小説

上田早夕里『獣たちの海』

オーシャン・クロニクルシリーズの書き下ろし短編集 温暖化で海面上昇した未来世界を舞台にしたオーシャン・クロニクルシリーズ 本作は、海上民からの視点で描かれた短編が4作収録されている。獣たちの海 (ハヤカワ文庫JA)作者:上田 早夕里早川書房Amazon 迷…

高山羽根子・酉島伝法・倉田タカシ『旅書簡集 ゆきあってしあさって』

高山、酉島、倉田の3人が旅先からそれぞれ2人に手紙を出しているという形式で進む、リレー書簡小説。 架空旅行記と書簡小説とリレー小説の面白さがかけあわされている。 奇妙奇天烈な土地を旅しながら、それがユーモラスさを生んでいて、読んでいて時々笑っ…

プリーモ・レーヴィ『天使の蝶』(関口英子訳)

1966年に刊行されたSF短編集、日本語訳は2008年。 レーヴィというと、アウシュビッツ体験について書いた作家でアガンベンが論じていたということしか知らなくて、このような作品を書いていることは全く知らなかったのだが、下記のモッタキさんのツイートで存…

高山羽根子『暗闇にレンズ』

高山羽根子の芥川賞受賞後第一作で、映画・映像をテーマにした長編小説 ということで、以前から気になっていたが、大森望編『ベストSF2021』 - logical cypher scape2 の中で、大森望が、プリースト『隣接界』*1に喩えていたのが最終的なきっかけとなり手に…

大森望編『ベストSF2021』

2020年に発表された日本の短編SFの中から、大森望が選んだ11作 2008年から2019年まで創元から出ていた「年刊日本SF傑作選」の、版元が竹書房に、編者も大森・日下から大森単独に変わっての後継シリーズ第2弾*1 タイトルは『ベストSF2021』だが、収録されてい…

古井由吉『杳子・妻隠』

SFじゃない小説(文学とか)も読もうと思って手に取った本第3弾である。 古井由吉は全然読んだことがなくて、どこから読めばいいのかもとっかかりもなかったのだが、亡くなった時にいくつか紹介記事を読んで、とりあえず「杳子」から読めばいいのかなあと思…

青木淳編『建築文学傑作選』

建築家である青木淳による「建築文学」アンソロジー ここでいう「建築文学」というのは、編者が建築的だと考える文学のことであり、必ずしも建築物が出てくる文学という意味ではない。ただし、候補となる作品があまりにも多くなったので、「日本文学」と「建…

藤野可織『おはなしして子ちゃん』

SFじゃない小説(文学とか)も読もうと思って手に取ったのが、しかし藤野可織という……結局、SFに近い何かを読んでしまう奴 芥川賞作家だし主に四大文芸誌で活動している作家なので、実際、SFではなく文学の作家ではあるのだが、年刊SF傑作選に何度か入ってい…

石黒達昌『診察室』

石黒達昌の電子書籍版短編集 『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』(伴名練編) - logical cypher scape2を読んだ勢いで手に取った。 どういう経緯で成立した企画なのかはよく分からないのだが、石黒については電子書籍オリジナル短編集というのがいく…

『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』(伴名練編)

伴名練による作家別アンソロジーシリーズ第3弾*1 石黒作品は、過去にやはりアンソロジーで「冬至草」と「雪女」を読んでいて、面白かったので気になっている作家ではあった。 「冬至草」と「雪女」はわりと似ていて、どちらも架空の研究をノンフィクション風…

月村了衛『機龍警察白骨街道』

機龍警察シリーズ長編第6弾 ミャンマーに赴くことになった部付警部3人、そして京都を舞台に城木は親戚たちと対峙する。 特捜部解体に動き出した〈敵〉『機龍警察 白骨街道』読了(昨日の夜遅くに読み終わった。おかげで寝不足気味)よくこんな話が書けるな………

ラヴィ・ディドハー『完璧な夏の日』

様々な特殊能力を持った超人(ユーバーメンシュ)が存在する20世紀を描くSF おおむね第二次世界大戦前後のヨーロッパが舞台だが、ベトナム戦争やアフガン侵攻、911なども出てくる。なお、原題はThe Violent Centuryであり、こちらのタイトルの方が内容には沿っ…

『パワードスーツSF傑作選 この地獄の片隅に』(ジョン・ジョゼフ・アダムズ編、中原尚哉訳)

パワードスーツをテーマにした書き下ろしSFアンソロジー やはり宇宙や戦場を舞台にした作品が多いが、開拓時代のオーストラリアやスペイン内戦を舞台にした歴史改変系SFがあったり、ラブロマンスサスペンスものがあったりと、多様性があってちょっと驚く。 …

『SFマガジン』2021年6月号

異常論文特集 SF短編集とかに時々入ってる論文風とかレポート風の作品が好きなので、この特集は当然買いだった そういう感じの作品としては、柞刈湯葉の裏アカシックと、柴田勝家の宗教性原虫がそれっぽさ(?)があって面白かったが、一方、最後に並ぶ3編が小…

冲方丁『マルドゥック・アノニマス6』

ウフコックがアノニマスからウフコック・ペンティーノへと帰る道を歩み出す 4巻から続いた、2つの時間に分かれて進む展開が、ここにきてようやく合流 再会と再出発としての別れを同時に描くために、ここまでこんな展開をしてきたのか、と思った冲方丁『マル…

