大栗博司『大栗先生の超弦理論入門』

Ucci Leipuccini, Monadology, Information, and Physics - Togetterで、内井惣七

栗先生超弦理論入門、まだ拾い読み段階だが、よさそう(アタマのエエ人やの!)。ただ、オビの文句「『空間』とは幻想だった」、ライプニッツが330年ほど前から力説してきたことや!Lの場合、大元は弦やブレーンとちごて、モナドの世界(ワシの理解では情報の世界)やけど。

ライプニッツを<本気で>やろうという人、大栗先生ブルーバックスは読んどいた方がエエよ!

三位 Donald Rutherford, Leibniz and the Rational Order of Nature
四位 『ライプニッツの普遍計画』
五位 吉澤実 編 Baroque Solo Study
次点 大栗博司 『超弦理論入門』 ・・・

という感じで、大栗本をプッシュしていたので読んだ。
ライプニッツとの関係まではよく分からないけど。
確かに分かりやすく書かれている本ではあるのだけれど、超弦理論がそもそもかなりむずいので、結局うーんわからんっ

て感じで読んでいた。
おーそういうことだったのかーってところもあったのだけど。
ところで、自分は数年前にもやはり超弦理論超ひも理論)入門の新書(別の本)を読んでいたのだけど、完全に内容を

忘れていた。今回読みながら「おーそういうことだったのかー知らなかった」と思っていたのだが、当時の感想を読み返

すとそちらの本の方にも同様の内容のことは書いてあったようで。
まあ、説明の仕方はちょっと違う気がするのだけど、そちらの本は再読していないのでなんとも。

第1章 なぜ「点」ではいけないのか

大きさのない「点」としての粒子が最小物質だとして、何が問題か
磁力とかの遠隔力を説明するのに「場」というのがある。
場において働く力の強さは、距離の二乗に反比例。電子は自分自身の影響も受ける。自分自身との距離は0なので、力が無限大になる。
E=mc2で、エネルギーは質量になるので、質量が無限大になる。これやばい。
電磁場のエネルギーがでかくなるのに対して、電子の質量を負にしてやれば、相殺できる。
→くりこみ!


各章末にコラムがついている。
1章末のコラムでは、何故「超ひも理論」ではなく「超弦理論」としたのかについて。
この二つは同じもの。専門家は「超弦理論」とか「スーパーストリング理論」とか呼ぶが、一般向けだと「超ひも理論」という訳語が普及してる。ある時、「同じものだったんですか」と言われてしまい、これはまずいということで、一般向けのこの本でも「超弦理論」を使った、と。

第2章 もはや問題の先送りはできない

その場しのぎっぽい「くりこみ」が素粒子論ではうまくいった。
それは、よりミクロな領域に問題を先送りにしていったから(原子より小さい陽子へ、陽子より小さいクォークへ)。
重力に量子力学を適用するとどうなるか→時空間に不確定性があらわれる→距離が測定できない
ブラックホールとかプランク長とか、長さの限界がある
→もう「くりこみ」できない

第3章 「弦理論」から「超弦理論」へ

「弦理論」提唱したのは、南部陽一郎と後藤鉄男
点ではなく弦になることで無限大の問題を解消できる(ファインマン図で書くと分かった気になれるが、ブログだと書けないので省略)
開いた弦の振動が光子になる
閉じた弦の振動が重力を伝えることを、1974年、米谷民明が発見
ほぼ同時期、シュワルツとシェルクも同じことを発見し、弦理論は統一理論なのではないかと。
弦理論と超弦理論の違い
標準模型には、ボゾンとフェルミオンがあるが、弦理論はボゾンしか説明できない。
フェルミオンも取り入れたのが超弦理論
同じ数同士をかけると0になる、グラスマン数というのがある。(グラスマン数をθとすると、θ×θ=0になる)
フェルミオンの性質が、グラスマン数の性質に由来する
普通の数xとグラスマン数θを軸にとった空間を「超空間」と呼ぶ。そして、超空間における対称性を「超対称性」と呼ぶ。
超弦理論の「超」はここから。
超対称性が成り立つというのは、ボゾンとフェルミオンに対称性が成り立つということ。ボゾンにはフェルミオンのパートナー粒子が、フェルミオンにはボゾンのパートナー粒子があることになる。
しかし、これはまだ発見されていない。ILCで発見できるかもしれない。

