向井千秋監修・東京理科大学スペース・コロニー研究センター編著『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法』

スペース・コロニーを実現するために、現在、研究開発中の技術について紹介している本。
編著者にもあがっているが、東京理科大にスペース・コロニー研究センターなる組織があるようで、そのセンターでの研究成果についての本でもある。
元宇宙飛行士の向井さんの名前もクレジットされているが、東京理科大の副学長(2016~)兼スペース・コロニー研究センター長(2017~)である、とのこと。
スペース・コロニーの技術というと、何というか夢物語みたいな話にも聞こえるが、本書では度々「デュアル開発」という言葉が繰り返されており、宇宙で使える技術であり、なおかつ、地上でも使える技術として開発が進められている。


宇宙開発関係は、web記事とか雑誌とかではよく読むけれど、あまり書籍では読んでいなかった。また、特にこのような宇宙滞在のための技術となると、webや雑誌でもあまり注目していなかった。
しかし、たまにはいつもとは違う方向性の本も読もうかという気持ちと、最近、『フォー・オール・マンカイオンド』のシーズン1を見たので、読んでみることにした。


第3章以降が面白かった。

まえがき
第1章 人が宇宙で暮らす時代が始まっている!
第2章 長期宇宙滞在で遭遇する困難な課題
第3章 宇宙で暮らすためには
第4章 宇宙農業への挑戦ーースペースアグリ技術
第5章 スペース・コロニーの電力源ーー創・蓄エネルギー技術
第6章 水・空気再生技術
おわりにーー 人類の未来に向けて
執筆者一覧
参考文献
さくいん


第1章 人が宇宙で暮らす時代が始まっている!

宇宙開発史、宇宙生活でのリスク等、スペース・コロニーのための技術(本書の構成)、今後予定されている宇宙計画について

1-1 宇宙に飛び出した人類
1-2 ヒトが宇宙に行ってわかったこと
1-3 これから始まる、新たな宇宙への挑戦
1-4 スペース・コロニーを造るには
1-5 宇宙開発時代が始まった! 近未来の宇宙探査計画

第2章 長期宇宙滞在で遭遇する困難な課題

骨量や筋肉量が減る分子的メカニズムが解説されてた

2-1 重力場に関する課題
2-2 無重力下で血液はどう巡るのか
2-3 宇宙での生活の質はーー孤立と幽閉、不適合と閉鎖環境
2-4 宇宙放射線
2-5 地球からの距離

第3章 宇宙で暮らすためには

ISSの船外ロボットアーム、船内ロボットのロボノート、イントボール
イントボールって知らなかった
宇宙服内の気圧は1気圧じゃなくて0.4気圧。1気圧にすると膨らんでしまうから。船外活動前には徐々に減圧する必要性。
宇宙ロボットの遠隔操作とレイテンシー対策
健康管理などを行うためのウェアラブル・デバイスとその電源についての話で、汗に含まれる乳酸で発電するバイオ燃料電池が紹介されている。
汗に含まれる乳酸で発電とか、かなり驚きだが、一定以上の乳酸によって発電し、データを送信するという仕組みにして、発電かつ乳酸値のモニタリングが同時にできるという「自動駆動型ウェアラブル・デバイス」ができる。
介護現場で尿糖を検知するオムツなどの開発も。

3-1 居住環境をどう造るのか
3-2 宇宙で働くロボット
3-3 ウェアラブル・デバイス
3-4 バイオ燃料電池の仕組み
3-5 有人宇宙飛行中のトレーニング向け・自動駆動型ウェアラブル・デバイス

第4章 宇宙農業への挑戦ーースペースアグリ技術

宇宙農業について、ロシアは歴史が古いなあ。
60年代から計画が始まって、サリュート、ミール、ISSロシアモジュールで実験している
アメリカが研究を始めたのは80年代
2015年に、ISSで宇宙で栽培された野菜が初めて食された(油井さんがいたらしい)
ヨーロッパは、南極で実験している
なんか、ビニール袋にいれてキャベツを栽培してる(小規模ロットから栽培ができる。万一、汚染・感染があっても被害を最小限に防げる)

4-1 宇宙で食料を得るには
4-2 宇宙農場を目指した各国の開発動向
4-2-1 ロシア 4-2-2 米国 4-2-3 欧州 4-2-4 中国 4-2-5 日本
4-3 宇宙レタスが食べられる日
4-4 「水中プラズマ」技術で防藻・防カビへ
4-5 月面農場はこうなる!?

第5章 スペース・コロニーの電力源ーー創・蓄エネルギー技術

太陽電池が開発されたのは1954年
太陽電池が初めて人工衛星に搭載されたのは1958年(ヴァンガード1号)
スペース・コロニー用には、軽量・フレキシブルで超高効率、耐久性が求められる(これらすべての条件を満たすものはまだない。ISSのは効率が低い、はやぶさは超高効率だがコストが高い


シリコンではなく、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる半導体をも知いたCIGS太陽電池が注目


酸化ニッケルによる透明太陽電池。紫外線のみを吸収


月面など長時間太陽光が当たらない場所もある。
カッシーニなどに用いられている放射性同位体熱電気発電機(RTG)は、熱電変換という温度差による発電*1
異なる金属に温度差があると電流が流れるゼーベック効果を利用している
月面コロニーで、室内と外気との温度差で発電できる可能性


最後にフライホイール
フライホイールリチウムイオン電池とを9つの観点で比較した表が乗っているのだけど、フライホイールはわずか3つでしか勝っておらず、ダメでは、という感じなのだが、フライホイールは、繰り返し使用可能で高出力、という利点がある。
また、フライホイールの欠点のいくつは、宇宙空間ではあまり問題にならないという(例えば、真空にする必要があるが、宇宙空間なら特に問題にならないなど)。また、宇宙空間で何かを使うとき、温度条件が問題になりがちだが、フライホイールは温度条件の制限がない。

5-1 宇宙用太陽電池
5-2 安い、強い、曲がる、高効率
5-3 IoTデバイス向け透明太陽電池の開発
5-4 熱電変換素子による発電
5-5 フライホイールによる蓄電

第6章 水・空気再生技術

光触媒ってまあ時々名前聞くけど、そういえばどういうものか全然知らなかった
半導体のように、エネルギー準位のギャップで電子が移動する「光触媒反応」
光エネルギーで水が水素と酸素に分解される。移動した電子がラジカルを生成し、有機物を分解する
除菌や抗菌ができる。宇宙での環境維持としては、微量有毒ガスの分解として使う研究がされている。
光触媒は表面反応。表面にくっついてないといけない。
ミクロ粒子にして懸濁液を作ったり、表面積を増した吸着剤を作ったり。

6-1 環境制御・生命維持システム(ECLSS)
6-2 ISSの空気系サブシステム
6-3 宇宙服のECLSS
6-4 光触媒

*1:RTG内部に原子炉があるという記述があったのだけど、原子炉ではなく崩壊熱では?