古井由吉『杳子・妻隠』

SFじゃない小説(文学とか)も読もうと思って手に取った本第3弾である。


古井由吉は全然読んだことがなくて、どこから読めばいいのかもとっかかりもなかったのだが、亡くなった時にいくつか紹介記事を読んで、とりあえず「杳子」から読めばいいのかなあと思って手に取った。
全然知らなかったのだが、「杳子」と「妻隠」が同時に芥川賞候補作となり、前者が芥川賞を受賞したらしい。
芥川賞-選評の概要-第64回|芥川賞のすべて・のようなもの*1

杳子

主人公が杳子(ようこ)という女性と出会い、翻弄される話。
芥川賞作品を読む|第17回 古井由吉『杳子』(第六十四回 1970年・下半期)|重里徹也・助川幸逸郎 | 未草によれば、杳子は境界性人格障害らしい。作中では単に「病気」と書かれている。
「翻弄される」と上に書いたが、主人公である「彼」が杳子に対して混乱させるようなことをしたりもしている。
「彼」は、1人で登山するのが趣味の大学生、杳子とも山で出会う。ここの出会いのシーンがやはり印象的ではある。何というか、いつまでもピントがあわない感じで、その後、要は2人のデートが何度も繰り返されるのだが、そのたびにこのピントのあわない感じが繰り返されていく。
上述の記事にあるが、「彼」とはなっているものの、ほぼ一人称といってよい語りとなっている。
同じく上述の記事にあるが、確かに「彼」が何故杳子に惹かれていったのかは正直よく分からない。というか、「彼」は杳子を病気から引き離したいとも思っているが、彼女の調子がよいような時に、女性っぽくなっているとちょっと引いていたりも
2人とも大学生なので「病気」の中にとどまっていても生活上の支障がそこまで大きくはないのかもしれず、「病気」と「健康」の狭間をたゆたうように過ごしていく。
終盤になって、杳子の姉が登場する。
かつて杳子と同様の病気だったが、今は既に回復し杳子と同居しながら育児もしている。杳子はそんな姉を忌避している。一方姉は、「彼」に対して杳子に入院を勧めてくれるよう頼む。

妻隠(つまごし)

上述の芥川賞選評を見ると、古井の受賞は満場一致だったようだが、「杳子」を推すか「妻隠」を推すかは割れたようである。実際、この2作はわりと雰囲気が異なる。
主人公は、アパートで妻と2人暮らしをしており、体調不良で1週間会社を休んでおり、その病休の最終日を描いている。
アパートの隣には工事の作業員が共同生活している家があり、その中で最も若い「ヒロシくん」、そのヒロシくんに用事があると主人公に声をかけてくる老婆などが登場する。

*1:ところで、この芥川賞の選評をまとめたサイト、度々使わせてもらっているのだが、こんなすごいサイト作っているの一体何者なんだと思って調べてみたら、自分より10才以上年上だが、自分と同じ筑波大・比文の卒業生だった(直木賞オタクとしてこのようなサイトを作っているらしい)。