第4章 なぜ九次元なのか

たいての物理理論は次元フリー。マクスウェルの方程式もアインシュタインの方程式も、何次元で計算しても解はでる。
ところが、弦理論と超弦理論だけは、次元が決まる。弦理論では25次元、超弦理論では9次元。
弦理論で光子全体のエネルギーを求めると、
2+(Dー1)×(1+2+3+4+5+……)となる(Dは次元の数)。
光子の質量は0なので、これを0にしないといけない。(1+2+3+4+5+……)が負にならないといけない。
ここで、オイラーの公式というのを使う。
オイラーの公式:1+2+3+4+5+…=−1/12
これを代入すると、D=25になる。
超弦理論だと上の式がちょっと違っていて、同じように解くとD=9になる。


章末コラム
超弦理論では空間は9次元であることがわかった」とはどういう意味か
超弦理論はまだ実験で検証されたわけではないので、これは数学的な主張
空間が9次元であれば、超弦理論は数学的に矛盾が起きないという意味

第5章 力の統一原理

ゲージ理論の説明
ゲージ理論は、数学者ワイルが発見した。
電磁場を、金融市場に喩えて説明
電場があると、電子は電位が高い方に引きつけられる→お金は金利が高い方に移動する
磁場があると、電子はくるくると回ろうとする→為替で裁定機会が生じるとお金がグルグルと回る
これも図があると、なんとなく分かったような気になる。
電磁場にも通貨がある→位相→それの測り方を変えても力の働きは同じ=ゲージ対称性
ゲージ=測り
これを高次元にしたのが、ヤンとミルズ。
高次元にすることで、弱い力と強い力についても。
対称性の次元とボゾンの種類の数が一致する。一次元(電磁場)→光子、三次元→W+、W−、Z(弱い力)

第6章 第一次超弦理論革命

1970年代は、場の量子論についての研究が盛んで、超弦理論は忘れられる。
その間、シュワルツだけが、任期付きの不安定な職にありながらも研究を続ける
1984年・第一次超弦理論革命

  • シュワルツとグリーンによる発見(1型の超弦理論アノマリーを相殺する方法とゲージ対称性が一つに定まること)
  • プリンストンの4人組による「ヘテロティック弦理論」の発見
  • ウィッテンらが、カラビ=ヤウ空間を用いて、次元のコンパクト化をする方法を発見
シュワルツとグリーンの発見

超弦理論には、1型(開いた弦と閉じた弦からなる)と2型(閉じた弦だけ)がある。
弱い力は、パリティの対称性が破れているが、2型だと対称性が現れてしまうので、使えない
1型には、アノマリー(量子的なゆらぎの効果で理論の整合性が失われること)がある。
実は、標準模型アノマリーがあるのだが、2種類のアノマリーが相殺しあっている。
シュワルツとグリーンは、32次元の回転対称性を選んだとき、1型の超弦理論でもアノマリーが相殺されることを発見。
これで、ゲージ対称性も32次元に定まった。

ヘテロティック弦理論

実は、アノマリーを相殺できるゲージ対称性がもう一つあった(「例外群の対称性」)
1型の超弦理論には、例外群の対称性が組み込めない
→2型を使うことにした。2型にはパリティの対称性が破れないという問題があったが、これに25次元空間での弦理論を組み合わせてみた→うまくいった。
2型でもパリティの対称性を破ることができること、例外群の対称性を組み込むことができたこと→ヘテロティック弦理論

ウィッテンらの発見

超弦理論は9次元、標準模型は3次元。残りの6次元をどうすればいいのか。「コンパクト化」する。
カラビが予想し、ヤウ・シン=トゥンが数学的に存在することを証明した6次元空間が、「カラビ−ヤウ空間」
カラビ-ヤウ空間を使って次元をコンパクト化する。
標準模型には、クォークが3世代ある。
カラビ-ヤウ空間のオイラー数は3(オイラー数は、トポロジーの種類を決める数。球面はオイラー数2、ドーナツの表面はオイラー数0)
空間のオイラー数が、クォークの世代数を決めている。

