月村了衛『機龍警察白骨街道』

機龍警察シリーズ長編第6弾
ミャンマーに赴くことになった部付警部3人、そして京都を舞台に城木は親戚たちと対峙する。
特捜部解体に動き出した〈敵〉


「至近未来」小説と銘打ってきた本作が、いよいよ「現実に肩を叩かれ」ながらも、しかし筆者曰く「現実の変容に耐え抜」いた本作
現実に迫ったリアリティとハードな物語展開がありつつ、その一方で痛快で外連味のあるロボットアクションであることを両立させていて、それこそが本作の持ち味とはいえ、一体どうしてこんな作品書けるんだ、と。
前作『狼眼殺手』では、機甲兵装のバトルがなかったのは打って変わって、本作では、機甲兵装の戦闘シーンが手を変え品を変え様々なパターンで出てくることになる。
ミャンマー編は、ユーリ視点やライザ視点で描かれるところもあるものの、姿が中心になっているといっていいだろう。
というのも、既にそれぞれ「警察」になる決意を固めたユーリやライザと異なり、姿はあくまでも「傭兵」として特捜部に関わっており、そしてその契約期間の終了が近付いている時期なのだ。そして、このミャンマー行きは、沖津が指摘したとおり〈敵〉による罠であり、姿にとっては日本政府による裏切りと見なせるようなものであった。以前から、警察組織に対して歯に衣着せぬ物言いをしていたが、いよいよ警察や政府に対して辟易しはじめている様子が出てきている。
一方、本作では引き続き(?!)城木に対する苛烈な展開が続く。一体どうなってしまうのか城木。
また、桂主任の出番も少し増えてきているところ。
今回はやはりミャンマーと京都が本編というところがあるが、特捜部と捜査二課との合同捜査が行われており、刑事警察パートもちゃんとある。『狼眼殺手』で警察内部にも特捜部と協力してくれるところがあることが分かってきたが、引き続きその体制が構築されることになる。数字の〈声〉が聞こえる仁礼財務捜査官も引き続き登場

以下既刊
月村了衛『機龍警察』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察 自爆条項』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察 暗黒市場』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察 未亡旅団』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察 火宅』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察狼眼殺手』 - logical cypher scape2

以下、ネタバレこみのあらすじと感想
首相官邸に呼び出される沖津。国際指名手配犯がミャンマー警察に捕まり、交渉の結果、ミャンマー現地に日本の担当者が来るのならば引き渡すということになり、官邸は、特捜部の部付警部3人を派遣することを決定する。
彼らを国外に出すこと自体問題であるし、〈敵〉の罠である可能性が高いが、官邸からの命令には従わざるを得ず、3人はミャンマーへ向かうことになる。
問題の国際指名手配犯である君島は、沖津も知らぬところで進められてきた国産機甲兵装計画の機密を国外へと持ち出していた。
特捜部の捜査班は、国内で君島についての捜査を開始する。
君島の身辺調査を行う夏川班と、捜査二課と合同で会社を捜査することになった由起谷班だったが、夏川班は即座に公安から捜査を止めるように警告を受ける。しかし、それは公安から沖津に対するヒントの提示でもあった。
捜査二課と仁礼捜査官は、怪しい金の動きを見つけるが、それに関わっている企業が全て城州グループであることが判明する。それこそ、城木の親戚が役員として名を連ねる企業グループであった。
城木は捜査から外され休暇を取ることになるが、沖津の示唆により、京都へと赴す。子どもの頃からよく遊んでいた従兄妹の昭彦と鞠絵、そして叔父・叔母らの親戚たちのもとへ、久しぶりの再会をするために。しかし、もちろん彼らはみな、城州グループの経営陣でもある。


