『日経サイエンス2021年10月号』


SCOPE

ヒト受精卵ゲノム編集の行方

どういう時ならやっていいか、ということで、それ以外に治療の手段が絶対にないという時に限り解禁しようという動きが出てきているらしい。

ADVANCES

思考による文字タイピング

BMIでの文字入力について。既に実現していたのか。
手で文字を書く時の動きを思い浮かべてもらって、その時の信号を読み取っているらしい(思考そのものを読むのはまだ難しく、代わりに身体の動きについての信号を読み取る)
タイピング速度はまだ遅いのだが、60代で障害を負った男性で行ったところ、毎分95文字でタイプができたとか。なお、シニア世代が携帯電話で入力する平均速度が毎分115文字らしい。

除虫菊の秘密

2種類の成分で蚊よけになっていらしい

新たな「月の石」

中国によるサンプルリターンによってえられた月の石。
クレーター年代学の見直しにつながるかもしれない
中国国内へのサンプル要請受付期間が7月ないし8月に終わり、その後、国際研究チームへの割り当てが始まる見込み

異星の地下生命

放射線が水分子を分解し、生成された水素と硫酸塩が、地下の微生物を支える
火星の地下に微生物生命圏があるかも

特集:新しい恐竜像

ジュラシック・パークの“毒吐き恐竜” ディロフォサウルスの本当の姿 M. A. ブラウン/ A. D. マーシュ

ジュラシック・パーク世代として、ディロフォサウルスが表紙の本誌は読まざるをえない!
いやまあ、そんなにディロフォサウルス自体は好きではないけれども、しかし、『ジュラシック・パーク』を見た者に強烈な印象を残した恐竜であるのには間違いない。
今、恐竜にさして興味がない人であっても、過去に『ジュラシック・パーク』を見ていて、エンジニアのネジスンを毒殺したあの恐竜のことを覚えている人には、是非読んで欲しい記事。
ジュラシック・パーク』は、当時の恐竜研究を参照しながら作られたが、今となっては結果的に間違っている点もあれば、演出の都合上、当時からあえて事実とは異なる形で描かれている部分もある。
その中でもディロフォサウルスは、実は映画と実態が特に異なる恐竜なのである。


まず、大きさ。
映画では実際よりも小さく描かれている。これは、ヴェロキラプトルとの混同を避けるための演出の都合で、あえて小さいサイズにしていたらしい。


発見当時は、あごが貧弱だと考えられ腐肉食恐竜だとされていた。
しかし、その後、あごが頑丈であることが分かってきて、頂点捕食者であったと考えられるようになった。
映画で描かれているように、毒を飛ばしてひっそり殺して、というのではなく、かなり強力なハンターだったようだ。

卵の化石から読み解く恐竜の進化  真鍋 真

恐竜の卵はすべて硬い殻を持っていると考えられてきたが、2020年、ウミガメの卵のようにやわらかい殻の恐竜もいることが明らかになった。
恐竜の進化の中で、何度か硬い殻の獲得が起こったらしい
そして、硬い殻の獲得は、抱卵へとつながったのではないか、と
卵の殻の気孔の数から抱卵したか地中に埋めていたか調べた研究などの紹介
抱卵という行動が獲得されたのは、トカゲからヘビが進化してきて、捕食するようになったからではないか、とか

特集:宇宙の夜明けを見る

最初の星を探せ 日本発の宇宙望遠鏡計画  井上昭雄/谷口義明

宇宙はビッグバンで誕生後、宇宙の晴れ上がりという現象を経て、その後、天体が形成されたことで、宇宙再電離が起きたとされる。
宇宙で古い時代の出来事を見るには遠くのものを見ればよい。遠いものは赤方偏移している。で、観測すべき周波数帯が決まってくる(この場合、赤外線)。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が赤外線観測できるが、詳細な観測ができる代わりに観測範囲がピンポイント。どこに目標天体があるか分からないので、広範囲に観測したい。
そこで、筆者らが提案しているのがGREX-PLUS計画である。
冷却装置が必要になるが、日本には既にその技術がある。

月の裏側に電波望遠鏡  A. アナンサスワーミー

上の記事と同じような話で、月の裏側は地球の大気に邪魔されず観測できるので、昔からそこで観測できたらなあという話はあり、本記事では、現在考えられている各国の計画がささっと紹介されている
月の裏側に着陸した実績があるという点では、中国が一歩リードしている。
月の裏側での天文観測に向けて、まずは10月打ち上げのROLSEがある。ただし、着陸場所は月の表側で、月での電波ノイズの特徴を探る。
月の電波ノイズの特徴を探る計画としては、2024年打ち上げ予定のLuSEEもある
月の裏側に設置するのではなく、軌道上に複数機の衛星からなる望遠鏡アレイを展開するというアイデアもある。
望遠鏡アレイについては、もちろん月面に展開するというアイデアもあり、本記事では、各国の研究者(中国、オランダ、イギリス、アメリカ)がどのような計画をたてているか、というのが紹介されている。

共生細菌サプリがサンゴ礁を救う?  E. スヴォボダ

現在、温暖化により世界各地のサンゴ礁が危機に瀕している。病気などによる白化現象などが生じている。
サンゴは、多くの細菌と共生しており、その中にはサンゴの高温耐性を高めたり病気を防いだりするなどのいわゆる善玉菌をいる。そうした善玉菌のカクテルを投与することで、サンゴ礁を守ろうとする動きが生まれている。
現在、実験室での実験を経て、実地試験が行われ始めている。
これに対して、その後どのような影響がでるのか分からないという慎重論や効果があるとしても散布コストがかなり高くつくのではないかという批判もあるが、このままにしておくとあと10年以内に死滅するという状況でもあり、地元の自然保護運動などはこの動きをすすめている。

飲み水を求めて 渇きが促した人類進化  A. Y. ロージンガー