第22回文学フリマ感想その2

銅のケトル社『斜陽の国のルスダン』

モンゴルと初めて戦ったキリスト教グルジア、歴史書には淫蕩な女王、無能な女王とされているルスダンを、時代に翻弄されながらも大切なものを守ろうとした女王として描いた物語。http://www.amazon.co.jp/dp/B01DW24XFU
するすると読める文章で短くまとまっていながらも、ルスダンとその夫の激動の半生が描かれている。このコンパクトさにまとめてるのがすごいと思う。描くべきところと省略すべきところのバランス。
もともとグルジアアンソロジーというのがあってそこに載せた漫画が元になってるらしいが、並木さんの漫画って全く読んだことないので気になった。あと、グルジアでアンソロジー作れるのか、ということにも驚かされた。

重箱のカド『犯罪の重』

面白かった作品を作者ごとに挙げてくなら、juliusさんのは「あだ討ち会社」、monadoのは「エーヴィッヒ・ハウザー最期の死術」、namakさんのは「くものいと」、kihirohitoさんのは「孤独のガストロノーム」かな
テーマ別でいうなら、「殺人」は「芸術的」が、「誘拐」は「ハルコの父親」が、「詐欺」は「エーヴィッヒ・ハウザー最期の死術」が面白かった

CN遺伝子『歌声よ、月の裏側まで届け』

アイマスハードSFとあったので買ってみた。
千早が月に行く話。
実際読んでみたら、SF部分はかなり少なめで、「これはアイマスだなあ」という作品であった。
アイマス二次創作小説はほとんど読んでいないので、アイマス二次創作小説としてどうなのかは判断できないが(つまり、この界隈ではこれくらい普通だよなのか、この界隈でも結構レベル高いよなのか分からないという意味)
まあそれはそれとして、
ざっくり言ってしまえば、めんどくさい千早と、さらに輪をかけてめんどくさいプロデューサーが延々と「孤独とは」「歌とは」「プロデュースとは」ということを問答し続ける話である。
うん、とてもアイマスだな


舞台は未来の設定で、ちょいちょい未来っぽいものは出てくるのだが、基本的な風景は現在とさほど変わらない。
一般人でも(金さえあれば?)月へ行くことができるようになっているが、さりとてまだ一般化していないという時代。
アイドルとして限りなく頂点に近づきつつある千早に対して、プロデューサーは月面ライブへの挑戦を持ってくるというもの。
物語中盤あたりにフェスがあって、そのフェスで優勝すると月へ行ける、という感じになっている。
で、そのフェスで千早と対戦することになるのが、律子プロデュースによる響、真美、やよいユニット。
そう、劇場版のエンドクレジットでちょっと映ってた奴だ。
しかし、(そもそも時代設定が未来という時点で公式のアイマス世界とは繋がらないのだが)劇場版後の世界というわけでもなくて、例えば、あずさは髪が長いままだし、春香はリーダー経験をしていない。というわけで、ミリオンも出てこない。一方で、玲音はいる*1


で、
千早vs響・真美・やよいユニット
(プロデューサーvs律子)
のシーンが非常によかった。選曲や観客の様子、プロデューサーと律子、それぞれの作戦、そして結果など
実にアイマスっぽいライブバトルだったと思う。


あと、春香のキャラクターがちょっと独特でというか、ちょっと斜に構えたような(?)ところもあるようで、しかしやはり春香は春香なんだなという。
千早とプロデューサーは、本当は互いに互いを必要にしているのだが、「人は本当の意味でわかりあうとはできない」という思想を持っているせいで、どうにもお互いに距離を詰め切れず、それを春香は、2人とも似たもの同士で面倒くさいなーと思いつつ、千早とイチャついてそのことをPに自慢したりする。


いや、まさかこっちでも、ソラリスが出てくるとは思わなかった。こっちは、ソラリスの映画を千早とPが2人で見るというシーンが出てくるのだけど
アイマスソラリス小説本が2作もあるなんて、一体誰が予想するだろうか。


それはそれとして、はるばる月まで行って歌って、それでようやく色々と乗り越えて、少しだけ進むというのは美しい話だった。

*1:名前が出てくるだけで登場はしないが