井田茂『系外惑星』

本書によれば、系外惑星が最初に発見されたのは1995年。それ以降現在に至るまで、多くの系外惑星が次々と発見され続けている。あとでもう一度触れるが、観測技術の発展と、一度発見されたことによってどのように探せば見つかるかということが分かったことで、一気に発見数が増えたようだ。
というわけで、系外惑星の研究は今まさに進行中の学問であり、この本はそうしたこの学問の「若さ」による興奮が伝わってくるような本でもある。
その一方で、天文学というのは非常に古い学問でもあるわけで、古さと新しさをあわせもつ分野だなーと思ったり。


系外惑星』というタイトルではあるが、系外惑星が主題的に扱われるのは最後の章のみで、それ以外の章は太陽系について書かれている。とはいえ、それもまた系外惑星について知るために必要だからであり、話としては系外惑星へと向かっていく。
最初目次を見たときは、「系外惑星の話は最後だけか」とちょっと残念に思ったのだが、太陽系の話そのものも十分も面白かったし、それだけでなく、このことは実は系外惑星にも当てはまる(あるいは当てはまらない)のだけど、詳しくは後で述べてるから待ってね、という箇所があちこちになって、読んでいてなかなかワクワクするw

1章 宇宙の理を知る――重力

天動説、地動説、惑星、万有引力の法則、ケプラーの法則の説明
ダークマターの説明、定常宇宙論と膨張宇宙論の論争史

  • 負の比熱

恒星は、温度を上げるのにエネルギーを抜かなければならない。惑星は、エネルギーが抜かれると内側の軌道に移る、すると位置エネルギーが解放されて回転速度が増す。恒星は、熱を出すと自分の重力で縮んで位置エネルギーが解放されて、温度が上がる

核融合が安定している状態を「主系列」段階と呼ぶ
重元素はどうやって作られたのか。ガモフは、ビッグバンの時に作られたと主張、それに対し、ビッグバン宇宙論を批判するホイルが、恒星の核融合によってできたという説を提唱。また、林がビッグバンでは元素はできないことを示す。定常宇宙論と膨張宇宙論の論争において、定常宇宙論は誤りだったが、元素の合成については正しかった。
万有引力の法則を使うと、惑星と惑星の軌道の互いの影響が計算できる。天王星の軌道のふらつきから、計算によって海王星は発見された。冥王星もまた同様に発見されるのだが、実はこちらの計算は誤りで、偶然の一致によって発見されてしまった。これがのちの「悲劇」に繋がると筆者は述べる。

2章 惑星はどんな姿をしているのか

三角測量で直径が、衛星の軌道半径とケプラーの法則から質量が分かる。直径がわかると、惑星は球なので体積が分かる。体積が分かると密度が分かる。密度が分かると、平均的な成分が分かる。
スペクトルを調べると(分光観測)大気の成分が分かる。
ケプラーの法則万有引力の法則は天文学をスタートさせた革命的な概念で、19世紀に登場した分光観測は第二の革命、と筆者は書いている。

  • 惑星の分類

鉄と岩石でできた地球型惑星(水星、金星、地球、火星)
水素とヘリウムのガスででき、地球よりも質量が2桁くらい大きい木星型惑星木星土星
H2O氷ででき、地球よりも質量が1桁くらい大きい海王星型惑星(天王星海王星
系外惑星では、地球よりも10倍くらい重いが岩石でできていると思われるスーパーアースがあり、この分類がかっちりとは当てはまらない。
また、太陽系の惑星はほとんど同心円状の軌道を描くが、理論上はもっと歪んだ楕円軌道でもよく、実際に系外惑星では重い惑星ほど歪んだ楕円軌道をもつ傾向がある。

3章 惑星はどのようにできるか――太陽系をモデルに

ここで、「なんとかの物理量はなんとかの変数の何乗に比例して、別の物理量は何乗に比例するので、変数が小さくなると、どうのこうの」という話は科学ではよくでてくるので、これに慣れると科学が分かるようになる、と書かれている。このあとでも、これは例の何乗の云々の奴ですみたいなものが出てくる。自分は全然慣れないので、どうも読み飛ばしてしまうが。
原始的な恒星のまわりにはガスと塵でできた円盤ができる。
塵が凝縮して合体して惑星になっていくわけだが、その時、その微惑星が塵を集められる範囲を「フィーディング・ゾーン」と呼び、そのゾーンの質量を全て集めたものを「限界質量」と呼ぶ。内側ほど限界質量が小さい。遠くなると、成長が遅い。
円盤説はもとを辿ると、カント、ラプラスによるものだが、20世紀前半に「遭遇説」が優勢になる。その後、林とサフロノフによって現代的な円盤説が確立される。

