『日経サイエンス2018年9月号』

NEWS SCAN

  • 窒素源としての堆積岩

窒素源としての堆積岩〜日経サイエンス2018年9月号より | 日経サイエンス

  • 微生物の起源に新たな光

合成生物学の話っぽい
従来、細菌と古細菌の共通祖先の細胞膜は、異なる脂質を含んで不安定だったので、二つのドメインに分かれたという説が主流だったが、実際に、そういう細胞膜を合成してみたら、安定していた、という実験

  • 賢い壁

これ、面白い
壁にマスキングテープを貼ってニッケル塗料を塗って銅テープを結んで、という作業をすると、壁がトラックパッドになる、という実験
壁が、人の動きを検知できるデバイスに早変わり(この実験では、作業にかかった時間は4時間、コストは200ドル)

From nature ダイジェスト 火星の内部構造に迫る探査機

火星探査機インサイが、地震計を持っていく話

特集:恐竜大進化

覇者への意外な道  S. ブルサット

覇者への意外な道 | 日経サイエンス
三畳紀の恐竜の話
従来説とは異なり、近年では、初期の恐竜類はマイナーな地位に甘んじていたということが分かってきている
2億5000万年前の地層から、プロロトダクティルスという恐竜形類の足跡化石が見つかっている
2億4000万年前〜2億3000万年前のどこかで、二足歩行が始まり、恐竜形類が恐竜類へと進化
2億3000万年前、最古の恐竜類が発見
ところで、この最古の恐竜類が発見されたアルゼンチンのイスチグアラスト、遡ると、1950年代にローマーが訪れているらしい。記事では「伝説的な米国人古生物学者のローマー」と形容されていた。

  • 恐竜類の2つの幸運

初期の恐竜類は、パンゲアの多湿地域でひっそりと暮らしており、一方、乾燥地域には全く進出できていなかった
(1)理由は不明だが、多湿地域で優位だったリンコサウルス類(爬虫類の仲間)とディキノドン類が絶滅し、原始的な竜脚形類がニッチを獲得
(2)2億1500万年前に、多湿地域と乾燥地域の差が激しくなくなり、砂漠地域への進出が可能に
とはいえ、それでもまだ恐竜類は、主要なグループたりえなかった
偽顎類というワニの仲間の方が強かった

  • 3つ目の幸運

三畳紀末期、パンゲアが分裂し、溶岩流が発生、ワニ系統はほとんどが絶滅
何故か、恐竜類のグループが生き残った
生き残った理由は不明

ファルコンズ・アイ小林快次に聞く恐竜の大進化  内村直之 協力:小林快次

ファルコンズ・アイ小林快次に聞く 恐竜の大進化 | 日経サイエンス
小林快次インタビュー
恐竜の進化の特徴は「巨大化」「鳥化」「多様化」
そのうち、「巨大化」と「鳥化」は骨の含気化がもたらした二つの帰結、多様化は性選択、羽毛が飛行に使われるようになったのは前適応
という、まあ基本的な話のあとに、現在、小林がやっている研究として、鳥化がどのようになされていったのかという話がされている
鳥類につながったのは、肉食恐竜からか、植物食恐竜からか、という2つの説の対立が、今あるらしい
小林らは、脳の中の嗅球の大きさから、肉食かどうかという傾向を調べ、コエルロサウルス類が、オルニトミモサウルス類やオビラプトロサウルス類と比べて肉食傾向にあることを示した
もっとも、コエルロサウルス類の中には、テリジノサウルス類などの植物食恐竜もいる
まだ、決着のついていない話だという

むかわ竜が明かす日本の恐竜最盛期  内村直之

環太平洋圏の恐竜を解明する手がかりとしての、むかわ竜
また、ニッポノサウルスについての再研究・再々研究がなされており、系統が見直されているとか(北米種よりも欧州種と近いのでは、と)
むかわ竜が明かす日本の恐竜最盛期 | 日経サイエンス

