『Newton2024年6月号』

今月のNewtonは気になる記事が多かった。久しぶりにがっつり読んだ気がする(とはいえ全部は読んでいない)。

地球大解剖 監修 廣瀬 敬 執筆 尾崎太一

監修の廣瀬敬については『地球・惑星・生命』 - logical cypher scape2にも書いていた

  • プレート運動

プレートが何故動くのかについては、マントル対流仮説とテーブルクロス仮説の2つがある。テーブルクロス仮説というのは、プレートが落ち込んでそれに引きずられて動いていく、という
実はどちらか一方が正しい、というわけではないらしい。太平洋についてはテーブルクロス仮説が、大西洋についてはマントル対流仮説が当てはまるらしい。
いずれの仮説でも、海が必要

マントルの組成について。高温高圧を実験で作り出して調べている。
下部マントルの鉱物は長いこと不明だったが、2004年に廣瀬が発見した(ポストペロブスカイト)

  • 磁場の逆転 

磁場が何故逆転するのかも分かっていない。
これを調べるためには、コアの対流をスパコンでシミュレーションする必要があるが、現在のスパコンの性能では不足している、とか。

  • コアの不純物

地球のコアは鉄だが、純粋な鉄ではなく不純物が混ざっていることが分かっている。
しかし、その不純物の正体は分かっていない。
水素・炭素・酸素・ケイ素・硫黄が主な候補であるが、廣瀬は、後述の理由により、水素が有力候補だと考えている。
また、最近ではヘリウムも候補としてあがっている、と(ヘリウムは不活性ガスとして知られているが、近年、高圧環境下で反応することが分かってきた、というのを、記事末尾のインタビューで、廣瀬が最近注目している研究として挙げていた)

  • コアのその他の謎

(1)温度
(2)異方性
結晶の方向が西半球では揃っているが、東半球では揃っていない
(3)スーパーローテーション
地球の自転より少し早く回っている

  • 巨大低速度領域とティア

マントル内部に巨大低速度領域(LLSVP)という構造があるが、これは、地球形成期にあったジャイアンインパクトの名残だと考えられている。
ジャイアンインパクトの際に衝突した小惑星は「ティア」と呼ばれている。

  • 地球の水はどこから来て、どこへ行ったか

(1)隕石落下、(2)グランドタック、(3)小石集積という3つの仮説がある。
小石集積は、上記2つと少し異なり、惑星形成は微惑星からではなく、小石からなったという仮説で、スノーラインより遠くからも集積してくる、と。
(そういえば、小石集積モデルは井田茂『系外惑星と太陽系』 - logical cypher scape2で少し読んでた。)
しかし、3つの仮説いずれの説をとった場合でも、現在の地球の海洋にある水よりも多い量の水がつくられることになる。
地球形成期に水は、コアへ入り込んだと、廣瀬は考えている。
これにより、コアの不純物の4割までは説明できるという(しかし、6割はなお不明のまま残る)。
また、コアにある水素は海水に含まれる水素の30〜60倍

  • ブリッジマナイト・ブロック

ホットスポットが長期にわたって固定されている原因かも

  • KREEP(クリープ)岩

カリウムレアアース、リンの頭文字をとってKREEP
生命の誕生は、冥王代にKREEP岩で起きたのではないか、という仮説。レアアースが触媒として働き、リンがある、というのが化学合成に適している、という話
しかし、KREEP岩は、現在の地球では見つかっていない。冥王代にはあったとされるが、風化等でなくなってしまった。「期間限定」の岩。なお、月には残されている。

科学と倫理の交差点 監修 児玉 聡 執筆 福田伊佐央

倫理的な問題が生じそうな科学技術のトピックと、倫理学の概念についての解説記事

  • iPS細胞からの同性カップルでの生殖の話と、功利主義/義務論について
  • 障害者アスリートにおけるエンハンスメント・ドーピングの線引き問題と、公平性/無知のヴェールについて

(スポーツ倫理学の話でもあり、スポーツで何故ドーピングが禁止されているのか、安全性・公平性・自律性の観点があり、しかしいずれの観点でも反論があるというのが紹介されていた)

  • 予防の話

ワクチン接種は義務化(強制)できるかという話で、人の自由を制限する場合に用いられる考え方として、「他者危害原則」と「パターナリズム」があることが述べられる。
また、社会全体での予防が進むと個人の予防のインセンティブが下がる「予防のパラドクス」や、統計的生命の価値が特定個人の健康被害より低く見積もられる心理的バイアスが紹介される。
後半、ワクチンだけでなく、予防医療や犯罪予知などについても触れられている。

  • AIについて

故人の「復活」、AI手術や自動運転の際の責任の所在、AIが学習してしまうバイアス、LAWSといった、AIの進展によって生じそうな倫理的な問題が紹介されている。

  • 科学研究や開発

原子力とかAIとか科学研究や開発が、重大なリスクを及ぼすものを生み出すかもしれないことについて。
滑り坂論法への注意。滑り坂論法はだめといっているのではなく、正しいケースと正しくないケースがありうると書いてあった。
ブダペスト宣言
「ガードレール」としての倫理
ELSI
レイチェルズ「良心的な道徳的行為者」