  • 1メートルの壁

塵は静電気力で、微惑星は重力で固まっているが、1メートルくらいの固体は、電気でくっつくには大きすぎ、重力でくっつには小さすぎる。
また、1メートルくらいの塵は、ガスからの摩擦をうけて減速してしまい、遠心力と中心星からの重力との釣り合いが崩れる。つまり、塵が1メートルまで大きくなると、中心星の方へと落ちてしまう。
これでは、惑星ができない。この問題は、まだ解決されていない。

微惑星の重力は他の微惑星の軌道を歪ませ、それによって軌道が交差すると衝突してさらに大きくなる。こうして爆発的に成長するが、他の軌道を歪ませるのには質量によって限界が決まっていて、これがフィーディング・ゾーンの広さを決める。
微惑星の軌道は歪んで楕円軌道になるが、平均をとると円軌道になるので、大きくなった微惑星の軌道も円軌道になる。
こうしたことは、コンピュータ・シミュレーションによって実際に確かめられた。コンピュータ・シミュレーションを筆者は、分光観測に匹敵する革命と呼ぶ。

既に述べたように原始惑星は円軌道になるが、今度は原始惑星同士で軌道を歪めはじめて、再び衝突が始まる。
先ほどの微惑星同士の衝突によって、火星サイズの惑星は10万年程度でできるが
このジャイアント・インパクトは、なかなか惑星同士がぶつからないので、地球サイズの惑星ができるのに数千万年ほどかかる。
さて、この副産物として月ができたというのが現代の定説となっているが、筆者は、そんなに都合いくだろうかと考え、ジャイアント・インパクトによる月の誕生説を否定するために、シミュレーションをやっていたことがあるらしい。そしたら、見事にできてしまったそうだ。

木星土星くらいの距離だと、温度が低く、H2O氷ができる。また、水素と酸素は量が多いので、塵の量も増える。質量が大きくなると、ガスも引きつけることになる。
ところで、ガス惑星になるためにはまず、地球質量の5〜10倍に成長する必要があるが、1メートルの壁同様、ここにも同じ壁があって、地球質量より大きくなると中心星へと落ちていってしまう。これについてもよく分かっていないが、これが起きないとスーパーアースが説明できない。

孤立質量は大きいが、軌道半径が大きいので速度が遅く、空間密度も低いので、成長が遅い。ガスは、内側による木星土星にとられてしまっているので、H2O氷の固体はできてもガス惑星としては成長できない。
海王星天王星は、今よりも内側の軌道で成長したのち、外側へとはじき飛ばされたらしい。
海王星冥王星の関係は特殊で、冥王星海王星の共鳴軌道を回っている。海王星が外側へ動くと、共鳴軌道も影響を受け、これが周辺の小天体を集める。これが、カイパーベルト天体になったとされている。
冥王星は惑星ではなくなったことによって、「辺境の惑星」から「外縁天体の盟主」へとむしろ地位が上がったのだと筆者は書いている

4章 僕たちが住む地球

地球科学はデータを直接集められるが、天文学は間接的なデータをもとに行われる。
天文学では対象はたくさんあるので原理や法則を導き出せるが、地球科学は対象が地球一つしかないので普遍的なのか地球独自なのかが分かりにくい。
系外惑星の研究は、この二つの学問を融合させる。

  • 地球内部

鉄のコア(固体部分)、鉄のコア(液体部分)、岩石のマントルがあって、液体のコアとマントルは対流しているが、これは惑星形成期の熱を外に出そうとするため。
熱を運ぶやり方には、「熱伝導」「輻射」「対流」があり、高温だと輻射が、そうでもないと対流が効率的になる。
鉄が対流することで磁場が発生し、これが太陽風などからのバリアになる。
岩石であるマントルも対流しているが、これもまた熱伝導に比べるとはるかに効率的だから。
1950〜60年代にプレートテクトニクス理論ができる。
プレートテクトニクスによって大陸は成長し、また炭素循環が起きて、地球の気温が安定するようになった。
地球の大気は、岩石と植物由来。

