河田雅圭『はじめての進化論』

タイトルに違わず、初心者のための進化論入門といってうってつきの一冊。
具体例と適度な単純化(?)と平易な語り口で非常に分かりやすく、また誤解されそうなところへの注意が行き届いている感じがした。
今までいくつか進化についての入門書的なものは読んできたので、進化の基本的な仕組みについてはだいぶわかってきたつもりだったが、それでもこの本を読んで、ああそうだったのかと気づいたところもあるし、知識の整理になったところもあった。
「適応」と「適応度」の違いとか。
「進化的に安定な戦略」についてとか。
遺伝的浮動と中立進化の話は、以前『生物進化を考える』を読んでいたので、詳しさという点ではそれに劣るけれども、結構ちゃんと説明してあった。
それから逆に、『生物進化を考える』ではほとんど触れられていなかった断続平衡説についての解説もあった。
そしてこの本では、「種」についての説明がなされてる。
つまり、進化について考えるにおていは、「種」という概念はほとんど必要がないということ、さらに付け加えれば「種」という概念自体がかなり曖昧なものであるということだ。
「種」というと、一般的には互いに交配ができないことが、その条件とされているが、現実の種の分類に関しては、この条件が満たされていないことも多いことや、そもそも何をもって「交配ができない」と見なすかについても考えが異なっていることなどが述べられている。
先に挙げた断続平衡説についても、この曖昧な「種」概念を、明確なものだとしているところに誤りがあると批判している。
進化論についての学説史もまとめられている。
スペンサーは、社会的ダーウィニズムというよりは社会的ラマルキズムであるとか。
そして最後にある、木村「優生」論と今西進化論への批判が、二人の大学者のトンデモ学説をビシバシと切っていて非常に面白い。
社会の中で、生物学ないし進化論をどう捉えていくか考えていかなければならないという姿勢が強く出ている。例えば、社会生物学に対して、もちろんその知見そのものに対しては問題ないが、それが「悪用」される可能性は高いのだから、社会生物学者はそこのところは注意してもっと発言していくのがよいのではないかなどとも述べている。


ちなみにこの本、以下のサイトからhtmlならびにpdfで閲覧できる。
ネットって便利ー
はじめての進化論

はじめての進化論 (講談社現代新書)

はじめての進化論 (講談社現代新書)