イギリスで発刊されている一般向け哲学雑誌『フィロソフィアーズマガジン』に収録されたインタビューを、加筆の上収録した本。
まず、インタビューされている人のラインナップが豪華。
しょっぱなからシンガーで始まり、ドーキンス、ソーカル、E.O.ウィルソンがといった、科学者が名を連ねる一方で、サール、ダメット、パトナムといったアメリカ分析哲学界の重鎮もやはり顔を揃えているのだ。
また、インタビュー集ということもあってか、文章が読みやすい。
ただしインタビューといっても
インタビュアー「○○ですか」
インタビューイ「はい、そう思っています」
というような体裁ではない。
○○は××のような考え方を持っているが、果たしてそれは△△による批判をどのようにしてかわすことができるのだろうか、尋ねてみた。
「その問題についてはまず、□□について考えてみましょう」
というような体裁になっている。
(この説明では分かりにくいかもしれない。それから、文章の内容には特に意味はない)
つまり、インタビュアーの手による地の文がかなり書いてあって、それによる説明がなかなかよいのである。
そして時には、当の哲学者が返答に困るような問いを提示していることすらある。
経歴や主な主張はインタビュアー側が既にまとめてしまっているので、そうしたことについての質問はほとんどなされない。むしろ、インタビュアーとインタビューイとの「対話」がそこではなされている。
内容は多岐にわたるので、一つ一つ見ていくことはできないが、道徳や規範に関することが多かったように思える。
あるいは、現在、哲学者が社会の中でどのような役割を担うのか、という話である。
つまり、どのように生きるべきだろうか、という問いに対して、答えることはできるのだろうか、ということだ。
この点で、第一部が「ダーウィンの遺産」であることは興味深い。ダーウィニズムに対して、決定論とか還元主義とかいった批判、つまり自由意思と責任を否定するような考えだとして批判されてきた。第一部に集められている、ピーター・シンガー、ジャネット・ラドクリフ・リチャーズ、ヘレナ・クローニン、リチャード・ドーキンスはそうした批判に対する反論を行っている。
第二部は科学で、エドワード・O・ウィルソンによって科学が哲学にとってかわるということが高らかに宣言されている。それが果たして本当に可能かどうかは別として、このウィルソンの態度は単純にかっこいい。
その直後に、ラッセル・スタナードが置かれているが、ウィルソンの直後だと何ともしゃんとしない。彼はいわば、神を科学的に証明しようとしているのだが、何というかうまくいっているようには思われないのである。彼は、神がいることを知っていると語るのだが、この場合の「知っている」というのは非常に特殊な用法で、科学的知識を「知っている」とは同列に扱えない「知っている」だと感じた。
ジョン・ハリスは、生命倫理に関する政策についての委員会に所属している哲学者だ。哲学者というのは、社会にとって全く役に立たないような人種だと思われがち(?)だが、彼は哲学者がいかにして社会のなかで役に立つかということを示している。
それはまた、生命倫理に関する基本原理とか形而上学とかを打ち立てることではない。むしろ、議論の交通整理を担う役目である。様々な科学の専門知識を集約して、論点の整理を行い、議題を提案する役割だ。
宗教と哲学は、僕にとってはなかなか理解しにくいところだ。つまり、単に宗教のことについて語っているのではなく、「何故神がいるのにも関わらず悪はあるのか」とかいった論題が語られているからだ。ただし、議論そのものは、読みやすいものであったので、一体どういうことが問題になってどのように論じられているのか、ということは分かる。
本の内容はまだまだ続く。
ドーキンスとの議論を巻き起こしたメアリー・ミッジリー。彼女は、第二次大戦中に学生だった世代で、この世代には彼女の他にも哲学者が多い。つまり、その当時、男性が大学にいなかったからである。
正義は対立の中にある、というスチュアート・ハンプシャー。この「対立の中にある」という考えは、自分の考えと近いかも。
芸術、特に大衆芸術とハイアートの区別を重視して語るロジャー・スクルートン。
ジョン・サールは、実在論と「社会の哲学」への展望を語る。
ダメットは自分にフレーゲからの影響が大きかったことを再確認し、ころころと自説を変えることで有名なパトナムに対して、インタビュアーは彼の一貫しているところを見つけていく。
哲学者は何を考えているのか (現代哲学への招待Basics)
- 作者: ジュリアンバジーニ,ジェレミースタンルーム,Julian Baggini,Jeremy Stangroom,松本俊吉
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2006/05/01
- メディア: 単行本
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