外事の寒河江とともにミャンマーに降り立った3人は、休む間もなく、移動となる。
大使館で働く愛染が通訳として同行するともに、ミャンマー警察の第5分隊が護衛としてつき、君島が留置されている職業訓練センター(という名の刑務所)へと向かうことになる。そしてそこは、ロヒンギャが多く住んでいる地域でもあった。
なお、3人は日本の警官として派遣されているので、龍機兵はもちろんのこと、武器を何一つ携行できずに行っていて、ライザが現地でナイフを調達しているシーンとかがある。また、ロヒンギャ問題を抱える土地柄で、携帯電話も没収される。
姿、ユーリ、ライザの3人と、危険な任務を承知で同行してきた大使館職員愛染、ミャンマー警察の第5分隊長の大尉、副隊長の少尉ならびに第5分隊による、ミャンマー行軍が始まる。「ミャーチカ」
センターに一番近い町で食事をとっていると、店内に怪しい男が。店長によれば、サイードという余所者でおそらく密輸商だろうと。国境に近いのでそういう者が時々いるのであり、大尉も犯罪者ではあろうがテロリストではないだろうと看過するが、姿らは、ただの密輸人ではなさそうだ、と感じる。「黙って食え」
その後、君島の引き渡しまでは順調だが、行きはよいよい帰りは、という奴で、帰りの道中、川沿いの足場の悪い道でいよいよ襲撃に遭う。テロリストなどではなく明らかに軍の特殊部隊による襲撃。第5分隊も機甲兵装で応戦、姿もその中の1機を借りる。ライザはナイフで歩兵に忍び寄り屠っていく。ユーリは、君島・愛染の護衛とそれぞれに役割分担しながら応戦する。
機甲兵装ごと川に転落した姿だったが、何故か、あの謎の密輸人サイードによって助けられる。
移動手段を失い第5分隊に犠牲も出る中、近くの国境警備隊の駐屯所へと向かうが、何故か誰もおらず、電話線なども断たれていた。国軍が襲撃に加担しており、第5分隊ごと抹殺しようとしていることが次第に明らかになってくる。とにかく日本政府と連絡がとれるような場所へ向かうしかない。愛染が大使館の地図で見たという、リゾート開発地へと向かうことになる。
しかし、このリゾート開発地とやらが、着いてみると明らかにリゾート開発地ではなく、人身売買組織の拠点で、今度はこの組織から攻撃されることになる。
このミャンマー行軍だが、まず第5分隊の大尉が一行の指揮官で、姿も兵士の習いで一応大尉の指示に従って行動している。一方、大尉の方も、次第に姿が手練れであることを認識し、姿の意見を聞きながら行動するようになる。なお、ミャンマーの警察は国軍の下にあるので、階級も軍人のものとなっているが、第5分隊はあくまでも警察。
また、ライザは戦闘の折には即座に単独行動に入り、次々とナイフで敵兵を屠っていく役目を担う。第5分隊は明らかに驚いているが、姿とユーリがその点でライザに全幅の信頼を置いているのが分かる描写が度々あるのがなかなかよい。
さて、リゾート開発地での攻撃では、機甲兵装に囲まれ絶体絶命のピンチに襲われるのだが、そこにインドの機甲兵装が颯爽と現れて、人身売買組織の機甲兵装を次々と倒していく。特にそのリーダー格は動きが別格で、姿は自分よりも上であると認めざるをえない。中国に12人しかいないといわれる化け物級の機甲兵装乗り、姿は一度も見たことがなく、実在しないと思っていた存在――かくしてその正体は、クワンであった。


京都で城木は、親戚との会食や鞠絵の協力などから少しずつ手がかりとなりそうなものをえていく。そうした城木からの情報、捜二と仁礼捜査官の捜査、鈴石主任の調査などから、特捜部はある事実へとたどり着く。一方、ミャンマーでも、君島を改めて問い詰めることで、同じ事実を知ることになっていた。
すなわち、国産機甲兵装計画が存在することは事実だが、君島が持ち出したとされる軍事機密たるユニットなるものは存在していなかった。
そして、その背景にあるのは、城州グループによる資金操作によって作られた裏金が、機甲兵装契約のため、ミャンマー政府・国軍へと流れていたということであった。
姿らを襲撃した特殊部隊と人身売買組織が実は繋がっていることも判明。
人身売買組織での生き残りであるロヒンギャの少年が一行に加わり、生きて帰るための行軍が始まった。
ところが、そのさなか、第5分隊の1人が死亡する。負傷していたため、それによるものかと思われたが、ユーリがこれは殺人であると喝破する。しかも犯人はこの中にいる、と。


イードが、実は沖津部長が密かに雇っていたSNS(ソルジャー・ネットワーク・サービス)の傭兵であることが分かる。元モサドの彼は、機甲兵装備をも密かにミャンマーへと持ち込み、姿たちに提供する。
君島の身元を奪還するため、姿らを襲撃している部隊の基地へと向かう。
ミャンマーでのラストバトルは、いよいよ姿・ユーリ・ライザの3人も機甲兵装を装着しての戦闘なのだが、ここで出てくるミャンマー軍がやばい。
地面を這い回るような奴らや、ワイヤーで飛びまくる奴らが出てくる。っていうか、後者は立体機動ですよね、それっていうw
さらに、ボスとして出てくるのが、アルキメディアン・スクリュー(ドリルみたいなキャタピラ)をつけて、泥の中を潜ったりすることもできる、特注品の第3種。見た目が強すぎ!w


公安の中にも〈敵〉が
そして何より、城木にとっては兄に引き続き従妹まで、という展開。しかも、兄より手ごわい
あと、城木の親戚たちがみな、兄より城木の方が政治家に向いているというのに苦しめられる城木
一体どうなってしまうのか


そして、特捜部に新しいメンバーが!
姿は今後どうするのか?!