瀬名秀明編著『サイエンス・イマジネーション』

ワールドコンで開かれたシンポジウムを収録した本であるが、この企画そのものがなかなか独特なものとなっている。
この本がどういう本であるかは、あとがきからそのまま引用しよう。

本書は2007年9月1日にパシフィコ横浜で開催したシンポジウム企画「サイエンスとサイエンスフィクションの最前線、そして未来へ!」の発表・討論内容を収録するとともに、参加した日本作家がアンサーソングのかたちで新たに書き下ろした短編・エッセイをもあわせて収録し、一冊のかたちで読者の皆様に提供するものである。ただの講演録でもなければふつうの小説アンソロジーでもない、世界的にもきわめてユニークな書籍に仕上がったのではないかと考えている。

ユニークすぎて、本屋に置いてありませんでした(泣)*1
瀬名の本というと、僕は未読なのだけど、『ロボット・オペラ』も小説と論文(解説記事)が併録された本だったはず。
こういう本は、本屋的には分類しにくくてやりにくいかもしれないけれど、しかしこういう本こそ、面白いともいえるのではないだろうか。


もう少し、この本の雰囲気をつかんでもらうために、目次も引用してみる。

前口上
SFのイマジネーション・小松左京
Small Story in 2008“A First Love”*2


<第1部ヒトと機械の境界を超える>
ヒューマイノド・ロボット研究の現場より・梶田秀次
マッドサイエンティスト、SF、神経倫理・川人光男
ロボットボディ・ロボットマインド・國吉康夫
究極のサイバーインターフェイスのつくり方・前田太郎
「火星のコッペリア山田正紀
パネルディスカッション1・ロボットはどこまで人間なのか、私はどこまでロボットか
「笑う闇」堀晃


インターミッション
テレイグジスタンス/テレプレゼンス・ロボット・大山英明*3


<第2部意識と情報の進化論>
鳴き声から意識へ・岡ノ谷一夫
構成的リアリティの社会へのグラウンディング・橋本敬
想像力の勝負――SF対研究・中島秀之
他に知能は存在するのか?・松原仁
「さかしま」円城塔
パネルディスカッション2・イリュージョンの覆いから私たち人間は真理を見つけ出す
「はるかな響き Ein leiser Tone」飛浩隆
「鶫とひばり」瀬名秀明


「「宇宙と文学」序論」小松左京
あとがきにかえて

各研究者の発表とパネルディスカッションは、会場で行われたもの
各短編小説と最後の小松左京のエッセイは、後日、書き下ろされたもので、全てトルネード・ベースで読むことが出来る。

第1部ヒトと機械の境界を超える

ロボット研究に関わる4人の発表だが、ロボット工学者だけでなく、神経科学者などもいて、ロボットを通じて人間を研究している人たちである。


梶田は、産総研でHRPを使って研究している。
HRPはとかく見た目がかっこよい。それもそのはず。パトレイバーのデザインなどで知られる、出淵裕その人によるデザインなのである。


川人は、BMI研究を行っている。
遠隔地のロボットをBMIで動かすという現在行っている研究の紹介をしてから、人間のコントロールと神経倫理について問いかける。


國吉は、身体性をベースに知能を構成的に生み出す研究を行っている。身体をどうやって動かすか、とか、身体を動かすことで生まれてくる「意図」など。
この「意図」の発生をシミュレーションする、というのはなんか面白い。
あと、科学や技術はどこまで進化していくかを問うが、その時に提示した表の中に、なんか補完計画っぽいのがあるw


前田は、パラサイトヒューマンというインターフェイスの研究をしているが、これもまた面白い。
自分の分身のようなロボットを作ってしまって、自分の動きをロボットに覚えさせたりする。
それから錯覚を利用して、身体の動きをコントローする研究も紹介する。
手に持ったデバイスを振動させることで、引力を錯覚させ、例えば視覚障害者の誘導に使うなど。
テクノロジーによる行動のコントロールが可能になったら、それに伴いテレイグジスタンスが発展したら、自他境界線はどのように変わるのか、と問う。
これもしかしたら、二つの身体を持つこととか可能になったりして、面白そう*4


「火星のコッペリア
火星への探検隊クルー4名のうち、1人が事故でなくなる。
だが、その亡くなった1人とリンクしていたヒューマノイド・ロボットが動き出す。
ロボットと人間は何が違って、何が同じなのか。


「笑う闇」
ロボットを相方にした漫才師の話
これ、面白い

第2部 意識と情報の進化論

鳥の鳴き声の研究で有名な岡ノ谷は、発声学習とは何か、発声からどのようして言語が生まれたのか、ということを発表する。
また、言語と意識の関係についての考察もしている。


橋本もまた、言語進化を扱っているが、この人の話はスケールの大きいところから始まっていて面白い。
この世界は、マトリックスみたくシミュレーションなのではないか、という話から始まって、リアリティの構成ということを話し始める。
それから、言語習得や共同注視の発達などの研究について紹介される。これは、子どもが大人の使っている言葉や行動から、どのようにして、その意味や意図を理解していくのか、ということである。
この研究には、シミュレーションが使われている。


中島は、コンピュータやインターネットが、SFや科学の中でいつ頃登場したのかを発表する。
コンピュータが最初に登場したのは、『ガリヴァー旅行記』か、みたいな話をしつつ、しかし、大体SFと科学で同じ頃にコンピュータやインターネットの概念が出てきているのが分かる。
さて、では新しい想像力は一体どんなものだろうか。


松原は、人工知能についての発表を行う
が、この人の発表の面白いのは、最後の問いかけ。
目標さえあればそれは達成することが出来る。とりあえず、今のところの目標はロボカップ*5だけど、その後の目標がないので、誰か考えて欲しい、とのこと。


「さかしま」
橋本のシミュレーション話へのアンサーなのかなあ、と思いつつ、どういう話なのかは、案の定よくわからない。


「はるかな響き」
『2001年宇宙の旅』へのオマージュ的な作品
これも面白い


「鶫とひばり」
ひばりは本当は漢字なのだけど、出ない。
サン=テグジュペリの同僚(?)の、南大西洋航路を開拓した郵便飛行士たちの話
なのだが、途中から、シミュレーション(マトリックス)的な雰囲気が入ってきて、ちょっとメタフィクション風味な感じがしたりする。



科学者の講演とSF作家の小説と、その両方に想像力を刺激される本。

*1:amazonで購入したが、実際、この本を入荷した本屋がこの本をどこに並べたかは気になるところである。著者名として、瀬名秀明小松左京がクレジットされているし、本の版型を考えると、文芸書かなと思うけど、内容としては科学書コーナーも相応しい

*2:会場で流されたショートムービーをノベライズ化したもの

*3:会場でポスター発表されたもの

*4:参照・http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20080813/1218647608

*5:2050年までに、人間のチームに勝つ