上田早夕里『魚舟・獣舟』

『ぼくらの、マシン』で「魚舟・獣舟」が面白かったので、思わずこちらも読んだ。
「魚舟・獣舟」を含めて4本のタイトルが、もともと「異形コレクション」というアンソロジーが初出。なので、どれもSFではあるけれど、ホラータッチなところがある。
まあでも、SFとかホラーとかそういうジャンルを超えて面白いと思う。

くさびらの道

これは、まさにバイオホラーな感じで、恐ろしくもあり、それでいて美しく切ない感じもある。
日本で寄生茸による奇病が発生。
次第次第に日本各地へと広がり始める。感染するとあっという間に死にいたり、有効な治療法も確立されないため、感染者がでるとその地域ごと隔離されてしまう。
主人公の実家のある関西がおそわれ、家族との連絡が途絶える。
妹の婚約者が対策本部の職員だったこともあり、主人公は彼と二人で隔離区域へと潜り込む機会を手に入れる。
この茸は、ある化学物質をまき散らし、これが人間の脳に影響し、幽霊のようなものが見えたり聞こえたりする。それは、その人の記憶へと働きかけ、茸へと近づけるように働きかける。人間を苗床にする茸の、進化上の戦略である。
この幽霊による誘惑に乗ればもちろん死が待っているが、大切な者を失った者にとってはこの上なく甘美なものとして映るのだ。

饗応

サラリーマン(?)である人工知性体・貴幸を主人公にしたショートショート
不思議な温泉で貴幸はどこへ旅立つ

真朱の街

妖怪SF
サイバネティクスの発展のために作られた特区は、妖怪の街でもあった。
妖怪の側から言わせるならば、技術の発展に伴って人間の姿が異形化しはじめたために、わざわざ姿を隠す必要はないと判断したから姿を現したのだとか。
そんな街にやってきた一人の男。彼は幽霊が見える仕組みを研究していた研究者だったが、かつての友人を妬みから無茶な実験に参加させて死なせてしまう。その罪滅ぼしなのか、その友人の娘と共に実験から逃げるためにその街へとやってきたのだった。
ところが、その娘が妖怪にさらわれてしまう。彼は、妖怪百目に人捜しを依頼する。

ブルーグラス

ブルーグラスとは、音に反応して容器の中の物質が樹木状に成長していく、インテリア・オブジェ。
キューバ・ダイビングが趣味の主人公は、かつて海の中にそれをおいてきたことがあった。結婚後、ダイビングもあまりしなくなった頃、その海が環境保護のために立ち入り不可能になると聞いて、再び訪れようとする。
過去の恋愛に対する感情を中心に描いた作品。

小鳥の墓

デビュー作『火星のダーク・バラード』のスピンオフらしい。
そのせいか何なのか、長いわりにはちょっと今ひとつ分かりにくいところがあった。
ある男の少年時代を描いているのだけど、その男が大人になってからの描写が最初と最後にあるのだがそれが少ない。おそらくそれは『火星のダーク・バラード』を読めということなのだろう。
この作品は、外部から閉鎖された無害な環境で子どもたちに高度な教育を行う教育実験都市という設定はまあ一応SFだが、あまりSFアイデア的な部分はそれほど重要ではない感じ。
ある少年が、いつも「死にたい」と口癖のいう母親のせいで、といかその母親の感情を敏感に受け取りすぎたせいで、大人になってから、死にたがっている女性を見つけては死を与えて「救ってやる」ようになってしまった、という話。


魚舟・獣舟 (光文社文庫)

魚舟・獣舟 (光文社文庫)