第7章 トポロジカルな弦理論

この章は、筆者(大栗)がこれまでどこでどのような研究をしてきたか、というもの
1984年、まさに第一次超弦理論革命の年に、京都大学大学院に進学
カラビ−ヤウ空間の研究を通して、9次元の超弦理論から3次元の標準模型をどうしたら導出できるのか研究。
いくつかの大学・研究機関での勤務を経て、92年、ハーバード大学にいた時期に、バッファ、チェコッティ、ベルシャドスキーとともに、「トポロジカルな弦理論」という計算方法を開発。
バッファと大栗はその後も超弦理論の研究を続けたが、一方で、チェコッティは自らがイタリアの少数民族出身だったこともあり、イタリアで政治家になり、州知事と市長を歴任。最近は再び物理学に戻ってきたとか。ベルシャドスキーは金融界へ進み、ヘッジファンド会社の重役になっているとか。
その後、カリフォルニア大学バークレー校に着任、そこで第二次超弦理論革命に直面することになる。
ちなみに、現在カブリ数物連携宇宙研究機構の機構長である村山斉とは、東京大学時代とカリフォルニア大学バークレー校時代の2回、一緒の場所で研究していたとか。

第8章 第二次超弦理論革命

1995年、ウィッテンが「第二次革命」となっていく講演を行う。
ウィッテンは第一次革命でも、空間のコンパクト化の発見をし、また1型にアノマリーがあることを指摘していて、深く関与していた人。
ウィッテンの発見のポイント
(1)5種類の超弦理論は、双対性のウェブで結びついている
(2)結合定数を大きくしていくと、双対性によって簡単な理論に置き換えられる
(3)双対性のウェブを完成させるためには、10次元の超重力理論も含める必要がある

5種類の超弦理論

1型:閉じた弦と開いた弦の両方を含む異論
2A型:閉じた弦だけで、9次元空間でパリティを破れない理論
2B型:閉じた弦だけで、9次元空間でパリティを破る理論
2種類のヘテロティック弦理論:32次元の弦理論と例外群の対称性をもつ超弦理論
ウィッテンは、これらの理論にはどこか矛盾があって、一つに絞り込めるのではないかと考えていた
ところが、矛盾は見つからなかった

双対性

一つのものに二つの見方があるということ。例えば、光子が粒子になったり波になったりすることは、双対性があるということ。
1985年、大阪大学の吉川・山崎が、2A型と2B型の間にT−双対性と呼ばれる双対性があることを発見。
ヘテロティック弦理論にも、T−双対性があることがわかった

10次元の超重力理論

超対称性を持っていて、次元が最大になる唯一の理論が、10次元の超重力理論。
最大で唯一なので魅力的なのだが、超弦理論との結びつきがよく分からないので、あまり研究されていなかった。
しかし、イギリスのタウンゼントやダフが研究していた。
筆者は、イギリスにはどこかアマチュア精神の伝統のようなものがあって、分野に拘らない、独創性の高い研究が生まれる土壌があるのではないか、と述べている。
タウンゼントは、ブラックホール解を研究。
ブラックホール解というのは、シュワルツシルトがアインシュタイン方程式の解として発見したもので、3次元空間で質量が1点にあつまるというもの。これを9次元空間で解くと1次元の弦になる。タウンゼントはこれを10次元で解いてみたら、2次元の膜になった。
ダフは、次元のコンパクト化で、超重力理論と超弦理論を結びつけた

双対性のウェブ

ウィッテンは、結合定数というのを大きくしていくと、超弦理論が超重力理論になることを発見。
さらに、5種類の超弦理論と超重力理論が双対性でそれぞれ繋がっていることを発見。これを、双対性のウェブと呼んだ。
っていうことは、これらって実は一つの理論なんじゃないの?→どういうものか分からないけど、「M理論」と呼ぶことにしよう。

第9章 空間は幻想である

ここまでの章も分かったような、分からないような感じだったけど、いよいよこの章は全然分からなくなってきたw
双対性のウェブで、次元が入れ替わるようになって「弦」は超弦理論の主役ではなくなった
次に「ブレーン」という概念が出てきた。0次元の点は0-ブレーン」、1次元の点は「1-ブレーン」、2次元の膜は「2-ブレーン」……p次元は「p-ブレーン」とタウンゼントが名づけた。
ポルチンスキーが、弦の端点が張り付くp-ブレーンというのを考えて、それを「Dブレーン」と名づけた。
Dブレーンに張り付いた開いた弦を使って、ブレーンの性質が解明できるようになった。
ブラックホールの温度を、Dブレーンに張り付いた開いた弦を使って、説明できた。
ブラックホールの内部の様子は、事象の地平面に張り付いた開いた弦を使って理解できる→ブラックホールの内部は、その表面を見るだけで理解できる
→マルダセナが数学的に形式化
重力のある三次元空間の現象が、重力のない二次元空間の現象としてもできる=「重力のホログラフィー原理」
この原理によって、三次元空間の理論と二次元空間の理論が同等になった。
空間って何だろう?
→温度が二次的な性質であるのと同様に、空間も二次的な性質である


