- ワームホールと量子もつれ 量子時空の謎 J. マルダセナ
- ホログラフィー原理を解く エンタングルメント・エントロピーと笠・高柳公式 中島林彦 協力:大栗博司/高柳 匡
- 特集:人新世を考える(後編)
- ロボット工学 しなやかな2足歩行ロボット J. パブルス
- サイエンス考古学 ウソ発見器/アスファルトで緑化/注意集中のスパン/自動車/氷を収穫/トンネル時代
- NEWS SCAN●海外ウォッチ
- From nature ダイジェスト DNA解析でキリンは4種に
- 「総括原価」に紛れる原発事故負担 滝順一
- 今月の科学英語
表紙イラストがどうも、ワームホールがもつれてるイメージイラストっぽいんだけど、「いや、そういうことじゃなくね? あれ? あれ?」ってなるw
ワームホールと量子もつれ 量子時空の謎 J. マルダセナ
ワームホールと量子もつれが、実は同じ現象なのではないか、と。
1935年、アインシュタイン(Einstein)とローゼン(Rosen)が予想。そのため、ワームホールのことを「アインシュタイン・ローゼン橋(ER橋)」とも呼ぶ
1935年、アインシュタイン、ローゼン、ポドルスキ(Podrski)による(EPR)
アインシュタイン自身は、もちろんこの2つに関連があるとは思っていなかった。
1974年、ホーキングによりブラックホールが放射を発することが示される。放射がある=温度がある=微視的状態がある、ならば、ブラックホールも量子力学的にふるまう。ならば、量子もつれ状態のブラックホールというのを考えてもよい。弦理論によれば、量子もつれ状態のブラックホールは、ワームホールによってつながっている。
マルダセナ(著者)とサスキンド、「ER=EPR」説を提唱
ホログラフィー原理を解く エンタングルメント・エントロピーと笠・高柳公式 中島林彦 協力:大栗博司/高柳 匡
ホログラフィー原理について書かれたもので今までで一番分かりやすかった!
さすがに、「全部分かりました!」とは言えないものの、分かった感が得られたw
(ところで、宇宙論関係って読んだ先から内容忘れているようで、過去に読んだものと今読んだものの知識が自分の中でリンクしていない、ということに、自分のブログの過去記事を読んで気付く)
量子力学と一般相対論を統合したい
→量子力学にとって重力が扱いにくくて厄介
→3次元の空間+1次元の時間からなる重力を含む理論を、空間2次元と時間1次元からなる重力を含まない理論で説明しよう=ホログラフィー原理
→空間1次元分に相当する自由度=エントロピー(特にエンタングル・エントロピー)
ブラックホールの直上で対生成が起きて、片方の粒子だけが事象の地平面の内側に入ったとする
→遠くから見るとブラックホールから粒子が放出されている=光を放っている
→光を放つ=熱を帯びている→温度とエネルギー、エントロピーを持つ
→計算すると、ブラックホールのエントロピーはその表面積に比例する(ベッケンシュタインとホーキング)
→普通はエントロピーは体積に比例する
→エントロピーというのは系の状態の数で、それが表面積に比例するということは、ブラックホール内部の状態が表面上に表現されていること→ホログラフィー原理のヒントとなる
Dブレーン説登場
→気体のエントロピーが分子の状態の総数であるのと同じく、ブラックホールのエントロピーとはDブレーン面に張り付いた弦の状態の総数である
Dブレーンは重力が存在しないのでホログラフィー原理の有力候補
1997年:マルダセナが超弦理論を用いたホログラフィー原理のモデルを発表
→このモデルの宇宙は、三角形の内角の和が180度になるユークリッド空間ではなく、180度より小さくなる反ドジッター空間(AdS)
マルダセナのモデルは、AdS空間という3次元の宇宙が、CFTという場の量子論で記述される2次元の宇宙と同じであることを示す(AdS/CFT対応)。
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- AdS/CFT対応の応用
AdS/CFT対応は、相対論では解くのが難しい問題(ブラックホール連星の衝突によるブラックホール形成)を量子論の言葉で記述したり、量子論では解くのが難しい問題(超高温超電導現象)を相対論で記述したりといったことを可能にした
熱力学では、ミクロな分子の振る舞いが、マクロにおいて熱という現象になる。エントロピー概念によって温度が統計的に定義されている
2次元の量子論によるミクロな振る舞いが、3次元のマクロな重力という現象になっているのではないか。ならば、そのエントロピーに相当する物理量はいったい何か
→エンタングル・エントロピー
素粒子はスピンという物理量をもつ。光子のペアは、必ず+1と-1のスピンをもつが、観測するまではどちらがどちらかわからない(+1,-1)と(-1,+1)の状態が重ね合わせになっている=量子もつれ(エンタングル)
見かけ上は同じだが、量子もつれによって、様々な状態をとりうる。この状態の総数=エンタングル・エントロピー
エンタングル・エントロピーというパラメーターによって区別される物質の相があることがわかってきた
→ノーベル賞にもなった「トポロジカルな相」!
