、非常にタイムリーな1冊
長沼毅と共著の長沼毅・井田茂『地球外生命 われわれは孤独か』 - logical cypher scapeとセットで読むとよいかも。
同じく井田さんの本としては、以前井田茂『系外惑星』 - logical cypher scapeも読んだことがある。
内容として重複するところもあるが、改めて広い視野から整理されていると思う。
本全体のコンセプトとしては、「天空の科学」と「私の科学」を対比させながら、「太陽系中心主義」「地球中心主義」を相対化させていくものとなっている。


また、原始円盤の物質密度は一様でなかったのではないとか、小石集積モデルなど、これまでの標準理論の問題点を解決するための新しいアイデアの紹介もされており、惑星形成理論という分野が今まさに進展していることがわかる。
個人的には、浮遊惑星の話とか、とてもSFチックだし、興味深かった

系外惑星と太陽系 (岩波新書)

系外惑星と太陽系 (岩波新書)

第1章 銀河系に惑星は充満している
 1 惑星系は普遍的な存在である
 2 系外惑星をどうやって見つけるのか
 3 系外惑星の姿
第2章 太陽系の形成は必然だったか
 1 美しい古典的標準モデル
 2 円盤から始まった
 3 寡占成長モデルの成功と微惑星形成問題
 4 巨大衝突モデルの成功と暗雲
 5 木星型・海王星型惑星の形成問題
第3章 系外惑星系はなぜ多様な姿をしているのか
 1 異形の巨大ガス惑星のできかた
 2 スーパーアースが示すもの
 3 太陽系をふり返る
第4章 地球とは何か?
 1 地球の構成物質
 2 地球は「水の惑星」ではない
 3 地球の内部構造
 4 地球の表層環境
第5章 系外ハビタブル惑星
 1 難しい「ハビタブル条件」
 2 地球たち
 3 巨大ガス惑星の衛星たち
 4 赤い太陽の異界ハビタブル惑星
終章 惑星から見た、銀河から生命へ

第1章 銀河系に惑星は充満している

系外惑星の本であれば必ず載っているが、系外惑星を探す方法として「ドップラー法(本書では「視線速度法」)、「トランジット法」、「重力マイクロレンズ法」、「直接撮像法」、「位置観測法」が紹介されている。最後のだけ知らなかったが、1970年代から使われながらも系外惑星を一つも発見することができていない方法らしい。
それぞれの方法によって、得意とする検出範囲が異なる。
ドップラー法とトランジット法は、軌道半径が小さな惑星
直接撮像法は、数十天文単位以上の惑星
重力マイクロレンズ法は、火星くらいの軌道半径の惑星


これまで発見されている系外惑星を、軌道半径や離心率、質量でプロットし、全体の分布や傾向についてまとめられている。
ホット・ジュピターの中には、密度が非常に低い奴や、岩石・氷としか思えないほど密度の高い奴もあるらしい
ホット・スーパーアースやホット・アースは、ホット・ジュピターよりはるかに多く存在し、太陽型の星の2つに1つに存在する見積もり。また、一つの惑星系に複数のスーパーアースやアースが回っているらしい

 

第2章 太陽系の形成は必然だったか

第2章は、古典的な惑星系形成モデルを紹介するとともに、近年の系外惑星発見などによる見直しで出てきた問題などを洗い出している。
ここでいう「古典的標準モデル」とは70~80年代、太陽系の形成を説明するために作られたものである、
ところで、ちょっと皮肉な歴史というか、1995年10月に初の系外惑星が発見されているのだが、その直前の8月に、それまでずっと系外惑星を探し続けていた研究者が「少なくとも木星レベルの系外惑星は存在しない」という論文を発表していたらしい。


円盤形成→ダストの凝縮→微惑星の形成→暴走成長による原始惑星の形成→寡占成長とその限界としての孤立質量→巨大衝突期
※寡占成長および孤立質量は、古典的標準モデル以後に、筆者らによって提案された概念だが、古典的標準モデルの総仕上げともいえるモデル。


原始惑星円盤の観測には電波望遠鏡が使われている
→原始惑星円盤は温度が低いので可視光ではなく電波(可視光より波長が長い)を出している

  • 問題点(1)メートルの壁

→ダストが微惑星まで凝縮する前に中心星に落下する

  • 問題点(2)火星ができない

→計算能力の向上に伴い、以前は省略していた範囲まで広げてシミュレーションを行ってみると、水星軌道以内にも惑星ができ、火星軌道には火星よりも大きい惑星ができる。太陽系形成を説明するための古典的標準モデルで、太陽系の配置が再現できない!

