『日経サイエンス2023年6月号』『Newton2023年6月号』

量子コンピューター 日本の初号機が稼働  古田彩

理研和光市)の量子コンピュータ

だが量子ビットは極めて繊細で、加工はいまだ手探りだ。設計からずれることもあり、個体差も大きい。そのため狙った周波数で動作しなかったり、一部のゲート操作ができない量子ビットも出てくる。使える量子ビットが53個にとどまっているのたそのためだ

個体差の大きさにわりと驚いた。
日本の量子コンピュータ開発は2014年に一度ストップ、しかしその直後にカリフォルニア大が、2015年にグーグルが、2016年にIBMがそれぞれ発表したため、政府があわてて計画を再開させ、2018年に動き出した計画が今回のこれ
現在の量子コンピュータは、エラー訂正の機能を持たない段階(NISQ)で、これをいずれエラー耐性量子コンピュータ(FTQC)にするのが目標
1万量子ビットの集積が可能なれば、部分的なエラー訂正が可能になる(Early-FTQC)
量子コンピュータは冷凍機の中に収納する必要があり、しかし、配線の間隔の都合上大きくなってしまい、これがネック
なお、『日経サイエンス』は今号から編集長が古田さんから出村さんにバトンタッチ。編集後記で古田さんが、編集長として最後の仕事でした、的なことを書いていた。

冷却原子で2量子ビットの高速演算操作を実現 大森賢治(分子科学研究所

上述、理研量子コンピュータ超電導方式なのに対して、岡崎市にある分子科学研究所の大森が研究しているのは、冷却原子方式
量子コンピュータの性能は、量子状態を保持できる「コヒーレンス時間」と、演算を1ステップ進めるための操作に必要な「ゲート操作時間」の比で決まるが、大森の冷却原子型は、超電導方式よりもその比が4ケタ高い
上述の記事には、日本の量子コンピュータ計画が2014年にストップし、2018年に再開したことが書かれていたが、当時、文科省の担当者に海外の状況を話したのが大森だという。

特集:宇宙生命

木星の氷衛星を探る 探査計画スタート   中島林彦/協力:関根康人

JUICEについて
エウロパについてはプルームの観測を目指す(ただし、エウロパでプルームが発生するかどうかはまだよくわかっていない。エンケラドゥスと比較してプルームは発生しにくいと考えられている)
ガニメデについてはこれを周回して、磁力計やレーザー高度計などを用いて観測。磁場の測定や、潮汐力の影響やクレーターの分布密度など。ガニメデの海の深さや分布、あるいはガニメデの形成プロセスから木星の形成プロセスを探る。
関根は、エンケラドゥスの岩石と熱水噴出の状況を明らかにした実績をもとに、JUICEでも、室内実験で得られるデータと観測で得られた成分表とを比較して研究する。予想外の成分だったら生命である可能性。

エウロパとガニメデ 生命存在の有力地を訪ねる   J. オカラガン

JUICEとエウロパ・クリッパーって元々同じ計画だったらしい。ESAがガニメデの、NASAエウロパの探査機を作るニコイチの計画で、しかし、NASA側で予算承認がされず、ESAのみで計画が進行。しかし、後にNASA側でエウロパ・クリッパーの予算が承認され、元の計画から減額されはしたものの、おおよそ元の計画通りでいけることになった、ということらしい。JUICEとエウロパ・クリッパーは合同で運営委員会があるようだし。
エウロパは、木星からの放射線帯に位置しているため、周回すると探査機がすぐにダメになってしまうため、クリッパーはエウロパを何度もフライバイする計画。その際、JUICEとクリッパーで協働する(JUICEが離れた距離からエウロパを観測して、それを元にクリッパーがフライバイして、というような)。
クリッパーの結果をもとに、いずれはエウロパ・ランダーも実現させたい、というのがNASAの考えらしい。

