「ルドンとその周辺――夢見る世紀末」

三菱一号館美術館
ルドン、面白かったー。
実はルドンのことは、バックベアード様くらいしか知らないような状態で見に行ったのだけど、初期から晩年まで網羅的に展示してあって、とても見応えがあった。
三部構成になっていて、一部は白黒時代のルドン、二部は色彩がつくようになった後期のルドン、三部はルドンの周辺ということで他の象徴主義の画家やナビ派の画家達。

第一部 ルドンの黒

版画家のブレスダンに師事しており、版画集でデビューしている。
《孵化》や《発芽》などの作品からは、幻想的な絵ではあるが、科学への関心が強くうかがえて面白い。植物学者のクラヴォーとの交流があり、そこから進化論などに興味を持ったらしい。進化をモチーフにした作品集もあった。
作品タイトルが大抵は単語なんだけれども、時々《諸存在を導く息吹は球の中にある》とか《おそらく花の中に最初の視覚が試みられた》とか詩のようになっているのもあって、かっこよいw
《絶対の探求…哲学者》という作品が、ルドンがよく使うモチーフである黒い太陽の上に三角形を描いていて、一九世紀末の絵の中に幾何学図形が普通に登場していてすごいなと思った。
全体的にシュールレアリスムを先取りしているような感じがした。
あと、黒いという点で晩年のゴヤにもちょっと似ている感じだが、実際にそういう評判はあったらしく、『ゴヤ頌』という版画集も出している。
なんか勝手に、生前は評価されていない人なのかと思っていたけど、当時から結構注目されてたみたい(実際にどれくらいの評価だったのかはよくわからないけど)。デビュー作は25部だったらしいが。
タイトル忘れたけど、すごく長い身体した人に木の枝がぶすぶす突き刺さっているような絵があって、弐瓶勉のマンガの一コマっぽいなあというのがあった。
あとやっぱりタイトル忘れたけど、二人の人が大きな窓枠みたいなところの前に立っていて、その枠の向こうには大きな人の顔がある絵も、なんかマンガっぽかった

第二部 ルドンの色彩

49才だかに子どもが生まれて、その頃から色彩を使うようになる。
といっても、普通の風景画とかは結構その前からも描いていた模様。
聖書やギリシア神話シェイクスピアなんかをモチーフにした作品が多い。
アポロンの戦車》が*1、真っ赤な雲が真ん中にあって結構よかった。
花の絵も多い。花は、花瓶と色が似ていて絡まり合ってるように見える奴とか、花瓶が宙に浮いているように描いている奴なんかがあった。
それから、なんかルドン、ドラクロワが好きなのかな。いくつか、ドラクロワを模写したりなんだりして描いたってのがあったような。
《翼のある横向きの胸像(スフィンクス)》は、色使い、あるいは色使いと輪郭(?)とかが不思議な感じがした。

第三部 ルドンの周辺――象徴主義の画家たち

ブレスダン。ルドンの師であった版画家。すごい細かい線でリアリスティックだが、幻想的。死の喜劇とかボスっぽいような*2
聖書とかのモチーフが多いギュスターヴ・モロー。綺麗な絵だった。モローの弟子にマティスとルオーがいるって初めて知った。
マックス・クリンガーの『手袋』という版画集があったのだが、これ面白かった。手袋が様々な目に遭う(?)のだけど、翼竜に誘拐されたり、崇拝されたり、休憩したり。
ムンクが、ファム・ファタルを描いた3枚。イブ、女ヴァンパイア、聖母。最後の聖母がかなり挑発的に描かれていて、ムンクもまた《叫び》しか知らなかったのだが、面白かった。
それからゴーギャンは、版画がメインだったので、ゴーギャンのイメージとちょっと違った。まあやはりタヒチでああいう絵なんだけど。
それから、ナビ派のベルナール、セリュジエ、ドニ。ナビ派というのは、ゴーギャンに教えを受けた人が作ったグループなのだが、ルドンのことも尊敬していたらしい。一方ルドンの方も、若い彼らから影響を受けていたとか。
セリュジエの《急流のそばに幻影、または妖精たちのランデヴー》というのは、川のこちら側にいる人たちが向こう側に妖精達を幻視しているという絵なのだが、最初見たときは、そういう衣装を着た人たちが歩いているようにしか見えなくて、妖精にも幻視にも見えなかった。
ドニが《消えゆく仏陀――オディロン・ルドンに捧ぐ》というのを描いていて、ルドンが死んだときに描いたもので、ルドンを仏陀になぞえらえている。いい話ではあるんだけど、「何故仏陀なんだww」と見ていると可笑しくなってしまった。


第三部のあいだくらいに、今回の目玉である《グラン・ブーケ》がある。
これは、ドムシー男爵という人が、自分の城の壁を飾る絵として依頼した16点だかの中の1つらしい。
見てびっくりしたのだが、でかかった。
そして真っ暗な部屋の中、作品にだけ照明をあてて展示しているので、まるで絵が光っているかのような(というか最初、ディスプレイに絵を表示させているのかと思った)感じだった。
元々少し暗い部屋でも見えるような色で、ということで描かれていたっぽい。
ポスターとかで事前に見ていたときは、「これルドンなのかー」とちょっと不思議だったんだけど、流れの中で見ると「おーこれも確かにルドンだなー」と思えるようになった。

*1:今、ググったら同じモチーフでたくさん描いてんだな

*2:よくあるモチーフらしいが