第17回感想

『invert vol.1』
平均年齢19歳の超若手批評系サークルが文フリデビュー、ということでよいのだろうか。 特集は「若者と社会」
1本目、神山和人の評論。清涼院流水AKB48を取り上げて、断片化されない「私」について論じている。ざっと読んだ印象にすぎないけど、流水論もAKB論も目新しい感じはせず、最後の本論となるべき部分も短いので、「え、本当にその結論でいいの」となる。
2本目、高光のエッセイと評論のあいだのような文。筆者が見かけた学生自治の話とかから、社会について論じている感じ?
3本目、伊丹空互の評論。園子温の90年代初頭の活動、東京ガガガの紹介から始まり、最近のクラブ・風営法問題を取り上げながら、カウンターカルチャーとしてのサブカルチャーを論じるというもの。悪くはない。悪くはないと思うんだけど……
4本目は、なんか女子大生が自分の父親に向けて、社会学か何かの授業で出された宿題についてメールするというもの。その形式ゆえに読みやすいことは読みやすい。内容はあまり覚えてない。
invertという雑誌名の由来をかいた扉文とか特集の巻頭言とかに中身がついていっているかという問題はあるけど、でも19歳、19歳の時に自分が書いた文章がどんなだったかよく覚えてないけど、それと比べてみればいいんじゃないかなと思わなくもない。あと、自分が扉文とか巻頭言とか全然書けない人間なので、そのあたりはすごいと思った。


『ロウドウジン』
まだ全部は読んでないけど、安定のロウドウジンだった。
っていうか、燻製しおりのインパクトが強すぎてw
鞄に匂いが移ることはなかったけど、他の同人誌には匂いが移りましたw


『ゾンビ小説集』
アーカイブ騎士団待望の新刊
あとがきを見てみると、赤田さんが「ゾンビアイドル小説を書きます」って唐突に言い出したせいで、テーマがゾンビになってしまったらしいw
今回、マンガはなしで、赤田さんのゾンビアイドル小説と、森川さんの歴史ゾンビ小説が長めの作品で、あとショーショート的なのが3本くらい。
赤田さんのゾンビアイドル小説は素晴らしくて、アイドルだけが罹患してしまうゾンビ病が出現した近未来の話。この世界に登場するアイドルはみんな、普段はアイドルをやっているのだけど、定期的にゾンビ化してしまう。
登場人物は、この病気が流行り始めた頃に、アイドルファンからアイドル業界へと入ってきた、とあるプロダクションの社長、そのプロダクションで働く、やはり元アイドルファンの女性マネージャー、元々アイドルに興味はなかった男性社員、そしてファンが高じて事務所の場所を突き止めてしまった男子大学生
ゾンビになってもアイドルをやる、アイドルをやらせる人々、そしてそんなアイドルを応援する人々
これって、ゾンビという特別な道具立てが入っているけれど、自らもアイドルファンである赤田さんが現在のアイドルについて考えた作品であって、アイドルって大変だよねっていうと、でもアイドル本人たちは意外とあっけらかんとしてるよねっていうのを描いていてよかった。
歴史ゾンビ小説は、地球侵略を目論む意識だけの存在でる地球外知的生命体たちの話。彼らは、人間や動物に憑依することができ、歴史家階級と呼ばれるグループが人間の意識をアーカイブすることで歴史を編纂しようとしている(地球を侵略するためにまず中国を乗っ取る算段で、彼らは、中国では王朝が変わる度に次の王朝が前の王朝の歴史書を編むという伝統に則ろうとしている)。
そんな折、なんの変哲もないようなとある日本人の少女の意識に、アクセスすることができなくなる。日本の担当者である主人公は、自らの歴史事業の穴となる彼女が、決して正史に関わらないように平凡な人生を送るように企むが、彼女はあらゆることについて非凡な才能を持ち合わせていた。
という感じで、これまた面白かった。


『aBre』
「売る」というテーマで、メンバーそれぞれが書いた短編。
垂崎作品は、とあるカップルが買い物を巡る喧嘩をしていたら、何故か勇者としてファンタジー世界に召喚されてしまう話
牛濱作品は、レシートフィリアの女性に追いかけられる男の話
間宮作品は、高校時代に通っていた画廊に、社会人になって来訪してみて、子どもから大人になり画廊の主人との関係性が変わってしまったことに気付く話
ゆるぎ作品は、病気の彼女がいる主人公が、古本屋から娘を奴隷として売りつけられる話。
秋梨作品は、謎の老婆に仮面を売りつけられヒーローになってしまった男の話。
牛濱作品が、何となく面白かった。間宮作品は、上手かったと思う。秋梨作品は、ベタなものをちゃんとベタにやってる。
aBreメンバーはみんな、大学時代の後輩なので、彼らの作品は前々からずっと読んでいて、だからまあ、上手くなっているなとか思うのだけど、何というか物足りなさもある。
何というかどれも、雑誌とかにちょこっと載っている小説のような感じで、ちょっと空いた時間に読む分には、十分のクオリティを持っているのだけど、それ以上のものではないわけで、そういうのが5本つらつらと並んでいる。もちろん、「売る」というテーマの短編を並べましたという企画なのでそれでも問題はないといえばないのだけど。
この雑誌のコンセプト的にはもしかしたらあってるのかもしれないけど、各人のがっつりした長編も読んでみたいというのも思ったりした。


『ものの缶詰』
缶詰に入ってる短編の方はまだ読んでない。長編の方を読んだ。
大学生の愛子は、極秘任務を遂行中という謎の美少女、相沢友美と出会う。そして、人格が入れ替わるという謎の現象に出くわす。友美曰く、そういう現象を引き起こす人間がいて、その人間が強いストレスを受けると、人格入れ替わり現象が起きるという。そして、友美はその人間を探しにきていて、そして容疑者は愛子の家族、つまり3人の兄と長兄の妻の中にいるのではないかということだった。
というわけで、犯人を捜すミステリなのだけど、起きている事件はいわゆる殺人事件とかではなくて、少し不思議な現象。
人格が入れ替わるというアイデアが、ガジェットとして使われているだけでなくて、女装趣味とか何とか、話の他の要素と絡み合っているようにできているのがよかった。
ミステリについてはよく分からないので、いい出来なのかどうかはよく分からなかった。犯人とか当てられるの、これって思って。でも、色々と記述に気を遣っているのだろうなというのは何となく伺える文章だった。


『フミカ2』
今回、フミカには全くノータッチで、企画すら知らなかったので、メンバーのtwitterを見たりして、どうも小説を合作しているらしいということには気付いていたものの、「え、小説?」ってなってた。
しかし、読んでみたら、まだ完成してない状態なんだけど、とても面白かった。しっかり小説になっているし、色々な描写の仕方のバランスが、何ともやおきさんっぽいなあと思った。
ライブハウスだったり、ニコニコ動画ならぬニヤニヤ動画だったりを、説明していくというのが面白かった。
解説のように絵がちょこちょこと入っているのもいいよね。