千葉雅也『センスの哲学』

タイトルにある通り、センスとは何か、という本 ここでいうセンスとは、美的直観とか美的判断とかいってもいいものだと思う(本書では、直観的な(非推論的な)判断力のこと、と言っている)。 また、本書は、芸術作品と日常生活を連続的なものとして捉えて…

井上雅彦編『進化論 異形コレクション』

「進化論」をお題とした書き下ろしホラーアンソロジー。『異形コレクション』シリーズとしては36巻にあたる。刊行年は2006年だが、「魚舟・獣舟」や「貂の女伯爵、万年城を攻略す」の初出媒体で以前から気になっていた。 『異形コレクション』は、90年代後半…

『SFマガジン2022年8月号』

3年ほど前のSFマガジン。刊行当時、気になりつつもスルーしていた。 最近TLで、本誌収録の春暮康一「モータル・ゲーム」への言及を複数見かけたので、読んでみることにした。 SFマガジン 2022年 8月号早川書房Amazon 「魔法の水」小川哲 これ小川哲『地図と…

エクス・リブリス月間

5月末から7月頭にかけてエクス・リブリス月間という感じで、6冊ほど読んだので、まとめておく。 経緯 2023年に「海外文学読むぞ」と銘打ち、集中的に読んでいた。 海外文学と言えば、で思いつく出版社やレーベルは複数あると思うが、自分の場合、白水社Uブッ…

オルガ・トカルチュク『逃亡派』(小椋彩・訳)

旅、移動、解剖学をめぐり116の断章で構成された小説 白水社エクス・リブリス 筆者はポーランド人作家で、2018年にノーベル文学賞を受賞している。その際の受賞理由は「博学的な情熱によって、生き方としての越境を象徴する物語の想像力に対して」とある。博…

2025年読書中間まとめ(?)

2025年も半年が過ぎた。 普段、半年単位で振り返りとかはしていないんだけど、ちょっとしたくなったので。 半年前、2024年振り返りの際に以下のようなことを書いた。 2023年の振り返り記事では、自分にしては珍しく、というか初めての試みとして「来年に向け…

オーナ・ハサウェイ、スコット・シャピーロ『逆転の大戦争史』(野中香方子・訳)

1928年のパリ不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)を画期として、国際的な法秩序が転換したとして、戦争にかんする国際法の歴史を描いた本 本書では、戦争を合法であるとするグロティウス的な法思想を「旧世界秩序」、戦争は違法であるとする法思想を「新世界…

呉明益『眠りの航路』(倉本知明・訳)

睡眠障害に悩まされる「ぼく」の物語と、大戦末期に日本へ渡り神奈川で戦闘機製造の少年工となった父・三郎の物語とが交互に進んでいく 白水社エクス・リブリス ざっくりいって、戦争と記憶をテーマにした作品だといえる。 三郎パートの多くが日本を舞台とし…

ベンハミン・ラバトゥッツ『恐るべき緑』(松本健二・訳)

20世紀科学史・数学史における人物伝の形で、科学が人類の理解を越えてしまったのではないか、ということを描きだそうとうする中短編小説集 白水社エクス・リブリス 登場するのは、フリッツ・ハーバー(「プルシアン・ブルー」)、カール・シュヴァルツシル…

岡崎乾二郎『抽象の力』(一部)

抽象絵画についての批評。抽象を、単に視覚的な実験として捉えるのではなく、物質的・運動的な観点で捉える。また、日本での抽象美術の動きがヨーロッパの動向の後追いではなく、同時並行的なものだったことを論じている。 色々なものが次々とリンクしていく…

岡田進之介「悲劇を観てなぜ悲しむべきなのか ─フィクション鑑賞における適切な情動的反応について」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/bigaku/75/1/75_49/_pdf/-char/ja 『美学』264 号(2024年7月) 去年のものだが、最近読んだ(刊行を知ったタイミングだとまだオンラインで公開されていなかった気がする。待っているうちに忘れていて、最近オンライン…

『ソウルの春』

1979年12月12日に韓国で起きた粛軍クーデターを題材とした映画 以前、『KCIA 南山の部長たち』 - logical cypher scape2を見て、次は『ソウルの春』を見るぞ、と思っていたのだが、気付いたら半年たっていた。プライム入りしたので、これはよい機会と思って…

ショクーフェ・アーザル『スモモの木の啓示』(堤幸・訳)

イラクの次はイラン、ということで、イラン革命によって翻弄された家族を描いた作品を読んだ。 白水社エクス・リブリス 本作は長編だが、ハサン・ブラーシム『死体展覧会』(藤井光・訳) - logical cypher scape2と同様、奇想というか非現実的な描かれ方を…

『美術手帖2025年4月号』(特集ヒルマ・アフ・クリント)

「ヒルマ・アフ・クリント」展 - logical cypher scape2で見てきたけど、もう少し解説とかを読もうかと思い。美術手帖 2025年 04月号 [雑誌]作者:美術手帖編集部カルチュア・コンビニエンス・クラブAmazon 代表作 徹底解説 中島水緖、高嶋晋一 抽象絵画のデ…

ハサン・ブラーシム『死体展覧会』(藤井光・訳)

イラク人亡命作家による14篇からなる短編集 白水社エクス・リブリス イラクでの戦争や誘拐、自爆テロなどの暴力が主題となりつつも、それが、超現実的・SF的な設定やフレーバーとともに語られる。 版元紹介文では「幻想的に描き出す」と書かれている。海外文…

