『物語の外の虚構へ』への反応

2021年12月に出した『物語の外の虚構へ』ですが、最近、これに対する反応をいくつかいただいているので、ちょっと紹介させてもらおうと思います。 sakstyle.hatenadiary.jp その前にまず、本書についてのおさらいとして、リリース時の記事を挙げておきます。…

オクテイヴィア・E・バトラー『血を分けた子ども』(藤井光・訳)

ヒューゴー賞、ローカス賞、ネビュラ賞の三冠を受賞した表題作を含むSF短編集 作者のバトラーは、1947年生まれで2006年に亡くなっており、本書も原著は1995年に刊行されている。長編が一つ邦訳されているが、日本ではほとんど紹介されてこなかった作家だとい…

マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』(田村さと子・訳)

19世紀フランスで女性解放活動家として労働組合結成を呼びかけたフローラ・トリスタンと、その孫でポスト印象派の画家であるポール・ゴーギャンの半生をそれぞれ描いた歴史小説。 リョサはマリオ・バルガス=リョサ『世界終末戦争』(旦敬介訳) - logical cyp…

デイヴィッド・クォメン『生命の〈系統樹〉はからみあう』(的場知之・訳)

カール・ウーズを主人公に据えて、アーキアの発見と3ドメイン説および遺伝の水平伝播説について、科学者たちの人間模様のドラマも織り交ぜた科学史なしいドキュメンタリーの本 サブタイトルは「ゲノムに刻まれた全く新しい進化史」で、原題はThe Tangled Tre…

『日経サイエンス2023年6月号』『Newton2023年6月号』

日経サイエンス2023年6月号 [雑誌]日経サイエンスAmazon 量子コンピューター 日本の初号機が稼働 古田彩 理研(和光市)の量子コンピュータ だが量子ビットは極めて繊細で、加工はいまだ手探りだ。設計からずれることもあり、個体差も大きい。そのため狙った…

ディーノ・ブッツァーティ『タタール人の砂漠』(脇功・訳)

士官学校を出た主人公が、辺境の砦に任官するところから始まり、定年で退官するまでを描き、いつか人生を意味づける瞬間が訪れると期待しながら、しかし、徒に時間が過ぎていくばかりの人生を描いた作品 先日から海外文学読むぞというのを個人的にやっている…

倉根啓「ゲームプレイはいかにして物語になるのか」

ビデオゲームにおいて提示される虚構的内容のうち、全てがそのゲームの物語を構成しているわけではないが、その関係はどうなっているのか、という内容の論文 マリオの命は3つあるのか問題 あるいは、RPGをやっていて、戦闘中に死んだとしても必ずしもそのゲ…

毛内拡『脳を司る「脳」』

脳の活動というと、イコールでニューロンの活動と思いがちだし、実際に脳の研究はそのような前提で進められてきたが、ニューロン以外の活動(非シナプス的相互作用)も実はかなり重要である、ということを紹介してくれる本 以前から、グリア細胞が実は脳の情…

大江健三郎「セブンティーン」他(『大江健三郎全小説3』より)

コンプレックスを抱え込み、自慰に耽溺してしまうことへ後ろ暗さを持つ17才の少年が、偶然にも右翼団体に参加することになり、天皇主義へと傾倒していく過程を描いた短編。 大江作品については、先日大江健三郎『芽むしり仔撃ち』 - logical cypher scape2を…

荻原和樹『データ思考入門』

データ可視化について、実践的な観点からその心構えを説いてくれる本。 データ可視化というのは、数表をグラフなど視覚的にわかりやすい形で表現することを指す。上で「心構え」と言ったのは、具体的なツールの使い方などではなく、データ可視化に取りかかる…

『日経サイエンス2023年5月号』『Newton2023年5月号』

日経サイエンス 日経サイエンス2023年5月号 [雑誌]日経サイエンスAmazon表紙にはでかでかとChat GPTと書いているが、特集のタイトルは「話すAI 描くAI」であり、Chat GPT以外の話も書かれている。とはいえ、中心になっているのはやはりChat GPTではあるので…

土屋健『前恐竜時代』

サブタイトルは失われた魅惑のペルム紀世界とある通り、ペルム紀を扱った本。 ペルム紀を単独で取り上げた本というのはとても珍しいだろう。 古生物といえば圧倒的に恐竜が人気の中心だろうが、その直前の時代にあたるペルム紀も面白いぞ、と古生物サイエン…

「佐伯祐三 自画像としての風景」展

最終日に滑り込んできた。 東京ステーションギャラリー地味に初めてだったような気がする。 佐伯祐三は、近代美術館にある「ガス灯と広告」が結構好きだったものの、それ以外について何も知らない状態だった。 かなり充実したボリュームの展示で、予想以上に…

秋田麻早子『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』

自由に見るのでもなく、知識を当てはめるのでもなく、何に注目し、何を探して見ていくかという、絵画を見る方法を教えてくれる本。この手の本としては以前、布施英利『構図がわかれば絵画がわかる』 - logical cypher scape2を読んだことがあるものの、あま…

大江健三郎『芽むしり仔撃ち』

大江健三郎が1958年、23歳の時に書いた、初の長編作品。 戦争末期、僻村に一時的に閉じ込められた少年たちによるスモールパラダイスの形成と崩壊を描く。 プロットがめちゃくちゃしっかりしているというか明快 以前、読んでいたので再読ということになるが、…