  • 問題点(3)月の巨大衝突についての問題

→月は巨大衝突によってできたというのが定説になっていが、近年、月の石の再分析により、地球と月の同位体比があまりにも一致しているという問題が出てきた。
→これについては最近、こんな説が出ていた→月の誕生諸説、決め手なし 巨大衝突説に矛盾→新説・複数衝突説

  • 問題点(4)惑星落下問題

→原始惑星形成後に、中心星へと軌道が落ち込んでしまう

第3章 系外惑星系はなぜ多様な姿をしているのか

ホット・ジュピターのことを考えると、惑星落下は起きるものと考えた方がよい
むしろ、太陽系の木星土星の方が特殊
→これについては、一度、火星軌道まで移動した後、再び遠ざかったという「グランドタック・モデル」が提唱されている(曲芸的なモデルなので、かなり特殊な条件が揃わないと起きないが)


エキセントリック・ジュピターについて
同程度の質量の惑星が3個以上存在すると、お互いの軌道を乱すことが分かった
ノートパソコンでもできるシミュレーションでわかるが、1996年の論文まで誰も気付いていなかった。
2個までなら起きない。だから、太陽系では木星土星は円軌道だが、天王星がもしガス惑星になっていたらこれが起きてた。そして、天王星がガス惑星になるか氷惑星かになる違いは結構微妙なところらしい。
ある惑星は系外へ飛び出し、残った惑星は歪んだ楕円軌道を描くようになる。
普通、軽い惑星ほど軌道が乱れやすく、重い惑星ほど円軌道になるのだが、系外惑星全体の分布を見ると重い惑星ほど離心率が高いという結果が得られた。しかし、これは、重い円盤ほど重い惑星が多くでき、3個以上になる確率が高くなるので、軌道が歪みやすくなる傾向を示していたにすぎない。
重力マイクロレンズ法において、実際に系外にふきとばされ、浮遊惑星となった天体が観測されている。
また、シミュレーションにおいて、こういう現象が起きると、地球型惑星も中心星に落とされるか系外に吹き飛ばされるか、となる


逆行エキセントリック・ジュピター
惑星は、円盤から生まれるので、円盤の回転方向と同じ方向に回る。ところが、逆行するエキセントリック・ジュピターが発見されている。
長楕円軌道を描くと、回転軸が裏返ってしまうことがシミュレーションによってわかっている
このことは、実際に逆行エキセントリック・ジュピター発見前に発表されており、発表したのは著者の研究室に所属する大学院生だったとのこと


スーパーアースと惑星落下問題
これまで円盤の中の物質の密度は一様だと考えられていたが、実は凸凹しているのではないかと考えてみると、その粗密具合で惑星が止まるのではないか、と。
また、材料物質がある特定の範囲に集中していたら、という条件でシミュレーションしてみると、水星の内側に惑星がなく、火星軌道に火星くらいの惑星が見事にできたという結果も出ているらしい。


小石集積モデル
メートルの壁を解決する方法として、近年議論されているモデル
微惑星が集積されるのではなく、ダストが中心星へと落下する中で「渋滞」が発生し、そこで一気に原始惑星サイズまで成長するというもの
まだ、提唱されたばかりで、あまりじっくりと検証されていないらしいが、古典的標準モデルとは異なる惑星系が形成されると考えられ、筆者は「大変おもしろい」と述べている。

第4章 地球とは何か?