遅子建『アルグン川の右岸』(竹内良雄、土屋肇枝・訳)

エヴェンキ族の90歳の女性である「私」が、自らの人生を振り返って語るという長編小説 白水社エクス・リブリスの一冊で、このレーベルはこれまでも何冊か読んでいたが、これからしばらくエクス・リブリスを何冊か読みたいと思っている。 本作は、原著が2005…

ジェイムズ・カー=リンゼイ、ミクラス・ファブリー『分離独立と国家創設』(小林綾子・訳)

タイトルが面白そうなので気になっていた奴で、タイトルに「国家創設」とある通り、新しく国家ができるとはどういうことなのかについて、様々な事例を交えて解説している入門書 国家が作られる方法はいくつかあって、「分離独立」*1はそのうちの1つだが、現…

「ヒルマ・アフ・クリント」展

近代美術館にて スウェーデンの女性画家で、初期の抽象絵画作家 どういう画家なのかは、以下を読むのが手っ取り早いかと思う。 【ヒルマ・アフ・クリントを知る1万字】オカルトの画家か、抽象絵画の先駆者か。東京国立近代美術館・三輪健仁に聞く(前編)|…

「ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ」展

アーティゾン美術館にて。 アルプ夫妻についての展覧会 夫であるジャン・アルプのことは何となく知っていたが、その妻も美術家であるのを知らなかった 美術史、男性中心になりがち問題で、本展もそういう問題を是正していくという目論見があるのだろう。 妻…

『ロシア極東・シベリアを知るための70章 (エリア・スタディーズ)』(一部)

タイトル通り、ロシア極東・シベリアの地域研究についての本で、自然地理、歴史、民族・文化、政治経済問題、各州・自治共和国の5パートに分かれている どれも気になるといえば気になるが、今回は菊池俊彦『オホーツクの古代史』 - logical cypher scape2に…

菊池俊彦『オホーツクの古代史』

オホーツク文化についての研究史概説本 オホーツクでいつ何があったか、ということを編年で書いているのではなく、研究が進展してきた流れに沿って書かれている(大雑把にいうと、1930年代、こういう仮説があってこういう説が主流になった→戦後、こういう調…

G. Masukawa/ツク之助『恐竜のきほん』

恐竜の骨格図で知られるG.Masukawaと古生物イラストレーターツク之助による恐竜入門書 著者についてはG.Masukawaというより、らえらぷすさんと言った方が分かりやすいような気もするけれど、最近はG.Masukawa名義での著書も多い。 らえらぷすさんのブログを…

稲田一声『喪われた感情のしずく』

第15回創元SF短編賞受賞作 人工感情調合師の主人公は、憧れのカリスマによる新作から、彼の動機を探る。 ファッションとして人工感情をまとうというSFギミックから、機械知性であることというテーマへと着地する。SF短編としては色々なアイデアに読み応えが…

恐竜を展示した動物園(溝井裕一『動物園・その歴史と冒険』『動物園の文化史』(一部))

本記事は、溝井裕一『動物園・その歴史と冒険』の(主に)第3章・第4章、溝井裕一『動物園の文化史』の(主に)第6章・第7章についての読書メモである。 これらの本を手に取ったきっかけは本当に偶然で、同じ著者の別の本が図書館の新着にはいっていたと…

日本SF作家クラブ編『SF作家はこう考える』(一部のみ・主に近藤銀河)

本書は、SF作家がどのようにデビューして、どのように書いているかについて語ったりしている本で、「SF小説を書いてみたい人、作家としてデビューしたい人、創作を続けるコツや、ほかの仕事と両立する方法を知りたい人、ビジネスでSFを利用したい人、SFの可…

『琥珀の夢で酔いましょう』(原作:村野真朱 作画:依田温 監修:杉村啓)

クラフトビールのマンガ 5/8までpixivコミックのサイトで最新話まで全話無料で読める、ということがSNSでのリポストで回ってきていたので、何となく読み始めてみたら、3日で2周するくらい面白かったので、ブログにも記録しておこうかと。 https://comic.pixi…

リチャード・シドル『アイヌ通史 蝦夷から先住民族へ』(マーク・ウィンチェスター訳)

江戸時代から現代に至るまでの、和人側のアイヌ表象やアイヌ政策がアイヌをいかに取り扱ってきたか、そして、それに対してアイヌ側はどのような対応・抵抗をしてきたのか、という本 「滅びゆく民族」から「ネーション」へ、とまとめられるかもしれない。江戸…

Newton2025年6月号

Newton 2025年6月号作者:科学雑誌Newton株式会社ニュートンプレスAmazon 柴田正輝─恐竜学に挑む 福井県立大学の恐竜学部開設に伴う、同学部教授へのインタビュー ジョン・ホーナーが福井に訪れた際、福井での研究は、世界的に見ても珍しいというコメントを残…

円城塔『文字渦』

文字をめぐる12編の短編による連作短編集。 それぞれ独立した短編としても読めるが、互いに色々関連し合っている。 以前から気になっていたが、中島敦の「文字禍」を読んでから読もうと思っていて、この前実際読んだので、ようやく手にした。 『文豪ナンセン…

オキシタケヒコ『筺底のエルピス8-我らの戦い-』

『筺底のエルピス』『ねじまき少女』再読 - logical cypher scape2で書いた通り、4年ぶりの新刊 次巻の9巻が最終巻になることが予告されており、その前段階、戦いの準備をするところで、ある意味、物語的には一番盛り上がるところとも言える。 筆者が、脇役…