海外文学読むぞまとめ

2022年12月〜2023年3月 事の発端(?)は、文学読もうかという気持ち - logical cypher scape2を参照 これが2022年の9月頃で、12月頃から「海外文学読むぞ期間」と称して海外文学を読み始めた。 (9~11月は日本文学篇で、まとめは最近読んだ文学 - logical …

フリオ・コルタサル『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』(寺尾隆吉・訳)

コルタサルのアルゼンチン時代に書かれた8篇からなる第一短編集。 海外文学読むぞ期間の一環として、フリオ・コルタサル『悪魔の涎・追い求める男他八篇』(木村榮一・訳) - logical cypher scape2に続いてコルタサル。 のちにパリに移住する作家だが、それ…

ニコルソン・ベイカー『中二階』(岸本佐知子・訳)

1980年代後半の20代半ばの会社員が、自らの生活のディテールをひたすら綴っている小説。 木原善彦『実験する小説たち』 - logical cypher scape2で紹介されており、海外文学読むぞ期間の一環として手に取った。 ウラジーミル・ナボコフ『青白い炎』(富士川…

ウラジーミル・ナボコフ『青白い炎』(富士川義之・訳)

老詩人の遺作となった詩「青白い炎」に、元隣人がつけた大量の注釈が、とある王国から革命の末亡命してきた元国王の物語になっているという作品。 著者のナボコフというのは『ロリータ』のナボコフである。というか、自分はナボコフについて『ロリータ』の作…

デイヴィッド・マークソン『ウィトゲンシュタインの愛人』(木原善彦・訳)

地上でただ1人の人間となってしまった主人公が、狂気すれすれの中でタイプした手記 今、狂気すれすれ、と書いたがそれはあまり適切な言い方ではないかもしれない。 その筆致自体は軽妙で、狂人のようでは全くない。 誰もいなくなった世界を孤独にさまよいな…

瀬名秀明『ポロック生命体』

AIをテーマに4篇収録した短編集 積ん読しているさいちゅうにいつの間にか文庫化されていた。 今まさに現実世界で話題になり続けている技術であるだけに、あっという間に古びてしまいかねないテーマではある。 ディープラーニング系のAIなどの発展が、人間の…

アリステア・マクラウド『彼方なる歌に耳を澄ませよ』(中野恵津子・訳)

カナダ東部を舞台としたファミリーサーガ 物語の舞台は1990年代後半で、主人公は、18世紀にスコットランドのハイランド地方からカナダのケープ・ブレトン島へ移民してきた男の子孫であり、自らの半生と一族について物語っていく。 カナダというのは何となく…

フリオ・コルタサル『悪魔の涎・追い求める男他八篇』(木村榮一・訳)

タイトルにあるとおり、10篇を収録した短編集 日本オリジナル短編集っぽくて、『動物寓話譚』『遊戯の終わり』『秘密の武器』『すべての火は火』といった短編集から、いくつかずつ採って編まれたもののようである。なお、これらの短編集もそれぞれ翻訳されて…

伊坂幸太郎編『小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇』

伊坂幸太郎が、自分の好きな小説でドリームチームを組んだという短編アンソロジー 自分は先に伊坂幸太郎編『小説の惑星 オーシャンラズベリー篇』 - logical cypher scape2を読んだが、どちらから先に読めばよいとかいうことはないので、このちょっと不思議…

伊坂幸太郎編『小説の惑星 オーシャンラズベリー篇』

伊坂幸太郎が、自分の好きな小説でドリームチームを組んだという短編アンソロジー 自分は伊坂幸太郎をほとんど読んだことがない(『死神の精度』と阿部和重との共著である『キャプテンサンダーボルト』くらい)が、収録されている作家を見て気になったので読…

『思想2023年1月号(ウィトゲンシュタイン――『哲学探究』への道)』

ウィトゲンシュタインについて、全然読んでいるわけではないけれど、雑誌で特集とかあるとつい気になって手にとってしまう。 鬼界訳『哲学探究』は、半分くらいまで読んだところで止まっている……(この『思想』を読みながら、少しだけ『探求』も読み進めたが…

ミハイル・A・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』(水野忠夫・訳)

ソ連時代のモスクワを舞台に、悪魔たちが大暴れする話 今現在、個人的に海外文学読むぞ期間を実施中で、この期間に入ってから度々「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」に言及しているけれども、その収録作品の中でも人気の高い作品らしいので、手を取った。 …

木原善彦『実験する小説たち』

アメリカ文学研究者で翻訳者である筆者が、主に20世紀後半以降に書かれた実験小説を色々紹介してくれる本。 今、海外文学読むぞ期間を個人的に展開中だけれど、それのガイドになればなあと思って。それ以前から気になっていた本ではあるけれど。 どういう手…

『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』

東京宝塚劇場での宝塚星組公演を見てきた。 原作が並木陽『斜陽の国のルスダン』といい、何を隠そう、学生時代の先輩が書いた小説なのだ。 知り合いの書いた作品が宝塚で舞台化される、という得がたい経験をしてきたわけで、開幕の際の影ナレで原作者の名前…

『日経サイエンス2023年2月号』『Newton2023年2月号』

日経サイエンス2023年2月号 日経サイエンス2023年2月号 [雑誌]日経サイエンスAmazon SCOPE 不要なシナプスを”食べて”整理 グリア細胞がシナプスを食べることによって、記憶定着に一役買っているという話 また、精神病理との関係も ADVANCES 軟組織が化石にな…