ガルシア=マルケス『エレンディラ』

百年の孤独』のあとに書かれた短編集。
裏表紙には「“大人のための残酷な童話”として書かれたといわれる」とあるが、確かにそのような雰囲気を持った作品である。
各編のタイトルが、どれもなかなかかっこいいと思う。

大きな翼のある、ひどく年取った男
失われた時の海
この世でいちばん美しい水死人
愛の彼方の変わることなき死
幽霊船の最後の航海
奇跡の行商人、善人のブラカマン
無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語

このタイトルを眺めているだけでも、何となく雰囲気が伝わるのではないかな、と思う。
話としては、何というか救いようのない、というか、決してハッピーエンドではない話が続くのだけど、いわゆるマジック・リアリズムという奴で、平然と奇妙なものの描写が混じってくるのが面白い。
例えば、最初の「大きな翼のある、ひどく年取った男」というのは、まさに大きな翼のある年取った男、つまり天使が現れる。しかも、何か神々しい感じで現れるわけではなくて、浮浪者がふらっとやってきた感じで現れる。
幽霊船が出てきたり、死なない男が出てきたり、しかしそういうファンタジックな存在が出てきても、何も違和感がない。また、無論、そういうファンタジックな存在が物語の中心にいるわけだけど、そのファンタジーさを楽しむような物語ではない。
南米の、乾燥した、貧しさの残る町。多分、20世紀なのだろうけど、まだテレビや自動車は普及していないような時代。そんな舞台で起こる、ちょっと哀しい人々の生が、描写されている。
こういう雰囲気や描写は結構好きだな。
『パンズ・ラビリンス』なんか、似ているかもしれない。


この本は、夏目陽さんの記事をきっかけにして手に取った。


エレンディラ (ちくま文庫)

エレンディラ (ちくま文庫)