『インターステラ−』

クリストファー・ノーランの宇宙SF映画
今、自分のブログ見返してみて気付いたけど、なんだかんだいって、ノーランそこそこ見ている
『メメント』『プレステージ』『ダークナイト』『インセプション』
これらの感想を見てると、見終わった後に結構興奮しているのが伝わってくるなあw
これらの作品と比べてみると、『インターステラー』については、そこまで見終わった後の興奮はないといえる。
しかし、決してつまらない作品ではなくて、十分面白い作品であったとは思う。
3時間近い長さがあるわけだけど、その長さを感じさせない作品だった。


オクラって英語だったのか!(お約束)


直方体かわいいよ直方体
予告編にもちらちら出てくる直方体ロボット、実は3体いて、それぞれTARS、CASE、KIPPという。声や喋り方はちょっとHAL9000っぽいが、TARSは海兵隊ジョークを飛ばすユーモアの持ち主で、CASEは寡黙ながら主人公になついていくタイプと、個性があって、本作きっての萌えキャラw
変身して活躍するのもかっこいいw


あとは、主人公の超絶ドライビングテクin宇宙で話が進んでいく映画
大体のことは、めっちゃ舵を切ればなんとかなる
宇宙船のデザイン、わりと好き。遠目から見ると薄っぺらくて、近くでみるとブロックがごつごつしてる感じ。


これだけだと、ハードSFとか嘘だったのかとか思われそうだけど、結構がっつりSFだったのは確か
以下、ネタバレしつつ、見ながら思ったこと、気付いたことなどをだらだら羅列していく

だらだら感想(ネタバレあり)

他の人の感想を見ていると、冒頭が長いというのが多いみたいだけど、むしろこの長さの映画なのに結構テンポよく進むなあと思った。
というか、土星まであんまり説明なくぱぱっと行ったなあと。説明とかけっこう端折ってる感じがして、こんだけ尺長い作品なのに、いきなり飛ばすなあと思った。
今、プレデターWikipedia見てみたら、運用者は米空軍、伊空軍、英空軍、土空軍で、印空軍はなかった。まあ、Wikipediaだけど。
NASAの敷地に最初入るところは、NORADって書いてあった気がする。軍はもうなくなったという世界で、NASAも一回なくなりそうになったあとに作り直したっぽいので、そのあたりなんかあったのか。
ロケットの打ち上げも、打ち上げ台じゃなくて地下サイロから打ち上げてるし。国民から隠匿されてるんだなあというのが分かる。そのために、NORADの施設使ってるんだろう。
しかし、開発速度の速さがすごい。
あと、土星まで行くのも速い。2年って。ブラックホールの周縁からの脱出とかもあったから、エンデュランス号のロケットエンジンも、結構SF的なものだったのではないだろうか。どういうエンジンだとあれに必要な出力得られるのか、自分には分からないけど。核融合エンジンとかあれば何とかなるものなのかな。イオンエンジンでは無理だよね、きっと。
最初の、エンデュランス号へのドッキングシーンは、とても2001年宇宙の旅だった。
地球を離れていく時の地球が回転するシーンとか、あと後半の方でもなんか回転があった気がする。まあ、宇宙もので回転っていうのも当然といえば当然かもしれないけど、何というか独特なカメラの回転だったような気がしないでもない。何となく、カメラの回転がよく使われる作品だなあと思った。
さて、彼らが向かう先の候補は3つ、最初に行くのは水惑星。
惑星全体が海に覆われてるっぽいんだけど、すごく浅い。足首か脛くらいの深さしかない。
見てる最中は、なんでそんな浅瀬がずっと続いてんだって思ったんだけど、あの星の水ってほとんとがあの高波の部分にあるんだろうか。あれって、ブラックホールが近くにあるから、潮汐がやばいってことなんだよね?
旋回しながら着水したり、高波を駆け上がるように離陸したり、主人公のドライビングテクがすごい
そういえば、水惑星に下りる前に、中性子星で重力ターンしたらどうだ、みたいなセリフがあったけど、あの惑星系って、ブラックホールだけでなく中性子星もあったの? その後、中性子星って言葉は一切出てこなかったけど。
というか、あのあたりの天文学的なこと、全然分からなかったなあ。3つの星とブラックホールの位置関係とか。
『白熱光』を読んでいたというのに、降着円盤のこととかすっかり忘れてた、重力レンズとか。
ワームホールの中の描写の方が気になってしまったけど、ブラックホールの外見というか、事象の地平面までの描写こそ注目すべきとこだった(あー歪んでんなーくらいしか思ってなかったw)
ワームホール内部とか事象の地平面より内部の描写とかっていうのは、どういう理屈に基づいていたんだろうか。「プランク・ダイヴ」とか思い出すけど。五次元空間だと『ディアスポラ』か。
何となく、イーガン作品のタイトルを次々と並べてみたけど、作品の雰囲気的には別にイーガンっぽくはない。
高波であっけなくばんって吹っ飛んじゃうの、モブ厳と言わざるをえない。モブじゃないけど。あと、ロミリーも。ロミリーはずっと待ってて、ちょっと髭に白いものが混じっていたような。
氷惑星のマン博士がマット・デイモンだって全く気付かなかった。
雲が凍ってるのは面白かったけど、あれは実際のとこ、どういうことだったんだろう。
氷惑星は見るからに可能性が望み薄な星だった。あれだったら、水惑星の方がまだなんぼかまし。あの星に生命が生まれなかった理由としてブラックホールがうんたらとか言ってたけど、どうなんだろう。浅瀬が多いから、生命生まれそうな気もするんだけど*1、すごく頻繁に高波くるからよくないんだろうか。
最後の星は、ヘルメット外してたから呼吸可能な大気があったんだろうけど、そのわりには、火星のように荒涼とした風景だった。まあ、地球にだってああいう荒涼とした土地はあるから、別にいいんだけど、酸素があるってことはどっかに植物もあるんだよね、あの星、きっと。太古の地球のように、ようやく海岸あたりに上陸したくらいで陸上には生命がいない感じなんだろうか。
五次元空間から重力波通信するあたりは、量子データをモールス信号で送るとは? ってなったけど
まあ、「幽霊」とか「時計」とかに関して、映画の物語としてはおさまりのいい感じだったのではないか、と。

