土屋健『エディアカラ紀・カンブリア紀の生物』

生物ミステリーPROシリーズ
古生物を専門とするサイエンスライター土屋健によるシリーズ。群馬県立自然史博物館が監修としてクレジットされている。
全編フルカラーで、化石標本の写真および復元イラストが豊富にページを彩っている。
言及されている生物、ほぼ全てについて化石写真または復元イラストがついているので、どんなのか分からない、ということがない。
21世紀以降の発見・研究についての言及も多い。
現在、『オルドビス紀シルル紀の生物』『デボン紀シルル紀の生物』『石炭紀ペルム紀の生物』まで刊行されており、今夏、ついに中生代が発行される予定。

第1部 原始生命の時代
第2部 エディアカラ紀
第3部 カンブリア紀
 1 発見物語
 2 ワンダフル・ライフ!
 3 新たなフィールド
 4 世界のカンブリア爆発
 5 覇者アノマロカリス
 6 ワンダフル・ライフ?
 7 「カンブリア爆発」の真実
 エピローグ

第1部 原始生命の時代

  • 世界最古の生物

34億6500万年前 1992年西オーストラリアから発見された「プリマエヴィフィルム」
1mmに満たない

  • 最古の真核生物

21億年前 グリパニア
数mm〜数cm

  • 世界最古の動物

オタヴィア
海綿動物の仲間
0.3mm〜0.5mm
5億4800万年前、6億3500万年前、7億6000万年前(2012年ナミビアで発見)の三つの年代の地層から産出
スノーボールアースが6億3000万年前なので、全球凍結を生き延びた「動物」ということになる。

  • 最古の胚の化石

6億3000万年前(1998年、中国ドゥシャントウォで発見)
0.5mmに満たない化石
左右相称、ということが分かるという点でも重要
ただし、胚ではなく細菌の化石ではないかという指摘もある
どちらにせよ、よくこんなもの発見できたなあという感想。これに限った話ではないけれど、古い化石、小さい化石ってよく見つけられるものだ。っていうか、それなりの大きさをした化石だって、普通に見てるだけったら見逃しそうだし。

  • 世界最古の這い跡

5億8500万年前(2012年ウルグアイで発見)
これも、左右相称の証拠

第2部 エディアカラ紀

2004年に新たに設定された時代
1946年、レギナルド・スプリッグがオーストラリアのエディアカラ丘陵で化石を発見。後に他の大陸でも発見されるようになる。

  • ディッキンソニア

楕円形。左右相称のようでそうでない節構造

  • カルニオディスクス

ランゲオモルフという葉状生物の一つ

3回対称という構造をもつ。
ちなみに、ヒトデは5回対称。現生の生き物で3回対称のものはいない

  • カルディア、ブラッドガディア

カナダのランゲオモルフ

  • プテリディニウム

ナミビアで発見
30cmを越える「巨体」

  • キンベレラ

ロシアで発見
軟体動物の仲間か

  • パルヴァンコリナ

T字構造

  • レタラックによる地上生物説

オーストラリアの地層から、当時の環境は乾燥していたのではないか、と。
また、地上生物だととすると、動物ではなく菌類の可能性もある、という、なかなか物議を醸しそうな説


エディアカラ紀の生物は3000万年間繁栄

第3部 カンブリア紀

1 発見物語

バージェス頁岩の発見
19世紀末、カナダ太平洋鉄道のための地質調査の際に化石が発見される。

T・ルーズベルトの科学顧問を務めたこともあるアメリカの古生物学者三葉虫の権威
バージェス頁岩で発見された化石が送られてきて興味を持ち、その後自らも調査を行い、1911年に「バージェス頁岩」と名前をつける。

ウォルコットの死後、妻がコレクションを披露しなかったために研究が停滞するが、1960年代に入って、ハーバード大のウィッティントンが調査を開始。これにブリッグスとコンウェイ・モリスが参加して「ケンブリッジ・プロジェクト」となる。この研究で「カンブリア爆発」という言葉が生まれる

2 ワンダフル・ライフ!

カンブリア紀は5億4100万年前に始まった。この年代は、2012年に国際層序委員会で改訂された

  • マレッラ

2cmほどの節足動物だが、それ以上の類縁関係は不明
角に微細な溝構造があって、これはCDの裏面と同様で、虹色になっていた可能性が高い

カンブリア紀の生き物はほとんどが数cmサイズなのに対して、大きなものでは1m
バラバラに発見されてバラバラに名前が付けられたが、70年代後半から80年代にかけてケンブリッジ・プロジェクトにおいて同一の生物だということがわかり、1990年代、ロイヤル・オンタリオ博物館の調査で全身標本が見つかる。
アノマロカリス」は「奇妙なエビ」という意味。最初に見つかった触手の形状に由来。

