2008-01-01から1年間の記事一覧

カズオ・イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』

1930年代のロンドンと上海を舞台に、名探偵クリストファー・バニングスが失踪した両親を捜す話。 主人公であるクリストファーの一人称で語られていくのだが、この語り口が何とも読み手を落ち着かない気分にさせる。 全部で7章に分けられているが、それ…

明日から学祭

明日からの三連休は学祭です。 筑波批評社は、1C503504教室です。 http://d.hatena.ne.jp/tsukubahihyou/20081006/1223307147 http://d.hatena.ne.jp/SURViVE/20081006/1223308302 http://f.hatena.ne.jp/twitter/20081010161157 http://d.hatena.ne.jp/klov…

黒沢清『トウキョウソナタ』

やっぱり、黒沢清はヤバい。 この人の映画はやはり劇場で見たい。劇場で見て、何故か身震いしてしまう感じ。 この映画がどういう風に広報されているのか、よく知らないのだけど、「家族の破壊と再生を描いた感動の物語」という感じになっているのだろうか。 …

中上健次『枯木灘』/『ユリイカ10月号』

中上はいつか読もうと思いつつも読まずにいて、今月のユリイカが中上特集だったので、読んでみた。 『枯木灘』 思ってたよりは読みやすかったし、面白かった。 最初は人間関係を把握するのが大変かなと思ったが、話としてはむしろ分かりやすかった。 『カラ…

『感情とクオリアの謎』

柴田正良、服部裕幸、長滝祥司、月本洋、伊藤春樹、前野隆司、三浦俊彦、柏端達也、篠原成彦、美濃正の論文集*1。 第1部が感情、第2部がクオリアを扱っており、第3部では座談会が行われている。 論文数は、第1部が4つ、第2部が6つであり、第1部にし…

「動機」をめぐって

「文芸評論」と「哲学」のタグをつけてるが、「理論社会学」というタイトルの講義について。 ミステリ小説の言説空間についての授業だった。 取り上げられた作家は、エドガー・アラン・ポー、黒岩涙香、レーモン・ルーセル、松本清張らである。 が、ここでは…

ライル「系統的に誤解を招く諸表現」、ストローソン「指示について」(『現代哲学基本論文集2』)

『現代哲学基本論文集1』も半分くらいしか読んでいないが、『現代哲学基本論文集2』。 この本は、ムーア、タルスキ、クワイン、ライル、ストローソンの論文が1本ずつ収録されているのだが、とりあえず今回はその中で、ライルとストローソンを読んだ。残り…

池田信夫『ハイエク知識社会の自由主義』

ハイエクについて何かいい入門書はないかなあ、と思っていた今日この頃、ふと本屋で見つけた一冊。 ハイエクも池田信夫も、名前は知っているけど、どういう人かいまいちよく知らなかったので読んでみた。 僕がハイエクの名前を知ったのは、東浩紀が紀伊国屋…

『エクス・ポ』Vol.5

気付けばもう5号。大体ちゃんと読んでるよ、俺、すげーw 今号は、向井秀徳インタビューに始まり、黒沢清インタビューに終わる、という感じ。 向井秀徳インタビュー ZAZENって、実はちゃんと聞いたことがないんですが、4枚目のアルバムの話をしていて、聞…

後藤和智『おまえが若者を語るな!』

これは、悪口が書いてある本である。 その相手は、主に宮台真司と、著者が「宮台学派」と呼ぶ人たちである*1。 これは僕は、宇野常寛にも感じたことなのだが*2、よくもこんなに悪口を言うために、これだけ本を読めるなと思う*3。 その一種の負のエネルギーは…

速水健朗『ケータイ小説的』

サブタイトルは「再ヤンキー化時代の少女たち」で、郊外に住む、ヤンキーの少女文化について論じられている。 これは、東京に住む、オタクで少年の文化との対比でもある。 ところで、ヤンキーとは一体何を指しているのか。 斎藤環は『文学の断層』の中で、日…

『ゲーラボ』

メモ。 斎藤環は、ポニョの話。吾妻ひでおと宮崎駿を並べて、究極のロリコンは「少女の変形」を描く、と論ずる。 伊藤剛は、実は僕も女装したことがあるんです、という話から始まって、『ニコイチ』の話。男だと分かる描線で書かれている女装した主人公。し…

カール・シュミット『政治的ロマン主義』

19世紀ドイツの、ロマン主義を痛烈に批判している本。 決断主義とかの話はしていなかった。 『日本浪曼派批判序説』を書いた橋川文三による翻訳。 19世紀ドイツのアダム・ミュラーとフリードリヒ・シュレーゲルという二人のロマン主義者が、主に批判の対…

今月の文芸誌(新潮、文學界、群像)

『新潮10月号』 「ファントム、クォンタム(第3回)」東浩紀 面白い! もう、何の留保もなく、面白い! 僕はこれまで、つまり連載の第1回と第2回において、頑なに東の小説に対して「面白い」と言わずに来たのだけど*1 それは撤回する。 連載が進むにつ…

瀬名秀明編著『サイエンス・イマジネーション』

ワールドコンで開かれたシンポジウムを収録した本であるが、この企画そのものがなかなか独特なものとなっている。 この本がどういう本であるかは、あとがきからそのまま引用しよう。 本書は2007年9月1日にパシフィコ横浜で開催したシンポジウム企画「…