科学と非科学

この作品は、科学(的態度)と非科学(的態度)の対比が何度もなされていて、まあ、科学の勝利を描いているのだけれど、しかし、アメリアについてはちょっと分かりにくいと思うところもある。
とりあえず、順を追って書いてみる。
科学と非科学の対比ということで、もっとも分かりやすいのは、あの時代の地球の一般民衆の科学的知識ないし医学的知識レベルの低下である。
冒頭、主人公の娘マーフがアポロの話を学校でしたということで、父親である主人公が学校に呼び出される。というのも、この時代、アポロ計画は捏造だったことにされているのである。マーフはデマを流したという担任に対して、主人公はfMRIがあれば妻は病死しなかったと告げる。ここで、担任はfMRIが何のことなのか分からなくてポカンとしている。年かさの方の校長と思われる先生の方は、多分分かっている。彼は、この時代に適応するべく仕方なく人類は科学を捨てたことを理解してるけれど、この若い担任の先生の年になるとその部分のところが分からなくなってしまっているようだ。
一般の科学レベルがそんだけ低下していて、NASAだけがあれだけ科学技術維持しているのも謎っちゃ謎なんだけども、それはともかく、NASAと一般の世界が、科学的世界と非科学的世界として強く対比されている。
で、だからこそ、主人公の息子であるマーフの兄は妻子を医者に診せない。最初にマーフが、兄の妻に「病院に連れていかないの」って言ったときの、妻のすごく微妙な表情はとてもよかったと思う。その後、兄は「地下で祈るのか」と詰るけれど、彼らはもはや医療施設とかよく分かっていないんだと思う。
マーフと兄、主人公とおじいちゃんも対比的になっていて、マーフや主人公は、科学を捨てつつある世界に適応できなくて、兄とおじいちゃんは適応している。
2chとかでちらっと感想を眺めてたら、兄が家族を医者に連れていなかった理由が分からないという書き込みがいくつかあったのを見かけたので、このことについては一応ここに書いておくことにした。
アポロ捏造とか、あるいはある種のオルタナティブ医療への傾倒といった、世に蔓延る非科学的・反科学的態度に対する批判的な視座が、この作品には明らかにある。


ところで、この映画のパンフレットがなかなかひどくて、と一番驚いたのが、音楽についての、「SF映画でありながら、オーガニックでスピリチュアルな唯一無二の映画音楽が誕生したのだ」という一節
いやまあ、音楽に対する形容だから別に構わないといえば構わないんだけど、上で示したようなテーマが含まれている作品なのに、「オーガニックでスピリチュアル」っていう形容を使ってしまうのは、正直どうなのか、と思わざるをえなかった。


