〈新年短篇特集〉
見るな 瀬戸内寂聴
焚書類聚 皆川博子
タンパク 高樹のぶ子
カズイスチカ 高橋源一郎
星を送る 高村 薫
漏斗と螺旋 山尾悠子
UFOとの対話 保坂和志
恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ 川上弘美
ぶつひと、ついにぶたにならず 小池昌代
わたし舟 多和田葉子
未の木 飛 浩隆
神xyの物語 町田 康
我が人生最悪の時 磯﨑憲一郎
M――「怨む御霊」考 古川日出男
猿を焼く 東山彰良
Green Haze 阿部和重
あら丼さん 長嶋 有
最後の恋 上田岳弘
クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見る 松田青子
トーチカ 藤野可織
隕石 滝口悠生
猪垣 青山七恵
ほんのこども 町屋良平
目白ジャスミンティー 山田由梨〈論点〉
上皇は国民になにを問いかけているのか 保阪正康
気候危機と世界の左翼 斎藤幸平
占いは「アリ」か。――確率と人生のあいだ 石井ゆかり
取り残された人たちへの回路 日野原慶〈新連載エッセイ〉
私の文芸文庫『鳴る風鈴 木山捷平ユーモア小説集』
油断できない 小川洋子
〈新連載コラム〉
極私的雑誌デザイン論 川名 潤
〈連載〉
チーム・オベリベリ〔14〕 乃南アサ
ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain〔23〕 ブレイディみかこ
LA・フード・ダイアリー〔4〕 三浦哲哉
愚行の賦〔6〕 四方田犬彦
人間とは何か──フランス文学による感情教育──〔30〕 中条省平
〈世界史〉の哲学〔122〕 大澤真幸
現代短歌ノート〔116〕 穂村 弘
〈随筆〉
夢みる天女 加須屋誠
トロピカル・サーキット 百瀬 文
〈書評〉
「おかえり」の中身(『私の家』青山七恵) 倉本さおり
こちらとあちらを結ぶもの(『小箱』小川洋子) 藤代 泉
徹底した受動性の肯定的転回(『読書実録』保坂和志) 郡司ペギオ幸夫
死者の目(『人間』又吉直樹) 橋本倫史
記憶の欠片を輝かせるには(『ファースト クラッシュ』山田詠美) 瀧井朝世
生真面目な人々の「逃亡文学」(『犯罪小説集』吉田修一) 酒井 信
〈創作合評〉東 直子×宮下 遼×町屋良平
ゴッホの犬と耳とひまわり 長野まゆみ
連載小説を雑誌で追うということをしていないので、連載小説は読まないようにしているのだが、なんとなく目に入って読んでしまった。
ちょっと見てもらいたいものが手に入ったので送るんだけど、古い家計簿で、こうこうこういう経緯で手に入ったもので、この余白に書かれているメモがどうもゴッホ直筆によるもののようなんだ、という手紙が送られてくる話
〈新年短篇特集〉
作家のラインナップ見て、最近文芸誌読んでなかったし読んでみるかと思ったんだけど
よくよく見てみると、自分より若い作家が1人しかいなかった
こういう文芸誌の新年特集みたいなのに呼ばれる作家の平均年齢とか知らんけど、ちょっと若手少ないのでは
ところで、こういう新年短編特集、過去に1回くらいは読んでいなかったかなと思ったけど、過去ログ見るにそんなことなかった
24作中20作読んだ
「猿を焼く」「未の木」「星を送る」「トーチカ」「M――「怨む御霊」考」あたりが面白かったかなあ
見るな 瀬戸内寂聴
昔の不倫相手についての回想なのだが、それよりも瀬戸内寂聴が97ということに驚いた。いや高齢なのはもちろん知っていたけれど、97才になってもこれだけ文章書けるものなんだな、と。
亡くなった祖父が97の頃はまだ元気だったが、痴呆は始まっていたので文章なんかはとても書けなかったと思う。
タンパク 高樹のぶ子
坂の上に住む悠木が作る「タンパク」をもらいに行く話
星を送る 高村 薫
囚人が、ヤモリと一緒に刑務所の中からベテルギウスの超新星爆発を見る話
密輸を手がけていたが、最終的になんかめちゃくちゃヤバい犯罪をしたらしい囚人の、とりとめもない回想や思索
もしかして、他の長編のスピンオフだったりするのかとちょっと思ったけど、高村作品読んだことないのでわからん
漏斗と螺旋 山尾悠子
漏斗の街に行った話
