仁木稔『グアルディア』

前々から作品名は知っていたが、表紙のイラストを見て勝手にファンタジーだと思い込んで読んでいなかった*1
しかし、SF乱学講座1: 事実だけとは限りませんとか限界小説研究会編『サブカルチャー戦争』 - logical cypher scapeを読んで、購入決定。
実際読んでみたら、大災厄で文明が崩壊しかけた南米を舞台にしたSFで、遠藤浩輝『EDEN』好きな俺得な作品だった*2


27世紀の中南米が舞台。
22世紀だか23世紀だかに大災厄というのが起こって、文明レベルが著しく下がっている。
科学技術はかろうじて残ってはいるが、かなり一部の人に限られている。大災厄期に作られた防衛システムによって海を渡っての移動が不可能になり、また北米や赤道以南の南米は放射能などに汚染されていて人は住めない状況。メキシコ以南から赤道以北が孤立しているような世界。
レコンキスタ軍を率い、ラティニダード(ラテンアメリカのこの時代の呼称)平定をもくろむアンヘル
彼女に付き従う少年、ホアキン
失われた自らの記憶を探すべくアメリカ中を放浪する青年、JD。
JDを父と慕う少女、カルラ。
この4人が主人公。

内容をまとめようと思ったのだけど、かなり色々な要素が混ざり合っていて、どうまとめるか考えあぐねているうちに時間切れになりつつあるw
以下、ネタバレとか関係なく、考えなしに列挙してみる。


ラティニダードの置かれている状況。中米の方が科学技術が残っている。南米のグヤナでは白人が特権階級を形成し、カラード差別がある一方、エスパニャやグラナダはそうでもない(ラティニダードはエスパニャ、グラナダ、グヤナの3つに分かれている)。だが、どこでも変異体差別が多かれ少なかれある。原理主義白人の多いグヤナで最も激しい。
過去の歴史。21世紀から22世紀頃が黄金期。その後、大災厄と呼ばれる時代が続く。伝染病や戦争によって人類の文明が崩壊しかける。黄金期以降の遺伝子技術によって、多くの人が遺伝子改造されたらしい。変異体と呼ばれる人達が多く暮らしている。
近代的な軍隊も残ってはいる。その他、医療技術なども黄金期程ではないが、残っている。そうした科学技術(テクノロヒア)は、エスパニャに多く残っており、グラナダやグヤナはそうでもない。グヤナのカラードは電気を使っていない生活を送っているよう。


アンヘルは、知性機械サンティアゴの生体端末。女性だが、レコンキスタ軍総統としては男装している。生体端末は、既に何代も続くクローン。
ホアキンとその兄・ラウルは、メトセラと呼ばれる不老長生の変異体。彼らの父親がもともと、アンジェリカと呼ばれるサンティアゴの生体端末を手に入れていた。生体端末は短命で、次々と世代交代していく。彼女らはみな、同じ男を愛したが、ラウルは数代前のアンジェリカを、ホアキンは当代のすなわちアンヘルを愛している。
生体端末の血統とメトセラの血統とで、かなり複雑な愛憎関係がある。
さらに複雑なのは、生体端末は、知性機械サンティアゴを通していくつかの記憶を共有しているところにもある。


JDは、生体甲冑アルマドゥラというものを装備している。アルマドゥラはウイルスで、これに感染したものは、DNAレベルで改変をうけ、生体兵器となるのである。
アンヘルは、アルマドゥラであるJDを利用するべく監視を続けている。
そのために、ダニエルとトリニという幼い変異体の兄妹をも利用する。


アンヘルを中心とした愛憎劇、JDが自らの記憶を探す旅、失われた科学技術の残滓、スペイン語圏の雰囲気、ラティニダードという世界
それらがぐるぐると絡み合っているので、ストーリーをまとめられない。
最終的には、アンヘルが自らの生体端末としての運命を解き放つために、全てを利用していたということが明らかになり、ほぼ全滅エンドに近い結末を迎える(全滅はしてないし、生き残った者たちの行方も多少は示しつつ終わるわけだが)。
生体端末とメトセラの何世紀にも及ぶ愛憎もすごいが、JDとカルラの正体もなかなかすごい。彼らは実は両方ともアマルドゥラで、人間の姿をしているものの、ほとんど人間ではない。アマルドゥラ装備(?)前のJDも、遺伝子改造によって生まれた亜人であるし。二人は、普通の人間の一生よりも長い時間を、不毛の大地を延々と放浪しながら生きてきた。


そもそも、この世界設定自体が大災厄後の世界であり、JDとカルラは世界の終わりのような世界を旅してきた描写があるし、また、サンティアゴの降臨においてはそれを見るべく集まった人達がみななぎ倒されてしまうシーンもある。
この作品自体は、決して災害ものでも何でもないのだが、この時期に読んで、どうしても風景を重ね合わせてしまいそうにもなった*3


戦闘シーンも、わりと色々あったり。
フックが多いので、読み応えのある作品。
一読で消化しきれていない(のは、上の文章を見れば明らかか)。


グアルディア 上

グアルディア 上

グアルディア 下

グアルディア 下

EDEN(1) (アフタヌーンKC)

EDEN(1) (アフタヌーンKC)

*1:ファンタジーが嫌いなわけではないけれど、実際の自分の購買行動を顧みるに優先順位が下がるようだ

*2:物語や雰囲気などはまた全然違うのだけれど

*3:地震前に読み始めてかなり後半まで読み進めていたところで、今回の地震があった