古川日出男『ハル、ハル、ハル』

あとがき(?)に「速さこそがモラル」とあるが、とにかくあっという間に読めた。
実際、頁数もそれほどあるわけではないが、文章が速い。
パラパラっと見てみるとわかるが、わりと紙面が空いている。描写が少ない。そう、描写が少ない。
ノローグが多い。語り手ないし主人公の心の中での発話。
だが、それも内面が描写されているわけではないし、発話として考えると不自然な言い回しが多い。
やはりあとがきに「新しい階梯に入った」とあるが、古川は、新しい、日本語を、作り上げようとしている。
つまり、自然主義的な*1日本語ではない、日本語。
文語体でも口語体でもない、日本語。
そして。
そ、し、て。
現在形。
文体のリズム、とか、スピード感、とか、いうと、舞城王太郎の名がすぐに出てくるだろう*2
ただし、舞城の文体が、相当部分、舞城の個人的センスに負っていて、天然でやっている部分が多いように思われるのに対して、
こちらは、かなり試行錯誤、というか、実験をしている感じがする。
2作目の「スローモーション」は、前半部分、日記というスタイルにせよ、現在形や否定形や命令形をするところにせよ、文体の実験をしているような気がしてならない。途中まで、それが主眼の作品かと思って読んでいた。


だが、この本は、文体だけの作品では無論ない。
古川は、フィクションと物語を描く。
はっきりと物語がある。
「ハル、ハル、ハル」「スローモーショーン」「8ドッグズ」は、3編とも力(暴力)を手に入れる物語だ。
3人のハルが、ふぶきが、敏也が、逸脱するための新しい力を手に入れていく過程だ。
彼らはフィクションだ。
だが、彼らの新しい力が、フィクションと現実の境界線を破壊するだろう。
その直前で、物語は終わる。
犬吠埼で。
お台場に向かう水上バスの上で。
犬たちと潜む夜の房総半島で。

*1:大塚英志いうところの

*2:個人的に、佐藤友哉も独特なリズムによる文体芸を持っていると思うが、迫力不足。あるいは、中原昌也