異星の海  R. ボイル

エウロパ、ガニメデ、カリスト、エンケラドス、タイタン、トリトンの模式図など

木星アート  SCIENTIFIC AMERICAN 編集部
リュウグウが運ぶ生命の材料  遠藤智之 協力:渡邊誠一郎

はやぶさ2が運んできたサンプルの最初の分析結果。既にニュースでバラバラと見てはいたのだが、やはりこうして一つの記事でまとめて読んだ方が頭に入るというか。ちゃんと読めていなかったことに気付く。
ウラシルがあったこと
アミノ酸について右手型と左手型が同じ量だけあったこと
液体の水も含まれていたこと
リュウグウの母天体の中では、様々な化学進化が生じて、地球の生命には関係のないようなものも含めて、多様な有機物が存在。はやぶさ2のプロジェクトサイエンティストである渡邊は、小惑星から同じ有機物が供給されても、地球と木星の氷衛星では環境が異なるので、もしそこで生命が誕生した場合、異なる有機物を使った生命になっている可能性がある、と述べる。
また、リュウグウの母天体は、太陽系の外側から内側へと移動したことも分かっている。
今後、オシリス・レックスによるサンプル・リターンがある。ベンヌリュウグウと同じC型小惑星
オシリス・レックスのこと、はやぶさシリーズの二番煎じだとちょっと思っていたところあるんだけど、はやぶさ2が採取したサンプルが約5.4gなのに対して、250g前後のサンプルを持ち帰る予定と知って、いやーやっぱアメリカは規模が違うなあと思った。

新しいエイリアン像 想像を超えた生命体  S. スコールズ

NASAが出資する不可知論的バイオシグネチャー研究所(LAB)
地球外生命体を探す際、地球の生命に似たのを探すというのが一つのセオリーだが、ここでは、地球の生命とは似ていない想定外の生命を探すための方法を検討している。

  • 結合部位の多さ

生物は、非生物よりも、より多くの結合部位を持っているのではないかという仮説

生物は、周囲の環境とは異なる状態に内部環境を保つ
例えば、特定の場所に濃縮されたカリウムが存在していたら、それは生物かもしれない

  • 化学的分別

生物が、特定の元素や同位体を優先して利用すること

  • 数学的関係

細胞のサイズと量のべき乗即
小さい細胞は多数存在し、大きな細胞は数が減少する。
小さなものはたくさんあって周囲の環境に類似しており、大きなものは少なくて環境に類似していないなら、生物かもしれない

分子の複雑さを数値化する理論
質量分析で、その分子の正体が分からなくても複雑さが分かる
NASAアセンブリ理論の提唱者であるクローニンに、複数の試料を提供し、生物か非生物か判定させた。
判定がむずかしいとされた、マーチソン隕石(複雑なので生物と誤判定されると思われた)と1400万年前の化石(非生物と誤判定されると思われた)の両方に正解した。

覆る直立二足歩行の進化史 人類が試した多様な足取り   J. デシルヴァ

1976年、タンザニアでリーキーらが発見した足跡
遺跡Gという場所で見つけた足跡はアウストラロピテクス・アファレンシスのものとされたが、遺跡Aという場所で見つかった足跡はそれとは異なっていた。80年代半ば、これはクマのものであるとされたが、2017年、筆者らは遺跡Aの足跡がクマの足跡とは一致しないことを突き止めた
この場所には、アファレンシスとアファレンシスとは異なる2種のホミニンが住んでいた
直立二足歩行は進化史上で何度も生じていた
アウストラロピテクス・セディヴァ、パラントロプス・ロブストスホモ・フロレシエンシスなど、骨格の違いから考えて異なる様態の二足歩行をしていた
地上で始めたのではなく、樹上で二足歩行していた
中新世について、類人猿とホミニンが分岐した時期だが、アフリカでの化石記録が少ない一方で、南欧などではよく発見されている。ドイツのダヌビウス・グッゲンモシなどの類人猿は、ナックルウォークはしておらず、樹上で二足歩行をしていた可能性がある。
ホミニン特有の適応は、二足歩行ではなく、地上での二足歩行であった可能性

加速器実験で探る「強い力」 クォークグルーオン・プラズマを作る   C.モスコウィッツ

NY州ロングアイランドのブルックヘブン研究所にある加速器RHIC
ビッグバン直後のごく短い時間に宇宙を満たしていたと考えられる「クォークグルーオン・プラズマ」
これは気体のようにふるまうと考えられていたが、実際にRHICの衝突実験で発見されると、それは液体であった
陽子や中性子からクォークグルーオンが解き放たれると、その全体に強い力が働き、集団的にふるまうようになるから。
量子色力学の難解さ
RHICとLHCの連携
RHICに設置されている二つの測定器の一つであるPHENIXについては理研も深くかかわっており、クォークグルーオン・プラズマの温度と密度を測定している