佐々木健一『美学への招待』

とても面白かった。 その名の通り、美学の入門書だが、美学の学説などについて論じられているわけではない。 しかし、知的刺激には溢れている。 美学とは、美と感性と芸術についての学である。 美学は、aestheticsの翻訳語だが、aestheticというのは、感性と…

今月読んだ雑誌

sakstyle: 『ユリイカ』、太宰・坂口特集だったけど、それらはすっとばして、井上明人による小島秀夫インタビューだけ読む。 http://twitter.com/sakstyle/statuses/902632325 sakstyle: 戦争とゲームの話。ゲームの制作現場の規模の話。ゲームと映画の話。 …

高橋昌一郎『理性の限界』

本書では、「理性の限界」と銘打った架空のシンポジウムが開催されている。 そこでは、大きく分けて3つのテーマについて話されている。 すなわち、「選択の限界(アロウの不可能性定理など)」「科学の限界(ハイゼンベルクの不確定性原理など)」「知識の…

加藤幹郎『映画館と観客の文化史』

映画は一体どのようにして見られてきたのか、ということについての歴史的変遷を追った本。 映画を見る、と一言で言っても、それには様々な様態がある。シネマ・コンプレックスで見るのか、DVDを借りてきてホームシアターで見るのか、ネットで落としてきてPC…

哲学者を萌え擬人化しよう!

昨日の深夜、twitter上で批評理論や哲学者を萌え擬人化する祭りが勃発した。 様々な人を巻き込んで、混沌のうちに拡大を続けたその祭りの様子は、既にたんぶってあるので、以下よりご覧あれ。 批評・哲学の萌え擬人化 140ポストもあって、クソ長いけど。 …

イアン・ハッキング『表現と介入』

科学的実在論を扱った、科学哲学の本。 タイトルにあるとおり、本書は大きく分けて、表現についてと介入について扱っている。 この場合、表現というのは、科学の理論のことであり、介入というのは、実験や観察や測定のことである。 従来、哲学者があまり注目…

大塚英志+東浩紀『リアルのゆくえ』

2001年*1、2002年*2、2007年*3、2008年*4の対談を収録した本。 一晩で一気に読んで、地味に感動してしまった。 深夜に読んだので、そういう感情回路がブーストされていたせいかもしれないが。 第三章だけは、僕は初出の方でも読んでいて、こ…

『ファウストVol.7』

うーん、まあだらだらと感想を書くか。 今回のファウストの読むべき場所というのは、中国特集だと思う。 逆に言えば、中国特集以外は……、ということになる。ファウストに掲載されている作家陣とかが好きな人ならともかく、今更、ファウスト7とかどうなのよ…

表題作は読んだが、それ以外の部分を読んでいなかったので、エントリにしそこねた本

タイトル通り。 エントリに起こす気はもうないので、タイトルだけ並べる。暴力批判論 他十篇 (岩波文庫―ベンヤミンの仕事)作者: ヴァルターベンヤミン,野村修出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1994/03/16メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 50回この商品を…

「わたし」とは何か

順列都市、パーフィット、人格の同一性(らいたーずのーと) 順列都市、パーフィット、恐怖の在り処(らいたーずのーと) 以上のエントリに加え、さらにその後も、SuzuTamakiとtwitter上で話したことを踏まえつつ、概念の整理としてエントリを起こす。 この…

宇野常寛『ゼロ年代の想像力』

まず全体的な感想としては、面白かったし、方向性としても納得というか共感した。 しかし、読みながら、色々と批判したくなってくるのは何故なんだろうか。 とりあえず、以下、この本のまとめと読みながら思った事を書いていくつもりだが、その中には「ここ…

『スカイ・クロラ』『崖の上のポニョ』

この夏話題の映画を一気に見てきたよ! 『スカイ・クロラ』は燃え萌え映画 『崖の上のポニョ』はあまりに意味不明で怖い という一言で、自分の感想はほとんど言い尽くされている。 この二本をまとめて評するのであれば、 宮崎・押井の両巨匠が「俺の考えるセ…

ガルシア=マルケス『エレンディラ』

『百年の孤独』のあとに書かれた短編集。 裏表紙には「“大人のための残酷な童話”として書かれたといわれる」とあるが、確かにそのような雰囲気を持った作品である。 各編のタイトルが、どれもなかなかかっこいいと思う。 大きな翼のある、ひどく年取った男 …

遠藤浩輝『EDEN』

僕が、もっともリスペクトする、というか、最も影響を受けた作り手の1人が遠藤浩輝で、作品の一つが『EDEN』。 それが完結した。とはいっても、何だか自然な終わりで、それほど深い感慨があったりするわけでもなく、何か完結したことをもって書いておくかと…

堀田純司『人とロボットの秘密』

何となく衝動買い。 表紙をめくると、石黒教授の作ったアンドロイドの写真が出てくるのだけど、やっぱすごいなこれ。 全てではないけれど各章の前フリが、いちいちロボットアニメなのは、仕方がないといえば仕方がないけど、またかって感じもする。アトムや…