三中信宏『思考の体系学』

サブタイトルは「分類と系統から見たダイアグラム論」
分類や系統を視覚的に表現するために用いられるダイアグラム、本書では特に系統樹に関して、その数学的な基礎と存在論的な基礎を示していく本
三中信宏『系統樹思考の世界』 - logical cypher scape三中信宏『分類思考の世界』 - logical cypher scape三中信宏『進化思考の世界』 - logical cypher scape、また、自分は未読だが『系統樹曼荼羅』などの三中のこれまでの著作の話をまとめつつ、さらにより専門的なところまで踏み込んだものとなっている。
ダイアグラムを読み取るための「骨格」としての数学と、「肉付け」としての存在論*1
分類思考はメタファー、系統樹思考はメトニミーというのは、以前の著作からすでに何度か書かれていることだが、引き続きそれらの関係についても深められている。
本書は、グラフ理論、順序、写像といった離散数学が、生物体系学にどのように応用されているのか、という本でもある。
また、体系化とはどういうことかとということとして「端点をつなぎ合わせる」「部分から全体を推論する」「既知から未知へと跳躍する」といったことをあげている。


ところで、去年の5月くらいに、「絶対読みたい」https://twitter.com/sakstyle/status/862252662699376640 と言っていてようやく読めた。
ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』 - logical cypher scapeにしろ、マイケル・ワイスバーグ『科学とモデル――シミュレーションの哲学入門』(松王政浩 訳) - logical cypher scapeにしろ、本書にしろ、刊行からおよそ1年たってようやく読めている状態。出た当初から気になっていたのだけど、大体他の本読んでいるうちに1年くらい経ってしまう……悲しい


プロローグ 思考の体系化は「可視化」から始まる 3
  1 天気図記号 — 複数の情報を束ねるダイアグラムの基本機能 5
  2 イデオグラフとメトログリフ — ダイアグラムの試行錯誤 7
  3 チャーノフの顔 — ダイアグラムの視認性を改良する 13

第1章 ダイアグラム博物館 ― 思考の体系化の歴史をたどる 19
  1 画家ギヨーム・ヴルランが描いた家系図(15世紀ベルギー,ブルージュ) 20
  2 作家ジョバンニ・ボッカチオが描いた神々の系図(14世紀イタリア,フィレンツェ) 23
  3 修道士ランベールが描いた善悪の樹(12世紀フランス,サン=トメール) 26
  4 法学者ジャック・キュジャスによる最古の系図表(9世紀フランス,トゥールーズ) 28
  5 神学者フィオーレのヨアキムが描く歴史の樹(12世紀イタリア・フィオーレ) 31
  6 画家ピエール・カタッチが描くメディチ家系図(16世紀イタリア,フィレンツェ) 34
  7 進化学者エルンスト・ヘッケルが描く生物の系統樹(19世紀ドイツ,イェナ) 36
  8 進化学者エルンスト・ヘッケルが描く人類の進化地図(19世紀ドイツ,イェナ) 39
  9 神学者ライムンドゥス・ルルスの知識の樹(13世紀スペイン,マヨルカ島) 42
  10 百科全書派クレティエン・ロートが描いた知識の樹(18世紀フランス,パリ) 46
  11 比較宗教学者ジェイムズ・フォーロングの世界宗教系譜(19世紀イギリス,ロンドン) 49
第2章 知識の樹の体系 ― チェイン,ツリー,ネットワーク 55
  1 関係の構造を可視化する — 順序関係と順序集合 57
  2 チェイン — 全順序の一本鎖 69
  3 ツリー — 半順序の樹形構造 77
  4 ネットワーク — 非階層の網状構造 83

インテルメッツォ(1) ― 「分ける」と「つなぐ」 89
  1 ウィリアム・ヒューウェルの視点から 91
  2 分ける分類科学,つなぐ古因科学 93
  3 科学の分類と科学の営為 96