  • オパビニア

5つの眼、象の鼻のように使われるノズル、鰓のあるひれ、逆円錐形で先端に爪のついた「葉脚」。この葉脚は、カギムシ類がもつ特徴。また、アノマロカリスは、オパビニアから進化したとも考えられている

  • ハルキゲニア・スパルサ

最初は上下逆に復元されていた。触手の先に爪がある
腐食者だったと考えられている

脊索動物。カンブリア紀で、もっとも脊椎動物に近いと考えられていた、が近年、カンブリア紀にも既に魚類(脊椎動物)がいることが判明した

  • アイシェアイア

チューブ状で葉脚を持つ

マレッラと同様、やはり構造色が

  • イソキシス、ワプティア

どちらも節足動物。ワプティアはエビっぽい。

3 新たなフィールド
  • 澄江

研究が本格化するのは1980年代

澄江から発見されたアノマロカリス類3種
サロンはカナデンシスの近縁、アムプレクトベルアはサロンの近縁とみられるが、パラペイトイアはちょっと違う。
アノマロカリスのエビのような触手の形が違う。また、「歩行用の付属肢」が見られ、このため節足動物の進化について関係していると考えられている。

バージェスのハルキゲニアよりも背中のトゲが短い。頭部に、眼のような、しかし眼ではない膨らみがある

  • ミクロディクティオン

ハルキゲニアの近縁
脚の付け根に肩当てのような硬質の部分がある

  • ヴェトゥリコラ

大きな殻のような頭部とエビのような腹部で構成されており、全く類縁関係が不明で、「古虫動物門」という新たな分類群に分類されている

1999年に発表されてた、最古の魚類にして最古の脊椎動物
魚類はもっとあとになって進化してきたと思われていたが、カンブリア紀にすでに誕生していたことが判明
どちらも、2〜3cmほどで、無顎魚類

4 世界のカンブリア爆発

バージェス、澄江だけでなく、グリーンランドシリウス・バセット、オーストラリアのカンガルー島、アメリカのユタなどからも、この時代の化石が発見されている

グリーンランド北部。バージェスや澄江と違ってアクセスが難しい場所
バージェスより2000万年以上古く、澄江と同じくらいの時代の地層
眼のない動物が多く発見されており、深海だったのではないか、と

  • ハルキエリア

鱗で覆われた軟体動物。身体の前後に1枚ずつ殻がついている

  • オーエディゲラ

ヴェトゥリコラと同じ古虫動物類。澄江独自の動物かと考えられていたが、この分類群の動物が広い範囲で繁栄していたことがわかる

  • ユタ・スペンス頁岩

スペンスという人物が、ウォルコット三葉虫の化石を送っていた
バージェスより古く、澄江、シリウス・バセットよりは新しい

一番オーソドックスな三葉虫。数十万個産出していて、1000円もだせばギフトショップで購入できる

  • カンプロポダス

三葉虫は二肢型の付属肢を持つが、こちらは単肢型の付属肢を持つ。現生のムカデや昆虫が単肢型なので、これらとの関係で注目される

  • スケーメラ

古虫動物類
ヴェトゥリコラやオーエディゲラと比べると尾が長い。前兆14cmのうち12cmが尾

  • オルステン動物群

2mm以下の顕微鏡サイズの生物

  • カンブロパキコーペ、ゴティカリス

甲殻類
頭部の先端に巨大な一つの複眼がある。
こいつら、結構かっこいい

  • ブレドカリス、マーチンソニア

エビ(カリス)の名をもつブレドカリスと、エビの名は持たないがエビっぽいマーチンソニア。
これらの甲殻類は、現生の甲殻類と比較して、5対あるべき付属肢が4対だけであったり、付属肢の節の数が多かったり、奇妙な複眼をもっていたりする。そして、ハサミがない。

世界各地の様々な三葉虫の化石写真が何ページかにわたってだーっと並んでいる

5 覇者アノマロカリス

三葉虫の外骨格を噛み砕いたとも言われている。三葉虫の外骨格は、貝の殻と同じ成分
一方、コンピュータモデルによって、噛む力は弱かったという研究もされている。硬いものを食べていたらできるであろう傷がなく、胃の付近に硬質のものを食べた形跡もなかった
しかし、眼の研究において、複眼のレンズが非常に多く(現生の昆虫が数千個なのに対して1万6000個以上、ただしトンボは2万個)、また柄がついているのでそれを動かして立体視もできただろう、と。そうすると、優れたハンターだったのではないかとも考えられる

  • 進化

節足動物類のいちばん原始的なところにアイシェアイアがいて、それから色々分かれて、オパビニアがわかれて、アノマロカリスがわかれて、現生の節足動物へつながっていく、と考えられている

6 ワンダフル・ライフ?

