古川日出男「ミライミライ」(『新潮』2016年6月号・連載第1回)

かつてソ連に占領統治されていたという架空の歴史を歩む北海道を舞台に、北海道発のヒップホップ=ニップノップを駆使するミュージシャン野狐を中心に、架空の戦後北海道を描く物語


題材に引きつけられて、久しぶりに古川日出男を読んだ。
1972年の札幌から始まり、2010年代や1990年代、1945年など、時間があちこちに飛んで進んでいくが、大体以下のような架空戦後史を辿っている。


日本がポツダム宣言を受け入れるも、樺太にいた、いづる大佐率いる部隊が、第二帝国陸軍と称して戦闘を続ける
→北海道へ軍を進めたいソ連が、これを奇貨として北海道へ進軍。一方、道内に残っていた旧日本軍もゲリラ戦を始める
→北海道をソ連が、沖縄をアメリカが占領する
日本は、インドと統合された印日連邦のインディアニッポン州として独立
1972年、詩人たちが銃殺刑にあう(立ち読み|新潮|新潮社
アイヌ伝承を換骨奪胎した詩でソ連への抵抗運動を行っていた
アメリカの沖縄返還と同時に、ソ連も北海道返還を行う
青函トンネルの工事の折、インド人が亡くなり、道庁に銅像が建つ
ソ連の空軍基地の隣に新千歳空港がつくられるとともに、観光地として千歳動物園が出来る。羆、月の輪熊の他、ソ連から友好の証しとして白熊が送られる。
札幌には、インド人の多い「キャンプ」と、ロシア軍基地がある。
本土では、本場のカレーが進出したため、日本風のカレーライスは姿を消すが、北海道では生き残り、北海道名物となる一方、ラーメンはあまり。
ロシア語自体は懐かしさをもたらす過去のものになったが、キリル文字表記は数多く残る。
1986年、後に野狐となる男子生まれる(名前忘れた)。
1991年、千歳動物園で、ロシア軍の脱走兵の人質事件が起き、野狐は野狐となる?
野狐は、中学生の頃から友人達とバーのような店にたむろし、中学卒業の頃にヒップホップチームを作る。


もし、北海道が戦後ソ連に占領されていたら、というのは、戦後史のifとしてよく言われることだけれど、この話は、文体レベルで、「もしかしたらそうなっていたかもしれない」という可能性が織り込まれている。
例えば、「もし彼は聞かれていたならそう答えていただろう。しかし、実際には答えていない。」みたいな感じの文が、沢山入ってくる。新潮社のサイトで立ち読みできる詩人達の処刑のシーンでも、「彼らのうち何人かはこう考えていたはずだ」と書きつつ、三人称ながら全知ではなくて、そういう可能性に近いようなことが書きつらなれている。


札幌をキーワードにしてラップバトルしたりしてる。

北一条通を南に見下ろすビルに、占領時代のソ連の司令部があったらしい。


ところで、道西って言葉が出てきたのはひっかかった*1



*1:普通は言わない