『乾と巽』

最終巻が出ていて読み終わった。
安彦良和がシベリア出兵を描いたマンガ作品


安彦作品はあまり読んでいないのだけど、10年ちょっと前くらいに『虹色のトロツキー』を読んだことがある(当時のツイートをサルベージしたので、下の方に置いておく)。
これがとても面白かったという記憶があるが、一気読みしたので、実は内容はあまり覚えていない。満州もののフィクションを初めて読んだのもこれでは?
『王道の狗』は未読で『天の血脈』は連載中にアフタヌーンで読んでいたが、最後までちゃんと読んだかどうか覚えていない。
で、本作については単行本で読んでいた。


シベリア出兵は、歴史の教科書で習うには習うが、本作を読んで、詳しいこと全然知らなかったなあという思いを新たにする。
第一次世界大戦や大正時代に興味をもつきっかけになった。


物語としては、北海道の寒村出身でシベリアに派遣された第七師団所属の砲兵である乾冬二と、早稲田大出身でウラジオストックにある浦潮日報の記者である巽をW主人公にして、1人の兵士から見た戦場と、1人の記者から見た、戦争に翻弄される庶民の生活を描いていく。シベリア出兵における、各国・各勢力の動きなどはかなり複雑なのだが、乾と巽という2人の視点人物を置いて、あくまでも現場のリアル感(?)みたいなものをベースにして描かれるので、「シベリア出兵ってこんなことが起きてたのか」というのがなんか分かるような気になれる。
サブタイトルは「ザバイカル戦記」という。ザバイカルは、バイカル湖東部を指す地名で、主にはこのあたりの話が中心となっている(先述の通り、ウラジオストックも出てくるし、巽は最終的にはモスクワまで行くことになるが)。
シベリア出兵にあたり、日本はもともと派兵に消極的で、バイカル湖以西にはいかないというルールのもとで出兵した。ところで、日本陸軍の中には、色々野心家もおり、ボリシェビキ政権の東進を阻むために、ザバイカルに傀儡国家を作るという計画を進めよういう動きもある。
日本軍は、ザバイカルにおいて反革命派として兵を率いるコサックの頭領(アタマン)、セミョーノフを支援し、セミョーノフ軍の駐在武官として派遣される黒木大尉は、まさにそういったことを考えている人物である。
乾(と乾の分隊)が、この黒木のもとでセミョーノフ軍の一員として赤軍と戦うことになるところから、彼の数奇な運命が始まっていく。


あらすじをここでまとめるつもりはないので、このあたりにして。
一番印象的なキャラは、やはりセミョーノフか
カイゼル髭を生やした豪傑風の男で、それこそこの混乱に乗じて天下を取るという野心を持ってもいるのだが、猪突猛進タイプというか遠謀深慮のできるタイプではなく、そのあたりは完全に黒木に頼りっきりであり、結構オロオロしたり泣きわめいたりもする。
間違っても国のトップに立ったりできるような男でもないのだが、人間味溢れた描き方がされていて(泣いたりするのは、マンガ的なデフォルメだと思うが)、妙に憎めない人物となっている。
セミョーノフ、意外と死なないというか、Wikipedia見ると1946年まで生き延びているんだよな、最期、絞首刑だけど。
見た目に反して(?)当時まだ20代という驚きポイントも
っていうか、コルチャークと16歳差あるのか。同世代だと思ってた……。
ところで、マンガ的デフォルメというと、黒木大尉は謀略を巡らす参謀タイプなんだけど、お腹が弱くて、初登場時から繰り返ししょっちゅうトイレに行くキャラとして描かれていて、絶対嫌な奴なんだけど、どこか親しみやすいキャラになっているのが面白い。ザバイカルで暗躍していたのが、原首相や田中陸相から問題視されて、帰国。その後は退役しているのだが、Wikipediaによると、退役後、一夕会とかに出入りしているようだ。永田鉄山板垣征四郎の同期なんだな……。


乾は、砲兵として優秀で、セミョーノフに気に入られた結果、日本軍からはどんどん離れて白軍の一員として戦い、出世していくことになる。完全に巻き込まれ型主人公ではあるのだが、肝が据わっているというか、いつも割と堂々としているので、巻き込まれ感があまりない。
一方の巽は、自分の強い意志で、戦場とか危ない場所へと入り込んでいくのだけど、結構状況に翻弄されているように見える(実際、翻弄されてはいる)。
途中で一緒に行動している、ロイターの記者が、社名を笠に着た居丈高な、そして肝心なところではビビる小心者タイプで、全く好人物ではないけれど、コミカルなので面白い。

虹色のトロツキー』読んだ当時のツイートサルベージ

2012年6月9日

さっき先輩の家で虹色のトロツキーを見つけて、あまりの面白さに一気読みしたんだが、アクションがとてもよかった。何がいいとかうまく言葉にできないが、セリフじゃなくてアクションで泣けるというか
あと、自分、戦前戦中の日中満露情勢を、思った以上に分かってなかった。高校の歴史レベルくらいのことは覚えてるかなと思ったが……
ちなみに、虹色のトロツキー合気道の話
弾丸が来る前に光がくる、それを避ける、だったっけw
しかし、あまりに歴史的知識が少ないせいで、何が史実で何がフィクションかさっぱりわからなかった
うーん、虹色のトロツキーがどんな話かを書こうとしても、どう書けばいいかわからないw ああいうの好きだ
虹色のトロツキーは、日本人の父と蒙古人の母を持つ主人公が、両親の死の真相を探ろうとすると同時に、関東軍石原莞爾の思想を実現するために日ソ開戦をしようとしているあれやこれや
陰謀とかナショナリズムとか、っていうと虹色のトロツキーの面白さを何も伝えられてないけども、ああいうナショナリズムものは面白い。
出口をモンゴルに派遣とか驚いた、というか出口がよく分からないからちゃんと意味分かってない気がするけど
石原莞爾のこともよく知らないしなー自分
人工の国を作る時のナショナリズムってことで、なんとなく北海道のことを思ったりしてしまったりもするが、特に何も考えてない
石原って二二六事件の鎮圧してたのかー。あと弟子に格闘家多いな