ジェイ・グールドは、原生動物とはつながらない新たな生物種が爆発的に進化したと述べたが、近年の研究で現生種のつながりもわかってきている。全くの所属不明という種は減ってきていて、「進化の実験場」という考え方はなりをひそめてきた

  • オドンドグリフス

一反木綿のように身体をうねらせて水中を泳いでいたと考えられていたが、2006年、海底を這って生きる軟体動物だったと考えられるようになった

  • ハルキエリアとオロソロザンクルス

コンウェイ・モリスは、ハルキエリアの2枚の殻があわさって腕足動物になったと考えていたが、オロソロザンクルスの発見によって少し怪しくなってきた。オロソロザンクルスは殻が1枚しかない。
また、キンベレラやオドンドグリフスとの関係も指摘されていて、軟体動物なのか腕足動物なのかはっきりしていない

  • ネクトカリス

当初、前方が節足動物、後方が脊索動物のキメラのように見える奇妙な動物として復元されていたが、これはたった一体の標本しか使われていなかった。新たに発見された標本を使い2010年に発表された研究では、イカのような軟体動物として復元されている

「這い回る胃」、分類不明

  • ディアニア

「歩くサボテン」、葉足動物から節足動物への進化のステップに位置する

  • シファッソークタム

「チューリップ・クリーチャー」所属不明

  • ネレオカリス

アノマロカリスの次に位置する節足動物の先祖

7 「カンブリア爆発」の真実

カンブリア爆発とは生命の多様化イベントのことだが、生命の多様化はエディアカラ紀にすでにあった。
カンブリア紀とエディアカラ紀の違いは、硬組織の有無
ただし、エディアカラ紀にも硬組織をもった生物がいないわけではない。
2〜3cmほどの「クロウディナ」、柔らかい身体と硬い針をもった「コロナコリナ」
しかし、やはりまだ主流ではない
カンブリア紀とエディアカラ期の違いとして、カンブリア紀の動物は海底に潜り込む者たちがいたということで、これを「カンブリア紀の農耕革命」と呼ぶ


エディアカラ生物群が絶滅してからカンブリア紀の生物が誕生するまでに2000万年の隔たりがあるが、この間の地層からは、微小有殻化化石群という小さな化石が出ているが正体が謎。しかし、近年になってハルキエリアやミクロディクティオンの破片ではないかと言われ始めている。

カンブリア紀の動物群は突如出現したのか
遺伝子の多様化はさらに数億年遡る*1
パーカーやフォーティによると、カンブリア紀以前に多様な動物は既に誕生していたが、それは内部の変化にとどまり、外形が変化しはじめるのがカンブリアの爆発
「光スイッチ説」
田中源吾「眼をもったことで、硬組織が意味のある形になった」
パーカー「武装は装飾」(実際に使われたというより、脅しとして機能した)
カンブリア紀の始まりは5億4000万年前、現在発見されている最古の眼の化石は5億2000万年前、この違いをどのように説明するかが課題
パーカによれば、眼の形成にかかるのは40万年ほど


澄江では中枢神経が発見されている


「大不整合」
不整合とは不連続な地質の重なり
カンブリア紀には大不整合があり、これにより大量のイオンが海中に溶けだしていた。これが硬組織の「材料」になった。
大不整合は9億年の歴史の中でも珍しい事件


 エピローグ
アルゼンチンで発見された「アパンクラ」
鰓へ水を送り込むために使われる付属肢のうちわのような構造がなかったことや足跡の化石から、陸上で生活していた可能性がある

感想

復元イラストが多いのはありがたいことだけれど、カンブリア紀の生物は、ヴィジュアル的にはまあ気持ち悪いものが多い。現代の生物とは見た目がかなり違うので、見慣れないからそう思ってしまうところもあるかもしれない。現代の生物だって、海棲の無脊椎動物はわりと気持ち悪いし
具体的にいうと、いくつかの動物についてる「葉脚」と、ミクロディクティオンが、個人的にはちょっとなーという感じだった
もっとも、人によっては「(キモ)かわいい」と思うかもしれないなあ、という具合のイラストになっているとも思う。オパビニアは、かわいいと思えないこともない。
あと、アノマロカリスをはじめとする、「エビ」系の目がついてる奴らとか。


サイズの小さい化石が多いし、エディアカラ紀の生物は軟組織なので骨とかではなく印象化石だし、ほんとよく発見できたな、と
あと、発見史は意外と古いんだなあとか(エディアカラもバージェスももっと最近だと思ってた)
新しい発見がまだまだ続いていて、どんどん説が変わっていってる分野なのだろうなあという感じもする
大不整合と硬組織の話が面白い。地球環境と生物進化の関係。
パーカーの『眼の誕生』もいつか読まないとなあ

*1:この時間差は、宮田隆『分子からみた生物進化』 - logical cypher scapeに言及があった気がする