土屋健『オルドビス紀・シルル紀の生物』

生物ミステリーPROシリーズ
土屋健『エディアカラ紀・カンブリア紀の生物』 - logical cypher scapeの続刊
本の特徴は前回と同じ。豊富な復元イラストと化石標本写真があって、分かりやすい。
オルドビス紀シルル紀というのは、多分かなりマイナーな時代なのではないかと思う。
そもそも自分の場合は、古生代の中のそれぞれの紀について、名前は知っていてもほとんど区別がついていないので、知らないことだらけで面白かった。
古生代っていうと、三葉虫と魚類と両生類の時代かな、くらいの知識だったので。
オルドビス紀シルル紀は、エディアカラ紀やカンブリア紀のような奇妙な動物たちは姿を消しているけれど、かといって魚類や両生類はまだ登場していない時代

第1部 オルドビス紀
  1. カンブリア爆発の“生き残り"
  2. 環境のスペシャリスト「三葉虫
  3. シンシナティの“窓"
  4. スームの“冷たい海"
  5. 魚類黎明期
  エピローグ
第2部 シルル紀
  1. 台頭するウミサソリ
  2. サソリとウミサソリのちがい
  3. ロチェスターに開いたシルル紀の“窓"
  4. シルル紀ポンペイ
  5. 魚たち
  エピローグ

第1部 オルドビス紀

1. カンブリア爆発の“生き残り"

アノマロカリス類や、マレロモルフ類(マレッラと同じグループ)などの化石も発見されている
カンブリア紀オルドビス紀では「礁」が変化
→前者はストロマトライトなど平面的、後者は海綿、ウミユリ、サンゴなどの骨格生物を主体として立体的になった

カンブリア紀には門のレベルで多様化したが、オルドビス紀は科と属が4倍に増えた
礁の変化、浮遊するプランクトンを食べる生物の増加
増田らの2009年発表の仮説:陸地が地衣類などに覆われ、陸から海に供給される栄養がリンから窒素へと変化→プランクトンの繁栄につながった?

2. 環境のスペシャリスト「三葉虫

カンブリア紀までの三葉虫は、よく知られているひらたいもの
オルドビス紀には、海水準上昇で生息域が拡大し、多様化
ここでは、黒地に美しい化石標本写真が数ページにわたって並べられていて、なかなか圧巻
フォーティが、この時代の三葉虫は、遊泳性だったとか濾過食者だったとか指摘している、と
タツムリみたいに眼がとびだしている奴とか、細長いトゲが伸びてる奴とか、角みたいなのがある奴とか
三葉虫の化石は基本的に、外骨格の殻部分だけで、軟組織である脚などは残っていないが、軟組織が黄鉄鉱に置き換わって残っている、金の三葉虫の化石がある

3. シンシナティの“窓"

オルドビス紀の地層がある、オハイオ州シンシナティ
ここは、「シンナシティの古生物学校」というアマチュアの研究グループが、研究を支えてきた(アマチュアといっても、古生物学で生計を立てていないという意味で、仕事内容は本職の古生物学者と変わらないものだったらしい)
腕足動物:二枚貝によく似ているが、二枚貝は左右非対称、腕足動物は左右対称
頭足類がオルドビス紀の王者
頭足類には殻のある種(アンモナイトなど)と殻のない種(タコやイカ)があるが、当時の頭足類は殻がある。まっすぐ長くのびた円錐形の殻。多くは数cmだったが、最大のカメロケラスは最大で11mあったとされる。
ウミサソリ類も捕食者としていた
シンシナティでも三葉虫は多く発見されているが、それ以上に個体数が多かったのが棘皮動物
大半はウミユリ類、次いで座ヒトデ類(既に絶滅している)、ヒトデ類(現生のものと姿は同じ)。さらに、海果類という、よくわからない生物も
筆石類:カンブリア紀からシルル紀まで1億年以上生存、進化が速いので示準化石としても使われる。複数の個体があつまっている群体。以前は、鉱物と考えられ、生物とわかってからも分類が転々としている

4. スームの“冷たい海"

オルドビス紀の化石産地は少ない。その中の一つが、南アフリカのスーム頁岩
ここは、高緯度地域で堆積したという珍しい化石産地。そもそも、熱帯域の方が生物は多いので、低緯度地域で堆積したところの方が化石もよく見つかる。スーム頁岩は、オルドビス紀当時南緯60度付近にあった。寒いだけでなく、オルドビス紀末期に無酸素になった。そのため、微生物がいなくなり、分解されることなく化石になった。
コノドントと呼ばれる謎の化石があり、長い間謎だったが、最近では無顎類の一部だと考えられているが、歯だったのか何だったのかはわかってない
スームから見つかったウミサソリ類には、板状構造が確認され、これが書鰓ではないかと指摘されている。書鰓は、現在のクモやサソリなどにも見られる

5. 魚類黎明期
  • アランダスピス

鱗をもった最古の魚類
15〜20cmで、無顎類
尾びれ以外のひれはなかった

  • サカバンバスピス

当時のゴンドワナ大陸で反対側に位置するオマーンボリビアから発見されており、超大陸を回り込んで生息していた。が、ローレンシア大陸側からは発見されておらず、大洋は渡れなかったと考えられる。

