伴名練『なめらかな世界と、その敵』

寡作ながら年刊SF傑作選常連の伴名練、初の短編集
読もう読もうと思いつつ、すでに発行から1年くらい経ってた。
伴名練は、作風が幅広い感じもするのだが、こうやってまとめて読むと、傾向が見えてくるというか。世界の変化を引き起こす者と変化に振り落とされる者、というモチーフが繰り返されているようにも見える(ぴったりそれに当てはまらないものもあるが)
「なめらかな世界と、その敵」がパラレルワールドもので、「ゼロ年代の臨界点」「ホーリーアイアンメイデン」「シンギュラリティ・ソビエト」は偽史というか歴史改変SF
女子高生の一人称からノンフィクション風、書簡体など、語り口が色々あって読んでいて飽きない


収録作品6作中3作は既読
過去に何読んだことあったかなと調べていて、本短編集に未収録の作品もちらほらあった
『NOVA10』 - logical cypher scape2収録の「かみ☆ふぁみ!」は、自分が初めて伴名練に注目した作品(それ以前にも読んだことはあったのだが、特に「これはかなり面白いのでは?!」と思い始めたのはこの作品からだったと思う)
逆に大森望・日下三蔵『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』 - logical cypher scape2の「一蓮托掌(R・×・ラ×ァ×ィ)」はあまりよくわからなかった奴かな。ラファティ自体あんまよくわからん
カモガワSFシリーズKコレクション『稀刊 奇想マガジン創刊号』の「聖戦譜」も面白かった

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

パラレルワールドもののSFは数あれど、パラレルワールドを行き来できる能力を持っているのがデフォルトの世界を描いた作品、というのは珍しいのではないかと思う*1
主人公の通う高校に友人のマコトが転入してくる。ところが、そのマコトはある事件のせいで、乗覚障害という、他の世界を認識できない障害になっていた。
どうすれば、真の意味でマコトを助けることができるのか。
全ての人があんな風にパラレルワールドを行き来できてしまうと、かなり色々と大変なのではないかと思うが(主人公はパラレルワールドを乗り換えることで次々と都合の良い展開を引き寄せていく。ただし、世界をまたいで知識を持ち越すことに制限があったりもする)、パラレルワールドを次々と切り替えていく様を当たり前のこととして描写していくのは、読んでいて楽しい
大森望・日下三蔵編『年刊日本SF傑作選 アステロイド・ツリーの彼方へ』 - logical cypher scape2で読んだことあり

ゼロ年代の臨界点

ゼロ年代といっても舞台となるのは、1900年代(明治35年〜)
当時女学生であった、日本SFのパイオニアたる富江、フジ、おとらの3人をノンフィクション風*2に描いた日本SF偽史

美亜羽へ贈る拳銃

タイトルから分かる通り、伊藤計劃『ハーモニー』リスペクトの作品。
インプラント技術で世界的な地位を占める神冴脳寮は、神冴家の次男でありながら神冴から反乱した志恩率いる東亜脳外と対立していた。
神冴家の末息子で、兄弟の中で唯一医学の道に進まなかった実継は、志恩の養女で天才の名を恣にする北条美亜羽と出会う。
交通事故(に見せかけた謀略)で志恩夫婦は死に、美亜羽は重傷を負う。美亜羽と実継は政略結婚をすることになるが、美亜羽はインプラントにより自らの人格をズタズタにする。つまり、憎しみの対象であった神冴実継を愛し、代わりに自らの天才を封じてしまう。
インプラントによって制御された人格と愛憎
初出である『伊藤計劃トリビュート』で読んだことはあったのだけど、なにぶん9年も前なので、内容は全く忘れていた。

ホーリーアイアンメイデン

死んだ妹から姉に向けての手紙、という形式で語られる、太平洋戦争末期、日本が異なる形で降伏した歴史改変もの
語り手の姉である鞠奈は、抱きしめるだけでその人の攻撃性を失わせ、穏やかな人格に変えてしまうという特殊能力の持ち主。陸軍の宗像大尉がその能力に目をつける。
一方、大尉により姉の能力と、その能力が自分には及ばないことを知った妹は、姉を畏れるようになっていく。


能力が効かない主人公は、「美亜羽へ贈る拳銃」で主人公の実継がインプラントの効かない手術を受けてるのと似ている。
いずれも、世界がいくばくかの自由意志を捨てる代わりに幸せを得ていく時に、主人公だけはその世界には入り得ないという設定になっている。

大森望・日下三蔵編『プロジェクト:シャーロック 年刊日本SF傑作選』 - logical cypher scape2にて既読
 

シンギュラリティ・ソヴィエト

アメリカが宇宙開発に邁進した一方で、人工知能研究に全振したソ連は、1969年代、シンギュラリティに到達。月着陸の偉業はソ連に取って代わられる。
1976年のモスクワの夜、帰路を急ぐ博物館職員であるヴィーカの前に拘束されたアメリカ人男性が、赤ちゃんの行列によって連れてこられる。
ソ連のシンギュラリティAIヴォイジャノーイは、ヴィーカに、アメリカのAIリンカーンの配下であるその男への対応を命ずる。
ソ連人民は、脳の半分をヴォイジャノーイに提供 しており、階級に応じて、労働者現実や党員現実にアクセスできる。
一方アメリカでは、リンカーンによって、自由主義諸国が共産圏に勝利した仮想現実が作られた、希望する州の国民から順に仮想現実で暮らすようになっていた。
男は、ソ連の勝利が実は決定的ではなかったことを証明するためにモスクワへやってきた。それは、ヴィーカの勤める博物館の展示物である自動化された戦闘機、そしてヴィーカと彼女の義姉の過去に関わっていた。

ひかりより速く、ゆるやかに

インフルエンザで修学旅行に行けなかった主人公
しかし、修学旅行から帰る新幹線が、前代未聞の事故に巻き込まれる。新幹線とその内部の時間の進み方が、2600万分の1になってしまったのだ。名古屋駅に停車するのは西暦4700年頃……。
主人公のハヤキの一人称で語られる現在と、遠い未来、この新幹線が白い竜として語り継がれている文明の退化した時代とが交互に描かれる。が、この遠未来の方は実は仕掛けがある。
高校時代のハヤキが使っているのはLINEだが、その10年後には全く別のウェブサービス名が出てきていたりする。
この新幹線「低速化」災害によってもたらされた世界の変化についての描写が、コロナ禍の起きた2020年に読むと、なかなかリアルに感じられる。もちろん起きていることは全然違うのだけど、どんどん色々なことに波及して、生活のありようが変わっていく感じが。

*1:自分が知らないだけかもしれないので「珍しい」と書いたが、他に例を見ないのではという気もする

*2:脚注まで付けられている