しかし、量子力学の手法でエンタングル・エントロピーを計算するのはとても難しい
- 笠・高柳公式
量子もつれ状態にあるとき、光子Aにとって光子Bは観測されない領域である。B領域について観測できない→B領域の情報が失われていると考えると、その失われた情報量=エンタングル・エントロピー
観測できないB領域というのは、ブラックホールにたとえられる。
CFTで記述される世界における量子もつれ状態の発生とは、AdSにおけるブラックホールの発生と同じことなのではないか。エンタングル・エントロピーの計算は、AdSで発生するバブルの表面積を計算することと等しい→笠・高柳公式の発想
2006年 笠・高柳公式発表
2013年 マルダセナ・リューコビッツ、AdS/CFT対応から笠・高柳公式を導出
2013年 マルダセナ・サスキンド、ER=EPR説提唱
- ER=EPR説とファイアウォール説
ER=EPR仮説は、2012年にポルチンスキーが提唱したファイアーウォール仮説と対照的
ホーキング放射によってブラックホールから光だけでなくエントロピーも放出されている、とは考えられていないが、ポルチンスキーは事象の地平がファイアーウォールになっていたら、量子もつれが断ち切られエントロピーを運び出せるとした。
しかし、ファイアーウォール仮説は、一般相対論のブラックホールと相いれない。
ER=EPR説であれば、ファイアウォールがなくてもワームホールによってエントロピーを運び出せる
- 今後の課題
プランク長程度の世界では、ベッケンシュタインとホーキングによるブラックホールのエントロピーの計算も、笠・高柳公式も無条件では使えない
- 笠・高柳
2人は2005年当時、カブリ理論物理学研究所のポスドク
笠が物性物理、高柳が超弦理論の研究者だった
うーん、こうやって書き出してみると、やっぱりよくわかんねーなw
エントロピーは状態の数! あれも状態の数、これも状態の数っていうんで、論理展開されていっている感じ。情報とエントロピーもそんな感じでつながっているよね?
それにしても、相対論で解くのが難しい問題は量子論にしよう! 量子論で解くのが難しい問題は相対論にしよう! っていうのがもうなんていうかすげー
特集:人新世を考える(後編)
この特集、記事の中に色々な人のコラムが混ざっているのだけど、パトリシア・チャーチランドが、脳の研究が進んでも刑法は変わらんよみたいなことを書いてたんだけど、この人って消去主義者じゃなかったっけ?
健康 120歳時代 健康寿命を延ばす道 B. ギフォード
カロリー制限で実験動物の寿命が延びることは、1930年代から知られている
mTOR経路が活性化すると細胞が活性化する→ラパマイシンという薬を投与すると、この経路が阻害され、細胞分裂が抑制されるので、ガン治療薬に使われている→ラパマイシンをマウスに投与した実験において、長寿命化が確認されている
糖尿病治療に使われているメトホルメンを服用している患者は、対照群より18%長生きしたというデータ
この記事では、死亡率が下がったことでアルツハイマー病が増えているという指摘もある。
別のところにあったコラムでは、アルツハイマーが根治できなくても発症を遅らせる方法を探せばよいというものがあった。
ロボット工学 人間性の黄金律 H. ロズナー
ポストヒューマン的な話。ロボットに乗り移って不老不死化してもなお人間と言えるのかどうかみたいな。
宇宙 「知生代」を宇宙にひらく D. グリンスプーン
人新世の次は知生代かースケールがでけーなーと思ってたんだけど、新生代に次ぐ知生代だと思ってたら、顕生代に次ぐ知生代で、スケールのでかさが予想を遥かに上回っていたw
近い未来に人類を襲うであろう気候変動などの危機が書かれている。
評論 知りえない未来 K. S. ロビンソン
特集の最後を飾るのは、キム・スタンリー・ロビンスン『2312 太陽系動乱』 - logical cypher scape2を書いたSF作家による、未来予測についての話。
未来予測というのは科学ではなくて、SFゲームなんじゃないの、と。だから、優れた科学者だからといって未来予測が得意というわけではなくて、このゲームについてよく分かっている人が得意だと。アシモフの未来予測はすごいよね、とか。1964年に今後50年で歴史を左右する要因はと聞かれて、人口問題を挙げている、とか。