確かにこの作品ではやけに「愛」というワードが出てくるのであり、最後の五次元空間とか精神世界っぽくも見えるし、音楽がエモーショナルな要素をかき立てるという意味で、「スピリチュアル」という形容もありうるのかもしれないが。
で、「愛」なんだけれど、その前にこの作品に出てくる科学者について見てみると
一番アレなのがマン博士で、孤独に耐えかねてちょっと頭おかしくなってしまったというか、自分が生き残ることと人類に対する使命がごっちゃになってしまって、やらかす*2
ブランド教授は、あの「穏やかな夜に身を任せるな」の詩をやたらと繰り返すあたり、なんかちょっとおかしいところを感じさせる(おかしくなってたというよりは、嘘を隠すための振る舞いだったのだろうが)(彼は必ずしもおかしい人物ではないのだけど、マーフの提案を拒絶するところとか、唐突に嘘を告白して死んでいってしまうところとか、「え、何なのこいつ」と思わせるところがある、ということ)。
科学のエキスパートであるからといって、合理的な言動ができる人間じゃない、というふうに描かれている。
主人公は、パイロットでありエンジニアであって科学者ではない。
そして、アメリアは、マン博士のいる惑星にいくかエドモンズのいる惑星にいくのかという際に、愛は次元を超えるとかいう電波としか思えない主張を述べる。アメリアもついにおかしくなってしまったか、と思うのだけど、結果的にはそっちの惑星の方が正しかった。


冒頭、「幽霊」を恐れるマーフに主人公は、幽霊はいない・科学的に調べろということを述べる。出発する時には、「幽霊」とは親のことなのだという。そして最終的には、重力による通信をしてきた主人公自身だということが分かる。「幽霊」という非科学的な対象だと思われたものは、一応、科学的な説明が与えられるし、なおかつ、親子の繋がりというテーマ的なものも満たされている。
ということは、「愛」というのも、科学的位置づけが与えられていたと考えられる。次元を超えるものとしては、重力しかでてこないので、愛=重力ってことになるんだけども。
愛自体を、科学と非科学の二項対立図式に当てはめようとするのは、カテゴリーミステイク的なところがあるけれど、アメリアのあの時点での主張は、非科学的な「電波」言説にしか見えないのであり、しかし、それを結果的には正解にしてしまったわけで。
よく、この映画が、SF部分が分からないとただの親子の愛のドラマにしか見られないだろうけど、実はハードSFだ、みたいな紹介のされ方をしているけれど、ここの「愛」についてどう捉えるかってところかなと思う。愛が次元を超えたのか、重力が次元を超えたのか。というかまあ、そうやって愛と重力を混ぜちゃうのが、SFなのかなって気もしないでもないけど。

パンフレットについて

いくばくかでも、SF解説がないかと思ってパンフレットを手に取ったのだけど、思いのほか書かれてなかった。
エンデュラス号の解説が載ってたのはよいところだと思うのだけど。
科学解説部分の記事が
・宇宙開発史
・キップ・ソーンの提唱したワームホールを利用したタイムトラベル
・宇宙SF映画
マルサスの罠と技術革新
となっている。
宇宙開発史自体は導入として興味を引くかもしれないけれど、この作品を読み解く上ではあまり参考にならない気がする。
ワームホールによるタイムトラベルの話も、入り口Aと入り口Bを動かすと、過去に行くことができるようになるって奴の解説なんだけれど、これって直接的には出てきていないような……。
ブラックホールの解説(降着円盤重力レンズ、事象の地平面、特異点)こそすべきだったと思うのだけど。
あと、重力波が次元を超えて伝わるって、ブレーンワールド仮説とかだったような気がするので、そのあたりとか。
ブラックホールを使った重力ターンって言葉が何度か出てきたけど、あれって、スイングバイのことだよね? じゃあスイングバイの解説とかもあったってよかったのでは。
マルサスの罠と技術革新の記事は、長沼毅が書いてて、読み物として入ってるのは全然悪くないと思うんだけど、長沼さん呼んでくるんだったら、もうちょっと地球外生命とか系外惑星とかの話書かせればよかったんじゃないのおお?って思った。*3
あの映画の中に出てきた基本的な科学用語、SF用語の簡単な解説記事は需要あるだろうし、そうだとすると必要な項目はいっぱいあるのに、それらが全然載ってないパンフレットってちょっと。


