科学とイラストレーションについて

むかわ竜復元画

以前読んだ土屋健『ザ・パーフェクト』 - logical cypher scapeの中には、むかわ竜の復元画を描いた服部雅人についての章もあった。
小林からの依頼から、プレスリリースで使われるむかわ竜のイラストをどのように描いていったのか、メールのやりとりを交えて、具体的な経緯が書かれている。
そこから、服部が提示したたたき台となるイラストに対して、小林や西村といった研究者側からコメントがつけられて、むかわ竜の身体の向きやアンモナイトなどの画面上での配置が修正されていった様子が、分単位でありありとわかるようになっている。依頼から3日間で完成させたとのことである。

研究者の依頼を引き受けるようになって、「突然の依頼で」「短期間での仕上がりを要求され」「修正が多くなる」ということを「当然のこと」と考えるようになった。(中略)めざすは、研究者の指摘を確実に理解し、すばやく実現できるような「職人」である。

TRAPPIS-1

The Art of Exoplanets | NASA
数日前のNASAの記事で、系外惑星のイラストレーション作成についての記事があがっていた。
天体物理学のPh.Dを持つRobert Hurtと、ハリウッドで特殊効果の経歴をもつTim Pyleの2人による、TRAPPIST-1での系外惑星発見に際しての、イラストレーション作成の経緯が書かれている。
系外惑星は、直接観測されているわけではなく、画像としてデータがあるわけではなく、間接的な観測データからイラストを起こしていく。イオやガニメデ、エウロパなど太陽系の衛星も参照したらしい。
HurtとPyleはデスクが隣り合っていて、芸術的インスピレーションと科学的チェックを相互にフィードバックしあっている、と書かれている。
ただ、服部のケースと違うのが、必ずしも研究者からの指摘を受けて修正していくという一方的な流れというわけでもなさそう、ということ。

At this point, Hurt said, art intervened. The scientists rejected his first version of the planet, which showed liquid water intruding far into the “dayside” of TRAPPIST-1d. They argued that the water would most likely be found well within the planet’s dark half.

“Then I kind of pushed back, and said, ‘If it’s on the dark side, no one can look at it and understand we’re saying there’s water there,’” Hurt said. They struck a compromise: more water toward the dayside than the science team might expect, but a better visual representation of the science.

ハビタブルゾーンにあるから液体の水がある可能性があって、それを描いたのだけど、潮汐ロックがかかっているので、液体の水があるとしたら昼側ではなく夜側だろうと、科学者から指摘をうけたものの、夜側に描いてしまうと、見てる人に水があることが伝わらない、と。
Hurtが語る目的も、服部とは少し違うように思える。

For Hurt, the real goal of scientific illustration is to excite the public, engage them in the science, and provide a snapshot of scientific knowledge.

高分子化学

橋本毅彦『図説科学史入門』 - logical cypher scapeのあとがきに書いてあった内容

高分子化学を研究していたポーリングは、『サイエンティフィック・アメリカン』の挿絵画家でもあったヘイワードに、分子の立体構造図を描いてもらっていたが、時にヘイワードから図が修正されることもあったという事例。
普通、科学者と画家の関係は、科学者の指示を画家が忠実に反映するという一方的なものだが*2、双方的な関係もあったという話。
橋本毅彦『図説科学史入門』 - logical cypher scape