黒沢清『トウキョウソナタ』

やっぱり、黒沢清はヤバい。
この人の映画はやはり劇場で見たい。劇場で見て、何故か身震いしてしまう感じ。
この映画がどういう風に広報されているのか、よく知らないのだけど、「家族の破壊と再生を描いた感動の物語」という感じになっているのだろうか。
インタビューとかでは、黒沢自身も、希望を撮りたかったというようなことを述べているみたい。
いやしかし、この作品に出てくる希望というのは、『アカルイミライ』で描かれていたような*1か細い希望だし、というか再生とか希望とかはあんまり感じられない。
だって、無茶苦茶だから。
この無茶苦茶というのは、つまり黒沢ワールドが現出しているということ。
この黒沢ワールドの中に入ってしまうと、再生とか希望とかどうでもよくなってしまう。
絶対お前死んだだろ、っていうか少なくとも重傷だろって奴が、ごく当然のように起きあがってすたすた歩き出すところとか。
というか、3時間前というテロップが突然映ったときとか、
いやそもそも、一番最初の風のシーンとか、
あるいはこの家の造りとか、とにかくもう黒沢清の画面だよなという感じがする。
そして、この黒沢清の画面だよなという感じがすると、あらゆるものが不気味に見えてくる。
香川照之小泉今日子だしね。
俳優に関して言うと、あと津田寛治役所広司。この2人のシーンはかなり笑える。客も声を出して笑っていた。
でも、津田がホームレスが歩く列と一緒になっていくシーンとかは、なかなか怖いんだよなあ。
黒沢は別に、現実的かどうかということはあまり気にせずに映像を作っていくので、それが不気味さというか震えを覚えさせるのだと思う。
音楽も結構よかった。


この映画のCMとかは見てないけれど、エクス・ポに載っていた黒沢清インタビューは事前に読んでいたので、それのバイアスは多少かかっていたかも。
というか、お兄ちゃんからの手紙のシーンは、知っているかいないかで、確かに捉え方が変わるかもなあという気がした。ただ、知らなくてもある程度の推測は立てられそうな気がするけれど*2


あと、主人公の男の子役は、ちょっとだけ柳楽くんに似てる顔つきかなあと思った。
まあそれはどうでもいいとして、孤独感みたいなのがうまい具合に漂っていた。

*1:この作品、タイトルとは裏腹に全然明るくないわけだが

*2:文中の「この国」がどの国を指しているのか。黒沢は、イラクを意図しており、兄は米軍を辞めてアルカイダに入ったという設定らしい。イラクまでは分かるかもしれないけれど、アルカイダまでは分からないw