パンフレットの悪いところばかり書いたけれど、よかったなあと思ったところは、五次元世界は、ヒッチコック『めまい』のオマージュだろうと書かれていたところ。ノーランは、キューブリックと比較されがちだけど、ヒッチコックと似ているという指摘もあるとのこと。
あと、上にも書いたけど、エンデュラス号の解説はよかった。

結末とか

この作品、情報を過去に送るっていうのと、ウラシマ効果はあるけど、実体が過去にいくという意味でのタイムトラベルは出てきていない。
で、それは、マーフが親が子どもを看取ってはだめだといって、自分の死を「年下の」父親に見せず、自分の子や孫に囲まれて亡くなる、というところと、通じ合っているような気がする。
この時間の描き方と、マーフィの法則って何か関係あるのだろうか。
マーフが、最終的にマーフィって呼ばれているのとか、ちょっと気になる。


あと、宇宙ステーション内に、マーフの生家が再現されているところの気持ち悪さ
主人公自身に、「こういうノスタルジックは嫌いだ」と言わせていて、そういうノスタルジック批判みたいなものまでわざわざ描いているのも、気になるところ。
そもそも、冒頭に出てくる、謎の回想を語るドキュメント風映像は、この再現施設で流れているという設定だし。
人の感想をtwitterで見ていたら、「だから全てフェイクの可能性もある、ノーランだし」という指摘もあった。


プランAと重力理論の関係について
自分は、宇宙ステーションを恒星間航行させるのに重力制御が必要だからであって、プランAであっても、エドモンズの惑星に移住するのだと思って見ていたのだけど、なんか感想とか色々見ていたら、よく分からなくなってきた。
宇宙ステーションの重力環境を維持するために重力理論が必要で、プランAは移住を含意してないの?
あの宇宙ステーションは、円筒が回転する遠心力で重力環境作っているんだと思ってた、確かに変に歪んだふうに描かれていたけど。

  • 追記

やっぱり、プランAも移住プランでよいみたい
ただ、そうすると、何故主人公が戻ってきたときに土星周辺にまだいたのか、という問題があるっぽい
当初の構想だと、主人公が戻った時、既に人類は太陽系を去った後だったというものだったらしい(『インターステラー』 スピルバーグ版とのラストの違い :映画のブログ


これもレジェンダリーだった

追記(20141204)


このサイトで、エンデュランス号をぐりぐりと見て回ることができるのだが、これによると、Magneto-plasma Rocketを使っているらしい。
んでもって、トカマク炉をエネルギー源として使っているらしい。

追記(20141208)

『インターステラー』視覚化せよ!ブレーンワールド | 小野寺系の映画批評
こういう解説読みたかった
ブラックホールが光って描かれていたのは、70年代のホーキングの予想が元ネタだろう、とか
自分は、ブラックホール知識が全然ないので、カー・ブラックホールとかシュバルツシルト・ブラックホールとか、名前は聞いたことあるけど、SF見てて、あ、カー・ブラックホールだ、とか分からないので、こういう解説あると嬉しい
ブラックホールの本読みたくなってきたなあ。『白熱光』もブラックホール知識必要だったし。
これ読んで思い出したというか、ブログに書きそびれてたなあと思ったのは、『2001年宇宙の旅』で、これは確かに似てるなって思ってたんだけど、メモしわすれてた。
で、高次元の存在が未来の人類ってのも、それゆえのタイムパラドックスっていうのは、まあよくあるネタっちゃよくあるネタなので、メモしわすれてた。
五次元空間については、『インセプション』の時の、街がばたんで折りたためられる映像とかを思い出したりしたなあ、ということを思い出した。変な空間なんですよ感はあったよねw

追記(20141220)

ブラックホールについてちょっと勉強した
ブラックホールがなんで光っているのかとか、カー・ブラックホールの話とかもある
大須賀健『ゼロからわかるブラックホール』 - logical cypher scape

*1:生命の誕生には大陸が必要という説がある

*2:ノーランが、マン博士についてインタビューに答えていたり、マン博士の前日譚であるマンガをノーランが監修してたり、ノーランはマン博士に思い入れがあるっぽいんだけど

*3:っていうか、長沼さんの記事読んで気付いたけど、確かに火星をテラフォームするって道もあるんだな。アメリアが待ってる星だって、あの風景がずっと続いているような星だとしたら、改良必要そうだし。