第3章 分類思考と系統樹思考(1) ― 記憶術としてのカテゴリー化 101
  1 分ける思考とつなぐ思考 101
  2 類似性のメタファーと隣接性のメトニミー 109
  3 分類の直感と論理 ― 数量分類学クラスター分析を例として 114
   〔1〕数値と分類 ― 統計学分類学が接するとき 117
   〔2〕クラスタリングの背後にある分類観 120
   〔3〕全体的類似度とクラスタリング — いくつかの計算例 122
   〔4〕負けて勝つ ― 分類思考の方法としての数量分類学 135
第4章 分類思考と系統樹思考(2) ― 分類から系統へ 139
  1 距離尺度の計量性条件 140
  2 樹形図による距離情報の頂点表現と経路表現 145
  3 樹形性定理 ― 三角不等式のチューニング 150
   〔1〕グロモフ積 ― 端点から内点をさぐる 150
   〔2〕超計量性と相加性 ― 樹形図が描ける条件とは 159
  4 X樹 ― 樹形ダイアグラム論の基礎 166
第5章 分類思考と系統樹思考(3) ― 系統の断面としての分類 177
  1 植物分類学者チャールズ・ベッシーの系統分類体系図(1894-1915) 179
  2 動物比較形態学者アドルフ・ネフの観念論系統樹(1919-1933) 191
  3 植物系統学者ヘルマン・ラムの系統学的ダイアグラム体系(1936) 200
  4 動的分類学者早田文蔵の高次元ネットワーク(1921-1933) 207
  5 動物行動学者コンラート・ローレンツの種間比較系統樹(1941) 215
  6 まとめ ― 分類と系統の次元のきしみ 227

インテルメッツォ(2) ― 見えないものを見る 233
  1 分類するはヒトの常 ― ブレント・バーリンの民俗分類学の視点 234
  2 部分から全体を構築する ― ヴィリ・ヘニックによる一般参照体系の復元 236
  3 骨組みと肉付け ― 集合論とメレオロジーの対立をめぐって 242

第6章 ダイアグラム思考 ― 既知から未知への架け橋として 247
  1 集合から個物へ ― ネルソン・グッドマンによる類似性批判と個体公理論 250
  2 メトニミーとアブダクション ― 痕跡解読型パラダイムの進化的起源 259
  3 ダイアグラム論から見た統計グラフィクス 275

エピローグ 思考・体系・ダイアグラム ― 科学と時代のはざまで 287
  1 図像というパラテクストの威力 288
  2 能力としてのヴィジュアル・リテラシー 294
  3 ダイアグラム論 ― 科学と芸術の交わりのなかで 298

あとがきにかえて ― 先駆者たちの足跡をたどる旅路 305

プロローグ 思考の体系化は「可視化」から始まる

視覚的な表現である「図形言語(ダイアグラム)」の具体例をいくつか紹介
天気図記号、植物分類学者アンダーソンが考案したイデオグラフ・メトログラフ、統計学者チャーノフによる「チャーノフの顔」

第1章 ダイアグラム博物館 —―思考の体系化の歴史をたどる

この章は、いわゆる系統樹ハンターであるところの三中による系統樹コレクションといったもの
生命の樹」のイメージが、いかに様々なダイアグラムに使われていたか。
家系図だけでなく、美徳や悪徳、あるいはアリストテレスのカテゴリーといった概念を並べた図や、神々や聖人の系譜図、『百科全書』において知識の体系を示すために使われた図など
また、現在われわれが系統樹と言われて思い浮かべるだろう、生物の系統を示すもの。ヘッケルによるそれが紹介されているが、ヘッケルはまた、人類の進化を示す系統樹を世界地図上に描いたものものもものしているそうだ。
また、この章で最後に紹介されている、フォーロングによる宗教系譜図は、ツリーではなく、分岐した枝が再び融合することがあるネットワーク図となっている。

第2章 知識の樹の体系 —―チェイン,ツリー,ネットワーク

チェイン、ツリー、ネットワークという3種類のダイアグラムを、順序理論を用いて数学的に定義する、という章
個人的には、順序について興味はあったものの、今まで勉強するとっかかりがなかったので、この章が結構気になっていた。

擬順序:反射律と推移律を満たす二項関係
半順序:反射律、推移律、反対称律を満たす二項関係
全順序:反射律、推移律、反対称律、比較可能律を満たす二項関係

チェインは、全順序集合として定義される。
半順序集合は、さらにその中で、束とか半束とかいった集合を定義できる。端にあたる点が束ねられている集合、というイメージ
ツリーやネットワークは、半順序集合として定義できるのだけれど、ツリーはさらに条件を絞る必要がある。
植物分類学者のエスタブルックが1970年代に順序理論に基づいて生物体系学を研究し、「樹状半順序」というものを提唱。樹状律という条件を満たす半順序のこと。
ここから、ツリーは、樹状律を満たす半順序集合として定義できる。