ガスライティング 相手の現実認識をゆがめる虐待   P. L. スウィート

ガスライティングとは、パートナーや子ども、あるいは部下に対して「お前は頭がおかしい」「お前の妄想だ」「過剰反応だ」などの言葉をかける心理的虐待
色々な事例が紹介されている。
夫から妻に対して、親から子どもに対して、上司から部下に対してと、対等ではない関係で生じることが多いが、対等だと思われる関係でも生じることはある、と。
また、経済面のコントロールとの合わせ技で行われることもある(夫婦、親子、職場の例はわかりやすいだろう。「俺がいないとお前は何もできないのだ」的な奴)
被害者が孤立してしまうことでいっそう抜け出せなくなる(職場だと同僚も上司と一緒にガスライティングをするケースなど)。
恥ずかしながら全然知らなかったのだが、最近、流行語(?)となっているとのこと。
流行語となったことで拡大解釈などもあるが、しかし、こうしたケースがDVや虐待であると自覚していなかった被害者が、認識するのに役に立っている、としている。

ADVANCES

タコの神経

タコは脚の中に走っている神経が、動きの処理をしていて、小さな脳的な働きをしているのだけど、これまでどのように繋がっているかが謎だったのが、今回明らかにされた、というもの
二つ隣の脚とネットワークされている、という研究者にとって予想外の配置だった、と。

人工細胞に“動き”を付与

https://www.nikkei-science.com/?p=69683
大阪公立大宮田教授の研究。クレイグ・ベンター研究所が作った人工細胞に、スピロプラズマが動く際に関与している遺伝子を挿入したら、ちゃんと動いたという

味を変える食器

https://www.nikkei-science.com/?p=69685
スプーンに味蕾を刺激する突起ないし電極をつけて、甘味などを感じさせる。
糖尿病患者用に研究開発されているもの。実用化はまだ。

系外惑星の“半径ギャップ”

系外惑星をそのサイズごとに個数を数えると、スーパーアースとミニネプチューンの間にギャップがある。

From nature ダイジェスト「人新世」基準地に9つの候補

国際層序委員会の中の作業部会が、人新世の基準地候補を選出していて、どのように選ぶかという話
むろん、賛否両論あって、人新世は本当に地質時代なのか、という批判もある

ヘルス・トピックス 黄金則からプラチナ則へ

黄金則というのは「自分がやってほしいことを相手にもなせ」
これに対してプラチナ則というのは「相手がやってほしいことを相手になせ」
医療の現場において、医者は黄金則で考えるが、(医者というのは恵まれた立場にあるので)医者自身のバイアスがあってうまくいかないことがある、と。
もちろん、プラチナ則も必ずしもうまくいくわけではないが、相手が何をしてほしいのか考えてみることがまずだ大事なのだ、と


感動する物理

物理学に関する色々なトピックを見開きごとに紹介している特集記事。
かなり斜め読みしたのだが、印象に残ったのは、下記の2つ
一つは、電柱の構造で、実はあれ中空になっているらしい。中空になっていても強度が保たれるというか、そっちの方が強度が強い場合もあるらしい。材料力学らしい。
もう一つは、質量の99%はエネルギーという話だが、これは最初読み飛ばしていて、編集後記で触れられていたので読み直した。クォークの質量を足しても陽子や中性子の質量には満たなくて、陽子や中性子の質量の99%は、クォーク間を結びつける強い力に由来する、という話

世界が注目する「室温超伝導

0℃以上、1万気圧以上での超伝導が発見されたかもしれない、という記事
これまではマイナス20℃だかで170万気圧とかなので、だいぶ常温常圧に近付いているという話だが、実はこれを発見したグループは、過去に室温超伝導で捏造をやらかしていて、これもわりと疑いの目で見られているとも。

火星移住を実現せよ

東京理科大で火星移住の研究している人が監修
月より火星の方が、移住には向いているんだというのと、もはやSFではなくて、現実味のある話になりつつあるんだ、という主張がされている。
具体的には輸送手段とか、住む場所とか、エネルギー源、水や食料の確保とか。
月の場合、溶岩ドームを利用する話があるけど、火星でもやはり同様の地形があればそれにこしたことはない、とか。

日本列島の謎

フィリピン海プレートの方向転換による瀬戸内海や近畿の地形
マグマの指による東北の火山形成