  • ハビタブル・ゾーン

H2Oが液体でいられる温度である範囲のことだが、この範囲に惑星が入っていたからといって、海があることにはならない。地球型惑星が生まれるような距離では、氷が凝縮しないので、そもそも惑星の材料にH2Oがない。H2Oを含む彗星か小惑星の衝突が必要となる(地球全体の0.02%なのでちょっとあればいい)。
では、彗星はどこから来るかというと、オールトの雲からくるとされているが、これはまだ実際に観測されてはいない。
火星と木星のあいだの小惑星帯も形成過程はまだ不明。
系外のハビタブル惑星においてH2Oがあるかどうか考えるためには、オールとの雲や小惑星帯の形成過程が分からないとならない。

5章 宇宙にあふれる惑星系

1940年代から探索が始まる
惑星と中心星は、その重心を中心にして回転している。なので、中心星も円を描いて回っているはず。当初、「位置観測法」というもので、その動きを観測しようとしたが、これはうまくいかなかった。次に、「ドップラー法」が使われるようになると、連星、伴星が見つかるようになったが、惑星はなかなか見つからなかった。
1995年、マイヨールがついに発見する。それは、「ホットジュピター」と呼ばれ、中心星から0.05天文単位を回る巨大ガス惑星だった。太陽系の木星は5.2天文単位の距離を回っているから、異常に近い。このような存在は想定外だったので、検出は簡単なはずだが、読み取ることができなかった。もともとマイヨールは連星の専門家で、惑星の専門家ではなかった。
その後は怒濤のように発見が続き、とてつもなく歪んだ楕円軌道を描く「エキセントリックジュピター」も見つかった。
2008、9年には、95年と比べて観測精度が10倍くらいよくなり、地球の10倍くらいの質量をもつ「スーパーアース」の発見が相次ぐ。
2011年、ケプラー宇宙望遠鏡は2300個の惑星候補を発見、大半がスーパーアースで、地球サイズのものもあった。
ケプラー宇宙望遠鏡が使っているのは「トランジット法」で、惑星によって起きる中心星の食を観測するが、これと「ドップラー法」をあわせて観測されると、「惑星候補」ではなく「惑星」の発見になる。トランジット法では惑星の直径が、ドップラー法では質量が測定できる。
直径と質量が分かれば密度が分かり組成が分かる。スーパーアースには、岩石惑星ではなく、氷惑星や水素・ヘリウム惑星があるらしい。
2007年には、ハビタブル・ゾーンに入っていると思われるスーパーアース、グリーゼ581c、dが発見されている。

ホットジュピターやエキセントリックジュピターはどのようにできたのか。
太陽系よりも重いガス円盤の場合、フィーディング・ゾーンが広がり、大きい惑星が太陽系より多くできる。すると、それらの惑星同士が互いに軌道に影響を及ぼし、歪んでいく。これがエキセントリックジュピター。
さらにこの歪みが大きくなり、中心星に近付きすぎて、重力につかまったのがホットジュピター
ホットジュピターはそれだけでなく、ガスが中心星に落ちていく時に引きずられていったものもあるのではないか、とか。
スーパーアースは、既に述べたように、地球型惑星がある程度大きくなると中心星へと落ちてくることによって説明できるかもしれない。いくつかの惑星が中心に集まってきて、ガスがなくなったところで衝突すると、スーパーアースができる。
恒星のほとんどは、赤色矮星で、そうなるとハビタブル・ゾーンが中心星に近い。
赤色矮星の円盤は温度が低く、中心星から近くてもH2Oが凝縮する。赤色矮星のスーパーアースには、H20が主成分である可能性が高いものが既にある。そういう星には何千㎞という深さの海があることになる。
また、それくらい近いと、中心星にいつも同じ面を受けていると予想され、ずっと昼の面とずっと夜の面があることになる。

感想

太陽系と地球の形成について読むといつも、実によくできているなあと感心する。
どの仕組みひとつとっても、この星は生命のいる星にはならなかったのだと思うと、それは一種の奇跡のようだが、しかし系外惑星について知ると、決して珍しくないのかもしれないというふうにも思えてくる。
惑星自体はよくあるもので、スーパアースなども含めれば地球型惑星は惑星の中ではむしろありふれているということが分かってきたからだ。
とはいえ、その中で色々なバリエーションがあることもわかり、それも思いも付かないような惑星が実際にあるようだということになると、SF的なワクワクも感じる。
5章において筆者は、「系外惑星は楽しい遊び場」だと言っている。実際、こうだろうかああだろうかと色々考えて楽しんでいる雰囲気が伝わってくるような本だった。