『ラスト・ワルツ』島田虎之介

最近、1巻完結で(ないし少ない巻数で完結している)面白いマンガ教えろスレとかエントリとかがはてブにホットエントリになっていたけど、
まさに、1巻で完結していて面白いマンガ。
伏線が巧みに配置されていて、完成度が高い。
全11章で、前半はオムニバス形式で進むのだが、後半から一気に繋がっていく。
最初は、そのオムニバスな感じを楽しんでいたのに、その前半部が後半で繋がっていく様は、すごい。

都合が良いことにこれはマンガなので

作中に登場する島田虎之介の台詞である。
死んでしまった叔父が、もう少しだけ生きていたら、というマンガを描くわけだ。ここから*1、虚構と現実が入り混じり始める。いや、そもそもこの叔父が実在しているとは限らないので、虚構と現実、というよりは、二つの物語が、といった方がよいかもしれない。
これは、この叔父のエピソードに限らない。
この作品では、いくつもの偽史が語られる。それらが混淆していく。
「都合が良いことに」などと言ってはいるが、これは虚構-物語と歴史の関係を見事に表しているように思う*2


トーンを使わない、この絵柄が、何ともいえずよい。
マンガというより、挿絵とかイラストレーションの方でありそうな感じの絵柄な気がする。
特に、聖アレクサンダーの章は、他の章と比べてネームが少なくて、絵柄の持つ雰囲気がよく出ている。原爆ドームに到達するまでのシークエンスは、おおゴマが幻想的。
金正日の孤独とアメリカ人の孤独が描かれる、北朝鮮の映画館からトンネルへのシークエンスもすごい好き。


バイク・エルドラドについて、架空冷戦史、エリク・エリクソンアメリカの話など、偽史の構築もすごいなあーと思う。


伊藤剛NTT出版webマガジンで書いている漫画評から一部抜粋。
この作品に対して、ではなく、これの次の次に書かれた作品に対するものだけれど、島田虎之介について語っているので、この作品にも当てはまる。

まさに「マンガで物語ること」そのものの輝きなのだ。そこには、私たちが「物語る」ということ、そしてそれによって世界を把握し接続しようとすることそのものの感動がある。

島田は個々人の「小さな物語」をどうにかして20世紀の「大きな歴史」と接続し、語りなおそうとしている。

http://www.nttpub.co.jp/webnttpub/human/013/1.html

歴史とは物語なのである。

ラスト.ワルツ―Secret story tour

ラスト.ワルツ―Secret story tour

*1:ここだけではないのだが

*2:このことについては、今読んでいる『ベルカ、吠えないのか』を読み終わったら、その感想と共に書こうと思う