高山羽根子『首里の馬』

芥川賞受賞作首里の馬作者:高山羽根子発売日: 2020/07/27メディア: Kindle版 沖縄・港川が舞台 未名子は、子どもの頃からとある私設資料館の整理を手伝っている。各地でフィールドワークをしていた在野研究者の順(より)さんが、沖縄で集めた様々な記録 一方…

オキシタケヒコ『筐底のエルピス7 継続の繋ぎ手』

とりあえず読み終わったのでその記録筺底のエルピス7 -継続の繋ぎ手- (ガガガ文庫)作者:オキシタケヒコ発売日: 2021/02/18メディア: Kindle版 今まで頼りになる味方だった人物が、それも3人まとめて敵になってしまった、さあどうする、という回だった

橋本輝幸編『2010年代海外SF傑作選』

橋本輝幸編『2000年代海外SF傑作選』 - logical cypher scape2に引き続き、2010年代傑作選 個人的な好みでは、2000年代のより2010年代の方が好きな作品が多かった。 前半にポジティブな作品、半ばにダークな話が続き、後半は奇妙な話ないし不思議な動物の話…

橋本輝幸編『2000年代海外SF傑作選』

2000年代というとわりと最近のような気もするが、もう10〜20年前のことであり、自分もまだほとんどSFを読んでいなかった頃だったりする 「暗黒整数」は言うに及ばず「ジーマ・ブルー」「地火」が面白かった2000年代海外SF傑作選 (ハヤカワ文庫SF)作者:エレン…

天冥の標9・10

というわけで読み終わりました 最後はシリーズの集大成なわけだけども、各巻ごとに異なる顔を見せてきた本シリーズは最終巻でもやはりそうで、これまでになくスペオペ 無数の地球外知的生命体種族が現れ、意味不明なスケールの宇宙艦隊戦をやり始める ポッと…

天冥の標(7・8)

巻ごとに異なることを色々やってるこのシリーズ 7巻は、十五少年漂流記、ただし子どもの数は5万人、みたいなっ 奴だった で、少しずつ、これが一巻のメニーメニーシープにつながっていくんだろうなというのは分かってくるんだけど、実際に繋がった時には、う…

天冥の標(5・6)

一巻のあとがきで、やれることを全部やる的なことが書かれていたが、5巻でようやく何となくその意味が分かってきた 5巻は、小惑星の農家の話で、これまた1〜4巻とは少し雰囲気が異なる。 こうやって、1つの物語の中でしかし、様々なネタ・アイデアを展開し…

天冥の標(1〜4)

ついに読み始めてしまった…… これ読み始めたら、しばらく他のもの手につかなくなるなと思って、読まずにいたのだけど 無料だったkindleを読み始めたのが運の尽きw とりあえず途中経過 こんなにも性と羊をめぐる話だったとは あと、こんなに各巻ごとに時代も…

スタスニスワフ・レム『完全な真空』

架空の本についての書評 対象となるのは、小説が多いが、最後の4編は学術書 原著が1971年、1989年に刊行された邦訳が今年文庫化された。 SF的な作品もあれば、文学パロディなものもある。 今でも面白いなあ、というものもあれば、もうさすがに古いかなという…

伴名練編『日本SFの臨界点[恋愛編]死んだ恋人からの手紙』

タイトル通り、恋愛SF(一部、恋愛ではなく家族愛ものだが)を集めたアンソロジー 何故か歴史改変ものが2作ある。 恋愛SFというと時間SFと相性がよいという勝手なイメージがあるが、その点直球の時間SFはなく、しかし、歴史改変ものも広義の時間SFと捉えればそ…

津久井五月『コルヌトピア』

植物と都市、そして庭園のSF 人と居場所を巡る物語、かもしれない 「コルヌトピア」と、文庫化に伴い、その後日譚(15年後を描いた)「蒼転移」が書き下ろしで収録されている。 ビルディングが植物で覆われた未来都市、というのは絵的にはありがちだが、新宿と…

伴名練『なめらかな世界と、その敵』

寡作ながら年刊SF傑作選常連の伴名練、初の短編集 読もう読もうと思いつつ、すでに発行から1年くらい経ってた。 伴名練は、作風が幅広い感じもするのだが、こうやってまとめて読むと、傾向が見えてくるというか。世界の変化を引き起こす者と変化に振り落とさ…

伴名練編『日本SFの臨界点[怪奇編]ちまみれ家族』

1961年の作品から2016年の作品まで、ギャグ的な作品も含めて、広い意味でSFホラー作品を集めたアンソロジー 上に1961年からとは書いたものの、収録作の大半は90年代及び2000年代の作品である。この時期の作品が多い理由は、編集後記に書かれている。 上に「…

『SFマガジン2020年8月号』

特集・日本SF第七世代 ここでは、北野勇作、野尻抱介を第4世代、冲方丁、小川一水、上田早夕里、伊藤計劃、円城塔を第5世代、宮内悠介、酉島伝法、小川哲を第6世代とした上で、それ以降を第7世代としている。 まあ、世代分けにどれくらいの意味があるかはと…

スティーブン・ミルハウザー『私たち異者は』

日常の中に紛れ込んだ奇妙なものを描くミルハウザーの短編集 原著は2011年 標題作をはじめ「私たち」という一人称複数形を使う語りによる作品が多く(7作中5作)印象的だった 帯にも引用されている訳者あとがきに「ミルハウザーといえば「驚異」がトレードマー…