エピローグ

オルドビス紀末の大量絶滅
氷河が発達→海水準の低下で生息域が減少(1回目の絶滅)→温暖化→海の攪拌が弱まり無酸素水塊が発達(2回目の絶滅)

第2部 シルル紀

1. 台頭するウミサソリ

シルル紀=地球史上で有数の温暖期
ウミサソリ
10cmほどの小型種から2mをこす大型種まで
付属肢が6対、第6付属肢がパドルのようになっていて遊泳用
1対の単眼と1対の複眼、書鰓をもつ。鰓は蓋で覆われ乾燥に耐えられるので、短時間なら陸上活動も可能
淡水域、汽水域、海水域に生息

  • ミクソプルテス

遊泳や歩行、海底にその身を隠しての攻撃などができた

  • プテリゴトゥス

2m超のものもある
尾の先には、サソリのような尾剣はなかったが、うちわのようになっており、垂直尾翼のような構造があって、遊泳に優れていたとみられる
他にも、様々な形状の様々な種がいた


ウミサソリ類と共通祖先を持つのがカブトガニ
カブトガニ生きた化石と呼ばれているが、同様の姿のものは石炭紀まで、カブトガニ類自体はシルル紀ないしオルドビス紀まで遡る
現生のカブトガニは、後体が一個のパーツとなっている。
一方、後体に体節が存在してる「ハラフシカブトガニ」類というグループがいて、デボン紀に、ハラフシカブトガニ類からカブトガニ類が進化したと考えられている。ハラフシカブトガニ類はデボン紀末に絶滅。しかし、近年、オルドビス紀の地層からもカブトガニ類に似た新種が発見されている

2. サソリとウミサソリのちがい

ウミサソリは、ハサミがあるのは一部の種。また、ハサミになっている肢がウミサソリは第1付属肢だが、サソリは第2付属肢。ウミサソリは、尾剣はある種はいたが毒針になっていたかどうかは不明。ウミサソリは単眼、サソリは複眼。ウミサソリは書鰓、サソリは書肺。
体節構造が5つという共通点
シルル紀のサソリは海棲。当時の海には、サソリ類とウミサソリ類がいた。
隊長90cmを越えるサソリも。
ところで、ちょっと面白かったので引用

サソリ類は、大きく二つに分類される。水中生活の種で構成される「エラサソリ類」、陸上生活の種で構成される「サソリ類」である(階層分類という伝統的な手法では、「サソリ目がエラサソリ亜目とサソリ亜目に分類される」となる。)

いささか紛らわしいが、サソリ類(エラサソリ類も)はすてべ、クモ類に含まれる。階層分類法を使えば、サソリ目はクモ綱に含まれる。

最近の恐竜の本読んでも、竜盤目、鳥盤目とは書いてなくて、竜盤類、鳥盤類と書いてあるし、これは分岐学の勝利ってことなんだろうか。
でもまあ、なんでもかんでも「○○類」って書いちゃうと、「紛らわしい」場面も確かにあるよなあ

3. ロチェスターに開いたシルル紀の“窓"

シルル紀は、2400万年間で、古生代の中でもっとも短い紀
オルドビス紀同様化石産地が少ない。

懸濁物食者
懸濁物とは水中を漂う有機物のことで、懸濁物食者は腕足動物やコケムシ類と高さの棲み分けをしていた
懸濁物食者として具体的には、ウミユリ類やウミリンゴ類

4. シルル紀ポンペイ

イギリス・ヘレフォードシャー
1994年、石灰質の石の塊(ノジュール)の中から、顕微鏡で化石を発見
保存状態はとてもよかったが、小さすぎてドリルの掘削は無理、化石も石灰質なので薬品も無理
→ノジュールを薄くスライスして断片を撮影、コンピュータ上でつなぎあわせる
火山灰で生き埋めになった生き物の腐敗部分が鋳型になってできた化石
殻をかぶったマレロモルフ類(マレッラが属するグループ)
オッファルコス
王蟲のような姿をした生物(ただし、眼はない。サイズは5mmほど。複数の付属肢が前方に向いているのが王蟲っぽい)
最古の生殖器の化石も

5. 魚たち
  • 異甲類

背面と腹面で甲羅が異なる、オルドビス紀に生まれシルル紀にも多くの種が登場)

  • 頭甲類

トレマタスピス:眼が上方にあり、海底で生活していたとみられる

  • 欠甲類

リンコレピス:眼が前方についており、遊泳していた。5cmほど

  • 歯鱗類

鎖帷子のような鱗。
フレボレピス:扁平な体つき
これらの魚は顎がなく、口をひろっげぱなしにしてプランクトンや海底の有機物を捕食

鰓から顎が誕生した
顎の誕生と同時期に硬骨魚類が登場
硬骨魚類には、棘魚類、条鰭類、肉鰭類

エピローグ

陸上植物の最古の化石はオルドビス紀だが、本格的な緑化はシルル紀から
クークソニア
根や葉、維管束をもたない。軸と胞子嚢だけのシンプルな植物