UFOとの対話 保坂和志
猫が死にそうになると星に祈るみたいなところから始まる話で、こっちにもベテルギウスが出てきた
保坂和志読むの久しぶりすぎて、こんなわけわからんこと書く人だったっけとなった。いや、雰囲気は確かに前からこんな感じだったと思うけど。
恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ 川上弘美
子どもの頃にカリフォルニアで暮していた時の話
ぶつひと、ついにぶたにならず 小池昌代
未読
わたし舟 多和田葉子
両親が離婚し、二つの教育方針の異なる家庭で交互に育てられた北斗
彼が大人になり、親に「話したいことがある」と告げるようになるまでの話
離婚した母親、元夫とのあいだにできた娘を妊娠して別の女性と暮すようになる。この北斗の妹は、両方の家庭のいいとこどりをしているが、北斗はそういうことができない。
語り手の「俺」の正体が謎で、話が進むにつれて少しずつ明かされていくのだが、それでも北斗の父親より年上で、家族ではないけれどかなり親しく、性転換をした人というくらいしか分からない
未の木 飛 浩隆
仕事の都合で別居している夫婦、結婚記念日にそれぞれ相手から木が送られている。その木の花は、送った人の姿に似る。
それぞれ、相手の小さな似姿を愛でるのだが、相手と連絡がとれなくなる。何かがおかしいと相手の家へと向かうのだが、そこで重大なことに気付く。
実はパラレルワールドSF、という感じの展開
その展開も面白いのだが、もともと小学生の頃から知り合いで、妻の方が年上の2人の関係の描写がなかなか
神xyの物語 町田 康
未読
我が人生最悪の時 磯﨑憲一郎
実話なのかどうかは分からんが、私=磯崎の若い頃の失恋の話
「我が人生最悪の時」は、濱マイクシリーズ第一作のタイトルだが、その作品が公開されるより前に、この言葉を発していた時があった、と。
大学生から就職後まで6年間付き合っていた彼女にふられ、同じ大学のボート部の先輩と結婚することになったという話
こういう磯崎憲一郎の小説は今まで読んだことなかったなーという感じなのだが、「我が人生最悪の時」と言った相手が母親だとか、最後、何年も経って別の女性と結婚し子どももできてという生活を送っていたら、最寄り駅でばったりその彼女と出くわし「実は1年で離婚してた」と言われ、怖くなって逃げ出してしまったというオチとか、なんかそのあたりの雰囲気みたいなのは、磯崎作品っぽいなと思った
M――「怨む御霊」考 古川日出男
三島由紀夫と菅原道真の2人のMについて
『豊饒の海』の一番最後の行に書かれた日付が、まさに三島が割腹自殺した日であることに着目し、また、三島の死後に「あれは三島の祟りだ」という言説がないことから、日本人は三島が無念の死を遂げたわけではないとみなしているのではないか、とかそういう話。
筆者は、『平家物語』の翻訳をして、『源氏物語』宇治十帖を語り直す作品を書いているので、源氏物語との関連性なども書いている。
冒頭にただし書きされている通り、論考というわけではなく、いつもの古川作品の語りのノリで書かれている。
古川なりの日本文学史ないしは近現代史観が垣間見えて、面白そうなんだけど、アイデアを書いている感じなので、作品としては今後を期待という感じなのかな
猿を焼く 東山彰良
文芸誌の短編小説、多くが1人称の語りだけども、この作品は特にその語りにおける情報開示の仕方が上手くできた
つまり、回想形式の語りで、基本的には時系列順に進むのだけど、時々先の方のことまで語ってしまってから、また元の時系列に戻るという展開が度々あって、「あ、さっき言ってたのはこのことか」と度々なる
というか、作品全体としても、語り手が「猿を焼く」シーンから始まって、一気に遡り、どうして猿を焼くことになったのかという経緯が語られていくものになっていて、最後、猿を焼くシーンで終わる。
中学生の時、親が急に農業をやると言い出して、東京から熊本と鹿児島の県境の町へと引っ越すことになった主人公
彼は東京でもコミュニケーションの失敗で学校に馴染めなくなってしまっていたのだが、九州でも溶け込むことにできずにいる(それは父親も同じことで数年後に東京へ戻ることになるのだが)。しかし、やはりクラスに溶け込めていない(ように主人公からは見える)少女に、心惹かれるようになる。