樹状律:aRcかつbRcならばaRbまたはbRaである

これは、a、b、cの間に階層性があることを保証する。a→b→cか、b→a→cとなる。
これがないと、a→c←bという順序もありうることになる。つまり、aとbとの関係がわからないので、a、b、c間の階層性が保証されない。分岐したあとにまたつながることがあるネットワークとなる。

インテルメッツォ(1) —― 「分ける」と「つなぐ」

サイエンティストscientistという言葉を作ったウィリアム・ヒューウェルによる科学の分類の紹介
分類思考と系統樹思考とが、ヒューウェルいうところの、分類科学、古因科学に相当するだろうと
分類科学は「類似の程度」によって「分ける」科学
古因科学は「歴史的因果」によって「つなぐ」科学

第3章 分類思考と系統樹思考(1) —―記憶術としての修辞学

第3章~第5章にかけては、「分類思考と系統樹思考」というタイトルのもと、この二つに思考の背景にある「論理」を応用離散数学によって説明していくとともに、生物学における分類にまつわる論争などにも触れられていく。


分類=類似性(メタファー)によって「わける」
系統=隣接性(メトニミー)によって「つなぐ」
ということを修辞学の議論などから再確認したのち、分類について「クラスター分析」の観点から論じていく
なお、この章では三中が訳したキャロル・キサク・ヨーン『自然を名づける』 - logical cypher scapeへの言及も多い。
1950~70年代にかけて、生物分類において、「クラスター分析」を用いた「数量分類学派」ないし「数量表形学派」と呼ばれるグループが登場する
彼らは、それまでの分類学者による直観を用いた分類ではなく、客観的な指標による分類を標榜する
また、彼らは、系統に基づく関係と類似度に基づく関係とを区別し、後者を「表形的関係」と呼ぶ
類似度については、形質を数値化したのち、それらのデータのユークリッド距離を用いて全体的類似度を定義
デンドログラムと呼ばれる、樹形図を用いたダイアグラムによって、この距離=全体的類似度を可視化し、これによって分類を行う。
しかし、数量分類学派は、1970年代〜80年代にかけて行われた「分類情報量論争」及び「分類安定性論争」によって敗北する
前者においては、元データの情報量が分類においてどれくらい保存されているかという点において、系統に基づく分類体系より劣っていることが分かってくる
後者においては、分類が安定しているかどうかという論争だが、クラスター分析は距離を平均で計算するか、最大値で計算するかなど、異なるアルゴリズムがいくつかあり、どのアルゴリズムを採用するかで分類が変わってくるため、安定性にも欠いている。
結果、クラスター分析は、生物学からは撤退することになる。
もっとも、クラスター分析自体は、よく知られている通り、生物学以外の分野では広く用いられている。もともと純粋に数学的な手法なので、汎用性が高いためである(一方、数量分類学派は、数学への関心はあっても生物への関心がなかったことが論争に敗北した要因とヨーンならびに三中は指摘している)。
三中は、クラスター分析は生物学以外では成功したのだと述べるとともに、クラスター分析による類似度の尺度は、この世に数多くある類似度の尺度の一つでしかないということも指摘している。

第4章 分類思考と系統樹思考(2) —―分類から系統へ

この章が、一番数学的なところで、ちょっと内容の理解ができていないところもあるので省略気味でまとめる
先の章では、「距離」が「(全体的)類似度」となるという話がなされたが、この章ではさらに、その距離が満たすべき条件が色々あって、どの条件を満たしているかで、「擬計量」「計量」とかがあるよという話がでてくる
それから、樹形図によって表現されている情報として「頂点表現」と「経路表現」とがある、と
デンドログラムのような樹形図は、距離を点の高さとして保存する(頂点表現)。
一方で、距離を辺の長さとして保存するような樹形図もある(経路表現)。
三中は、前者が「わける」分類思考に、後者が「つなぐ」系統樹思考に対応していると指摘する。
頂点表現においては、端点と端点をその距離(類似度)に応じて「わける」が、
経路表現にいては、端点と端点とを「つなぐ」、つないだ辺の長さが距離であり、つなぐことによって「内点」をさぐることになる。
端点間のデータを与えるだけで樹形図は描けるのか?
→距離の変換式として「グロモフ積」というものがある。