実際に未来予測する方法として、直線外挿、U字の成長曲線、漸近曲線、その二つを組み合わせたロジスティック成長曲線、サインカーブ的な循環サイクル、釣り鐘型の正規分布、パターンのない非線形ブレークポイントを紹介している。方法というか、何というか。
ムーアの法則は、ロジスティック曲線の一部に過ぎなかったのではないか、とか。
ロボット工学 しなやかな2足歩行ロボット J. パブルス
2015年のDARPAロボティクスチャレンジに参加した3つのチームのロボットの紹介。
歩行には、制御性、ロバスト性、効率性の要素があって、3つを兼ね備えたシステムはまだ開発されていない。ASIMOは制御性重視システム。
- フロリダ大学人間・機械認知研究所(IHMC)のプラットらによる「ランニング・マン」
キャプチャーポイントという方法で、制御性とロバスト性のハイブリッド戦略をとる
自身の空間的位置をリアルタイムに感知する能力は人間以上だが、人間のようなしなやかな脚をもたない
プラット曰く、2足歩行ロボットのネックはソフトウェアではなくハードウェア
- オレゴン州立大学のハーストによるATRIAS
効率性を重視したアプローチ
「ばねマスモデル」=質量(マス)のあるボディとばねのような脚の2要素からなる
多くのロボットが採用する静的安定性ないし準静的安定性ではなく、動的安定性のアプローチ
障害物への対応を、自然な物理的相互作用にゆだねる
ATRIASは生物をまねて作ったわけではない(見た目は明らかに人の脚にも鳥の脚にも似ていない)が、歩行パターンは同じ
- 韓国科学技術院(KAIST)の呉俊鎬によるDRC-Hubo+
DARPAロボティクス・チャレンジ優勝
二足歩行を限りなく避ける戦略→多モード移動(変形する)
呉自身は、二足歩行の可能性を信じていて、二足歩行が可能になれば多モード移動は必要ないと考えている。
2016年2月Atras改良型の動画公開
しかし、工学的詳細の公開は拒否。SCIENTIFIC AMERICANの取材申し込みにも応じていない。
サイエンス考古学 ウソ発見器/アスファルトで緑化/注意集中のスパン/自動車/氷を収穫/トンネル時代
SCIENTIFIC AMERICANの50年前、100年前、150年前の記事を紹介するコーナー。
採用試験にまで嘘発見器が使われセンシティヴな情報が聞かれているという50年前の記事や、舞台より映画だよねとか、氷の切り出しが始まったとかの100年前の記事も興味深いんだけど、一番面白かったのは150年前の「トンネル時代」の記事だった。
鉄道なんかでトンネルが増えていて、今はまさにトンネル時代だって書いてるのだけど、未知のことを「掘り下げる」魅力がトンネルブームの一因ではないか、という謎な分析もされていて、面白いw
土木技術が目に見えて発展していった時期なのだろうなあと思うけど、例えば、鉄骨とガラスの話だと建築史でよく見かけるけれど、トンネルってあまり着目したことがなかったので、「トンネルの時代」として語られることがあったのかと面白かった。これ、逆に150年後にも似たような何かがあるだろうな。
NEWS SCAN●海外ウォッチ
From nature ダイジェスト DNA解析でキリンは4種に
分子生物学と分類学の話がもう一つ! 1種だと思われていたけど、実はキリンは4種だったことが判明。これは一般向けのニュースにもなっていたはず。
キリンというのは、生息地ではあまりにも一般的すぎて、逆に研究があまり進んでいなかったらしい。
今回の研究で、動物園とかでの繁殖には役に立つかも、と。一方で、動物保護の観点では、従来通り1種と見なした方がよいこともあるとか。ゾウの方で既にそういう考えがとられているらしいけど、雑種が保護対象から外れるとか、そういう問題があるみたい。
今月の科学英語
Hadean eon 冥王代、Archean eon 始世代 Proterozoic eon 原生代 Phanerozoic eon 顕生代
proprioception 固有受容性感覚、深部感覚
目を閉じ耳をふさいでも、自分が立っているかどうか、腕がどちらに伸びているかなどがわかる感覚のこと