主人公は福岡の進学校に進学するが、同じ中学校の者はほとんどが働き始め、その少女は宴会コンパニオンとなり性を売るようになる。主人公は一方で彼女を欲望し、他方でそのような田舎の世界を見下げるわけだが、後に彼女は殺されてしまう。
かつて彼女と付き合っていて、暴走族からヤクザの見習いとなった笹岡とともに、主人公は犯人が飼っていた猿を焼くのである。
それはもうただどうしようもない暴力で、笹岡と主人公とのあいだで、チキンゲーム的な心性が生じて、止められなくなった勢いでの暴力で
主人公が自分は違うと思いたかったはずのものと、自分も同じであるいうことを自ら進んで証明しにいってしまったというような話で、なかなか面白かった
荒木雄大、24作の中でも出色と評していた。
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また、群像2月号の創作合評でも取り上げられ、上田岳弘が好意的に評していた。
Green Haze 阿部和重
実際のニュース記事の引用を織り交ぜながら、あらぬ話を作っていくという『オーガ(ニ)ズム』でオバマ大統領まわりのところを書くときに使っていた手法を用いた作品
そういう意味では、この前書き終えた長編の手法を流用して、最近の時事ネタで書きましたというくらいの作品でしかないが、あまりにもあまりな展開で笑ってしまった
未来から時間を超えて語りかけてくる二人称小説で、ネタは、ブラジルのアマゾン炎上とグレタさん
あら丼さん 長嶋 有
長嶋有が主宰している俳句同人に属する、あら丼さんこと新井さんが40代で急死してしまい、その葬儀へ行き帰ってくるまでの話
あら丼さんの話でもありつつ、一方で、長く続けてきた同人において、自分とそれ以外のメンバーとの意識の違いを改めて考え直す話
最後の恋 上田岳弘
一度も会ったことのない大叔母が危篤となり見舞いに行く話
語り手が作家なので、これもまた「我が人生最悪の時」や「あら丼さん」のように本人をモデルにした(私小説的な)作品なのかなと思ったけど、作家のプロフィールがなんかどこか違うような気がした。
大叔母は子どもができないことを理由に離縁されており、しかし実家のある関西には戻らず、千葉に暮し続けていた。施設の金銭的負担は元夫の家族がしているが、彼らは一度も見舞いには来ておらず、女性の友人がずっと世話をしていたという(しかし友人の方が先に亡くなってしまった)。
大叔母と同室の女性にも見舞客がおり、彼女は主人公のことを知っていた。まだ、大叔母に意識があった頃、話を聞いていたという。
主人公は大叔母のことを何も知らないが、一方の大叔母の方は彼が作家をやっていることを少し自慢にしていたらしい。
大叔母とその女性の友人、あるいはもう1人の見舞客の女性とその見舞い先である女性は、それぞれ血が繋がってはいないけれどなにがしかの縁を結んでいた関係だったらしい(見舞客の女性は自分のことを内縁の娘と呼ぶ)。
これまで読んできた上田作品とはだいぶ雰囲気が異なるが、今後どういう作品を書こうとしているのかちょっと気になってくる
トーチカ 藤野可織
これも女性派遣社員もの
《放送局》の警備員業務をすることになるのだが、この《放送局》というのが新社屋の中にショッピングモールやデパートがあり、というだけでなく、どんどん拡張していって最終的には一つの街同然にまで広がっていく。
《放送局》には、生体認証のついたゲートを通過しないと入れないのだが、旧社屋時代に入り込んでそのまま内部に住み着いている不審者がいる。
主人公は、この不審者を見つけ出すのにはまりこんでいく(一番最初に見つけたとき、テレビを見ない彼女が唯一熱狂的なファンである女性芸能人に変装していた。が、あう度に全く異なる人物に変装している)
隕石 滝口悠生
渋谷で道に迷い入り込んだ小さな居酒屋での話
猪垣 青山七恵
母の墓参り(に行き損ねた)から帰ってきてから、うり坊の幽霊(?)に取り憑かれるようになった話
ほんのこども 町屋良平
子どもの頃のあべくんの話、だが、途中までしか読んでない