ギョルゲ・ササルマン『方形の円』

架空の都市を描き出す36の掌編
コンセプト的にはカルヴィーノ『見えない都市』に近いが、もう少しSF寄りな感じ。また、『見えない都市』は、マルコ・ポーロがハーンに語っているという形式だが、こちらは統一された語り手は設定されておらず、淡々と都市について記述したものもあれば、その都市に訪れたある冒険家の視点で綴られたようなものもある。


作者はルーマニア人で、元々建築の仕事をしていて、本作は建築系雑誌に連載されていたらしい。
政権批判などを意図したものではなかったのだが、チャウシェスク政権の下検閲を受けてしまい、フルバージョンでの出版はフランス語訳版で初めてなされた。また、作者本人もドイツへ移住している。
英語版はル・グウィンが翻訳を手がけており、それを契機に日本語訳も出ることになったらしい。

方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション)

方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション)


各章の最初に、グラフィック・シンボルというものがタイトルとともに付されている
これは正方形の中に、幾何学模様を描いたもので、各都市ごとのイメージを表しているようだ


36編全て紹介するのはちょっと大変なので、いくつかだけ

  • プロトポリス――原型市

巨大な透明なドームに覆われた都市
その中は完全に管理されて、病気などはなく、閉鎖環境の中で生態系も完備されて自給自足できる
生きるのに何不自由しないそこの住民はだんだん、サルのような姿かたちになっていき、実はその様子が外部の世界でTV放映されていた、という話

  • ・・・・・

名前の知られていない都市
この都市について知られている4つの証言の引用
太平洋から大西洋にまで南アメリカ大陸に虹のようにかかった巨大な道のある都市だというものから、時速30~50メートルで移動している都市だというものまで

  • ヴァーティシティ――垂直市

巨大な塔のよう形で、成長を続ける都市
コンピュータで管理される都市に暮らし、孤独に悩むナット青年は、ある日、とあるアナウンスの声に恋をするのだが、その正体を調べていって、合成音声であったことを知る

  • ポセイドニア――海中市

「時とともに、当然、人類は水中生活になれるだろう』
人間の姿かたちが、次第に水中生活に適応して、イルカのように変化していく様を2ページ足らずに書き出している

  • ホモジェニア――等質市

全く同一の街路に全く同一の設計図で全く同一の家屋を並べた都市
住宅の区別がつかないので、自宅という概念を捨て、どの家に住んでもいいことにしているうちに、どんどん生活習慣が変わっていき、ついには住民全員の形態も思考も全く同一になってしまった、という都市

  • クリーグブルグ――戦争市

騎兵隊とともに都市を攻め落としたプリンス・ヘンリーとリチャード
略奪した戦利品に目を輝かせる2人だったが、ヘンリーは、遺体の多さにあることに気付く
この街は、宝物が多すぎて、次から次へと攻め込まれているということに

  • コスモヴィア――宇宙市

都市だと思っていたけど、世代間宇宙船だったことに気付いた住民たち
しかし問題は、自分たちが正当な宇宙船の持ち主の後継者が、宇宙船を襲撃した者の子孫なのか分からないことだった

  • サフ・ハラフ――貨幣石市

ロード・ノウシャーが旅路の果てにたどり着いた円環状の都市
入り込んだ回廊はどこまでもぐるぐると続いており……。
これ、もしかしたら一番面白い話だったかも

  • ステレオポリス――立体市

人口爆発した地球で、空間を有効利用するために作られた都市だが、そこでは方向感覚が狂ってしまい最後には死んでしまうステレオポリス症が

時間SFもの

  • クアンタ・カー――K量子市

宇宙からの謎の放射を、異星文明からのメッセージとして解読を試みた青年
そのメッセージは、青年に「体験」をもたらした