『日経サイエンス2019年12月号』

日経サイエンス2019年12月号(大特集:真実と嘘と不確実性)

日経サイエンス2019年12月号(大特集:真実と嘘と不確実性)

NewsScan●海外ウォッチ

卓上の重力波検出器

卓上の重力波検出器〜日経サイエンス2019年12月号より | 日経サイエンス
アーム長10mの検出器をつくる計画
TAMA300ですら300mあったのに?!

あなたも感じる「数学の美」

数学者と心理学者の共同実験
数学の素人に対して、数学的陳述を読んでもらい(その理解度をテストしたうえで)、それがどの絵画と似ていると感じたか質問するという実験
回答の一致率が高く、驚きの結果
この記事、美学者のコメントがなくて、美学の知名度の低さを感じる。

特集:真実と嘘と不確実性

www.nikkei-science.com

物理学 物理学におけるリアリティー  G.マッサー

物理学におけるリアリティー | 日経サイエンス
何となくバラバラと色々な話していた記事だった(実在論反実在論量子力学、意識)

数学 数学は発明か発見か  K. ヒューストン=エドワーズ

数学は発明か発見か | 日経サイエンス

数学には、発明のように思える部分と発見のように思える部分の両方がある、という話
発見段階と証明段階の違いとして、ゴールドバッハ予想の話とか(ゴールドバッハ予想にあう偶数は次々と「発見」されるが、それを定理とするには「証明」が必要)
最後に、プラトニズム、形式主義、フィクショナリズムといった形而上学的立場がいくつか簡単に紹介されるが、実際の数学の営みには影響しないよねーと結論されている

神経科学 脳が「現実」を作り出す  A. K. セス

脳が「現実」を作り出す | 日経サイエンス
青色にも金色にも見える例のドレスの話を枕に、予測装置モデルの話
ツートーン写真の実験(何が写っているか分からない白黒写真が、カラー写真見た後だとわかるようになる)
VRヘッドセットを使った実験
現実と区別のつかないVR映像を作ることはまだできていないが、事前に録画していたものを時間差つけてみせると、実際に起きていることと錯覚する
これは、現実だという認識も知覚に影響を及ぼすということ
また、知覚の鮮明さと「現実らしさ」の感覚は別(薬物の幻覚や明晰夢の例、あるいは共感覚者は、現実ではないことを認識しつつ知覚している)
「現実らしさ」の感覚は、ベイズ的な最良の推測がもたらす側面

ネットワーク科学 デマ拡散のメカニズム  C. オコナー/J. O. ウェザオール

デマ拡散のメカニズム | 日経サイエンス
反ワクチン派が広まった理由の研究


情報が拡散していく仕組みをモデル化
まず「伝染モデル」
近くの人から情報が単純に伝わっていくというモデル
「認識フレームモデル」
AとBのどちらがよいかという信念をもっていて、エビデンスを共有して信念を更新していくモデル
しかし、このモデルはコミュニティ全体が最終的に同じ意見に達し、現実のように二極化しない。このモデルには「社会的信頼」と「大勢順応主義」が欠けている
ある人を他の人よりも信頼するという「社会的信頼」
他の人と同じように行動する傾向という「大勢順応主義」
さらに、反ワクチン派が行ったキャンペーンとして「選択的共有」や「レトリック戦略」を挙げている
好ましいエビデンスだけを提示する「選択的共有」

意思決定科学 過剰な心配,過小な心配 リスク判断の心理学  B. フィッシュホフ

過剰な心配,過小な心配 リスク判断の心理学 | 日経サイエンス
例えば、原子力に対するリスク評価。リスクを高く見積もるのは、死者数を過大に評価しているせいではと研究してみたら、リスクを高く見積もる層も死者数の見積もりは高くなかった。ある特定期間に重大な事故が起きる可能性の見込みが違っていた。
また、記事内コラムみたいな内容で主題ではなかったが、科学リテラシーが高くなるほど、リベラルか保守かで意見対立が激しくなるという調査結果が紹介されていた。リテラシーが高くなるほど、自分の属する政治集団の立場に合わせたり、より自信をもって主張するようになるからではないか、と。

データ科学 エラーバーの読み方  J. ハルマン

エラーバーの読み方 | 日経サイエンス

データの不確実性を視覚的に表現する方法あれこれ
様々な方法のメリット・デメリットを比較している
紹介されているのは「そもそも定量化しない」「信頼区間(エラーバーや信頼帯など)」「確率密度の図(箱ひげ図、バイオリン図など)」「アイコン列」「複数例を空間に並べる」「複数例を時間的に並べる」「複合的アプローチ」

社会心理学 自己不確実感が社会を脅かす  M. A. ホッグ

自己不確実感が社会を脅かす | 日経サイエンス
アイデンティティが揺らいで「自己不確実感」があると、社会的集団への帰属を求め、何をすべきか命じてくれる人を求める
ポピュリズムの温床になる、という話


社会学 情報操作社会に生きる  C. ウォードル

情報操作社会に生きる | 日経サイエンス
フェイクニュースとネットミームについての話
まず、「フェイクニュース」という用語は、色々なものをごちゃまぜにしているので問題ある用語だとした上で
「誤情報(ミスインフォメーション)」意図的ではない間違いやミスリード、風刺など
「偽情報(ディスインフォメーション)」損害を与えるための虚偽
「悪意の情報(マルインフォメーション)」間違ってはいないが損害をあたえるもの
偽情報が、悪意なくシェアする人々により誤情報になって広まっていく、としている
また、悪質なものは、偽情報ではなく、本物ではあるのだがそれをミスリーディングな形で送るもの。筆者は「コンテクストが兵器化されている」と述べる。従来の報道のやり方では、ただ拡散に手を貸すだけになってしまっていてよくない、とも
ミームについて
2019年に「Memes to Movements」という研究所が出ているらしいのだが、こういう調査は比較的まれ、と書かれている
ネット上の情報についての研究や調査も、画像解析よりも自然言語処理の方が進んでいるので、テキストベースのものに偏りがち
SNSの広告は、ターゲッティングが進んでいて、研究者からは誰にどのような広告が見えているか分からなくてやはり追跡が困難に
「アストロターフィング」いわゆるステマというか、偽のレビューを書いて好意的な支持が多いように見せかける手法について、こういう名前がついているらしい


特集:真実と嘘と不確実性ということで、真実や不確定性について、様々な分野の学者のコメントがコラム的に寄せられている。
「医者の視点」「歴史言語学者の視点」「古生物学者の視点」「社会技術者の視点」「統計学者の視点」「データジャーナリストの視点」「行動科学者の視点」「神経科学者の視点」「理論物理学者の視点」
統計学者が、p値について書いてる。p値だけを根拠にするのはよくない。他の尺度もあわせて公開していくことが大事ということを書いている

グラフィック・サイエンス 肥満と寿命:グラフの読み方

グラフの見方について、以下のような方針が書かれていたので引用

どうすべきか
1 グラフが示していることだけでなく、示していない可能性のあることを読み取ろうと努めよ
2 結論に飛躍するな。特に、グラフがあなたの考えを追認している場合には。
3 自分がグラフの内容を正しくとらえているかどうかを自問せよ
4 自分が推論しようとしている事柄に必要とされるものをデータが代表しているかどうかを考えよ。いずれの場合芋、相関関係は因果関係とは別物であることを忘れるな

記事の内容としては、肥満と余命が相関しているグラフから「太った人は長生き」と言いたくなるが、本当にそうかという例

ブックレビュー

  • 古生物学を楽しむ 平沢達矢

5冊ほど紹介されているけど、速水格『古生物学』というのがよい教科書らしい