グロモフ積は、端点(x,y,r)を互いにつなぐ樹形図の内点(u)を構築しているという点で、可視から不可視への橋渡しをしているとみなすことができます。私たちに見えているのはx,y,rという三端点だけですが、グロモフ積は枝urの長さを与えることにより、見えない樹形図の内点uの存在を示唆しているということです。(p.158)

さらに距離が満たすべき条件として、「超計量性」「相加性」といった性質があることが示される
数量表形学に「反旗を翻した」ファリスが、1970年にグロモフ積による類似度の変換式を提唱

グロモフ積とは端点x,uの仮想共通祖先uからrまでの「共有された進化史」に基づく類似度を意味します。それは、数量表形学派と対立していた分岐学派が支持してきた「共有派生形質」に基づく類似度にほかなりません。つまり、ファリスは類似度の観点から見たとき、全体的類似度に基づく超計量的デンドログラムにしたがって端点集合を分けるのではなく、相加性を満たす樹形図をグロモフ積による特殊類似度に基づいて系統推定することにより端点集合を仮想祖先(内点)を経由してつなぐ系統的体系の方がすぐれいていることを示しました。(p.165)


最後に、どのようなダイアグラムなのか、グラフ理論による樹形図の定義が紹介される。
グラフ理論で、樹形ダイアグラムは「X樹」として定義されているが、この場合、対象物が端点だけでなく内点にも対応するような、条件の緩い定義なので、すべての対象物が端点に一対一対応する(全単射)ように定義した「系統X樹」が紹介される。
ここで、写像についても簡単に説明があった。


20世紀初頭に、離散数学、公理論が数学以外の分野にも波及し始め、生物学においても、ウッジャーやグレッグによってすすめられるが、一方で、生物学者は数学嫌いが多くて反発もあったという生物学史的な話も紹介されている。

応用離散数学の一分野として発展してきた数理系統学は、本章で論じてきたように、私たちが日常生活空間で遭遇する「順序関係」や「類似度(差異)」をめぐる論理を出発点として展開されてしまう。ふだんは意識することもないその理屈に光を当てることが分類と系統を考える上では重要な意味を持ちます。(p.175)


可視的な端点の集合(既知)から、系統X樹を用いることで、不可視な内点を含む集合(未知)へ至ることができるのだ、とまとめられている。

第5章 分類思考と系統樹思考(3) —―系統の断面としての分類

系統樹を見ると、現代の私たちは系統だと思って読んでしまうが、実は系統ではなく分類を示しているような樹形図もあって、樹形図から何を読み取るかは注意しなければならない、というのを19世紀から20世紀にかけて作られてきた様々な樹形図を例にだして説明している。

  • 19世紀後半、植物分類学者ベッシー

タイポグラフィーによる樹形図や、ベッシー・システムと呼ばれる樹形図
しかし、ロドリゲスが指摘するが、ベッシーによる樹形図は、樹形図であるがゆえに系統を示しているように見えるが、あくまでも分類。ロドリゲスは、分類と系統を同時に示すための三次元的な図を描く。

  • 20世紀初頭、ネフによる観点論的系統樹

ここでいう観念論は、ゲーテ由来の、生物を「原型」から体系だてるもの。進化論的には、系統樹の内点というのは仮想祖先だけれど、観念論的には「原型」ということになる。
同じ図を使っても、何を意味しているのかが異なる例
観念論と進化論は相反するものだが、ネフはどちらも受け入れていた
原型とかの話は倉谷滋『形態学 形づくりにみる動物進化のシナリオ』 - logical cypher scapeとか参照