特集:究極の未解決問題

まだ、全然読めていないのだけど、「生命はいかに生まれたか?  J. ショスタク」をちらっと読んでいたら、ユーリー・ミラー実験について、アミノ酸が容易に生じることを示したが、他の生体分子の合成は難しいことが今ではわかっていて云々みたいな記述があった。しかし、あの実験、というか当時の化学進化説の誤りは、そもそも原始大気の初期設定が間違っていた、という話ではなかったか、と。

ILC計画正念場  中島林彦

ILC計画正念場 | 日経サイエンス
つい最近こんな記事が出ていた

 日本学術会議は10日、次世代加速器国際リニアコライダー(ILC)」を日本に建設することの是非を審議する検討委員会の初会合を開いた。審議結果を踏まえ、政府は年内にも建設の是非を最終決定する。
(中略)
これに対し委員からは「科学は物理学だけではない。この分野に次から次へと巨費を投じるのは違和感がある」「どうして日本に建設する必要があるのか分からない」などの厳しい意見が相次いだ。
 前回の審議時は施設の全長が30キロで、約1兆1000億円に上る巨額の総建設費が課題となった。国際組織が昨年、計画を見直し全長を20キロに短縮し、総建設費が最大約8000億円に圧縮されたため再審議となった。
【次世代加速器ILC】「科学は物理学だけではない」 日本学術会議が審議開始、厳しい意見相次ぐ - 産経ニュース

何故見直しになったのか、などの解説が、書かれている。
LHCでの実験が進展したことで、ILCの利用法が当初から変わったということらしい
元々、新粒子の探索が主目的であったが、LHCの実験により、500GeVでの新粒子発見はできないことが確実になってきた一方で、当初は2番目の目的であったヒッグスの解明について、LHC実験により、ヒッグスが当初思われていたよりも謎が多いことが分かって、優先度があがってきた
これにより、衝突エネルギーを、当初の500GeVから250GeVに変更することとなった、と
LHCを改造するハイルミノシティLHC計画というものがあり、ILCはこれと相補的な存在となる
欧州はこれをもとに、長期的な計画を策定していく方向で、それもあって、ILCがあるかないかで計画の方向性が変わってきてしまうため、ILCをやるかやらないかは、年内には決定しないといけない、ということらしい

  • 誘致の可否 学術会議の判断求める  滝 順一

記事内囲み記事
これはどちらかといえば、政治的な話
ILCの誘致団体としては、別枠予算化、省庁横断的な政策を名分とした予算獲得を念頭に置いているらしいが、文科省的には、それに乗って、蓋を開けたら科学技術予算でという結果は避けたく、また、財務省関係者も「ありえない」と言っているらしく、国内での予算獲得がやはり難しそうという感じ

神経伝達の常識を覆すニューロン表面波伝播説  D. フォックス

神経の信号は、イオンの電位差を用いた電気的なもの、というのが主流説だが、これに対して、細胞膜の脂質分子が、圧力を受けて液晶化し体積が膨張することで伝わる機械的な波である、という考えが出てきている、という
生物学者ではなく、物理学者であるハイムバーグという人が提唱しており、また、過去、あまり日の目をみなかった研究などをピックアップした話で、話としては面白いのだけれど、これまでの神経生物学の蓄積は? という感じもするし、生物学者側の反応はあまりよくなく、画期的な研究なのか、そうでないのかが非常によくわからない感じ
こういう現象が起きていること自体は、認められているっぽいが。単に、電気パルスの副産物に過ぎないという考えが生物学者の主流な考え
ハイムバーグは、こっちの方が重要だと考えている
例えば、麻酔は何故効くのか、ということをこっちの方がうまく説明できる、とか。神経細胞の発する熱についての問題、とか。
イオンチャンネルと電気パルスという考え方に反する実験結果を示していた過去の研究者として、アメリ国立衛生研究所に勤務していた田崎一二がいる。2008年に98歳でなく亡くなった研究者で、彼の研究やエピソードなどが色々と紹介されている記事にもなっている。研究所内で、尊敬はされていたが、研究内容について理解されず、あとを継ぐ弟子もいなかったけれど、見直しが図られている、というのは物語としては面白いが(ワイムバーグと生前に面識はあった模様)