この章では、様々な観点から、地球という星の特徴が、普遍的なものなのか個別的なものなのかを整理していく。

1 地球の構成物質

岩石と鉄→これはだいたい同じサイズの惑星なら同じ(水星だけ予想より鉄の割合が多いという例外)
放射性元素→地熱の半分を供給(残り半分は衝突時のエネルギー)していて重要だが、銀河内での分布は非一様。銀河のどこで形成された惑星かで差が大きそう

2 地球は「水の惑星」ではない

水・炭素・窒素→凝縮されたものが地球に持ち込まれた。水は3AU以遠、アンモニア二酸化炭素は10~20AU以遠で凝縮されるとみられるので、地球の軌道上では凝縮しない!
どうやって持ち込まれたかは諸説ある。
今の地球の水の量(少ない)から考えると、小惑星・隕石説が人気だが、巨大惑星があることが必要で、また、偶然に頼っていて、他の系外惑星系で起きたかどうかわからなさすぎる。
氷原始惑星が軌道移動してきた説は、供給される水の量が多すぎる
氷塊モデルは、かつて太陽の温度は低かったので、水の凝縮はもっと近く、氷塊が運ばれてきたという説で、偶然性が低いが、炭素・窒素の供給が説明できない

3 地球の内部構造

コアとマントル→必ずわかれる
磁場→コア(鉄)の熱を冷やすために対流が発生し、これが磁場を発生させるのだが、小さい惑星ほど早く冷めることから考えられる予想に反して、水星には強い磁場があり、金星と火星には磁場がない。このことはまだ説明できていない。
マントル対流→惑星を冷ます過程なので、スーパーアースやアースでも必然的に起こる。スーパーアースは大きいので、中心星の熱がなくても熱を維持し続けるという予想があり、中心星から弾き飛ばされた浮遊スーパーアースでも地熱を維持し、ひいては海も維持し続けているかもしれない、という予想もある!!
この節の最後で筆者は、地球科学者の参入が必要だと述べているが、天文学者は地球科学に苦手意識を持っているらしい。このあたりは、当の科学者でないとわからない感覚なので面白い(ちなみに筆者は修士で地球科学を専攻してたらしい)・

4 地球の表層環境

プレートテクトニクスは炭素循環、ひいては気候安定のために超重要! 海が必要?
TMTやE-ELTが稼働したら、反射率の違いを測定して、系外惑星の海と陸の分布が観測できるかもしれない! このアイデアは、本書では「日本人若手研究者による」と書かれているが、『地球外生命』の方では、東工大の藤井、東大の河原によるアイデアと名前が書かれていた。
地球と金星の大気の違い
→「若い太陽のパラドクス」若い太陽は温度が低かったが、海は惑星形成当初からあったというパラドクス→二酸化炭素が今より多くて温室効果が働いていたのではないか
→その後、プレートテクトニクスによる炭素循環で二酸化炭素が減ったかどうかが、地球と金星の大気の違いへつながった。のではないか
脱ガス大気
二酸化炭素が多くなるが、酸化的環境で初期の生命が生まれるか? 還元的環境がどのように用意されたか考える必要がある。
TMTやE-ELTの稼働で、系外惑星の大気の分光観測も可能になる
月の存在
自転軸の傾きを安定させる。月がないと、自転軸の傾きが大きくなって気候が不安定になったのではないか。系外衛星の観測は困難で、衛星形成が巨大衝突という偶然に頼っているので、予測が困難

第5章 系外ハビタブル惑星

近年の系外惑星関連のニュースは「第二の地球」というキーワードが使われがちだが、そもそも「第二の地球」とは?
ここでは、地球とは似ても似つかない環境の「第二の地球」を紹介している。
と、その前に地球における生命誕生の歴史について簡単に論じられているが、そこで「熱水噴出孔が生命誕生の場と考える意見も根強い。一方で、アミノ酸を長くつないでタンパク質を作るステップは脱水反応なので、水の中では不都合だという議論も」とある。
この問題はニック・レーン『生命、エネルギー、進化』 - logical cypher scapeでも取り上げられていたのだけど、ちょっと難しかったので、メモるのを端折ってしまったところだった。ニック・レーンはなんか解決法を提示していたはず。