  • 1930年代、ラムによる三次元的な系統樹

ラムは、観念論がまだ台頭していた時期に、観念論を排して、系統と分類とを同時に示す、三次元的な球体によるダイアグラムを描いた。

  • 早田文蔵の高次元ネットワーク

動物行動学者として有名なローレンツは、行動形質をもとに系統樹を推定する方法論を構築。これが実は、グロモフ積による系統樹推定であり、つまり共有派生形質を用いた推定。
ローレンツの描いた系統樹と、分岐学の創始者である昆虫学者のヘニックが描いた系統樹が、派生形質によって枝と枝とをつなぐという点で、よく似ている
なお、ローレンツもヘニックも第二次大戦中に捕虜収容所にいれられた間に、こうした内容を含む著書を書いている。


分類(クラスター分析など)は、ある特定の時点における類似度によるもの
系統推定は、過去の時空間からどのようなつながりを経てきたかを推定するもの
分類と系統が必ずしも一致するとは限らない
生物体系学の歴史においては、系統樹を作って分類を「演繹」することはできず、現在という系統樹の「断面」から、系統樹全体という未知なる体系をアブダクションしてきた

インテルメッツォ(2) —―見えないものを見る

日常的な日本語の用法ではあまり区別されないけれど、本書は「分類」と「系統」とを区別してきた。
似たような言葉に「体系system」もある
ヘニックは、「体系」が「分類」とは異なるということを主張した
体系というのは、いわば全体にかかわること
分類はいろいろな基準で行うことができるが、体系の復元は一意的


ウッジャーは、公理論を生物体系学に応用したが、生物種は集合なのか? というところを考え始めて、集合論的な分類と、非集合論的な系統とは一体化できないのでは、と悲観する
(集合というのは、無時間的、抽象的なもので、始まりも終わりもないから、起源も絶滅もある「種」とは相いれない)
で、その時、ウッジャーに助け船を出したのが、なんとタルスキで、レシニェフスキによるメレオロジーを踏めた、部分−全体関係による公理系を提示したのだという
本書ではここまでダイアグラムの「骨格」を論じてきたけれど、ダイアグラムを正しく読みとめるためにはその「肉付け」も考えなければならない、といって次の章へと続く

第6章 ダイアグラム思考 —―既知から未知への架け橋として

本章ではまず、ネルソン・グッドマンが出てくる
グッドマンによる類似性批判と個体公理論

レナードとグッドマンは、一九四〇年に出版された論文「個体公理論とその使いみち」で、部分−全体関係に関する公理的体系を構築しました。インテルメッツォ(2)で登場したタルスキの論考とほぼ同時期に書かれたこの論文もまた、論理学者レシニェフスキの「メレオロジー」の着想に触発されて書かれました。(p.255)

ある実体を集合と見るか、それとも個体と見るかは解釈の問題にすぎないというグッドマンの主張は、生物体系学の世界では、種や属以上の高次分類群の存在論的地位をめぐる長年にわたる論争と直接かかわってきます。(p.256)

と、ここでギゼリンによる「種=個物」説へと話がつなっていく。
(種の存在論については森元良太・田中泉吏『生物学の哲学入門』 - logical cypher scapeなんかも参照)
三中は、システム論や個物説の背景に、メレオロジーという形而上学をみとてる
集合論とメレオロジーは対立関係にあるというサイモンズを引用しつつ、集合か個物かは解釈の問題に過ぎないのであれば、数学的な骨格によって区別することはできず、形而上学という肉付けによって区別されるものだと論じていく。

要素−集合関係と部分−全体関係は同じ論理形式の半順序関係なので、並行的に定式化すれば、一方を他方に丸ごと“移植”することができるはずです。(p.260)

また、イアン・ハッキングが、メトニミーと部分−全体関係を関連付けているとも。
X樹をどのように読みとるか、様々な存在論的オプションの可能性

エピローグ 思考・体系・ダイアグラム —―科学と時代のはざまで

本書は基本的に、生物体系学の話が中心だけれども、最後にもう少しダイアグラム論一般の話に戻って、図像を読み取るための「肉付け」には、歴史的背景だったり統計学的背景だったりいろいろあるよねーと
で、文字を読み取る「リテラシー」だけでなく、数字や数式の「ニューメラシー」、そして図像表現の読み書きである「ヴィジュアル・リテラシ」が大事になってくるよねーという話とか
ダイアグラム論ってめっちゃ学際的な分野だよとか

*1:生物学についていえば、種に関する存在論が「肉付け」にあたるが、中世の家系図であれば文化的・宗教的・歴史的背景が「肉付け」ということになる