「重力のホログラフィー原理」
素粒子論の主流になっている

  • 論文引用件数

2010年に、素粒子物理学分野でマルダセナの論文が引用件数の歴代一位になっている(8544件)。

  • 実験による検証

クォークグルーオン・プラズマ」の性質について、理論的な予言が実験で検証されている。


第10章 時間は幻想か

この章では、空間が幻想(二次的な性質)ならば、時間もそうかもしれないねとは書いているが、時間についてはそれほど書かれていない。今まで、超弦理論はあまり時間について扱っていなかった模様。
宇宙の起源にも応用しようとするなら、時間について考える必要がでてくる、と。
それで、宇宙の起源の話として、宇宙背景放射の話
現在観測されているのは、宇宙誕生から38万年後宇宙晴れ上がり後の背景放射。
晴れ上がり以前の宇宙は観測できないのか
重力波ニュートリノを使うとできる!
重力波については、カリフォルニア工科大学とMITのLIGO、日本のKAGRA、イタリアのVIRGO、ドイツのGEOといった計画が進行中。これらは数キロメートルサイズ。人工衛星を使った観測として、日本のDECIGO計画がある。



後半は本当によく分からなかったが
空間が幻想、というのは、空間が基礎的な存在ではなくて、温度のような二次的な性質であることを指して「幻想」と称していたみたい。
「幻想」という言い方はキャッチーだし、空間が基礎的じゃないっていうのは、日常的な感覚としては「それが幻想だった」と言われるのに近い衝撃はあることはあると思うけど
温度がいくら二次的な性質で、分子の運動が基礎的であるとしても、「温度は幻想である」とは普通言わないので、「空間は幻想である」もいささか言い過ぎのきらいはあるのではないかと思った。
これは「種は実在しない」っていう言い方の問題とも似ていて、「実在する」って述語をどう使うかという問題なのかなあとも。
実在するのが、基礎的な存在者だけであるならば、種も空間も実在しないといっていいと思う。
でも、二次的な存在や性質も、実在するって言いたい気分はあるような気がするんだけど、ここらへんは形而上学者に任せようw


最後の章で、私「空間とは何ですか」数学者「集合の一種です」私「空間とは、どのような種類の集合なのですか」数学者「近いものと遠いものの区別がつくような集合です」ということが書いてあって、これがライプニッツの関係説的な空間理解と近いのかな、と思った。


最後の方でいくと、「重力のホログラフィー原理」っていうのは、新説とかではなくて、もはや中心的な考えで実験による検証までされていたのかすごいっていうのと、重力波で宇宙の起源が観測できるかもしれないってすごいっていう、小並感


理論について数学的な辻褄があっているのかっていうのをひたすら調べまくっているのが、理論物理学者なのかーという感じがしたけど、
しかし、それでもまだ、理論物理学者や数学者が「研究する」って言っている時に、具体的にどういう作業しているのかがよく分からないw
まあ、他の分野の研究者についてもそんなに詳細なイメージを持っているわけじゃないけど、それこそ生物学者だったら細胞を酸に浸して観察してたりするのが研究なんだろうな、とかw
この本の中だと、「数日間、方程式を眺めていた」とかそういう記述があるので、紙と鉛筆を持って方程式を眺めてひたすら考えている作業なのか。あるいは、PCの画面を見てたりするのだろうか。
ただひたすら考えていることが「研究する」ことだとすると、「進捗どうですか」じゃないけど、どこまで進んだのかとか把握するの難しそうだな。業績評価とかそういうことは抜きにしても、本人にとっても「今日はここまでできたぞ」とか分からなさそう……。
まあ、理論物理学に限った話ではないね。哲学とか。


大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)

大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)