この章でも、まずは全体の分布などからハビタブル・ゾーンについて考察され、またハビタブル・ムーンについても触れられている。
そして最後に、M型矮星を回る地球型惑星について紹介されている。
TRAPPIST-1しかり、プロキシマ・ケンタウリしかり、近年、注目を浴び、発見も相次いでいるものだ。
ここでは、「第二の地球」とニュースでは報道されやすいが、M型矮星を回る地球型惑星がいかに「異界」であるか、という観点から紹介されている。
とはいえ、生命誕生の可能性についてはわりとニュートラルな書き方になっていると思う。
太陽型の星を探す方が、より地球に似た惑星は見つかるのではと思うのだが、天文学者的には、M型矮星の方が圧倒的に観測しやすい、ということでM型矮星への注目が大きいようだ。
観測しやすいというのは、M型矮星の場合、ハビタブルゾーンが中心星に近いので、トランジット法やドップラー法の観測範囲内に収まるから。

中心天体の見かけの大きさがある一定以上になるような軌道を回っていると、いつもその中心天体に同じ面を向けるように自転が必然的に調整される。(p.175)

つまり「一日」がない。潮汐力の影響で自転軸は公転面に垂直になるはずなので、四季もない。(p.176)

紫外線やX線の強さは地球の100倍以上になり、フレアは直接惑星に届く。(...)裏側への影響は少ない。(p.177)

また、磁場があればフレアの影響を防げるが、もし複数の惑星があると潮汐加熱が生じ、それによってコアが冷めず対流が起きず磁場も発生しない可能性があり、実際、中心星に近い惑星は編隊を作っていることが多い、と。

水や炭素、窒素の供給に関しては、太陽型星の場合よりは有利かもしれない。(p.178)

水供給があまりにも効率的なため、M型星のハビタブル惑星では、惑星全体の大半は水で占められ、海は深さ数千kmに及ぶかもしれない。(p.179)

実際の観測でも密度的にそう考えられれている。
M型星は初期の頃に活動が活発で、海はすべて水蒸気になってしまった可能性も。

終章 惑星から見た、銀河から生命へ

重元素の存在比率による銀河ハビタブルゾーンについて
(中心は巨大ガス惑星ばかり、へりは大気を保持できるだけの大きさにならない)
バイオマーカーについて


「地球に似た惑星」について、一個もないのも嫌だけどたくさんあるのも嫌だという感情が人間にはあって、それで条件を厳しくしたりしてはいないか、と筆者は繰り返し述べている

ハビタブル条件を、惑星の質量・軌道、水・炭素・窒素の供給にまで条件を捨象してしまうと、太陽系に似た惑星系である必要も、地球に似た惑星である必要もなくなり、さらには惑星である必要もなくなる。第5章では、M型星のハビタブル・ゾーンの惑星や巨大ガス惑星の衛星などの「異界」のハビタブル天体を議論した。(p.193)

まずは、高精度の天文観測によって(バイオ・マーカー云々の話に一足飛びに行くのではなく)惑星表層環境のデータを集めることが先決である。(...)「単なる氷惑星」だろうと想像していた冥王星でも、実際に探査機ニューホライズンが行ってみると、想像を遥かに超えた表層環境を持っていた。(pp.197-198)

おわりに

今の大学生は、生まれたときにはすでに系外惑星が発見されていて、ものごころついたときにはスーパーアースもエンケラドゥスの噴水も発見されていた、ということが書いてあった!
まあそうだよねえ

追記(20170402)

過去のNewtonを眺めてたら、2014年4月号(『日経サイエンス7月号』『Newton7月号』 - logical cypher scape)で惑星形成理論扱ってた
恒星の誕生から始まって色々と
ちりから微惑星になる過程について「重力不安定モデル」と「付着成長説」というのが紹介されているが、これなんだろう?
ニースモデルやグランタックモデルの紹介もあり
水星のコアが大きい謎、火星が小さい謎、木星のコアの謎などもある