熱電変換の物理学 監修 山本貴博 執筆 中野太

向井千秋監修・東京理科大学スペース・コロニー研究センター編著『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法』 - logical cypher scape2で熱電発電について読んだばかりだったので、偶然にもすごくタイムリーだった。
まず最初に物理学における「仕事」と「エネルギー」の定義の確認から始まり、永久機関について解説されている、素人向けの丁寧な記事だった。
エネルギーを投入していないのにエネルギーを与えているのが「第一種永久機関」(エネルギー保存則に違反する)
投入したエネルギーを100%仕事に用いるのが「第二種永久機関」(エネルギー保存則には違反しない)
カルノーならびにケルビン卿ことトムソンにより、第二種永久機関は実際には不可能(熱力学第二法則)だと分かった。熱機関は、高温の熱源と低温の熱源からなり、この温度差で効率が決まる。効率100%にするには、高温の熱源の温度が無限か、低温の熱源が絶対零度である必要がある。
というわけで、必ず廃熱が生じることになる。
ところが、この廃熱を利用しての発電ができる。
1821年ゼーベック効果1834年ペルティエ効果、1851年 トムソン効果というのがそれぞれ発見されていて、熱と電気が可逆変換できることが分かっている。
ゼーベック効果は、温度差のある異なる金属をつなぐと電流が流れる。
ペルティエ効果は、逆に電流を流すと温度差が生じるというもの。USB給電のクーラーはこれを利用している、と書いてあって「ああ、あれ!」となった。なんで冷たくなるのか謎だったので。
ただ、発生する電力が弱いので、これまでほとんど実用に供されていなかった。
例外が宇宙探査機で、ボイジャーや火星ローバーに搭載されたRTGについて簡単に触れられている。
しかし近年、IoTデバイスエナジーハーベスティングという考えにより、熱電変換が注目されている、という。IoTにより、色々なところにデバイスを設置する場合、その環境から熱エネルギーを収穫(ハーベスト)してこようという考え。
本記事の監修者である山本は、カーボンナノチューブによる熱電変換や、熱電変換の量子力学について研究している。
そして、実用例としてIoT制震ダンパーを開発している。
地震の際、その建物から避難すべきかとどまるべきかを制震ダンパーが判断する。しかし、地震時は停電しているので、電力を熱電変換で供給する。リアルタイムハザードマップなどにも使える、と。

世界一美しい化石図鑑

宝石化したアンモナイト化石であるアンモライトや、オパール化したベレムナイト化石など
(アンモライトってアルバータ州でしか発見されていないのか)
あるいは、そういった宝石化した化石ではないが、三葉虫化石やディッキンソニアの化石などの写真が多数掲載されている。
(ディッキンソニアって印象化石だけど、コレステロールが残っている分子化石でもあったのか)
(化石は、日本語だと「石」が含まれているけれど、原語のfossilには「石」の意味は含まれていない、というのは知っていたけれど、冷凍マンモスも化石である、と書かれていて、「ああそうか、そうなるのか」と改めて気付かされた)
樹木の化石がオパール化する珪化木は、この世のものではないような独特の見た目をしているなあと思った(Googleで画像検索してみたが似たものはパッと見当たらなかった)。

極北の自然は今

アラスカが、温暖化・気候変動によってどのような影響を受けているか、写真家の松本紀生によるレポート
トピックは多岐にわたるが、印象に残ったものをあげると
永久凍土が解けることで地盤がゆるんでいる話。村を放棄せざるを得なかったり、放棄したくても移住費用が出せなかったりといったことが述べられており、電柱が傾いてたりする写真が掲載されている。
2015年に熱波があり、ザトウクジラが個体数を減らしている話
山火事の大規模化が進んでおり、地衣類を食べるカリブーにも影響が及んでいる話
アラスカの写真家というと星野道夫が思い浮かぶが、逆に言うと、自分は星野道夫以降、あまりアラスカについてだったり自然写真家だったりをフォローしていなかった。
なので、松本紀生という人も初めて見た名前なのだが、ググってみたところ、星野道夫の影響を受けてアラスカでの写真家を始めた人らしい。

猛毒のサイエンス

タイトル通り、毒についての記事で、毒に関する話が諸々載っている。
その中で特に、AIは猛毒をつくれるのか、というトピックが気になった。
実際に、AIに毒性を有する化学構造を予測させた研究があるらしい
あっという間に大量の構造が予測され、かなり猛毒であることが予測されるものもあった、と。一方、本記事の監修者は、AIはあくまでも既存の物質から予測するだけだが、微生物は全く新奇な構造を生み出すことができるので、微生物の方がヤバイ、というようなコメントだった。
それ以外だと、性質が反対の毒が拮抗する話が興味深かった。
1986年に夫が妻を保険金目当てで毒殺した事件があり、トリカブト毒によるアコニチンが用いられていた。アコニチンは服用するとすぐに死亡するが、夫にはアリバイがあった。しかし、実は夫は、アコニチンとともにフグ毒のテトロドトキシンを同時に盛っていた。アコニチンとテトロドトキシンは性質が反対なので、しばらくの間、作用が拮抗して、すぐには死なないらしい。
それから、やはり作用が反対の毒を用いた話として、地下鉄サリン事件の際、応急処置として、本来は毒であるアトロピンを使用したという話も。

Focus

  • 3Dバイオプリンターで脳を作ることに成功

3Dバイオプリンターで臓器を作るというのがあるらしい。これまで神経細胞の培養がうまくいかなかったのが、ちゃんと神経細胞がネットワーク構築するようにできるようになった、と。

  • 火星から地球の気候への影響

気候変動により堆積が停止して不連続な地層が形成される周期があり、これが、火星の重力によって地球の離心率が変動する周期と一致していた、と