濃密なファンタジーを読んだなあという感じ。
ここでいうファンタジーというのは、ドラクエ的ファンタジーではなくて、どちらかえといえばミヒャエル・エンデとかそういう感じ。エンデとも違うけど。
1〜3頁程度の断章で構成されていて、一つの章につき、一つの都市が紹介されている。
一応、マルコ・ポーロがフビライ・ハンに対して報告しているという体裁をとっているが、本当にこれらの断章の報告者がマルコ・ポーロであるかは不明。というのも、前半においてはマルコは言葉が分からなくて、身振りや手振りで報告していることになっているから。さらにいえば、彼の報告する都市は、荒唐無稽なものが多くて、それこそ全てファンタジーの都市だからそれは構わないのだが、途中から明らかに機械文明の発達した都市も紛れ込んでくる。
個々の断章のタイトルを見ていけば、「都市と欲望」「都市と記憶」「都市と名前」「都市と記号」「都市と眼差」などとなっており、そこからは哲学的な思索とも幻想的な詩ともつかぬ都市の報告がなされていく。
ある都市がまさにその都市であるとは一体どういうことなのかということと、語ることと語られることとの関係といったことが、様々に繰り返されていく。
この作品のテーマということに関していえば、まさにそうした「語ること」「虚構」(そしてそれらは、各章では「記憶」とか「名前」とかいう形で考えられる)についてということが出来る。
だがその一方で、それらを様々な架空の都市という形で現出させている具体的なヴィジョンの豊富さも楽しい。
虚構についての考察に耳を傾けるのもよいし、幻想的な風景に目を奪われるのもよい。
次から次へと現れては消えていく、幻想都市のカタログ。