秋田麻早子『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』

自由に見るのでもなく、知識を当てはめるのでもなく、何に注目し、何を探して見ていくかという、絵画を見る方法を教えてくれる本。

この手の本としては以前、布施英利『構図がわかれば絵画がわかる』 - logical cypher scape2を読んだことがあるものの、あまり読んできていなかったので、勉強になった。
練習問題よろしく、説明のあとには、試しにいくつか作品を見るパートが続くので、実際になるほどこうやって見るのかと確認していける。
読んだあと、美術館に行ってこの方法を実践してみたくなる。
自分はモダンアートというか、19世紀〜20世紀の美術が好きで、というかそれ以外はほとんど見ていないのだけど、この本は色々な時代の作品を取り上げていて、また日本画もいくつかチョイスされていたりする。そういう普段見てなくて自分が見方を身につけてこなかったような作品も、こう見ればいいのかと思えたし、逆に、自分なりに見方ができてきているような作品に対しても、改めて見直せるようか気がした。


あんまり細かく内容紹介したブログを書く時間的余裕がなさそうなので、とりあえずザクっと感想


序 章 君は見ているけど、観察していないんだ、ワトソン君――ビジュアル・リテラシー

第1章 この絵の主役はどこ?――フォーカルポイント

タイトル通り、まずは主役を探そうと
主役というのは目立つもののこと。真ん中にあるとか大きいとか明るい色で描かれているとか。
すぐ分かる作品もあれば、そうでない作品もあるが。

第2章 名画が人の目をとらえて放さないのはなぜか?──経路の探し方

フォーカルポイントの次は、リーディングライン
とにかくまずはこの2つを探す
このリーディングラインの話は、この本の中で特によかった。
画家は作品をくまなく見てほしいので、絵の中に作品を見て回る経路を示しているのだ、と。
また、人の視線は、角に吸い寄せられやすい、あるいは視線を横に移動させると、角や横から画面の外へと視線が出ていってしまう。それを防ぐための仕掛けがある、と。
なんでここにこんなものが描かれているのかなと思ったら、視線が流れていかないための「ストッパー」だったりする。
その他、リーディングラインというのは、輪郭線とか模様の線とか人物の視線とかで、見る人が見ていく方向を誘導していく線のこと
画面のなかをぐるっと回るようになっていたり、フォーカルポイントに集まるようになっている。

第3章「この絵はバランスがいい」ってどういうこと?――バランスの見方

絵には構造線というのがある。
背骨の線
これが縦か横か斜めか、あるいは、まっすぐかカーブがかかっているかで、大まかな印象が決まる。
画面の中での左右のバランスの取り方が色々紹介されている。

第4章 なぜ、その色なのか?──絵具と色の秘密

前半は絵の具の歴史の話
そもそも青とか赤とか貴重だったとか
後半、カラースキームの話
どういう明度スケールなのか、色の鮮やかさはどうかとか

第5章 名画の裏に構造あり──構図と比例

この章は、他の章より難しかった。
実際に自分が美術館行った時に実践できるかというと。
しかし、考え方を知っておくのはよい。
十字線や対角線、あるいは、2分割や3分割など色々な分割パターンが出てくる。
長方形の中に正方形をつくるラバットメントパターン
対角線とそれに直交する線との交点(長方形の目)
黄金比
構造線だったり、フォーカルポイントだったり、リーディングラインだったり、人物やものの配置だったりが、そうした線に沿っていたりする。
例えば、フォーカルポイントをど真ん中に置くのではなく少しズラしたいと思った時に、ラバットメントパターンに置いておくとバランスが取れるとか。
あと、キャンパスがやけに横長だったりすると、ルート5矩形という、黄金比を使える形だったりするよ、とか
見る側としては、何故これがこの位置にあるのかなと思った時に、そういう観点で見ると、理由があることが分かる、と。
ところで、それはそれとして、補助線は引こうと思うといくらでも引けてしまうので恣意的にならないように
黄金比についても、巷で言われてるほどたくさん使われているわけではないのでは、とも

第6章 だから、名画は名画なんです

表面的な特徴(輪郭線があるかどうか、疎か密か、仕上げの質感)や形の反復などに触れたあと、1〜5章でやってきたことを、ウルヴィーノ『ヴィーナス』とルーベンス『十字架降架』で実際に見ていく

追記

リーディングラインとフォーカルポイントについて、以下の記事を読んだ。
Dropbox - leading-line.pdf - Simplify your life
リーディングラインとフォーカルポイントは、アンドリュー・ルーミスが『クリエイティブ・イラストレーション』(1947)の中で述べた概念。
この記事では、実際にこの理論通りに視線誘導されているかという実験について紹介されており、フォーカルポイントには視線が集中するが、リーディングライン通りには鑑賞者の視線は動いていないことが示されている。

ただし、これら2つの研究は、どちらも絵の素人を対象にした研究だったため、絵の専門家が絵を見る場合には違う結果になる可能性は残ります。